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第八話 6 乖離 

成均館から儒生たちの姿が消える帰宅日は、清斎内一斉所持品検査の日でもある。儒教の教えを遵守し、質素勤勉を旨とする成均館では、学則により持ち込みを禁じられた物品が数多くある。だがその分、教官たちの監視の目をかいくぐり、学生たちにより密かに持ち込まれた品もまた多いのだった。

「ですからね、私はこのように考えるわけですよ、ユ博士。学生たちが家から持ち込みたいというものを、高価だからという理由だけで、我々が禁じて良いものかと……」

酒に賭け札、春本、老荘や仏教等異端とされる禁書の類。
博士ユ・チャンイクが、清斎から没収された山のような品々を一つ一つ改めている傍らで、大司成は先程から、肉付きの良い手をしきりに揉み絞っている。

「たとえばです。ある一人の学生が家から青磁の壷を持ち込んだとしましょう」
「───それで?」

ユ博士は手を休めることなく、訊き返す。

「彼はそれを眺めつつ、両親に会えぬ寂しさを紛らわし……そうしているうちに、はっと気づくんですよ。親代わりである我々の存在に。彼はそのことに深く感謝し、壷を是非とも私に譲りたいと言うわけです。いやいや流石にそんな高価なものを受け取るわけにはいきません。そこで私はその壷を国王陛下に……」

じろり、と、ユ博士が眼光鋭く大司成を見返した。
大司成は言いかけた言葉を飲み込み、「何か間違ってますか?」と隣のチョン博士の背中をつついた。

「チョン博士は、私と同意見だと思いますよ」

ねぇ?とその顔を覗きこんだ大司成は、自分を振り仰いだ彼の顔を見て、きゃっ、と叫び声を上げた。
チョン博士の右目には、何やらおかしな筒のようなものがくっついていた。更にはその筒の中に、丸い硝子玉らしきものが入っているので、巨大な目玉が飛び出しているようにも見える。

「ま、またそんな奇怪なものを!」

大司成が顔をしかめると、チョン博士はにっこりと笑って、耳の掛け紐を取り、奇妙な目玉を外した。

「ああ、これは……驚かれましたか?」
「いったい何なんですか?それは」
「旬頭殿講の際に、陛下に差し上げようかと思いましてね」

ほぉ、と大司成が感心したような声を上げた。

「さすがはチョン博士。一枚上手ですな。来るべき人事異動に向けて、もう根回しですか」

どれどれ、とチョン博士の外したそれを、自分の目に当ててみる。
覗き込むなり、視界いっぱいにチョン博士の顔がその髭を数えられるほど近くに迫ってきて、大司成は再びきゃっと声を上げた。

「遠くからでも不正がわかる───まさしく千里眼というやつですよ」

大司成が気味の悪いものを見た、と言わんばかりにぽいとそれを放る。
ふと手を休めて、ユ博士が言った。

「もしや、チョン博士はご存知か?今度の旬頭殿講に陛下がどんな問題を出されるのか」

まさか、とヤギョンは笑う。

「あの気まぐれな陛下の御心など、誰もわかりはしませんよ」

そう言って、彼はまた片目を瞑り、“千里眼”を覗き込んだ。


*   *   *

王が、卓子の上で七巧〈チルギョ〉の箱をばらりとひっくり返した。
傍らに立つ領議政チェ・ジェゴンが、訝しげに眉を寄せる。

「陛下、それは一体……」
「試験問題だ」

一見、不規則な形に切り分けられたように見える七つの木片を、王は慣れた手つきで並べてゆく。その手元で、木片は魚になり、風車になり、と、瞬く間に姿を変えた。

「その……七巧を解くのでございますか」

王は笑って、木片の一つを手に取った。幼い頃、一人遊びの友は大抵この七つの木片たちだった。
博士キム・スンホンはどうやら大人になってからも、この知恵遊びが好きなようだったが。

「驚くな。そなたが解くわけではない。次の旬頭殿講で、儒生たちに出す試験問題だ」

思えば、友は根っからの教育者であったのだ。こうして鬼籍に入ってさえ、自分や愛弟子に難題を出し続ける。
この問題を解くのを、土の下に眠る友が待っているなら、立ち止まるわけにはいかない。
今このときに、成均館に彼の息子がいるという巡り合わせも、決して偶然ではあるまい。

「この問題が解けたなら───問題を解いた者が、たとえあの老論の息子、イ・ソンジュンだとしても、臣下たちは余の考えを止めることはできぬはずだ」

静かな言葉の中に強い決意を込めて、王は言った。


*   *   *

清斎の通用門を出たところで、人待ち顔で立っているソンジュンがいる。
淡い山吹色の道袍に笠を被り、支度はすっかり整っているようだが、いつまでもそんなところでぐずぐずしているのは、目当ての人物がなかなか現れないためだ。

と、ようやくそこへ、ユンシクが金子の袋を手に にこにこしながら門をくぐってきた。
ソンジュンは いかにも、たった今通りかかった風を装ってその行く手を塞いだ。

「相変わらずだな。成均館の儒生になっても、何も変わっていない」

何のこと?と見返す目に向かい、ソンジュンは続けた。

「小遣いに浮かれて、大切なものを忘れている」
「君には、関係な……」

言い終える前に、ソンジュンは持っていた薬包の束を差し出した。

「病気の弟がいるんだろう?」

ほら、と促すと、ユンシクは戸惑ったように目を泳がせたが、受け取った。

「よく、覚えてたな。そんなこと」

当たり前だ。あんな強烈な出会いは、忘れたくても忘れられるものじゃない。ソンジュンの常識の範疇では理解し難い彼の行動が、すべて病気の弟のためだったと思えば尚更だ。

「………せっかくだから、貰っとく」

素っ気ないが、唇を尖らせてそう言ったユンシクに、ソンジュンは少しホッとして微笑んだ。
昨夜酒房の前であんな別れ方をして以来、お互いなんとなく気まずく、ろくに口をきいていなかったのだ。
そのまま屋敷に帰っていたら、気になって旬頭殿講の準備どころではなかっただろう。

「どうやら、一歩出遅れたようだな」

背後からそんな声がして、ソンジュンは振り返った。そこにいたのは、掌議ハ・インスとその取り巻きたちだった。
インスの半歩後ろで、ビョンチュンが鼻のあたりを押さえながら、凶悪な顔でユンシクを睨みつけている。どうやら昨夜、二人が派手に殴りあったという噂は本当らしい。

「持って帰れ、キム・ユンシク」

インスが言うと、ビョンチュンが「ほら」とユンシクの足元に薬包の束を投げた。ビョンチュンにつつかれ、コボンも後ろから風呂敷包みを ぽいと放る。

「掌議……これは何です?」

硬い声で、ユンシクが尋ねた。「私の気持ちだ」とインスは薄く笑った。また何か揉め事か、と目ざとく勘付いた儒生たちが、周囲に集まり始めていた。

「私たちが成均館を空ければ、食堂に残った食べ物は腐り、捨てることになる。その後は泮村に運び出されて、牛の餌になるだけだ。だがキム・ユンシク、お前も知っての通り、これらは皆、民の血税だ。それを、牛の餌にするのは忍びないだろう?」

インスはソンジュンに視線を移し、言った。

「我らは近い将来、官吏となる」
「何の話ですか」

その目を鋭く見返しながらソンジュンが訊き返すと、インスはまた微かに笑った。

「まあ聞け。それで私も考えてみたのだ。この成均館で、誰が一番残飯処理に相応しいかとね」

さっ、とユンシクの顔色が変わった。インスの背後、西斎の連中から失笑が漏れる。

「貧しい暮らしが、残飯によって助かる者。そして、くだらない自尊心だけで、施しを断るようなバカな真似をしない者───。つまりお前だ、キム・ユンシク」

聞くに耐えず、ソンジュンはユンシクの前に進み出た。

「彼に失礼でしょう。やめてください」
「何故だ?同じことをしているのに、お前は良くて、私は駄目なのか?」

馬鹿な、とソンジュンは猛烈な怒りに拳を震わせた。
自分とインスのしたことが、同じであるはずがない。絶対に違う。
もしも同じだとしたら、この場で自分の腕を切り落としてやる。そうでもしなければ、一生自分自身を許すことはできないだろう。

「大射礼で優勝したら、成均館の学生として認めろと言っていたな、キム・ユンシク。これが私の返事だ。お前は成均館の学生だ。なら、これくらいの贅沢はしていい」

そうは思わないか、とインスが周囲に同意を求めると、ビョンチュンがすかさず「そうですとも!」と言って下卑た笑いを浮かべた。
と、いつからそこにいたのか、ジェシンが儒生たちを撥ね退けながらずかずかとやってきたかと思うと、いきなりインスの胸ぐらを掴んだ。

「黙りやがれ」

おおーっと、とビョンチュンが声を上げる。

「イ・ソンジュンばかりか、ムン・ジェシンまでご登場か。キム・ユンシク近衛隊の総出動だ」
「流石は蕩平組だな」

ひひひ、とコボンが笑う。

「やめてください、先輩」

ユンシクの静かな声が、ジェシンを制した。今にもインスに殴りかからんばかりだった彼の腕が、ぴたりと止まる。
ソンジュンはユンシクの横顔を見つめた。

あのときと同じだ。
雨の中、たかが50両のために嘘はつかないなどと、愚かにも彼に言ってしまった、あのときと。
一切の感情の消えた、静まり返った顔。まるで、目の前でぱたんと音をたてて扉が閉ざされたような、そんな気がした。あの時も、そして、今も。

「ぼくなら、大丈夫です」

そう言って、ユンシクはインスに向かい、頭を下げた。

「ありがとうございます、掌議」
「お前、何を言ってる!」

ジェシンが声を荒げた。足元の薬包や風呂敷包みを一つ一つ拾い上げるユンシクに、ジェシンは苛立ちを隠さない。

「そんなもん拾うな!」
「いいえ。いただいていきます。我が家には、大きな助けになりますから。───感謝します、掌議」

人垣を掻き分け、足早に立ち去るユンシクの後を、ソンジュンが追う。肩を掴んで、振り向かせた。
ユンシクは無表情に目を逸らしたまま、ソンジュンを見ようともせず、すぐに踵を返した。

関係ない、と。
むくれた顔でそう言われる方が、はるかにましだったのだということを、ソンジュンは知った。

「分かったか、イ・ソンジュン、ムン・ジェシン」

去っていくユンシクを見ながら、為す術もなく立ち尽くしていたソンジュンの背に、インスが冷ややかな声を浴びせた。

「党派を超えた結束だと?お前らとキム・ユンシクとでは、所詮無理なのだ。老論であれ少論であれ、お前たちは生まれてから一度も食うに困ったことなどない、坊ちゃん育ちだからな」

インスの言葉に、激昂したジェシンが拳を振り上げる。その腕を、カン・ムが掴んだ。白くなるほど握り締められた手が、掴まれたまま小刻みに震えている。
ふん、と鼻先で笑って、インスは言った。

「これからは仲良くしようじゃないか。似たもの同士で」

カン・ムの手を乱暴に振り払い、ジェシンは吐き捨てるように言った。

「その口を閉じろ、インス。臭ぇんだよ」

頬を歪めたまま、大股で伝香門へと向かうジェシンに、とばっちりはごめんだとばかり儒生たちが道を開ける。
どこまで卑怯な男なんだ、と、ソンジュンはぐらぐらと煮え滾る怒りを堪えるのに必死だった。
インスの狙いは明らかだ。蕩平組の結束。そんな、彼にとって許し難い事態を、今度は内側から崩そうという魂胆だろう。
そんな手に、安々と乗るものか。

だが。
去り際、ソンジュンと一瞬たりとも目を合わそうとしなかったユンシクが、気になった。




************************************************
あまるですどうもこんにちわ。

この回で王様が遊んでる、温泉旅館なんかに時々置いてあるやつ(タングラムっていうらしい)
今回調べて初めて知ったんですが、もとは中国に古くからあったパズルらしいです。
てっきり最近のものかと思ってた。

意外とやり始めると夢中になりますよね、アレ(笑)木の触り心地もいいし。
幾何学にも通じるところがあるそうで。
ウチの子にも小さいときからやらせとけば良かったかも。もう遅いけど(^^ゞ






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2012/05/17 Thu. 09:07 [edit]

category: 第八話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

cm 4  tb 0 

コメント

Re: tomonoさま

> タングラムたぶん今からやっても大丈夫ですよ

あ、そうなんですか~?ちなみにウチの子、というか私もですが(^^ゞ
ルービックキューブも全然ダメな人です(笑)

パズル系のおもちゃは好きなんですけどね~ 
ウチでも今度買ってみよっかな。

あまる #- | URL
2012/05/23 04:58 | edit

こんにちは
タングラムたぶん今からやっても大丈夫ですよ
義母が ボケ防止に買ってきました 
結構難しいです
いつも丁寧な 解説?清書有難うございました
ドラマの隙間が 埋まるようで とても楽しいです

tomono #- | URL
2012/05/22 11:35 | edit

Re: スイカなんですよ。

>でも、その辛さに寄り添ってほしいと願う☆この辺りを見るたびに感じることです。

辛さに寄り添う!いい言葉だわ~(T_T)
違う人間ですもの。お互い完全に理解し合う事は無理。でもこの二人はきっと
乗り越えていくでしょう~。ソンジュンが物凄い努力家だから(笑)

あまる #- | URL
2012/05/18 01:15 | edit

スイカなんですよ。

ヒトの悩みはスイカの種の様。
外見からではわからない、中を観てああタネがいっぱい。
人間千差万別、同じ境遇であれば辛さがわかるが個々で違うから共有はできても、真に理解は難しい。ましてや銀のスプーンくわえて生まれたソンジュンにユニの辛さは想像を絶することでしょう。
でも、その辛さに寄り添ってほしいと願う☆この辺りを見るたびに感じることです。

いつもコメンテーター言いたい放題でスミマセン(^^ゞ

みずたま #- | URL
2012/05/17 10:33 | edit

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