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第七話 1 花の四人衆 

遡ること数刻。紅壁書の疑いをかけられ危うく捕えられるところだったジェシンを救ったのは、ヨンハだった。
喉元に刃物を突きつけられたまま、両脇を抱えられ、引き摺られていくジェシンの前に、彼はまるでそこにいるのがわかっていたかのように ふらりと現れたのだ。

「随分乱暴だなぁ。そいつは“暴れ馬”って呼ばれちゃいるけど、れっきとした成均館の学生だって知ってる?」

干肉を口に咥え、くちゃくちゃと齧りながら、ヨンハは役人たちに向かって言った。
そのふてぶてしい態度に、お前が言うか、とジェシンは思わず悪態をつきそうになった。残念なことに、口を塞がれていたのでそれはできなかったが。

「それを構内で手荒に扱うとは───いい度胸だ」

妙な威圧感が、ヨンハの声音に宿る。役人たちは一瞬怯んだが、指揮官らしき男が彼に向かい、唾を吐きかける勢いで言った。

「王がおられるのだ!不審者は全て取締まりの対象だ!」
「ってことは、官軍か。そりゃあ大変だ。成均館に官軍を送ったなんてことがバレたら、あんたたちの上官は免職になっちゃうんじゃないの?」

に、と笑って、「いいのかな?」と男をからかうように見る。ぐっと押し黙った男の肩にぽんと手を置き、彼は更に言った。

「それにさぁ、目撃者は他にもいるんだよね。───ああ、来た来た」

そこへ、ばたばたと慌ただしく駆け込んできたのは、数人の書吏たちを従えた大司成である。

「ここです、令監〈ヨンガム〉!」

手を振るヨンハを振り向き、大司成は目を剥いた。

「ムン・ジェシン!貴方という人はあぁぁぁ!」

ジェシンを羽交い締めにしていた男たちが、さっと離れて彼を開放した。
こちらに向い、ぱちんと片目を瞑ってみせたヨンハに、ジェシンはこのときばかりは笑みを返すほかなかった。


ジェシンを大急ぎで大射礼会場に送り出してしまうと、大司成はくるりとヨンハを振り返った。

「いやあ、よくやった、よくやった。君がムン・ジェシンを見つけなきゃ、イ・ソンジュンはどうなっていたか……ああ、考えただけでもゾッとします」

ヨンハのお手柄に、大司成は喜色満面である。嬉しさのあまりにか、彼は幾度と無くヨンハの尻を撫で回した。

「実は私も、今そんな気分です」

頬をひくつかせながら、ヨンハは言った。なんだこいつは。そっちの気でもあるのか?

「ところで君は、ムン・ジェシンの居場所がどうしてわかったんです?」

そんなことは、彼の洞察力と日頃の観察力をもってすれば造作も無いことだ。人が彼をして千里眼とも地獄耳とも呼ぶ所以である。ヨンハは指で輪をつくり、片目に当てて覗き込んだ。

「お忘れですか、令監。私は、ク・ヨンハですよ」

と言って、悪戯っぽく笑う。大司成がけむにまかれたような顔でぱちぱちと瞬きしている間に、ヨンハはさっさとその場を退散したのだった。


*   *   *


ヨンハの活躍で、間一髪のところで会場入りしたジェシンは、挨拶がわりにとでも言うのか、早速インスと睨み合っていた。

「意外だな、コロ。お前がイ・ソンジュンと同じ考えだとは」
「バカ言え。俺と同じ考えなのはお前だろ、ハ・インス」

怪訝な顔でジェシンを見たインスに、ジェシンは続けた。

「俺も王の蕩平策はどうかと思ってるんでな。俺なら、身内を殺した老論なんかと、手を組んだりしない」

現王の父である思悼世子は、かつて先王英祖の不興を買い、米櫃に閉じ込められて餓死させられるという悲惨な最期を遂げた。それが、老論一派の策略によるものだということは、現在では周知の事実である。無論、老論の権勢を恐れて声高に言う者は誰もいないが。

「貴様っ!言わせておけば……」

ビョンチュンが身を乗り出すが、ジェシンが投げた鋭い視線に振り上げた拳をすごすごと下ろす。

「おい、テムル」

ユニを振り返り、ジェシンは言った。

「準備はいいか?」

ユニはにっこりと笑い、頷いた。
おい老論、と今度はしかめっ面で隣のソンジュンを見る。

「今日だけは付き合ってやる。むず痒い蕩平ってヤツにな」

ソンジュンはフッと口の端を上げてそれに応えると、改めてインスを真っ直ぐに見返した。

「中二房。───蕩平組、準備完了です」

インスは沈黙したまま、血走った目でソンジュンを睨みつけた。
だがユニは、そんなインスを以前のように恐ろしいとは少しも思わなかった。
隣にソンジュンがいて、コロ先輩がいて。それだけで、こんなにも心強い。彼等がいるから、自分もこの成均館でどうにかやっていけるのだと、ユニは改めて悟ったのだった。


競技開始の太鼓が打ち鳴らされた。
王の放った矢が、会場高くに吊るされたくす玉を割ると、色とりどりの紙吹雪とともに“祝 庚戌年大射礼”の垂れ幕が下がり、風になびいた。会場から歓声と大きな拍手が起こると、王は満足気に微笑んだ。

「選手は待機席へ!」

書吏の声に、儒生たちは列を崩し、皆それぞれに待機席へと向かい始めた。
ユニ、ソンジュン、ジェシンに、後からヨンハが合流し、4人は互いに笑い交わしながら並んで歩いて行く。

そんな彼等の姿を、宴席の妓生たちは皆一様に、とろけそうな表情で追った。

女が引け目を感じるほどの美貌の青年、キム・ユンシクの笑顔の愛らしさは言うに及ばず。
貴公子の中の貴公子、当代一の花婿候補と誰もが認めるイ・ソンジュンの端整な佇まいは、ほんの僅かな仕草一つで、女たちの目を釘付けにする。
暴れ馬と悪評高いムン・ジェシンも、きちんとした格好をすれば流石に育ちの良さは隠せない。
むしろ他の両班の男たちにはない野性的な魅力が一層際立って、妓生たちの一部に彼の熱狂的な崇拝者がいるというのも頷ける男ぶりだ。
そしてこれまた当代一の遊び人と噂されるク・ヨンハ。粋で洒落者の彼は、いつも周囲に華やかな空気を惜しげも無く振りまいている。そこに現れる一瞬で、場の雰囲気をがらりと変えてしまう男なんて、そうはいない。

4人が4人、それぞれに個性的な魅力に溢れていて、よくもこんな美しい男たちが揃ったものだと女たちは皆示し合わせたように溜息を漏らした。

「あの方たちを見て。ああ、なんて麗しいのかしら」

ソムソムがうっとりと呟くと、隣でエンエンが女笠の紐をぎりぎりと引き千切らんばかりにして身を捩った。

「ああもう、どうにかなりそう。見てるだけで失神しそうよ」
「あんた、ほんとによだれ垂らしそうな顔してるわよ」

ソムソムがエンエンをちらりと見て意地悪く言う。周囲の妓生たちからくすくすと笑い声が上がったが、エンエンの耳には入らない。

「完璧よ。完璧だわ。あれこそまさしく花の四人衆よ!花の、四人衆!」

それまで黙っていたチョソンが、ふっと微笑んだ。

「花の四人衆……?」

彼女の目には、眩しく笑うユンシクの姿しか映らない。だが仲間といるときの彼は本当に楽しそうで、それを見つめるチョソンの口元にも知らず、笑みが浮かぶのだった。



「先輩、その弓は?」

待機席で、弓の具合を確かめていたユニは、やけに派手な装飾の弓を手にしているヨンハを見、尋ねた。
ヨンハは、よくぞ訊いてくれたとでも言いたげに弓を掲げ、言った。

「これは、清から仕入れたんだ。この国にたった一つしかない逸品だぞ。いいだろ?」
「ところで、矢はどこに?」

ソンジュンが訊くと、ヨンハは急に渋い顔をした。

「ああ、それがさ。そそっかしい交易商人が弓だけ仕入れて、矢は忘れてきちまったらしい」
「なら、他のを使え」

面倒臭そうに言うジェシンに、「そうはいくか。この服には、この弓がぴったりなんだ」と胸を反らす。
見た目重視のヨンハらしい。よく見ると確かにその弓は、今日の彼が身につけている帯と、色も模様もまるで誂えたように同じだ。ちなみに選手用の前掛けを彼だけつけていないのも、恐らくは彼なりの美意識に著しく反するせいだろう。

「お前にはわからんだろうが、これこそ調和ってやつだよ。ん?」

ぽん、とジェシンの腹を叩く。

「でっ……!」

軽く叩いたつもりが、ジェシンは腹を押さえ、小さく呻いた。その様子に、ヨンハが ふと真顔になる。

「おいコロ、お前……」

ジェシンは脂汗の浮いた顔を上げると、腹の調子が悪いんだ、とぎこちなく笑った。


その頃、兵曹判書ハ・ウギュは密かに席を外し、会場の外で文官に化けた官軍兵たちに内密の指示を出していた。

「奴は傷を負っている。矢を射続けていれば、そのうちボロが出るはずだ。紅壁書と判明したら、その時始末しても遅くはない」

懐に入れていた人相書きを取り出し、忌々しげに広げる。

「奴の弓の腕前は並ではない。本の虫の学生たちとは明らかに射法が違う。弦を引く腕は虎の尾のように伸び、左手は弦のごとくにぴんと張っていた」
「只者ではありません。明らかに、武芸の心得がある者の射法です」

ぐしゃ、と人相書きを握りつぶし、ウギュは呻くように言った。

「何としてでも捕まえる。ただし内密に行え。絶対に紅壁書を王に引き渡してはならん」







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2012/02/29 Wed. 13:04 [edit]

category: 第七話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: あらちゃんさま

トーマとポーの一族はワタクシのバイブルです(笑)

>ちなみに息子に読ませたら「わからん」だと。

でしょうね~(^^ゞウチの子も言いそうだ。なんかこう、存在する世界が違いすぎて読ませようという気にもなりませんが(笑)
そういや今思い出したけど、ポーにもありましたよね。アランの靴紐をエドガーが結んであげるシーン。
こ、こんなところに共通点が!(爆)
ああ~そして図書室の本にラブレターを挟むとゆうシチュエーションはトーマやないですか!!!
ななななんという……(愕然)

あまる #- | URL
2013/02/03 01:02 | edit

あら、まさかモー様の名前をここで目にするとは!

>萩尾望都で育ったワタクシ、ハリー・ポッターのギムナジウム的雰囲気は大好物であります(笑)
もぉあの制服だけでご飯3杯はいけますワ(変態的発言)

まさかモー様の名前をここで目にするとは!
私もトーマやアロイスやギムナジウムのお話はみんな持ってますよ~ちなみに息子に読ませたら「わからん」だと。
私が制服フェチなのもその辺に根っこがあるということか~いや~初めて気がつきました。
あまる様のソンギュンガンを読み、舞い上がり、挙げ句こんなコメントを送るようになった私を、「また生き恥さらしてる」と家族は言います・・・

あらちゃん #- | URL
2013/02/02 00:23 | edit

Re: 私は、ク・ヨンハですよ~☆☆☆きんきら~ら☆

な~ク・ヨンハだぁ~。

これだけですべてを語れる人ってそうはいないですよねぃ。
ちなみに萩尾望都で育ったワタクシ、ハリー・ポッターのギムナジウム的雰囲気は大好物であります(笑)
もぉあの制服だけでご飯3杯はいけますワ(変態的発言)


あまる #- | URL
2012/02/29 16:35 | edit

私は、ク・ヨンハですよ~☆☆☆きんきら~ら☆

>妙な威圧感が、ヨンハの声音に宿る。
じつは、王族?てくらい言葉に服従の呪文びっしりっ。
☆ナ~、ク・ヨンハ☆
みなさん、いいですか~。
ビュ~ン。ヒョイですよ~✿
ウィンガーディアム・レビオーサ↗
byフリットウィックパクサ♪

なんて、同じ学園物ならではの共通点が・・・。^^;
じつは先祖に王族がいらしたのかも?
魔法で飛ぶんじゃないよ~。
血で飛ぶんだよ☆
byキキ

<ドラマ→原作本→あまる作品>という感じで情景におニクがついて読みやすいです。
いつも丁寧な読解ありがとうございます。


みずたま #- | URL
2012/02/29 14:52 | edit

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