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第七話 7 もうひとつの奇跡 

様子がおかしい、と思ったのは、ユンシクが射台に戻ってすぐのことだった。
彼は一旦弓を構えたものの、さっと表情を固くし、また腕を下ろしてしまった。

まさか、手を傷めたのか?

ソンジュンは待機席の天幕から出たが、射手以外はそれ以上近づくことができない。もどかしい思いで、射台に立つ彼を見ているしかなかった。

ユンシクはチョン博士と短く言葉を交わすと、また弓を構えた。何かが彼の身に起こっていることは、その顔色でわかった。
万全の状態で勝負に臨めるのならいい。たとえ負けたとしても、悔いは残らない。だがもしそうではなかったら。
敗れた時の悔しさは、計り知れない。
彼の涙は、もう見たくなかった。彼が泣くと、心臓に捻り上げられるような痛みが走る。自分が悪いわけでもないのに、孔子や孟子、天にも許しを請い、どうにかしてくれと拝み伏したいような気分になる。
あんな思いはもうしたくなかった。彼には、キム・ユンシクには、いつも笑っていて欲しかった。

ユンシクが腕を引き、弦を引き絞る。少し離れたソンジュンからも、彼の右手が震えているのがわかった。
息詰まるような間のあと。
彼は、矢を放った。

その瞬間、時が止まったと思った。
空〈くう〉を切って飛んだ矢は、的の中心を見事に射抜いていた。

「10点です!」

書吏の声に、ソンジュンはやっと、それが現実だと知った。
はっ、と押し込めていた息を吐き出し、射台のユンシクを振り返る。彼は矢を射た格好のまま、まだ呆然としていた。

「10点!逆転しました!大逆転です!」

実況係のジャンボクの声とほぼ同時に、儒生たちから怒涛のような歓声が沸き起こった。ユンシクの顔にも次第に、滲むように笑みが広がる。ソンジュンにはそれが泣いているようにも見え、胸が熱くなった。

ユンシクは弓を天に突き上げ、儒生たちの歓声に応えた。何か探しているのか、そのまま伸び上がるようにして、視線を宙にさまよわせている。その目が、ソンジュンを捉えた。思わず笑みがこぼれた。ユンシクも、ぱっと弾けるように笑った。だがその笑顔は、射台にどっと押し寄せた儒生たちの中に埋もれ、あっという間に見えなくなってしまった。

「テムル、テムル」と儒生たちが大合唱しながら、ユンシクの身体を担ぎ上げる。ソンジュンの待つ大太鼓の前まで運ばれてきて、彼等はようやく対面することができた。

「優勝だよ!ぼくたちが、優勝したんだ!」

泣き笑いのような表情で、ユンシクが言った。右手に巻かれた手巾が、元の色もわからないくらい真っ赤に染まっている。ソンジュンは思わず、その手を掴んだ。

「手が……こんな状態で」

連日の猛練習で、確かに皮膚が擦り切れて赤くただれてはいたが、ここまで酷くはなかった。弦ではなく刃物を握りでもしなければ、こんなに出血するはずはない。ふと、ある疑惑がソンジュンの胸をよぎった。
まさか、と言いかけてユンシクを見た。だが、彼は笑っていた。痛みなど、まるで感じていないかのように。

何も言えなかった。
それ以上何か言えば、自分の方がみっともなく泣いてしまいそうだったからだ。
ソンジュンは黙って、彼の肩に手を置いた。頑張った、とか、よくやった、なんて言葉では、とても言い尽くせるものではなかった。

儒生たちが、次々とユンシクの頭を小突く。興奮に沸き立つ彼等にもみくちゃにされながら、ユンシクは笑っていた。幸せそうな笑顔だった。


*   *   *

不思議な奴だ。東斎も西斎も一緒になって、テムルの勝利に沸き立っている。
中二房の中だけじゃない。王が必死になっても遅々として進まない蕩平策とやらを、あいつはいとも簡単に、しかもそうと意図せずにやってのけちまってる。

大物〈テムル〉なんて仇名も、あながち外れてはいないかもしれない、とジェシンは苦笑した。
儒生の一人が、勝利したユンシクの右手を掴んで、高々と上げた。その手が酷く出血していることに気づき、ジェシンは寄りかかっていた天幕の柱から身を起こした。

未だ大騒ぎしている儒生たちの横をすり抜け、射台に残されていたユンシクの弓を取った。
弦が、血で赤く染まっている。軽く捻ると、それはきらりと光った。

かっ、と頭に血が上った。弓を投げ捨て、足音高く射台を降りる。その腕を、正面から掴んで阻む者がいた。ヨンハだった。

「どこへ行くんだ?」
「決まってんだろ」

振りほどいた腕を、再び掴まれる。

「ちょっとは落ち着けよ。王の前で騒ぎを起こす気か?」
「こんな卑怯な細工をされて、黙ってろってのか!」

ジェシンの怒りを他所に、ヨンハはふっと笑った。

「心配するな。お前が行かなくても、奴が叱るさ」

そう言って、西斎の待機席の方を顎で指し示す。その先には、弓を握り締め、ビョンチュンとコボンにゆっくりと歩み寄るインスの姿があった。こちらに背中を向けているのでその表情はわからないが、ビョンチュンとコボンが真っ青な顔をして慌てて逃げ出したので、その形相は窺い知れた。

確かに、自分がやるよりもあの二人には効くだろう。だからといってこの腹立たしさが消えるわけじゃないが。
振り上げた拳を下ろすのは、王の前だからだ。

「あいつら、絶対に許さねぇ」

二人が逃げ去った方に向かい、ジェシンは低く呟いた。


*   *   *


丕闡堂の楼閣で、ソンジュン、ジェシン、ユニら中二房の三人は畏まって並んでいた。
王が順番に振る舞う酒を、手にした盃に恭しく押し頂く。
酒を注ぎ終わると、三人を見渡し、王は微笑んだ。

「蕩平組が大射礼で優勝、か。そなたらは、余よりも大きな仕事をした」

自らそう言って、深く頷く。

「イ・ソンジュン、ムン・ジェシン、キム・ユンシク。そなたらに、余の希望を託そう。どうすれば、党派を超えて心をひとつにすることができるのか……その秘訣を、是非とも教えて欲しいものだ」

そうは思わぬか、と言って、王はジョンムを見た。左議政イ・ジョンムは低く笑うと、言った。

「若い時は、高い理想を夢見るものです。そうでなければ、男と言えましょうか」
「若い時か……。そういうものかな?」

王は意味ありげに微笑むと、再び三人に向き直った。

「息子たちよ。王も父に等しき存在故、そなたらは我が息子も同然だ」

恐れ多うございます、と大司憲ムン・グンスが低頭する。敗れたインスの父であるハ・ウギュは渋面で王の言葉を聞いている。
王は言った。

「彼等が成長し、どの父に似るのか───実に楽しみだ」


*   *   *


その日の晩。
薬房で、ユニはチョン博士に傷の手当を受けていた。
傷口に薬草を当て、包帯を巻いてくれるチョン博士の手つきは丁寧で優しかったが、その表情は、変わらず険しい。

「ここに残ることはできても、女は成均館の学生にはなれない。世の秩序とは、そう甘いものではないのだ。どれだけ願っても努力しても、お前は許されることはない。だからもう……」
「そんな言葉では」

チョン博士の言葉を遮り、ユニは言った。博士の厳しい目を見ても、もう気持ちが揺らぐことはなかった。

「許されない、なんて言葉では、私を諦めさせることはできません。女の身で学問を始めた日から今まで……私は一度も、許すと言われたことがありませんから」

絶対に諦めない。その価値を、今は知ってしまったから。

奇跡をも起こしうる、その価値を。







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2012/03/28 Wed. 23:36 [edit]

category: 第七話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: タイトルなし

ホント羨ましいゾ。
でもコロの想いは最後まで気付かれずに終わるんですよね……このドラマ。
同じ二番手組合でも、告白できただけシヌひょんのがまだ救いがあるのかなァ。

あまる #- | URL
2012/03/31 00:14 | edit

Re: 感動です(T_T)

すーっかり春めいてきましたねー。え?ワタクシの頭が?(^^ゞ
ビョンチュンとコボン、この回は特に感じ悪いせいか、ブサイクさに拍車がかかってますね!
オトコマエな中二房の三人とはえらい違いです。

ピグのお庭にも春が来るといいなぁ……(笑)もー唐辛子畑は飽きたでござるよ……うう。

あまる #- | URL
2012/03/31 00:08 | edit

いい男が二人に思われ、幸せ者だナ~、ユニは。
うらやましいぞ!

にゃん太 #- | URL
2012/03/29 21:49 | edit

感動です(T_T)

小細工も乗り越え、勝ったユニ☆
ホントに《オトコマエ~♪》
ビョンチュン・コボンよりはるかに男らしい~。
《オトコマエ~♪》

今日はぽかぽか陽気な新潟。
ユニの活躍にさわやかな春を感じる今日この頃?です~(^^)v

みずたま #- | URL
2012/03/29 15:48 | edit

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