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第七話 5 最後の機会 

「どうしたんだ、コロの奴。腕が錆びついたか?」

思わぬジェシンの不調を喜んだのは、コボンとビョンチュンである。
弓場の隅では、ウギュが舌打ちしていた。

「あれで紅壁書だと?」
「紅壁書は傷を負っています。だからこそ奴なのでは?」

官軍の指揮官が、勢い込んで言う。ウギュは渋い顔のまま、小さく唸ってジェシンに目を凝らした。

次はカン・ムの番だ。こちらは何事にも動じない彼らしく、相変わらずの正確さで得点を重ねていく。
ジェシンは脇腹に手をあてた。幸い、濃い色の服だったので目立たないが、滲みでてきた血が、手のひらをべっとりと濡らした。
どうにか息を整え、弓を構えた彼はまた、待機席のユンシクを見た。全くの無意識だった。だがそれがまずかった。

(先輩、頑張って!)

ユンシクが両の拳を握り締め、口だけ動かしてそう言ったのがわかった。
途端、例のしゃっくりがジェシンを襲った。そのはずみで、彼はうっかり指を離してしまった。
嘘だろ、とジェシンの顔が凍りつく。
矢は命中するどころか、あらぬ方向へと飛んでいった。

ジェシンが3回目を射るまでもなく、結果は明らかだった。勝者を示す赤札は、掌議組に貼られた。
ウギュがぶるぶる震える手で、人相書きを握り潰す。苛立ちを隠そうともせず、指揮官に向かい声を荒げた。

「この役立たずめ!奴が紅壁書のはずがない。こんな紙切れに頼らず、もっと頭を使ったらどうだ!少しはまともに仕事をしろ!」

決勝戦でのジェシンの失敗は、紅壁書を弓術の達人と信じて疑わない兵曹判書の目をくらますのには好都合だった。言わば、この惨憺たる結果が、彼の命を救ったわけである。
もちろん、当の本人は知らぬことだったが。


闘いの決着は、最後の射手に委ねられた。
弓を手に射台に向かうユンシクが、緊張のためか はあっと深い溜息を漏らす。無理もない。まさか自分の番まで勝負がもつれ込むとは思っていなかったのだ。しかも相手はあのハ・インスである。どう考えても、勝負は最初から見えている。

悔しいが、頭数を揃えるだけで充分、なんて言っていたユンシクの言葉が、冗談ではなくなってしまった。待機席に戻ってきたジェシンは、ユンシクと目を合わせることもできないまま、無言ですれ違った。
「先輩」と声を掛けられ、足が止まる。

「先輩のせいで……ぼくの計画が台無しです」

冷水を浴びせられたように、ジェシンはその場から動けなくなった。だがそんな彼に構わず、ユンシクは続ける。

「ぼくの実力は最高機密なのに、この状況じゃあ公開しなくちゃならない。しょうがないな。そんなつもりはなかったんだけど、ぼくの腕を見せてあげます」

生意気な口振りに、彼独特のちょっとふざけた調子が混じっている。ジェシンがぎこちなく振り返ると、あのくりくりした目が自分を見ていた。
彼は「ぎゅうーっ」と言いながら手にした弓を引くと、ぴんと弾いて、小さく舌を出した。

「ためて、射る!」

でしょ?と笑う。

「心配いりません。来てくれて、ほんとに感謝してます」

これから試合に臨むのは自分なのに、逆にジェシンを励ますようにそんなことを言う。ぺこりと頭を下げて、彼はまた笑った。
ジェシンは何も言えずに、彼に背を向けた。片頬を上げ、はっと息を吐き出す。

「───あれも才能だな。人を妙な気分にさせやがる」

自分自身の不甲斐なさに、そこまで落ち込んでいたとは思いたくなかったが。
ユンシクの笑顔に救われたのは、紛れも無い事実だった。



オトコマエだね。

丕闡堂の柱にもたれて、ヨンハはつくづくそう思った。
射台に向かうユンシクに、会場の視線が一気に集中するのがわかる。特別席の王や大司成、審判役であるチョン博士はもちろんだが、あの厳格なユ博士。
ソンジュンなど、自分が射るときは平然としていたくせに、今は遠目にもわかるほど緊張した顔をしている。
そして宴席のチョソン。鬼気迫るとはまさしくこのことだ。女笠の薄衣が風に揺れるだけで、本人はまるで時が止まったかのようにぴくりとも動かず、ユンシクを凝視している。

キム・ユンシクは女だ。このク・ヨンハの勘がそう言っているのだから間違いない。だがいま、弓を手に会場の注視を一身に集めているあの儒生の凛々しさは男顔負けだ。弓も握れない状態からここまで来ただけでもたいしたものだが、か弱い女がよくもまあ、こんな状況で逃げ出しもせずにいられるものだ。
あのハ・インスにも臆することなく同じ舞台に立ち、じっと的を見据える真摯な眼差しを見ていると、確かにチョソンが惚れるのも頷ける。というより、周囲の者を否応なく惹きつける何かが、ユンシクにはあるのだ。
でなければ、ジェシンは今ここにはいないだろう。そしておそらくは、ヨンハ自身も。


*   *   *


射台に立ったユニは、ふっと息を吐いた。
ついさっきまでうるさく聞こえていた蝉の声が、いつの間にかぴたりと止んでいる。

「これが、決勝最後の対戦となる。ハ・インスとキム・ユンシクが3本ずつ放ち、大射礼の優勝が決まる」

チョン博士の声が、ユニにはまるで義禁府の役人のそれのように聞こえる。

「───最後の機会だ」

博士のその言葉は確かに、ユニに向けたものだった。
勝利を確信しているのか、インスが薄い笑みを浮かべて自分を見ているのはわかっていた。だが、ユニにはもうそのインスの存在すら、たいしたことではなくなっていた。

これが、本当に最後の機会だ。男として、この成均館に残るための。

弓を引き絞った。

「8点です!」

ユニが放った最初の矢に、見守る者たちから溜息が漏れる。
次はインスだ。

「10点です!」

書吏が、高々と旗を上げる。早くも2点の差が開いた。
ユニは目を閉じ、気持ちを落ち着かせようとした。二本目の矢を取る。指が震えているのが、自分でもわかった。
耳元で、きりきりと張り詰める弦の音。

「───8点です!」

弓を降ろしたユニは、そのまま動けなくなった。
ここまでほぼ完璧な点で勝ち進んできたインスである。命中させなければ、勝ち目はないというのに。

インスが、二本目を放った。それは当然のように、的の中心に突き刺さった。
西斎の待機席で、ビョンチュンとコボンが抱き合って大喜びしている。掌議組の勝利は決定したも同然だった。

競技の規則に従い、最後の一本はインスが先に射ることになった。
弓を引き絞るインスの横で、ユニは、すべてが終わったと思った。

だが次の瞬間。
誰一人として予想もしていなかったことが、起こった。

「5点です!」

インスの最後の矢は、的の中心から大きく逸れていた。






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2012/03/22 Thu. 01:11 [edit]

category: 第七話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

おさらいぢゃないのよ~

あまるさんの文章はさら~リと終わるドラマをおいしく調理してあるからワタシのアタマの中にあるTOPIXタンスの引き出しに満足してコレクションされてます。
肉?のついた文章を読めて、幸せですよ~☆
ウィ~、シェーフっ♪

みずたま #- | URL
2012/03/23 11:02 | edit

Re: みずたまさま

BS版は完全版なのかな?アチラのドラマって、放送するときめっさカットされちゃうからなァ(^^ゞ
ドラマのおさらいしつつここ読んだりしちゃ駄目ですって!(笑)
あちこちツッコミ入れられそうでコワイわ~(^^ゞ

あまる #- | URL
2012/03/23 00:36 | edit

拍手コメにコメしたら、ツイッターの様になっちゃった^^;
ちょうど今回の内容が民放録画をおさらいしてた場面でございました。
しかし、糸電話☆☆ウケるんですけど♪
何度見ても、笑ってしまう~
場面的には手に汗握る展開なんですがね・・。(;一_一)

みずたま #- | URL
2012/03/22 09:48 | edit

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