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第八話 9 花中君子  

両班なんて身分は、むしろ邪魔だとユニは思う。
男であればまだしも、女は身分に関係なく学ぶことが許されていないから、結局のところ同じ。南人の家ともなれば、暮らしの保証もないから尚更だ。両班であることに、たいして意味はない。

両手に下げた風呂敷包みが、重い。指からずり落ちそうになるそれを、ユニは持ち直した。
村にいれば周りの家はみんな揃って貧乏だから、そのことで引け目を感じることはなかった。
成均館なんて、良家の子弟が集まる場所に飛び込んだりしなければ、あんな辱めを受けることもなかっただろう。
でも、とふと思った。
生活に不自由のない良家の子息が、何故公費で学ぶ必要がある?
学費の出せない、だが学ぶ意欲のある者たちこそが、成均館にいるべきではないのか。でなければ、貧乏人はいつまでたっても貧乏人のままだ。そこから這い上がる機会を得ることなんて───。

そこまで考えて、ユニはつい、くすっと笑ってしまった。
『機会を掴め』。いつだったか、ソンジュンが言った言葉を思い出したのだ。有り得ないことを、と馬鹿にしていた自分が、こんなことを考えるようになるなんて。
いったい私の頭の中は、どれだけ彼に侵食されているのだろう。

ぷんと甘い匂いがして、ユニは通りに立ち並ぶ店先に目をやった。女将が、細長く伸ばした餅を小気味良い音をたてて切っている。きな粉をたっぷりとまぶしつけた餅は、ユンシクの好物だ。ユニが足を止めると、女将がにっこりと笑いかけた。

「これと、これをください」

きな粉餅と、その横にある揚げ菓子を指差すと、女将は「はいはい」と愛想よく返事して、手早く菓子を袋に詰め始めた。

「多めに入れときましたよ、若様」
「ありがとう」

袋を受け取り、踵を返そうとしたユニは、店の傍らに二人の子供がじっと佇んでいるのに気付いた。
奴婢の、おそらく姉弟なのだろう。手を繋いで、餅を扱う女将の手元を食い入るように見つめている。
ユニにも覚えがあった。仕事を貰いに行ったまま、いつまでも帰ってこない母に痺れを切らして、弟を連れ、街をふらふらと彷徨った。お腹はすくし、小さい弟はぐずり始めるしで、泣きたい気持ちで店先の食べ物をただ眺めていた。
ユニは、手にしていた菓子の袋を開け、餅を取り出すと、姉と弟に1つずつ手渡した。
姉の方は小さく頭を下げたが、幼い弟は餅を受け取るやいなや、目にも止まらぬ早さで口の中に押し込んだ。そして、隣で餅を齧ろうとしている姉を、口元をきな粉だらけにして見上げている。空腹なのは自分も同じだろうに、姉は、自分の分の餅を弟に渡した。弟はまた、2つ目の餅を素早く口の中に押し込んだ。

そんな姉弟の姿が、ますますかつての自分とユンシクに重なり、ユニの胸は痛んだ。買ったばかりの菓子を、袋ごと姉に手渡す。姉は驚いたように目を瞬かせたが、すぐに泣きそうな顔で頭を下げた。
ありがとうございます、と微かに呟いた声は、か細く、聞き取るのがやっとだった。ユニは何も言わず、姉の頭を撫でてやった。
この子はかつての自分だ。ただ毎日、生き延びるのに必死だった。今日はどうにかやり過ごせても、明日はわからない。そんな日々の中で、弟の可愛らしい笑顔だけが、彼女の救いだった。
母もきっとそれは、同じだったはずだ。食べ物が手に入れば、自分はさておき、まずは子供たちに食べさせた。家族3人、そうやって互いに助けあって生きてきたのだ。

ユンシクへの土産は、また今度にしよう。あの子も今の私の立場なら、きっと同じことをしただろうから。

とりあえず母への土産だけ買って帰ろうと、ユニは足早に店を後にした。
早く母と弟の顔が見たかった。


小間物屋は、路地の角を曲がってすぐのところにあった。母に似合いそうな簪はすぐに見つかった。余計な装飾のない、凛とした銀のいろが美しい。ユニは迷わずそれを手に取ると、店の女将に差し出した。
と、すぐ横から、娘たちの華やいだ声が聞こえてきた。

「こっちの方が似合うんじゃない?」
「ええー?そう?」

互いの服や髪に細布やペシテンギをあてがっては、くすくすと笑い合う。
ユニは、店先に並べられた色とりどりの細布に目を落とした。その中で、一際鮮やかな真紅の一枚が目に入った。
薄桃色の、牡丹の花の刺繍。昨日、大射礼の会場にいたチョソンを思い出した。宴席に座っていた彼女は、花のように美しかった。
自分も、あんな風に艶やかな服を着て、綺麗に化粧をすれば、少しは彼女のように美しく見えるだろうか。
もし、女人の格好をして出会っていたら、ソンジュンは、どんな風に私を見ただろう。どんな風に、話しかけただろう───。

「まぁ、若様。女の好みをよくご存知ですね」

無意識に細布を手に取って眺めていたユニに、店の女将が声をかける。その声に、娘たちのうちの一人がこちらを向いた。ユニは はっとして、思わず背を向ける。あの杏の実みたいな大きな瞳。間違いない。芙蓉花だ。

「あら、よろしいんですか?」
「ああ、また今度」

ユニは細布を置くと、慌ててそこを離れた。ソンジュンのことをぼんやり考えていたときに、よりによって芙蓉花に出くわすなんて。酒房で抱き合っていた二人を思い出し、彼女の胸はまたちくちくと痛むのだった。


*   *   *


「見失っただと?」

平伏する官軍指揮官オ・ドンジュンの頭上に、兵曹判書の怒号が飛んだ。

「それで済むとでも思っているのか!いったいどの面下げてここへ来た!」
「しっ……しかし、キム・ユンシクが紅壁書とは到底思えません。射法も、体格も全く違いますし……」

兵曹判書は鼻から大きく息を吐き出すと、ドンジュンを手招きした。膝立ちでにじり寄ったその頭を、扇子で思い切り引っ叩く。

「貴様の意見など聞いとらんわ!紅壁書だろうが、青壁書だろうが、とにかく捕まえろ!わかったか!」

はっ、と再び平伏し、指揮官は腰を深く折ったまま退出する。それと入れ替わるように、インスが部屋へと入ってきた。

「父上、只今戻りました」

苦虫を噛み潰したような顔は、息子の帰宅にもさして変わらない。どうやら紅壁書の捜査は依然として難航しているらしい。
インスは布にくるんだ陶磁器の壷を父の前に置き、言った。

「左議政様のお宅へ行かれるとか。これをお持ちください」

ウギュは頷くと、布の結び目を解き、中を確かめた。

「あの堅物が酒宴とは、珍しいこともあるものだ。いったいどういう風の吹き回しか」
「己の力を、誇示したいのでしょう」

うん?と父が眉を上げる。

「“国を動かしているのは王族ではなく、我が一族だ”と」

ウギュの眉間の皺がますます深くなる。父にとって左議政は目の上のタンコブだ。左議政がいる限り、今以上の出世は望めない。父には甚だ面白くない話題であることは確かだ。

「ところで、成均館の儒生の中に、キム・ユンシクという奴がいるだろう。どんな男だ?」
「その質問の理由をお聞かせください」
「いちいちうるさい奴だな。素直に答えればよいではないか」

インスは苛立つ父に対し、まるで言い聞かせるように言った。

「父上。私は、成均館のすべてを掌握せねばならないのです」

父は、仕方ないといった様子で口を開いた。

「───その者の父親に借りがあるのだ」
「その借りを返せと言われそうで、不安だと?」
「まあ、そういうことだ」

ふっ、と口の端で、インスは笑った。

「ご心配には及びません。あれは、そんな立場にはない男です」
「ならよいが……王は、奴にえらくご執心のようだ。同室の学生と、蕩平だとか何とか」

それももう終わりです、と口元に笑みをたたえたまま、インスは言った。

「イ・ソンジュンを、こちらに引きこむつもりです」
「どうやって?」
「ご存知ないのですか?───ヒョウンですよ」
「ヒョウン?あの子が、いったい何なのだ?」

父の問いにも、インスはただ不敵に笑ってみせただけだった。





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2012/05/31 Thu. 02:38 [edit]

category: 第八話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: 泣けたっす

このシーン、ほんの一瞬だけど、子役の子たちがまた巧いんですよ~(T_T)
弟は無心にモチを食い、姉はユニに頭を撫でられてほんとに泣きそうな顔してるし。
ワタシも泣かされましたわ~。
うーん。端役といえど侮れん、韓国芸能界(笑)

もーユニっこを全力で幸せにしてくれるなら、ソンジュンでもコロでも
どっちでもいいわ~(ゆちょペンにあるまじき発言)

あまる #- | URL
2012/06/01 01:41 | edit

Re: そんなことがあったんだ?

インスと兵判の場面は親子とゆーよりもまさに悪代官と越後屋の図に見えてしまうま(笑)
ここもひょっとしてカットされてたのかな?

うぎゅパパがくいくい、と手招きしてバシッ!と部下の頭をはたくとこ、けっこう
お気に入りです(^^)すごい楽しそうに悪役やってんだよね、この人。

あまる #- | URL
2012/06/01 01:27 | edit

Re: オトメゴコロ満載✿

この回、ちょっとせつないけど、ユニの優しさが滲み出ていて、ワタシも好きなシーンです(^^)
コロが見てなかったはずはないと思うんだけど、ドラマでは特に描写がなかったので、つい
勝手に入れちまいました(笑)
そういや地上波放送のときはバッサリカットされてたような気が……(^^ゞ


あまる #- | URL
2012/06/01 01:22 | edit

泣けたっす

あのねー、あまるさん。反則だよ(泣)
ユニっこのシーンは映像でも結構好きだったんだけどさあ、セリフになってない行間をあまるさんに埋めて貰ったこの部分読んだらさー、泣けて泣けて。
(しかもバス停で待ってる時に読んじゃって、涙隠すのに困ったよ)

映像で見た時も、きっと子供の頃の事を思い出してたんだろうと思ったけど、そのあとに自分と同じ年の両班の娘たちの華やかさとわが身を比べたらやっぱり女の子だもん、切なくなるよねー
うー あまるさん、ええ話や!あなた天才だわ!(拍手!9

そりゃー、イ・ソンジュンだろうがコロタンだろうが結婚したら尻に敷かれるよねー
(でも結構どっちも喜んで尻に敷かれてそうな気がする ぷぷ)

ちびた #- | URL
2012/05/31 21:39 | edit

そんなことがあったんだ?

なるほど~
インスと父親との間に
ヒョウンのことでそんな話があったんだ?

一応粗筋を知っているとはいえ
ここで読むと頭に映像が思い浮かぶよ。
サンキュ

にゃん太 #- | URL
2012/05/31 21:02 | edit

オトメゴコロ満載✿

ユニのキラリン☆オトメゴコロ話、いいですの~(^^)
苦い思いを味わった者として、人一倍相手をおもいやるキモチを持ってるんだなとつくづく感じた場面です✿
ユニ、ファイテイン!(^^)!

  《ワレ、ヨカラヌコトヲタクラムモノナリ》

兵曹判書父子をみると、あのハリーポッターの《忍びの地図》名ゼリフ場面をほのぼの?思い出すワタシにござります~(^-^)
ソチモワルヨノ~☆ははは~(笑)
更新サンクスですだ✿

みずたま #- | URL
2012/05/31 10:16 | edit

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