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第六話 8 闘いの日 

赤黒い血にまみれた手が、震えながら棚の上を這う。そこに並んだ真鍮の器を探し当てると、ジェシンは蓋を叩き落とし、中に入っている煙草の葉を乱暴に掴んだ。
矢が刺さったままの腹部に葉を押し当て、反対側の手で矢を一気に引き抜く。
どっと吹き出す血と共に、くぐもったうめき声が享官庁の暗がりに響いた。

指の間から溢れ出す血が、みるみるうちに床に広がってゆく。彼が意識を保てたのはそこまでだった。
張り詰めていた糸が断ち切れるように、彼はばたりと床に倒れ込んだ。


*   *   *


宮中、兵曹判書執務室。官軍の指揮官に向かい、ハ・ウギュは眉間に皺を寄せた苦々しい顔つきで手元の書を指し示した。

「紅壁書の人相書きだ。射法と合わせて頭に叩き込め。もし成均館の学生なら、捕えるのは明日しかない」

官軍の指揮官は人相書きを手に取り、注意深く眺めた。紅壁書には何度かしてやられたが、あの弓の腕前は並大抵のものではない。もし成均館にそんな学生がいたら、すぐにわかるだろう。

「成均館は官軍が踏み込めない区域だ。役人の姿で入り込み、密かに捜しだせ。わかったな」
「はっ!」

このところ度々紅壁書の壁書に上がっている“金縢之詞”の文字。
奴を捕らえよと王は命じたが、ウギュには、王がその後、紅壁書をどうするつもりなのかが全く見えない。紅壁書の狙いはおそらく、自分たち老論が大部分を占める現官僚たちの失脚だ。だとすれば、王と紅壁書は目的を同じくする同志と言える。
奴が金縢之詞について何か知っているなら、王との結託を絶対に許してはならない。

「王より先に我々が捕えるのだ。場合によっては───その場で始末しろ」


*   *   *


翌日。
いよいよ大射礼の本番を迎えた成均館は、早朝から大わらわだった。
会場となる丕闡堂には赤や青の天幕がはためき、玉座を中心とした来賓席を鮮やかに彩っている。書吏たちは、ずらりと並んだ長机に、儒生たちの対戦表を少しのずれもなく配って回るのに忙しい。

別の一角では、茶母たちが宴会の準備を着々と進めていた。大司成の監視の下、顔が映るほど磨き上げられた皿や茶器の数々が、所狭しと卓子に並べられていく。

やがて、丕闡堂の門が開いた。
東西に分かれた儒生たちは、それぞれ青紫と浅葱色の競技服に身を包み、長い列を組んで会場入りした。

別の門から姿を現したのは、華やかに着飾った妓生たちである。こちらは、チマをつまんで優雅に歩きながら、儒生たちに意味ありげな視線を投げていく。そのたびに、周囲の儒生たちから雄叫びにも似た歓声が上がった。
先頭を歩くチョソンが、男たちにしきりに愛想を振りまくエンエンやソムソムをたしなめるように一瞥する。彼女たちは肩をすくめ、すぐにチョソンに習ってすました表情を作った。

一方雲従街では、大道芸人の打ち鳴らす賑やかな鉦の音が、市場通りに響き渡っていた。何事かと集まってきた人々に、手にしたチラシをばらまいているのは貰冊房の店主、ファンである。

「さあさあ、めったに行われない成均館の大射礼だ!山奥の婆さんから、宮中の王様まで、手に汗握る成均館の大射礼だよ!」

高らかな口上と共に、ファンが鉦の調子に合わせて身体を揺らす。日頃から娯楽に飢えている人々はそれだけでもう興奮気味だ。歓声を上げ、一緒になって踊りだす者までいた。

「お代は3文!大射礼の生中継が3文ですよ!」

両手を上げて盛り上がる人々の中、やせ細った手が、ばら撒かれたチラシを拾った。大射礼開催の宣伝文を食い入るように見詰める。そこにわが子の近況を知る手掛かりなど何もなかったが、彼女は弓など握らせたことのない娘を思い、表情を曇らせるのだった。


*   *   *


「よい弓術日和だ」

景福宮。成均館への出立の準備が整い、健春門前にずらりと並んだ臣下たちに向かって、王はにこやかに言った。
左議政イ・ジョンムを筆頭に、宮廷の重鎮たちが一斉に頭を垂れる。

「昨夜は大変だったようだな」

紅壁書の矢が、時の左議政の頬を掠めた事件は、昨夜のうちに王の耳にも届いていた。
ジョンムが、さらに低頭する。

「恐れ入ります、陛下」
「恐れ入るのは余の方だ。王が不甲斐ないせいで、失政への批判の矢が臣下に向いてしまった」

大司憲がすかさず言った。

「どうか、そのようなおっしゃりようはおやめください、陛下」

王は小さく微笑むと、「兵判」とハ・ウギュに目を向けた。

「紅壁書を早く捕まえてくれ。これでは左議政に申し訳がたたん」

ウギュにとっては言われるまでもないことだ。王のためというより、左議政のためと言った方がいいかもしれないが。

「この身を賭して王命にお応えいたします」
「ただし」

ウギュの胸の内を見透かしたように、王はさらりと言った。

「今日はよい」
「は?よい、とは……?」
「今日だけは、政の一切を宮中に置いていく。そなたたちも、そのようにするがよい」

今回の大射礼は、老論の官僚たちが反対する中、王が亡き父を偲ぶための行事だと官僚たちの感情に訴える形で開催が決定した。王は、あくまでもその姿勢を崩さぬつもりなのだ。
涼しい顔で輿に乗り込む王を見ながら、一体王は何を企んでいるのかとウギュはますます眉間の皺を深くした。


*   *   *


格子窓から差し込む陽が、横たわるジェシンの頬を照らしている。うっすらと瞼を開いた彼は、意識と同時に戻ってきた痛みに顔を歪ませた。

「く……っ!」

出血はどうにか治まっていたが、少しでも動くと激痛が全身を襲った。

「大射礼は……失格だな……」

よりによってどうしてこんなときにこんなヘマをやらかしたのか。我ながら情けなさ過ぎて笑えるほどだ。
実際、笑っていたかもしれない。痛みと出血のせいで靄がかかったようなジェシンの脳裏に、ユンシクの顔がちらついた。

『ぼくに任せてください。先輩は、頭数だけ揃えてくれれば充分です』

悪いな、テムル。俺には、それすらできそうにない。

『大射礼には……必ず出て下さい。お願いします』

急に真顔になって、頭を下げた。握りしめた手は、傷だらけだった。

『まだ、言ってませんでしたよね。ありがとうございます、先輩』

にっこりと笑った、顔。

「───クソったれ……」

そう吐き捨てて、ジェシンは鉛のようになっていた身体を起こした。転がっていた真鍮の器を引き寄せ、煙草の葉を傷口に押し当てる。服を裂いて腹に巻き、力を振り絞って傷口を縛った。それを終えたときには、体中から脂汗が吹き出していた。

まずは、この血まみれの服をどうにかしなければ。
震える手を棚にかけ、彼は立ち上がった。






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2012/02/24 Fri. 11:36 [edit]

category: 第六話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: コ~ロコロ

いやいや、ご満足いただけたなら嬉しいデス(^^)

でもドラマとは微妙にね~違ってたりするとこもあるんだよね~(小声)
録画したやつは間違い探し用に取っておくとヨイかもです(笑)

あまる #- | URL
2012/02/25 00:15 | edit

Re: コロ殿大捕物帳☆

煙草の葉は止血に効く……のか?ホントに?(^^ゞ
てかフツーあんなテキトーな処置で弓扱ったりユニとじゃれあったり(爆)できんでしょ、って気はするんですが(笑)やっぱ野獣だわ、コロ。

あまる #- | URL
2012/02/25 00:08 | edit

コ~ロコロ

包帯持って手当てをしてあげたい・・・。


いつかまたDVDを見ようかと思っていたが、
ここを読んで満足してしまった。
映像を見なくともちゃんと想像出来てしまう。
録画しておいたものは無駄になるかも?ははは

にゃん太 #- | URL
2012/02/24 14:40 | edit

コロ殿大捕物帳☆

コロ・・・。痛いよ~(>_<)
ファイティンだよ~(^O^)/

タバコの葉・・・。身体に悪そうに見えるが?

みずたま #- | URL
2012/02/24 13:10 | edit

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