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第八話 10 熊女 

そこは巷で評判の店、“水多拍手〈スダバクス〉”。女人のように化粧をし、天竺風の派手な衣装に身を包んだ怪しげな男が店主を務めるその茶房は、連日、若い娘たちで賑わっている。
といっても、彼女たちの目当ては漢方臭い健康茶や甘い団子の類ではない。
店主自ら客を見る“絵札占い”が不思議とよく当たる、という噂に、悩みを抱える多くの女たちが引きも切らず訪れているのである。

兵曹判書の愛娘、ハ・ヒョウンもまた、その一人だった。
卓子の上にずらりと並べられた札に、先程から じっと目を凝らしている。まるでそうすれば、裏返しになっている絵札の表側が見えてくるとでもいうように、その表情は真剣そのものだ。
後ろでは、いつものごとく、彼女の遊び友達であるウンジュとミンジ、そして下女のポドゥルが固唾を飲んで見守っている。

「これと、これにするわ」

ヒョウンはようやく、2枚の札を選んだ。占い師は赤い羽扇で顔を隠したまま、手のひらを絵札の上でしばし泳がせた。そして、爪を黒く染めた指で、ゆっくりと絵札をめくり始める。

「早く教えて。あの方のお家から、求婚の使いが来るのはいつなの?」

占い師は羽扇の隙間からちらりと顔を出すと、目を閉じたまま、歌うように言った。

「とっとと目をお覚まし~バカ女。そんなことはこの世の終わりが来ても有り得ないよ~」
「な………!」

ヒョウンの顔色が変わった。

「ちょっとあんた!この私が誰だかわかって言ってるの?!」

怒りに顔を歪めて立ち上がった彼女を、ポドゥルが慌てて宥める。

「お嬢様、どうか抑えて。この占い師、気が口に集まるらしいんです。ズケズケと口汚く罵るときほど、当たってるって噂ですよ」
「そうそう、10年も子宝に恵まれなかったお姉さまも、この占い師に見て貰った途端、妊娠したんだから」

とミンジが言えば、ウンジュも

「お父様に愛人がいることも、バッチリ言い当てたのよ!」

と声を潜めて囁く。
ヒョウンは渋々といった顔で、すとんと腰を下ろした。

「───じゃあ、どうすればいいの?」

にんまりと、占い師の顔にブキミな笑みが広がった。

蜘蛛が、網に掛かった蝶に近づくときはあんな顔をしそうだ。
店の一角から、彼女たちの様子を遠目に眺めていたヨンハは、思った。

「まったく、うぶなのかそれとも真剣にバカなのか……あんな絵札で人の心が変えられると、本気で信じてるのかな」

小さく笑いながら、ヨンハは手にしていた なつめ茶を置いた。甘過ぎて、とても飲めたものではなかった。

「でも、ほんとによく当たるんですよ。お陰で、このあたりの茶房はどこも商売上がったりですって」
「一日に、ほんの数人しか占ってくれないそうなんです。だからしょっちゅう、通う羽目になっちゃって」

両脇に座るエンエンとソムソムが、はしゃいだ口調で答える。流行には目がない妓生たちに連れてこられ、たいして美味くもない薬草茶と菓子に少々辟易していたヨンハだったが、偶然にもなかなか面白いものが見られた。
カランに夢中な兵曹判書のご息女はどうやら、あの堅物に相当痺れを切らしているらしい。

「おしゃべり〈スダ〉しながら、占って貰えるんです。最高でしょ?」
「ははぁ、なるほど。それで“スダバクス”なんだ。じゃあ私もひとつ、占って貰おうかな」

立ち上がる振りをしたヨンハを、エンエンがぐいと腕を取って引き止める。

「まあ、ヨンハ様が?」
「誰なんです?んもう、いったいどこの誰の気持ちを変えたいっていうんですか?」

ふふっ、と笑って、ヨンハは言った。

「私だよ。自分自身の気持ち」

またすぐそうやってはぐらかして、と二人の妓生は唇を尖らす。
ヨンハは、何気なく卓子の上の灯りを手にとった。酒盃ほどの小さな器の中で、蝋燭の炎がゆらゆらと揺れている。

「すぐ女に飽きちゃうんだ、私って男はね。どうせすぐ飽きるのに、毎回女を口説くために金を使うのはもったいないだろ?だからそれさえ変われば、いくら金をつぎ込んだって、無駄にはならない」

ヨンハの向かいに座っていたチョソンが、広げていた漢詩集を ぱたりと閉じて、彼を見た。

「いつか、そんな女性に出会えたら、必ず紹介してくださいね」

うん?と眉を上げるヨンハに、彼女は微笑んだ。

「ヨンハ様が飽きることのない女性……どんな人なのか、見てみたいわ」

確かに興味はそそられるだろう、とヨンハは笑った。この自分でさえ、想像もつかないのだ。
どれだけ長く一緒にいても飽きない女など、果たしてこの世に存在するのだろうか?
そんな女がもしいたら。
どんなことがあっても、決して離しはしないだろう。どれだけ苦しめられても、どれだけ金を使わされても、後悔などしないだろう。なのに。
満たされたことのない心が、そのまま小さく凝り固まってしまいそうで、ヨンハは時々不安になる。
このまま、何にも熱くなれず、何にも心を動かされず、すべてが川の水のように自分の横を通り過ぎていくのを、ただ眺めて一生を終えるのかと。

「お前の邪魔をしているのは熊だ。ああ、なんたる間抜け。男は、目の前にまさに求める女がいるのに、気付いてもいない……なんと情けない」

少し離れた席では、店主がもっともらしい顔つきで熊の絵の札を指差し、首を振っている。
占い師の顔を食い入るように見つめていたヒョウンは、たちまち大きな目に涙を溜めた。

「私のことが、見えてないっていうの?そんなことって……!」
「おやおや、なんてことだ。自分で絵札を引いておいて、メソメソ泣く馬鹿がいるか」

言いながら、占い師は4枚目の札を捲った。そこにあったのは、竹林に吠える堂々とした虎の絵だった。

「その絵札の意味は?」
「虎が、大きな口を開けて狙っている……つまり、危険極まりない運勢だということだ」

ヒョウンは目を見開き、身を乗り出した。

「じゃ……じゃあ、これから私はどうしたらいいんですか?」

最初の横柄な態度は完全に消えていた。いつだって自分が兵曹判書の娘だということを忘れたことはないヒョウンだったが、今このときばかりは別らしい。
占い師は手のひらを上にして、ヒョウンに差し出した。ヒョウンが、その上に人指し指を乗せる。裏返した絵札の上でそれをすうっと滑らせてから、占い師は一枚の札を捲った。

「ヨモギとニンニク……」

占い師はふうっと息を吐き出すと、深く頷いた。
この国に古くから伝わる伝説に、熊女〈ウンニョ〉の話がある。人間になりたいと願った熊と虎が、神に祈ると、神はヨモギとニンニクを与え、それだけを食べて百日間穴にこもれと言った。虎は耐え切れずすぐに穴を出ていってしまったが、熊はヨモギとニンニクを食べて穴にこもり続けた。そして百と一日目に、美しい人間の女になった。
熊女は神の息子と結ばれ、二人の間に生まれた子、檀君〈タンクン〉が、後に古朝鮮の建国の王になったという。

「絵札は、女になれと告げておる……。その鈍感な男に、自分はれっきとした女であることを示せばよろしい」
「どうやって?」

占い師はヒョウンの耳元に口を寄せ、何事か囁いた。ヒョウンは途端に目を剥き、すっくと立ち上がって叫んだ。

「イヤよ!そんなはしたない……絶対に嫌!」

「なに?」「何をしろって?」と、驚いたウンジュとミンジが興味津々で訊ねるが、ヒョウンは憤慨したまま、つんと顎を反らした。

「知らなくていいわ!どうせやらないんだから!」


*   *   *


「やらない?どうして今更そんな!」

方や、筆洞の貰冊房。店主ファンは、久々に出向いてきたキムの若様の口から意外な言葉を聞き、慌てふためいていた。

「金のためなら、何だってやってきた若様でしょうが!いったい何があったんです?」

まさかその恋文の相手に自分が恋をしてしまったとも言えず、ユニは申し訳ない気持ちでファンに言った。

「恋文以外の、他の仕事をくれないかな。休みの間に、全部仕上げるから」

ファンは弱り切った顔で、頭を抱える。

「かあぁ~!若様は あたしに死ねと?あそこのお嬢様のおっソロしい性格を知らないからそんなことを!」
「……どうしようもないだろ。だって、書けないんだから」

愚痴を言いたいのはこっちだ。ユニだって、仕事だからと割り切ろうとはしてみたのだ。だが、いつもなら湧き水のようにするすると出てくる詩句が、筆を取り、紙を前にしても全く浮かんでこないのだから仕方ない。

「恋文なんて、書いたことも、貰ったこともないし」

俯いて帯紐を指で弄びながら、書けない理由をユニはそんな風にはぐらかした。だがそれは事実でもある。

「仕事じゃあないですか!そんなこと関係ないでしょ!こっちは儲けなんてほとんど無いのに、若様のためにと……」
「恋文は一通で3両だって聞いてるけど」
「そんなもの、あたしの手元には残りゃしませんよ。ぜーんぶ、左議政の坊ちゃんのところに行っちゃうんですから。覚えてるでしょ?成均館に入る前に渡した50両!」

ファンの言葉に、ユニの帯紐をいじる手がぴたりと止まった。

「左議政の……坊ちゃん?どういうこと?」

あっ、とファンが声にならない声を上げた。口止めされていたのは明らかだ。ユニの表情にみるみる怒気が混じるのを見て取って、そのまま黙りこむ。
ユニは唇を固く引き結び、貰冊房を飛び出した。
成均館からここまで抱えてきた薬包や風呂敷包みも、置いたままだった。






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2012/06/06 Wed. 18:49 [edit]

category: 第八話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: をを!

熊と虎の話は、ワタシも今回初めて知りましたφ(..)メモメモ
お隣ではきっと有名な話なんでしょうね~。因幡の白ウサギ的に。
そういえば占いのカード、熊と虎の間にウサギとキツネがいたんだけど、
これもなんか意味あんのかしら。謎。

ヨンハは女好きな割には、というか、女には不自由してないから、いざとなったら
やっぱ男同士の友情を取るんじゃーないかと。
ユニのことはきっと大好きだけどは思うんだけどね~(^^)

あまる #- | URL
2012/06/12 01:36 | edit

をを!

うーむ、このくまとトラはそういう背景があったんかあ・・
なぜ熊と虎??なぜによもぎとにんにく??ってはてなマークが飛び交ってたんですよ。
すっきりしたわ!

今回のク・ヨンハの心のうちの言葉 ドキドキときめきましたわ。(をほほ)
あまるさんの描くク・ヨンハ、大好きなんですよねー。

でもって、もしかしたらこれってク・ヨンハの事も占ってんじゃないの??って思ったわー

女だってうすうす感づいていて、ユニちゃんの事、本当は自分の運命の女だって思いたかったのか??

色々と手に取るようにわかりすぎるってある意味不幸よね。
策士、策におぼれるって・・ク・ヨンハそのまんまやん!
そしてユニちゃんを思いやり過ぎて、手出しできないコロ先輩・・・・
そんなコロ先輩が誰よりも好きな、ク・ヨンハ
ううう・・

そういう意味では、色恋については全くわからないイ・ソンジュン君子ってやっぱり最強だな。
(でも勉強以外の事ももうすこしスンドルから教えて貰えよな)

ちびた #- | URL
2012/06/11 00:12 | edit

Re: ま~、なんて高慢ちきチキなムスメなんでしょっ★メッ(;一_一)

ヒョウンは良家の子女といってもヲタなので~(笑)

ところであの占いのおじさん、結構いたるところで出てるヒト
なんですよね。ミニョンちゃんとはチャミョンゴでも共演してたし。
一度見たら忘れられない怪しさだわ……(^^ゞ

あの占い、ワタシもブログ書くのに再見して初めて当たってるやんかと
気付いた。←遅

出たカードは当たってるけど、読みがちとズレてたのね(笑)
熊はユニだろうけど、虎はヒョウンだったのかな、もしかして(^^ゞ

あまる #- | URL
2012/06/08 02:14 | edit

ま~、なんて高慢ちきチキなムスメなんでしょっ★メッ(;一_一)

ヒョウン・・・・・・。
両家の子女?品格ワ~?
このたびご登場の《占いのオジサン》
あやしさ満点ダネ_\(・α・)/
今でも某占いの館に居そう也~。

でもこのおぢさん、占いあたってるじゃんか☆
ヒョウンのことじゃなくて、ズバリ☆ユニのこと?
千里眼の持ち主なんぢゃな・・・。
ただし、対象がかなりずれてるけどね・・・。
ユニ、同じ建物内に居たんだっけ?

みずたま #- | URL
2012/06/07 14:17 | edit

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