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第八話 12 すれ違う心 

ガシャン、と騒々しい物音が庭先に響いた。下女の慌てふためいた声がそれに続く。

「も、申し訳ございません、お嬢様!」

ヒョウンを追ってきたソンジュンが見たのは、地面に散乱した料理とおぼしきものの残骸と、粉々になった食器。そして、その中で立ち尽くすヒョウンの背中だった。
下女が、平謝りしながら彼女の汚れたチマを拭うが、ヒョウンはただ肩を震わせ、されるがままになっているだけである。

「ヒョウン?お前、ここで何を……!」

庭に張り出した露台の上から、兵曹判書ハ・ウギュの狼狽した顔が覗いた。驚くのも無理はない。我が娘が、顔は涙でぐちゃぐちゃ、服は食膳とぶつかったせいでシミだらけ、という両班の子女にあるまじき姿で、前触れもなく左議政の家の庭先に現れたのである。
しかも、そこはまさに宴の真っ最中。よりにもよって朝廷の高官たちが一堂に会したその場所で、好奇の目に晒されているのだ。

(まずいな。このままでは)

ソンジュンは庭の真ん中で棒立ちになっているヒョウンに歩み寄った。
ふと見下ろすと、震える彼女の指先に、僅かだが血が滲んでいた。恐らくは、飛び散った食器の破片で怪我をしたのだろう。急に彼女が幼い子供のように見え、気の毒になった。

露台からの刺さるような視線を感じながら、ソンジュンはヒョウンの腕を取った。一刻も早くこの場所から連れ出さねばと思ったのだ。
だが、彼女はソンジュンの目を避けるように横を向いたまま動かない。あんなやりとりのあった後にこの醜態だ。気持ちはわからないではなかったが、こんなところでもめ事を起こせば、どんな噂がたつかわからない。男である自分にはたいした影響はないが、嫁入り前の娘にとっては、その後の人生を左右するほどの傷にもなり得る。
足に根が生えたように動かないヒョウンに苛立ちはしたものの、そのまま放っておくことはできなかった。

───仕方ない。

ソンジュンは身を屈めた。

「えっ……?」

ヒョウンの戸惑った声が、ソンジュンの耳元にかかる。両腕に抱き上げた彼女の身体は、さほど重くはない。彼は露台でひそひそと囁き合う高官たちを一瞥し、足早にその場を後にした。


通用門の近くまで来て、ヒョウンを降ろした。彼女の両目はまだ涙で濡れていたが、先程の頑なな表情とは違い、ただ ぼうっとソンジュンを見つめている。

「大事にはならないでしょう。心配はいらな……」

言いかけて、ソンジュンは言葉を飲み込んだ。いきなり、ヒョウンが彼の頬に口付けたからだ。
ヒョウンはソンジュンから身を離すと、石のように固まっている彼に向かい、涙声で言った。

「私には無理です。こんなことをされて……諦めるだなんて」


*   *   *


「あー……左議政様も、ご存知なかったようですね。もっとも、私が知ったのもつい最近のことですが」

それまでの和やかな宴とは一転、そこに漂う妙な空気を払拭しようとしてか、周囲を伺いながら口を開いたのは兵曹判書だった。

「最近の若者は、我々とは違います。その、むやみに叱ればいいというものでもなく……」

ちら、と上目遣いで左議政イ・ジョンムを見る。が、彼は黙って酒盃を傾けるばかりである。

「いずれにしても、若い今だけのことですよ。ははは、は」

ウギュは背中に嫌な汗を流しつつ笑った。ジョンムは視線を一点に据えたまま、にこりともせずに杯を重ねている。
兵曹判書の乾いた笑い声は、しんとした露台に虚しく散った。


*   *   *


門を出たところで、ソンジュンは立ち止まり、ヒョウンに告げた。

「スンドルが、ご自宅までお送りします。お気をつけて」

長衣〈チャンオ〉を頭から被ったヒョウンは、しとやかに頭を下げ、微笑んだ。
なんだか妙なことになったなとソンジュンは戸惑った。彼女を遠ざけたつもりが、逆に更に踏み込ませてしまったような気がする。女心は全くもってわからない。

だが、とふとソンジュンは思う。
そもそも何故彼女を、辛辣な言葉で傷つけてまで自分から遠ざけようとしたのだろう。
芙蓉花は美人だし、家柄も申し分ない。多少思慮に欠ける部分はあるかもしれないが、それも愛すべき女人らしさと思えばたいした問題ではない。こんな風に一途に想われれば、悪い気はしないのが普通の男だろう。
だが彼の中で何かが、それを留まらせている。芙蓉花を見るたび、どうしても彼女と引き比べてしまう存在がある。

「坊ちゃん、あれ……きれいな学士さまじゃないですか?」

スンドルの声に振り向くと、植え込みの陰にユンシクの姿が見えた。今度は本物だ。
だが彼は、ソンジュンと目が合うなり、さっと踵を返して来た道を引き返していく。

「スンドル。お嬢様をお送りしろ」

遠ざかるユンシクに目を据えたまま、言った。そのままヒョウンを振り返ることもなく、ソンジュンは彼の後を追った。

「僕に用があるんだろう?どうして引き返すんだ」

角を曲がったところでユンシクに追いついたソンジュンが、その背中に問う。だが彼は聞こえなかったかのように前を歩き続ける。

「キム・ユンシク!」

思わず肩を掴んでいた。振り向いた目が、射るようにソンジュンを見返した。

「今まで、楽しかった?」

声が震えている。ソンジュンの胸はまた、激しく乱れた。咄嗟に、返す言葉に詰まったほどだ。

「何も知らずに、成均館の学生になれたと喜んでるぼくを見て、腹の中で笑ってたんだろ?」
「何の話だ」

50両、とユンシクはすかさず言った。

「貰冊房のファンから、全部聞いたよ」

ソンジュンは天を仰いだ。まったく、商人というのはどうしてああ口が軽いんだ。

「あんたの顔なんて───もう二度と見たくない」

立ち去ろうとするユンシクの腕を掴み、引き留める。

「待て。話を聞いてくれ」

ユンシクはソンジュンの腕を振り払うと、自嘲気味に笑った。

「そんな借りがあったって知ってたら、もっと大人しく言うことを聞いてたのに」

ソンジュンは思わず かっとして、言った。

「大人気ないことを言うな。僕は立て替えただけだ。返せば済むことだろう」
「じゃあどうして黙ってたんだ。ぼくに言うべきだろ?」
「言ったら受け取ったか?」
「断ったさ!高利貸しに借金してでも、受け取ったりしなかった。知ってる?ぼくにだって、自尊心はあるんだ。あんたが守ってるのは自分の自尊心だけ。ぼくの自尊心は、そうやって踏みにじるんだ!」

後頭部を殴られたような衝撃が、ソンジュンを打ちのめした。今にもこぼれ落ちそうな涙を、必死で我慢しているユンシクを前に、彼は一言も言い返すことができなかった。

はっ、と笑って、ユンシクは言った。

「つまりはぼくに、同情したんだ。あんたにとってぼくは、無力で貧しい、哀れな存在で、誰かが差し伸べる救いの手に、喜んですがりつく人間だって───そう思ったんだろ?」

違う、と言いたかった。だがユンシクの、ソンジュンを刺し貫くような視線がそれを許さなかった。

「あんたに、掌議を責める資格はない。いや、あいつの方がまだましだよ。少なくともあいつは知ってる。自分が、悪人だってことをね」

唇を噛み締め、ユンシクはソンジュンに背を向けた。
遠ざかっていくその背中を、ソンジュンはただ、黙って見送るしかなかった。





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2012/06/10 Sun. 18:11 [edit]

category: 第八話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: ココロイタム★

なんか早いとこ八話終わらせたくて~。もうすぐこのブログも一周年なのに、
まだ折り返してもいないという……トロすぎ。
それでも変わらずご訪問くださる皆様には感謝の言葉もありませんワ~

しかしなぜにヒロインじゃなくヒョウンにお姫様だっこなんだろう(笑)
そしてこんな時代にもかかわらずナニゲに積極的な女子たち(^^ゞ
ユニも最初のちゅーは自分からだったもんね。ま、アレは可愛かったから
いいですけども。

あまる #- | URL
2012/06/14 08:09 | edit

ココロイタム★

あまるさんっ、怒涛の執筆ありがとうございます。
イササカ先生より仕上がりが早くて、編集者?うれしーヽ(^。^)ノ(笑)

ソンジュンの外側が頑張った回ですな。
ヒョウン持ち上げっ!はいっ!てな感じで~♡

だけど内側はたっぷり葛藤のアトが見えますよ~☆ジレンマともいうかな?
善いソンジュン・悪いソンジュン・ふつうの?

ええいっ、外側! 素直になれっ!

みずたま #- | URL
2012/06/12 23:12 | edit

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