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第八話 7 父と子 

屋敷に入ったソンジュンをまず出迎えたのは、広い敷地内を埋め尽くさんばかりに並べられた祝いの鉢植えだった。
見慣れぬその光景に、眉を顰める。

「坊ちゃん、お帰りなさい!」

太った身体を鞠のように弾ませて、スンドルがぺこりと頭を下げた。

「この鉢は?」

尋ねると、スンドルはちちち、と舌を鳴らして、言った。

「まったく、これだから男の子は育て甲斐がないって言われるんですよ。今日が何の日かご存知ないので?」

話している間にも、朝廷の名だたる役職の者たちから贈られた祝いの品や鉢が、続々と運び込まれてくる。
下働きの者たちがばたばたと行き交う邸内は、いつもとは違ってせわしない空気に包まれていて、まるで自分の家ではないようだった。

「父上の誕生日だ」
「なんだ、知ってるじゃないですか」
「今までは届いた鉢を必ず送り返していただろう」

長く左議政という地位にある父の元には、何やかやと理由をつけてはあらゆる方面から贈り物が届くのが常だった。だが、ソンジュンの知る限り、父がそういうものを受け取ったことは一度としてなかった。
官僚への賄賂がごく当たり前のように授受されている朝廷にあっては、むしろ珍しいとも言える父の、そういう清廉潔白な部分にソンジュンは深い敬意を抱いていたのだ。

それが、一転してこの状態とは、どういうことなのだろう。

「お父上も、きっと年を取られたのよ」

穏やかな声がして、ソンジュンは振り返った。前掛けで手を拭いながら、母が柔らかな微笑みを浮かべてこちらへ歩いてくる。スンドルが深々と頭を下げた。

「夕刻には、お客様までご招待しているの。お陰で準備に大忙しだわ」
「父上が?」

ますますいつもの父らしくない。
民の逼迫した暮らしを他所に、夜毎派手な宴を催す享楽的な一部の両班たちを、ソンジュン以上に嫌っていた父である。困惑顔の息子に向かい、母がこちらの方が重要だとばかり、ソンジュンの手を取ってにこやかに彼を見上げた。

「さあ、よく顔を見せて頂戴。こんなに立派な若君が、私の息子だなんて。ふふ」

いつもの母の笑顔だ。そういえば見るのは久しぶりだった。ソンジュンも知らず、笑みが溢れた。

「母上。父上は、今どこに?」
「お部屋よ。早く行っておあげなさい。今朝からずっとお待ちかねだったんだから」

部屋の前まで来ると、父の打つ碁の音が聞こえてきた。家をそんなに長く離れていたわけではないのに、何故か懐かしささえ感じる。一礼して足を踏み入れると、父はちらと目だけ上げて息子を見、「遅かったな」と言った。

「申し訳ありません。支度に手間取ってしまって」

父は、黙ってもう一つの碁笥を すっと前に押し遣った。ソンジュンは微笑むと、碁盤の前に腰を降ろした。

「誕生日に宴とは、驚きました。初めてのことなので」
「そんな大袈裟なものではない。昨年仕込んだ酒が上手く出来たのでな。皆で飲もうというだけだ。───それより」

パチン、と硬い音をたてて、父が乳白色の石を打つ。

「随分と弓の腕前を上げたようだな」
「まだまだ父上には及びません」

謙遜ではない。この囲碁にしてもそうだ。相手をするようになってから随分経つが、父との対局で、ソンジュンはいまだ一勝もしていない。
父は笑うと、胸に溜めていた息を吐き出すように「蕩平組か……」と呟いた。

「陛下は、心から満足されたご様子だった」

碁石を持つソンジュンの指先に、僅かに緊張が走った。
だが意外にも、父は「よくやった」とさらりと言った。

「今は、王を敵に回して良いことなどない」

父の声音に不穏なものが混じっているのを、ソンジュンは敏感に嗅ぎとっていた。

「いつかは、敵になるということですか」
「怖いか?」

微かに口角を上げ、父が問う。
ソンジュンは碁盤に目を落とした。白と黒の対比が目に鮮やかだ。互いの領土は、まだ互角だった。

「───怖いのは王ではなく、道を誤ることです」

碁笥に差し入れていた父の手が、ジャリッと音をたてた。

「朝鮮は両班の国だ。かつて倭や清との戦が起こった際、王朝が何をした?民を捨て逃げるか、他国にひれ伏しただけだ。そのたびに我ら両班が、国と民を守ってきたのだ。その我らを、徒党を組んでいると断罪し王に全権力を集中させるのが、蕩平策の正体なのだ」

同じことを、以前にも聞いた。ソンジュンの最も尊敬する父が、よりによって今朝、彼を腹の底から怒らせた男と全く同じことを口にしている。そのことが、ソンジュンを辛くさせた。

「お前は、そんな大義名分に惑わされるような愚か者ではないだろうが───誤解を招くような行動は慎め」
「誤解とは……どういう意味でしょうか」

父の渋面が、ソンジュンを見返した。

「どこの馬の骨とも知れぬ南人や少論とは、同室生といえど親しくすべきではない」
「私には、そのような同室生はおりません、父上」

即座に否定した。父の眉が僅かに上がった。

「貧しくとも向学心に溢れ、常に自分より家族を大事にする庠儒キム・ユンシク。そして、義のためには決して躊躇しない庠儒ムン・ジェシン───。いつも、二人から多くを学んでいます」

それと意識したことはなかったが、事実だった。同室になったのがあの二人でなかったなら、ソンジュンにとって成均館での寄宿生活は単に己の忍耐力を試す苦行の場でしかなかっただろう。
そして、共に戦ったのが、あの二人ではなかったら。
おそらくは大射礼も、円点を得るための試験の一つに過ぎなかったはずだ。
あんな、胸が熱くなるほどの喜びと感動は、決して得られることはなかったに違いない。

「父の命令だ。これ以上言わせるな」

ぴしゃりと、父は言った。聞く耳を持たぬとはまさにこのことだ。
膝の上に置いた手を握り締め、ソンジュンは黙り込んだ。父に理解してもらえないことよりも、父の口から、ユンシクやジェシンを蔑む言葉を聞いたことが、ただ悲しかった。






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2012/05/23 Wed. 16:31 [edit]

category: 第八話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: イ(李)さん一家☆

あちらのドラマって、男女の関係以上に親子関係も濃ゆ~いですもんね(笑)

>でもさ、原作のソンジュンダディよりドラマ版のダディはまだ温かみがある風w✿

うんうん。原作の方は、成均館編の終わりにちらっと出てきて、その時点では
けっこういいお父さんかなーと思ったんだけど。
奎章閣編で設定変えたのかもね。すんなり結婚させたらつまんないとか、そんな
事情カシラ(笑)
ドラマの方のパパは二人が結婚するとか言ったら、あっさり承諾しそうだもんね~(^^)

あまる #- | URL
2012/05/25 03:50 | edit

イ(李)さん一家☆

韓国ドラマの父と息子ってば、なんで会話に冷気があるんだろう(-"-)
聴いてると寒々してくる~。

母と息子は愛情いっぱいいっぱい、な会話(過多ぎみ?)だしね~(^^ゞ

でもさ、原作のソンジュンダディよりドラマ版のダディはまだ温かみがある風w✿
原作のほう、オニ?トッケビ?撹乱?お~こわこわ・・・。ブルッブル(>_<)
更新サンクスですだ~(^^♪

みずたま #- | URL
2012/05/24 15:02 | edit

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