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第六話 7 眠れぬ夜 

息をきらして部屋に飛び込んできたコボンが、叫んだ。

「あ、当たった!テムルの奴が、命中させやがった!」

さっ、と顔を強張らせたビョンチュンが、インスを振り返り、繰り返す。

「掌議、命中です」

インスは弓を磨く手を休ませることなく、言った。

「なかなかやるな。だがそれがどうした。私には───お前がいるだろう?」

含みのある表情で、ビョンチュンに視線を投げる。
こういう言い方をするときのインスが、ビョンチュンは一番恐ろしい。敢えて自分は指示を出さず、考えろというのだ。

お前が自分で考えて、行動しろ。私はそれを見ているぞ───。

彼は成均館の掌議だ。立場上、自ら手を汚すことはできない。そういうことは皆、インスの手足と自負する自分がやってきた。それはこれからも同じだ。

ビョンチュンは ははは、と乾いた笑い声を上げた。

「もちろん、おっしゃるとおりです、掌議」

はは、とビョンチュンはもう一度、笑った。コボンもカン・ムも黙っている。しんとした室内に、彼の笑い声は虚しく響いた。


「キム・ユンシクめ……命中させたか」

自室へと戻る道すがら、ビョンチュンはイライラと爪を噛みながら呟いた。コボンが不安げに訊ねる。

「大丈夫なんだろうな、ビョンチュン」
「何がだ」
「あいつらに負けでもしてみろ。お前、掌議に捨てられるぞ」

バシッ、とコボンの顔面に平手を食らわせ、ビョンチュンは噛み付いた。

「負けるわけがあるか!キム・ユンシクのはまぐれ当たりだが、俺は何度も命中させてる!それに、どうせコロがいなきゃ、大射礼にだって出られないんだ。大丈夫だ。問題ない、何も」

すたすたと先を歩くビョンチュンを、コボンが追いかける。先程の平手打ちが思いの外効いたらしい。つうっ、と出てきた鼻血を、彼は慌てて手の甲で拭った。


*   *   *

その晩、牡丹閣の門前に左議政イ・ジョンムを乗せた輿が到着した。

「ようこそお越しくださいました、大監」

数人の妓生を従え、一行を出迎えたチョソンが、静かに頭を下げる。その横には、先に来ていたらしい兵曹判書ハ・ウギュ、大司憲ムン・グンスの姿もあった。
不定期ではあるが、彼ら官僚は多いときは月に数度、こうした会合の場を設けている。王宮の外で一同に会し、彼らが何を話しあっているのかは、民はもちろん、王にさえ知らされることはない。

地面に降ろされた輿から、イ・ジョンムが立ち上がった、そのときだった。
彼の頬を、一本の矢が鋭く掠めた。牡丹閣の門柱に突き刺さった矢には、真紅の結び文。
妓生たちが、一斉に悲鳴を上げる。

「紅壁書だ!」

牡丹閣の門前は、たちまち騒然となった。

「あそこだ!」

月明かりの屋根の上、黒い影が閃いた。ハ・ウギュが叫ぶ。

「なんと不届きな!今すぐ捕らえよ!早く追え!」

兵曹判書の号令一下、官軍が紅壁書の影を追う。だが黒い影はひらりひらりと屋根の上を駆け抜け、彼等を嘲笑うかのように姿を見せては消え、を繰り返す。
ふと、その動きが止まった。
牡丹閣の丁度裏手にある、民家の屋根に身を潜めたときだ。
彼は塀の向う側で、左議政イ・ジョンムに叱責され、低頭する大司憲ムン・グンスの姿を見た。

「大司憲殿の仕事は、私の無事を気遣うことですか。貴方が監察の責務を果たしていれば、このような文書がまかれることはなかったでしょうな」
「お許しを、大監」

老論の長の前で、大司憲ともあろう者が老人のように肩を丸め、小さくなっている。
瓦を掴む紅壁書の手に、力がこもった。

「いたぞ!」

官軍の声に、彼は はっとして身を翻した。
無数の松明の灯りが、彼の動きを照らし出す。
途中、割れた瓦に足を取られ、彼は不覚にも屋根から滑り落ちた。

「こっちだ!」

あっという間に官軍に取り囲まれる紅壁書。だが彼の動きは俊敏だった。次々と襲いかかる官軍兵の槍を難なくかわし、鮮やかな蹴りを繰り出す。一人、また一人と官軍兵が地面に転がった。
一瞬の隙をついて、官軍兵の剣が紅壁書の頬を掠めた。その顔を覆っていた布がぱらりと外れ、ほんの刹那、彼の端整な口元が現れる。

彼は再びさっと布で顔を覆うと、官軍兵の背中を蹴飛ばして素早く屋根に飛び移った。
その背中に向かい、兵の一人が弓を構える。
放たれた矢は、逃げる紅壁書の横腹に突き刺さった。
よろめく影が、屋根の向うに消える。

「追え!奴は傷を負っている!遠くへは行けないはずだ!」

一斉に走りだし、通りを抜けた官軍兵たちは、地面に広がる赤い血溜まりを見た。
だがその先はもう泮村である。格子を立てた書吏たちが、官軍の行く手を阻んだ。

「ここは成均館のある泮村です。官軍はお引取り願います!」

官軍兵の指揮官は忌々しげに口元を歪めると、「行くぞ!」と吐き捨てるように言い、踵を返した。

その僅か数尺離れた物陰で、血の気を失った紅壁書が、荒い息をつきながら覆面を取り払った。
現れたのは成均館の暴れ馬、ムン・ジェシンの苦痛に歪む顔だった。



「“現朝鮮は老論の世。血に染まりし金縢之詞が真に姿を現すとき、彼らは罪人として裁かれるだろう”───」

ぐしゃ、と壁書を握り潰し、ハ・ウギュは怒りに頬をひくつかせた。

「一体何者だ。恐れ知らずめ」

イ・ジョンムがおもむろに口を開く。

「この世を断罪できると信じる純粋さ。たかだか1本の矢で、世を変えようという幼さ───これは若造の仕業ですな」
「大監、何を悠長な」
「加えてこの文才。成均館の学生に違いありません」

ジョンムの目に、険しい光が宿っている。傍らに控えるムン・グンスが息を呑んだ。
ウギュが眉根を寄せ、問い返す。

「成均館の学生ですと?」

ジョンムはウギュを一瞥し、言った。

「明日の大射礼で、奴を捕らえてください、兵判。これは、私があなたに与える最後の機会です」

ウギュはジョンムの冷ややかな視線から逃れようと横を向くと、深く息を吐き出した。



その頃、成均館ではユ博士が書吏たちを集め、注意を促していた。

「紅壁書が今夜も泮村に逃げ込んだらしい。学生に動揺がないように気をつけてくれ」

頷く書吏たちの顔は、どこか不安気だ。

「なんでも、矢を射られて、かなり出血してるとか」
「紅壁書が怪我を?」

官僚たちの不正を、見事な文章で糾弾してみせる紅壁書に、痛快な思いを抱いているのは彼等も同じだ。まるで身内を心配するように表情を曇らせる。
とそのとき、背後の草むらで どさりと物音がし、彼らは振り返った。
灯籠を掲げ、物音のしたあたりを伺うが、そこには誰もいなかった。

「ネズミだけじゃなく、今夜は泥棒猫まで出たかな」

書吏の一人が肩をすくめる。彼等はユ博士とともに、就寝前の点呼へと向かった。



「ムン・ジェシンは今夜も外泊か?」

東斎の中二房の前で、ユ博士はまたか、と眉を潜めた。目の前に並んで立つソンジュンとユ二の顔は深刻だ。

「ムン・ジェシン、5点減点」
「5点減点!」

書吏が帳面に書き記す。
するりと、ビョンチュンがユ博士の横に来て、言った。

「質問があります」
「何だ」
「もし明朝になってもコロが戻らない場合、どうなりますか」

一呼吸置いて、ユ博士は答えた。

「大射礼は部屋ごとの参加が規則だ。同室生の一人でも欠ければ、参加は認められない。ムン・ジェシンが戻らなければ、イ・ソンジュン、キム・ユンシク、君等二人も失格となる」

ひひひ、とビョンチュンとコボンがにやつく。
すかさず、ユニは言った。

「戻ります」

ソンジュンと、離れて並ぶヨンハがユニの横顔を見る。

「ムン・ジェシン先輩は必ず戻ります。ぼくは待ちます。ですから、時間をください」

夜は更けてゆく。刻々と。そしてやがて朝が来る。だがユニは信じていた。
約束なんてしてない。でも、コロ先輩は必ず戻ってくる───。


「時間なんてないんですよ!」

バン、と両手を机の上に叩きつけ、大司成が叫んだ。

「座して暴れ馬を待つのですか?今すぐ泮村の酒場に探しに行くか、でなければ、イ・ソンジュンとキム・ユンシクを別の組に入れなさい!」

大司成の勢いに、ぐらぐらと筆掛けが揺れているのを気にしながら、「しかし……」とユ博士が言葉を濁らせる。

「左議政様もお越しになるんですよ!ご子息が失格なんて、格好がつかないじゃありませんか!」
「ですが、それが原則です」

そう答えるユ博士の表情にも、苦渋の色がありありと浮かんでいるのだが、自分のことで手一杯の大司成には、それに気づく余裕がない。
「どうしてそんなに冷たいんですか!」と彼は太った身体を捩らせた。

「考えてもみてください。二人共、何十日も懸命に弓の練習をしてきたんです。その努力を、無にするつもりですか!」

珍しく教育者的な台詞を吐いた大司成は、助けを求めるようにヤギョンを見た。

「チョン博士の意見は?どうお考えですか?」

それまで微動だにせずに二人のやりとりを聞いていたヤギョンは、静かに口を開いた。

「大射礼の開始までは、まだ時間があります。───待ちましょう」

ああもう、と大司成は頭を抱えた。

「まったく、どいつもこいつも頭の堅い……」

大司成の大きな溜息が、正録庁に響いた。


*   *   *

小さな虫の音が、中二房の室内にひっそりと聞こえている。
扉の隙間から、生ぬるい空気とともにするりと滑りこんできた不安は、ユニの胸で次第に大きくなり、彼女を眠らせようとしなかった。

「もう寝たらどうだ」

ユニと同じく、横になったままじっと天井を見つめていたソンジュンが ぽつりと言った。

「……確かに、コロ先輩は成均館には合わない人だ。無礼で、規則も守らないし」

そんな悪口、聞きたくない。
ソンジュンに背を向けたユニだったが、彼は続けた。

「だが、誰かが懸命に努力した時間を踏みにじるような、無責任な人じゃない」

ユニは、主のいない枕と布団を見つめた。
そう、みんな知ってる。コロ先輩がほんとはどんな人かってことくらい。だから───

「だから、心配なんだ……」








***************************************
あまるですどうもこんにちわ。

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地下といっても別にエロへの魅惑の扉ではありませんので、一瞬期待した方はごめんなさい(^^ゞ
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2012/02/17 Fri. 03:49 [edit]

category: 第六話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: コロ~

>ソンジュン、なんだかんだ言って
>コロ先輩のこと、信頼しているようだし・・・。

一回落としといて、上げる!っていうのがソンジュンの常套手段のようですな。(笑)
ユニに対しても多々そういう台詞が見受けられます。
まったく素直じゃないんだから~でもそこが愛しい(´∀`*)ポッ

コロたんは純粋すぎて心配になります。彼が傷つくのはもう見たくないわ~。
お願いだからどっかで幸せになってくれ!←人まかせ?

あまる #- | URL
2012/02/17 16:07 | edit

コロ~

おばちゃん(私)は直向な君が好きだぁぁぁ!
純粋、一途。
若者の特権だ。
あの頃が懐かしい。・・・なんてな!

>「だから、心配なんだ……」
女の子だね~、ユニ。

ソンジュン、なんだかんだ言って
コロ先輩のこと、信頼しているようだし・・・。

このトライアングルは、いいよね~!

にゃん太 #- | URL
2012/02/17 15:23 | edit

Re: 痛たたっ・・・★

満身創痍でしかも不死身……(^^ゞ
タバコの葉っぱだけであれだけの怪我治しちゃうって何者ですか?!
なんか矢刺さったまんま大暴れしてるし。(本文ではカットしちゃいましたが(^^ゞ)
私のヘタッピ文章だと伝わりにくいですが、コロのアクションシーンはホントカッコいいんですよ~
ドラマでもぜしぜしご堪能ください。

BF1、お越しいただいてありがとうです(^^)
早速闇鍋的様相を呈しつつありますが、あちらでもよろしく~
アメブロ、思ってたより使い易いかもしんない。

あまる #- | URL
2012/02/17 13:46 | edit

痛たたっ・・・★

痛いシーンのオンパレード★うっ。いたた・・。

コロはいつも満身創痍で生傷絶えないご仁。
リポ○タンDのCMのようにファイト~!(ファイティン?)一発!
ビョンチュンにも同じくらいの度胸があったら・・。(涙)

BF1にお邪魔しました。おかえりなさい~!(^^)!

みずたま #- | URL
2012/02/17 10:36 | edit

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