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第一話 5 出会い 

 場所は変わって。
 そこは、正録庁。成均館内の、いわば職員室である。講義も生活指導も、厳格なことで有名なユ・チャンイク博士が、きびきびと歩きながら書吏に指示を飛ばしている。

「答案すり替えはムチ打ち、本の盗み見は棒叩き。巨擘は今後、科挙の受験禁止。一人も逃すな。もし逃したら───」

 書吏のハム・チュンホは矢継ぎ早に繰り出される博士の指示を書き取るだけで精一杯だ。ぴたりと足を止め、振り返ったユ博士にあやうくぶつかりそうになり、慌てて顔を上げる。

「お前もムチ打ちだぞ」

 チュンホの顔が、たちまち泣き出さんばかりに歪んだ。まったくなんてことだろう。先月赴任してきたこのユ博士ときたらとんでもない原則主義者で、四角四面にしか物事を考えない。相手が儒生だろうが成均館の職員だろうが、規則を破る者は絶対に許さないのだ。
 受験資格の必要な大科はともかく、広く一般庶子にも門戸を開いている小科試験での不正行為は、もはや慣例となっている。それは、ここで長く働いていれば自然とわかる事実だった。不正行為を働いた者を一人残らず捕えたら、今受験生たちでひしめき合っている丕闡堂は、すっからかんになってしまうだろう。
 
「随分必死ですなぁ。お手柔らかに頼むよ」

 暗澹たる面持ちのチュンホの耳に、救世主の声が聞こえた───と思ったのだが。
 声の主であるもう一人の新任博士は、正録庁の奥で先輩書吏、コ・ジャンボクと差し向かいで賭け将棋に興じている最中だった。

「叩くだけでぇ~駒が捕まりますかな~」

 妙な節回しで歌うように言いながら、敵陣の駒を摘まみ上げる。やられた、と息を吐いたジャンボクの顔を見ながら、チュンホは首を捻った。今のは、ユ博士とジャンボク先輩、どっちに言ったんだろう?

ガシャン、と荒っぽい音が正録庁に響いた。怒り心頭のユ博士が、将棋盤を派手にひっくり返したのだ。

「神聖な試験場で賭け事とは、貴様は何者だ!」

ジャンボクがわざとらしく咳き込みながら、こそこそとその場から逃げ出した。残された白い鶴撃衣(ハッチャンイ)の男は、しばらくびっくりしたように目をしばたいていたが、おもむろに立ち上がった。

「本日付けで成均館に博士として配属されました。チョン・ヤギョンです」
「賄賂収受で左遷されただけのことはありますな。赴任初日に、しかも試験場で賭博とは。いったい何を考えておられる!」

 遠慮のないユ博士の物言いに、ヤギョンは頭を掻きながら苦笑いする。

「いや、試験場で受験生と役人が堂々と不正を働いているので、私もつい…」

 そんなことが理由になるか、と言いたげにユ博士は目尻をぴりりと震わせた。

「ここは成均館ですぞ、成均館!早く行かれよ。不正を働く輩を、一人残らず探しださねばならん!」

 やがて試験開始の太鼓の音が、成均館に響き渡った。



 イ・ソンジュンは試巻に下ろそうとしていた筆をふと止め、隣の受験生を見た。先ほどから妙な動きをしている、と気になっていたのだが、あろうことかその男がしきりといじくっていた鼻の穴から取り出したのは、小さく巻いた紙束だった。広げたそれを見なくてもわかる。おおかた、今回の試験の予想問題とその解答がびっしりと書かれているのだろう。
 
 不正を働いている者は彼だけではなかった。よくよく辺りを見渡すと、同じ紙束を筆の中に仕込んでいる者、袖の下、自分の腕に直接解答を書き込んでいる者と、よくもまあそんなに知恵が絞れるものだと感心するほど、ありとあらゆる方法で不正が行われていた。あまりに堂々とやっているので、流石に試験官の目にも止まる。だが試験官は不正を摘発するどころか、受験生から宝飾品を受け取っている始末だ。
 
 ソンジュンは早くも科挙を受けに来たことを後悔していた。父や親戚から何度急かされても受験に気乗りしなかったのは、合格する自信がなかったわけでも、ましてや出仕などせず遊んでいたかったわけでもない。こんな不正が堂々と行われ、そうやって役人となった者たちが大手を振って政事に携わっている宮廷というものに、彼は全く興味が持てなかったのだ。
 それまではまだ自分の力量に自信が無いから、とかなんとか殊勝な理由をつけて受験を拒んでいたものの、今年科挙を受けなければ親子の縁を切る、とまで父に言われては仕方がない。こんなところにいるのは本意ではなかったが、彼はついに観念して試験場の門をくぐったのだった。
 
 それにしても、と彼はふと疑問を感じた。これまで息子の考えには比較的寛容だった父が、今回に限って急にあんな断固とした意志を示したのはなぜだろう。
 父はまだ健康で、あの年齢にしてはむしろ矍しゃくとしている。隠居を考えるのは早過ぎるし…。

 ソンジュンは頭を振った。今は試験のことだけ考えろ。父に疑問をぶつけるのは、受かった後でいい。首席合格という名誉を持ち帰れば、理由くらいすんなり話してくれるだろう。

 気を取り直し、ソンジュンが再び筆を下ろそうとした、その時。まだ記名しかしていない試巻が、すい、と横にずらされた。見ると、いつの間にか彼のすぐ脇に、粗末な身なりをした小柄な少年が、膝を立てて座っていた。

「芸はクマが演じ」

 いきなり、少年はそう言った。意味不明だ。ソンジュンが怪訝そうに眉を顰めると、少年は少し苛立ったように、繰り返した。

「芸はクマが演じ!」
「───金は胡人が受け取る」

 ソンジュンが言うと、少年は「胡人?」と聞き返した。

「文語に置き換えるとは、なかなかやりますね」

 相手にしていられない。ソンジュンが試巻を取り返そうと引っ張ると、小さな手がはっしとそれを押さえ、「30両」と言った。

「もしかして初めてですか?」

 少年の表情に、微かな親しみのようなものが浮かんだ。

「ぼくも初めてなんです。念のため言っておきますが、この仕事は前払いと決まっています」

30両、とまた少年は繰り返し、笠を直すふりをして軽く腕を上げた。袂の中に入れた巻紙が数本、ちらりと見えた。

「3等、次席、首席。30両から50両まで、お好きに選んでください」
「50両」

答えると、少年はやった、と言わんばかりに嬉しそうな顔をした。わかり易い奴だ。
ソンジュンは指先で少年に軽く手招きした。耳を寄せてきた彼に向かい、氷の一言を浴びせる。

「巨擘を告発した者に出る報奨金だ。──50両」

 さっ、と少年の顔色が変わった。
 ソンジュンはもう我慢の限界だった。こんな試験、バカげているにも程がある。
 彼は正面の試験官に向かって手を挙げ、声を張り上げた。

「申し上げます!」





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2011/07/20 Wed. 23:54 [edit]

category: 第一話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: ちびたさま

いつもコメありがとうです(^^)

ソンスはおぢさんキャラも光ってますよね~。
ワタシのいち押しは王様なんですけど(笑)チョン博士も好きです。
ドラマ終盤の彼の涙にはちょっと感動しました。

>このイ・サンの時代は制作する側としてはおもしろいんでしょうね。

ですね~。風の絵師とか、トンイとかもこのへんですよね?イ・サンは日本でいうと
織田信長みたいなカンジなのかしら~

ソンジュンが科挙受けなかった理由は、ドラマでは特に明かされてませんので、ワタクシの
想像なんですが……ま、クソ真面目な彼ならそーゆうのもアリかなぁと。

あまる #- | URL
2012/05/02 19:10 | edit

あまるさま

二人の『パクサ』結構好みです。

なんていっても、チョン・ヤギョンパクサ。
以前、BS日テレでやっていたチョンヤギョンパクサを主人公にしたドラマもありましたけど、断然こちらのチョンヤギョンパクサの方が好み。

このイ・サンの時代は制作する側としてはおもしろいんでしょうね。
ちょうど日本の戦国時代のように人気があるのか??

それより、イ・ソンジュン、そんな理由で試験うけなかったのか(爆)
お父上、真面目な息子を持つと苦労するね。

ちびた #D4zl0nFc | URL
2012/05/02 15:16 | edit

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