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第八話 5 帰宅日の朝  

斎直の叩く太鼓の音が、朝靄の中に響く。

「起寝〈キチム〉!起寝!起きてくださーい!」

朝か……。

まどろみの中にいたソンジュンは、腕の中に感じる心地良い温もりに、しばらく目を開けられずにいた。
起きなければいけないのはわかってる。でももう少し。
この手に戻ってきた、あの天女の余韻を感じていたい。
天女の温もりを。
天女の。
てん……

うっすらと瞼を開けたソンジュンが見たのは、自分の胸に丸くなって顔を埋めているジェシンの、ボサボサ頭だった。

がば、と身を起こした。
ぱちぱちと瞬きする。
なんだこれは。今度は悪夢を見てるのか?

人差し指で、恐る恐る、丸まった布団の上からジェシンをつついてみた。

「……先輩」

反応は無い。さらにつついた。

「先輩」
「失せろ!」

怒鳴り声と同時に、ジェシンが跳ね起きた。
起き抜けで状況が飲み込めないのは向こうも同じらしく、ぼうっとした目が間近でソンジュンを見返した。
互いに無言のまま見つめ合っていると。

「コロ先輩、どうしてそっちに?」

ジェシンの声で目を覚ましたらしいユンシクが、部屋の隅から声を掛けてきた。
途端、ジェシンは弾かれるようにソンジュンから離れた。

「服もちゃんと着て、布団までかぶって」

四つん這いで近寄ってきたユンシクをあからさまに避け、ジェシンは夜具の上でじりじりと後退る。

「ち、近寄るな」
「先輩?」

ユンシクが訝しげに眉を顰めた。

「瘧(おこり)……瘧にかかったらしい」
※マラリアのこと

瘧!?

ソンジュンは ぎょっとしてジェシンを見た。ユンシクはといえば「瘧ですか?」と怖いもの知らずにもジェシンの額に手を伸ばし、熱を診ようとする。びくりとしたジェシンはそれを避けて更に壁際へ飛び退った。

「ああ、だから、だから俺に近寄るな」

布団を胸元まで引っ張り上げ、部屋の隅っこでかたかたと身を震わせているジェシンの様子は、確かにただごとではない。

まさか僕はそんな重病人を、一晩中抱き締めて眠っていたのか?

急に気分が悪くなってきた。
ジェシンからそっと離れ、横を向いて密かに自分の額に手のひらを当ててみる。が、幸い熱はなく、ホッとするソンジュンだった。


*   *   *

その朝、厠へ行ったユニは、後から入ってきたヨンハと顔を合わせた。
間に低い衝立があるとはいえ、こんなところで誰かに会うとやはり落ち着かない。大あくびしているヨンハを横目に見ながら、ユニは手早く衣服を整え、個室を出た。

「昨夜は、ちゃんと風呂には入れたか?」

入り口近くの個室で用を足していたヨンハが、すれ違いざま、声を掛けてきた。
昨夜のことを思い出し、ユニは危ない危ない、と気を引き締めた。このしれっとした顔に気を許したら、こっちの命がいくつあっても足りなくなる。

「いいえ。先輩のお陰で大変でした」
「どうして。何かあったのか?享官庁で」

白々しい、と思いながらも、ユニは答えた。

「享官庁には行かなかったんです」
「行ってない?なんで?」
「先輩からあんな話を聞いた後ですよ。女の幽霊が、男が来るのを待ち構えてると思ったら、怖くていけませんよ」

なんせぼくはテムルですからね、と肩をそびやかす。

「だから先輩と一緒に行水でもしようと思ったのに、留守でしたね。ああ、先輩は享官庁には絶対に行っちゃダメですよ。だってそうでしょ?女の恨みといえば、先輩も相当なはずだもの」

ヨンハの顔色が変わった。

「ちょっと、ちょっと待て、テムル」

慌ただしく前を掻き合わせながら、ヨンハが個室から出てきた。ユニは素知らぬ顔で視線を逸らす。

「確かに昨夜、享官庁で明かりを見たんだ」
「享官庁へ行ったんですか?」

殊更に目を丸くして、ユニは言った。ヨンハがはっと口元を抑える。用を足した後だということも忘れているらしい。
ユニはヨンハを手招きした。長身を屈めたヨンハに近づき、彼がいつもやっているのを真似て、耳元で囁く。

「ほらね……幽霊が明かりを灯して、先輩を呼んだんですよ」

目を剥いたヨンハは、そのまま石のように固まった。顔から血の気が引いている。
その肩をぽんぽんと叩いて、ユニは言った。

「これに懲りて、女遊びはほどほどにしてくださいね。じゃ」

昨夜はヨンハのお陰で大変な目に合わされたのだ。これくらいの仕返しは許されるだろう。
厠を後にしながら、ユニはぺろりと舌を出した。


成均館には毎月8日と23日に、自宅に帰ることのできる帰宅日が設けられている。
だが、入館した最初の月は帰宅を許されないため、その日は新入生たちにとって入学以来初めての帰宅日となった。

休暇中といえど、成均館の学生であることに変わりはない。賭け事はもちろん、狩りや釣り等の殺生は一切禁止。
成均館に戻る際に、金品や贅沢品を持ち込むことも禁じられた。
朝から尊経閣がいつにも増して賑わっているのは、休暇明けに旬頭殿講〈スンドゥジョンガン〉が行われるためである。
王の面前で行われる試験で流石に不可は避けたい儒生たちが、自宅で勉強するための写本を手当たり次第に持ち去っているのだ。

「家に帰るぞー!」

妻子を残して寄宿舎生活をしているドヒョンを始め、私服に着替えた儒生たちの顔は皆生き生きと明るい。ユニももちろんその一人だ。久しぶりに母と弟の顔が見られると思うと心が弾んで、自然と顔が綻ぶのを抑えることができなかった。

「おいテムル、嬉しいのは家に帰ることか?この金か?正直に言ってみろ」

青い巾着袋をお手玉のように手の上で弾ませて、ドヒョンが言った。それは、休暇中の小遣いという名目で成均館の儒生全員に支給されるもので、中には、貧しいユニには目を瞠るほどの額の金子が入っていた。

「女房子供がいるわけでもなし。金に決まってんだろ」

ヘウォンがいつものごとく干菓子を片手に言うと、すかさずウタクが「子曰く……」と人差し指を立てる。その口にドヒョンが巾着袋を押し込んだので、後はふがふがとよく聞き取れなかった。
ひとしきり笑って、ユニは言った。

「ぼくはね、お金を持って家に帰れるのがすーっごく嬉しい」

こいつぅ、とドヒョンがユニを小突く。ヘウォンやウタクも次々と羽交い絞めしたりくすぐったりするので、ユニは笑いすぎてお腹が痛くなった。


そんなキム・ユンシクの姿を、東斎の縁側からじっと見つめる視線があった。
ジェシンである。

「あいつ……一体何者なんだ」

ドヒョンやヘウォンたちと無邪気に笑い合う姿は、そこらにいる儒生たちと何ら変わるところはない。
学堂にすら通えぬ女の身で、よくもこの成均館に入学できたものだと感心するが、ユンシクがああやって男たちに少しも違和感なく溶け込んでいることに、ジェシンは驚きを隠せない。
あれが本当に、チンピラに情けを請い、青白い顔で跪いていた娘と同一人物なのだろうか?
大した度胸してやがる、とジェシンは首を振った。あのときは、とてもそうは見えなかったのに。

縁側から腰を上げたジェシンの前を、ヨンハが塞いだ。いつもの彼らしくもなく、何やら切羽詰まった顔をしている。

「教えてくれ。昨夜、本当に、冗談抜きで、享官庁には誰もいなかったのか?」

またその話か、とジェシンは無視を決め込もうとするが、ヨンハは引き下がらない。必死の形相で、ジェシンの襟首を掴む。

「ちゃんと答えろって!」

目にうるさくかかる前髪を指先で払いのけ、ジェシンはヨンハをじろりと見遣った。

「しつこいんだよ。幽霊でも見たような顔しやがって」

ヨンハが絶句して、表情を強張らせる。襟元を掴むその手をひっぺがし、ジェシンはさっさと東斎を後にした。






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2012/05/09 Wed. 21:07 [edit]

category: 第八話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: 原作?

原作ありますよ~。
「成均館儒生たちの日々」上下巻と、「奎章閣閣臣たちの日々」上下巻、Amazonにて
絶賛発売中です。
ドラマとふんわりカブる部分もあり、濃くなってる部分(笑)もあり……
ドラマ同様、こちらもオススメです(^^)

あまる #- | URL
2012/05/13 00:34 | edit

原作?

この作品、ドラマだけじゃないの?

にゃん太 #- | URL
2012/05/12 06:10 | edit

Re: 覚醒!!

原作のソンジュンは、ドラマよりずっと素直ですから~(笑)
ドラマの方のソンジュンが、ユンシクのことをあんな風に言うことは
絶対ないだろうとは思うんだけど、夢には願望が現れるってゆうからね~(笑)

あまる #- | URL
2012/05/10 21:28 | edit

覚醒!!

良い目覚めとならなかった、ソンジュン・・。(T_T)
原作でキムユンシクのような女人が最高の理想☆とお述べになってたし、直感では感じてるんだろうね。
やっぱり、ユニってばファムファタールだことっ(-"-)

更新、ありがとうございますた。

みずたま #- | URL
2012/05/10 11:44 | edit

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