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第八話 1 享官庁の秘密 

その頃。

───いない。

中二房の扉を開けたソンジュンは、真っ暗な室内に やっぱり、と小さく溜息をついた。
酒房に来た途端、帰ってしまったユンシク。明らかに様子が変だった。
ここへ戻る途中、ビョンチュンと殴り合いの喧嘩をしていたのを見た、と言う者もいた。
にわかには信じられなかったが、あのときのユンシクならあり得ることかもしれない。

弓の練習と、大射礼での優勝を通して、お互い、やっと友と呼べるようになったと思った。上手くは言えないが、ユンシクの勝利が決まったあの瞬間、お互いの間に、何か絆のようなものができた、そんな気がしたのだ。

酒など呑めもしないのに、祝勝会の席にわざわざ行ったのも、ユンシクと今日の勝利を祝いたかったからだ。
なのに、酒房の店先で、ユンシクがソンジュンに向けた目は、また元の───あの雨の中、科挙なんか受けても無駄だと、恵まれた人間に何がわかると突っぱねた、あのときの目と同じだった。

指先の方にまで巻かれていた包帯が痛々しかった。
だが、彼はソンジュンに言った。『関係ない』と。
その言葉に、ソンジュンは少なからず傷ついていた。

何かあったのかもしれない。そう思うと、いてもたってもいられなくなった。
ソンジュンは扉を閉めると、縁側を降り、ユンシクを探し始めた。

一方、こちらはヨンハである。
先程から、自室の中を行ったり来たりしながら、何やらぶつぶつと呟いている。

「……これは別に、女の裸が見たいというスケベ心じゃない。真偽を確かめたいという、学士の探求心だ」

そうとも、と閉じた扇子をぱしんと手に打ちつけ、彼はにたりと笑った。


成均館の北の外れ、享官庁〈ヒャンガンチョン〉。祭祀を執り行う祭官だけが入室を許されているその場所は、ありがちではあるが幽霊が出るという噂のせいもあって、普段から近づく者はほとんどいない。

夜な夜な、隠密活動を続ける紅壁書ことジェシンにとっては、好都合な隠れ家である。
血止めに使える煙草の葉が置いてあるのも、生傷の絶えない彼には有難いところだ。
その晩も、寝る前に包帯を取り替えようと享官庁へやってきたジェシンは、いつもは真っ暗なはずのそこの窓からぼんやりと明かりが漏れているのを見、眉を顰めた。

まさか、昼間の官軍が紅壁書の手掛かりを探すためにまだうろついているのだろうか。
ジェシンは足音をたてないように、そっと軒下まで近づくと、扉の隙間から中を伺った。

祭器の並べられた棚の向こうには湯桶があり、白い湯気が立ち上っている。
ゆらゆらと揺れる蝋燭の明かりの中。

彼はそこに、信じ難いものを見た。

手のひらに湯を受け、幸せそうに微笑んでいるのは、キム・ユンシク。幾筋もの髪が細い肩に濡れて貼りつき、複雑な模様を作っている。いつもとは違う何やら妖艶な雰囲気すら漂わせてはいるが、確かに彼だ。

だがその、薄明かりの中でも輝くばかりに白い肌と、魅惑的な丸みを帯びた胸元を見たとき───
ジェシンは一瞬、自分の頭が確実におかしくなったと思った。

あの矢には、神経を狂わせる毒でも塗ってあったのか。それとも、痛みのせいで幻覚を見ているのか。
ユンシクが、あの、テムルが女?そんな馬鹿な。

この男ばかりの成均館で、あり得ないことだった。いや、あってはならないことだった。
心臓が、早鐘のように打ち始める。自分は、決して見てはいけないものを見てしまったのだ。

扉に掛けていた手が震え、思わずぎゅっと握り締める。
視線を引き剥がし、扉に背中を預けた。それでも足から力が抜け、ずる、と地面にへたり込みそうになった。

「───ヒック」

唐突に出たしゃっくりに、ジェシンは思わず口を塞いだ。
そうか、と彼はやっと理解した。どうしてテムルを前にするとしゃっくりが出るのか不思議でならなかったが、彼が実は女であったのなら、この反応も合点がいく。

なんてこった。

テムルが女。
そしてその秘密を、自分は知ってしまった。おそらくは、まだ誰も知らない秘密を。

未だ力の入らない足をどうにか踏ん張り、ジェシンはよろよろと身体を起こした。
しゃっくりは止まらない。とにかく、ここから離れなければ。
真っ白な頭で考えることができたのは、それだけだった。

「───先輩」

突然、暗がりから声を掛けられ、ジェシンは彼らしくもなく ひっ、と小さく悲鳴を上げた。
そこにいたのは、ソンジュンだった。

「な、なん……何だ?」
「どうして、こんなところに?」
「おっ、お前こそ何してる」

あからさまに動揺しているジェシンを、ソンジュンは訝しげに見つめる。

「ひょっとして、キム・ユンシクを見ませんでしたか」
「キッ……」

心臓が、まさしく口から出てくるのではというほど飛び上がった。

「キム……キム・ユンシク、あいつが、どうした」
「姿が見えないんです」

ジェシンの全身が硬直する。こいつも、明かりのついている享官庁を不審に思って来たのだ。
そのまま行こうとするソンジュンの鼻先で、ジェシンはバンッ、と壁に手をついた。

「ここは享官庁だ。祭官しか入れない場所だぞ。あいつがいるわけないだろ!」
「……いや、それはどうかなぁ」

と言いつつ、物陰からふらりと姿を現したのはヨンハだった。

「な、なんで……」

お前までここに、と言おうとしたジェシンだが、驚きのあまり金魚のようにただ口をぱくぱくさせるだけである。ヨンハは、そんなジェシンを全く意に介さず、続けた。

「享官庁は祭官以外立ち入ることは許されない。もしテムルに、誰にも知られたくない秘密があるとしたら?ここは最高の場所じゃないか。違うか?」

ぽんぽん、と手にした扇子でジェシンの肩を叩き、未だ呆然と立ち尽くす彼の横をすり抜ける。

「ま、百聞は一見にしかずだ。見ればわかる。中にテムルがいるか、それともいないのか───」

そう言って扉に手を掛けようとした瞬間、ジェシンは弾かれたように身を翻し、ヨンハを突き飛ばした。

「よせ!」

扉を背に、必死の形相でそこに立ち塞がる。

「何をそんなに慌ててるんだ?」
「ば、バカ言うな。俺は何も……」

ふふん、と鼻で笑って、ヨンハはすくい上げるようにジェシンを見た。

「泮宮の暴れ馬がどうしたんだ?ブルブル震えて。まるでか弱いロバみたいじゃないか。───もしかして、人に見せたくないものでも隠してるのかな?」
「何のことだ」
「だから、私達には内緒で、一人で見ようって魂胆なのかな、と思ってね。どう思う?カラン」

ソンジュンは、そうなんですか?とでも問いたげにジェシンを見た。当のジェシンは扉の前に立ちはだかったまま、為す術もなくただ身体を強張らせるばかりである。

ヨンハはテムルを疑っている。あいつの秘密をどうにかして暴く気だ。
冗談じゃない。こいつらに、テムルのあんな姿を見られてたまるか。

「何とか言えよ、ん?」

扇子の先にジェシンの顎を乗せ、妙に底光りのする目で彼を見返す。その扇子をはたき落とし、ジェシンは意を決して背後の扉をバンバン、と殴りつけた。

「ここは享官庁なんだよ、享官庁!」

頼むからこの状況に気づいてくれ。中のユンシクに、そう祈るしかなかった。

「こんなとこにあるのは、香炉くらいのもんだ。わかったらとっとと失せろ。早く!」

力まかせに殴りつけた扉の内側で、バキッと嫌な音がした。それに、何かが床に落ちる、硬い音が続く。

げ……。

さーっ、とジェシンの顔から、血の気が引いた。強く叩きすぎたせいで、内側に掛けていた閂が外れたらしい。
僅かだが開いてしまった扉を、背中に隠しながら素早く閉じた。だが、ヨンハがそれを見逃すはずはない。
彼は にい、と片頬を上げて笑った。

「享官庁にあるのは香炉くらいのもんか……なるほど。確かにそうだ。てことは、扉の隙間から漏れてる明かりはきっと、祭礼で使った香炉に、まだ火が残ってたんだな。早く先生に知らせて、成均館の学生全員で、確認した方がいい。うん、そうしよう」
「はっ……?ま、待て、ちょっと待て!」

くるりと踵を返したヨンハを、ジェシンが顔色を変えて引き止める。ヨンハは「ほらね」と勝ち誇ったように言った。

「それより、私一人の方がまだマシだろう?」

こ、の、クソ野郎───!

ヨンハの手でいいように弄ばれているのに気づき、思わず心の中で口汚く罵るジェシンである。
こうなったら力づくで阻止するしかない。ジェシンは、口笛を吹きながら再び享官庁の扉に手を掛けようとしたヨンハの肩をむんずと掴み、そのまま引き倒した。

「でっ……!何すんだ、離せ!」
「うるせぇっ!」

ジェシンの妨害から逃れようとするヨンハを、抑えこむジェシン。二人とも必死である。地面に転がり、組んず解れつの攻防戦が始まった。
そんな先輩二人を、しばし呆然と見下ろしていたソンジュンだったが、ふと首を巡らし、享官庁の扉へと足を向けた。

待て老論!頼むから行くな!

ヨンハに組み敷かれながら、目の端でそれを捉えたジェシンが腕を伸ばし、ソンジュンの足を掴もうとするが、ヨンハに阻まれて届かない。じたばたと虚しく宙を掻く彼の手を他所に、ソンジュンはゆっくりと、その扉を開けた。






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2012/04/19 Thu. 09:45 [edit]

category: 第八話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: 学士の探求心???

先日は相手してくださってありがとでした~(笑)
今回のイベはプランター目当てで頑張ります。←目標低っ!

> 第一位の発表はノチホド~☆

え~。第一位ってナニ~。どこだろ。ちなみにワタクシの第一位は、うう~いっぱいありすぎ(^^ゞ
今度考えときます。

あまる #- | URL
2012/04/20 08:02 | edit

学士の探求心???

リアリ~?(英語変換)
ウマい結論です!ヨリムに座布団5枚☆

コロ殿の初ヒックりしゃっくり場面。
いよいよ登場だね(^^♪
あの魅惑な光景、ワタシの中では第2位です。
第一位の発表はノチホド~☆

更新、ありがとうございます。

みずたま #- | URL
2012/04/19 15:58 | edit

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