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第六話 6 想い 

「お怪我の具合は、いかがですか?」

大成殿の前庭で、ソンジュンの半歩後を歩きながら、ヒョウンが訊ねる。ソンジュンはぴたりと足を止め、彼女を振り返った。

「どうして、怪我のことを?」

えっ?とヒョウンは一瞬、動揺したように目を泳がせたが、すぐに微笑んで言った。

「それは……その、兄に聞いたんです。兄も、とても心配しておりました。私に、成均館へ来いと言うものですから、仕方なく……」
「掌議が?」
「はい」

ソンジュンは眉を潜めた。新榜礼の密命にしても、今回のことにしても、彼は一体何を考えてる?
まさか気に入らない人間を陥れるために、家族まで利用するようなことは、いくらあの掌議でもしないだろうが───。
企みが読めないだけに不気味だった。

「もう、ここにいらしてはいけません」
「え?」
「成均館の女人禁制は国法です。両班のご息女が法を犯しては、民の模範となることはできません。───では」

慇懃な態度をあくまでも崩さず、ソンジュンは一礼し、踵を返した。涙に湿った声が、その背を追いかける。

「わかりました。貴方がそうおっしゃるなら、もうここへは参りません。ですから次は、ソンジュン様がいらしてください。……私に会いに」

濡れた瞳が、ソンジュンを見つめて微笑んだ。彼は少し困ってしまった。こういうとき、君子は女人に対してどう振る舞うべきなのだろう。
そんなことを彼に教えてくれる書物はなかった。ソンジュンはただ困惑して、笑みともつかぬ曖昧な表情を口元に浮かべるしかなかった。


*   *   *

的に描かれた獅子の顔に、鋭い音とともに矢が突き刺さった。
昌徳宮の弓場。今日は風もなく、弓を射るにはいい日和だ。王正祖は満足気に口の端を上げると、傍らに控えるチェ・ジェゴンを顧みた。

「これなら明日、恥をかくこともあるまい?」

王はそう言ったが、ジェゴンは彼が、弓術の天才であることを知っている。自ら壮勇営という王直属の大兵団を指揮する王だ。少々年をとったからといって、日々の鍛錬を怠るはずはない。
若い頃と違い、近年の王はそうやって自身を凡庸に見せることで己を守っている。その姿が痛々しく、ジェゴンは深く低頭した。

「長年の悲願が、一つ叶えられるのです。明日を境に、これからすべてが成就していくことにございましょう」

王は的の方へと視線を投げた。今にも獲物を食らわんと口を開けた獅子の顔の中心に、すっくと突き立つ一矢。
己の手を離れた矢の行方を、最後まで見届けるべきだった。王として、いや、共に同じ夢を追った友として。

「これは、余のために若くして命を落とした、我が古き友の悲願でもあるのだ」
「成均館の、キム・スンホン博士のことにございますか」

王は、科挙のときに見た少年の美しい、だが理知的な眼差しを思い返した。

「キム・ユンシクといったか……。余はあの者に大きな借りがある。それを、いかに返せばよいものか……」

矢を取り、再び獅子に向かって弓を構える。きりきりと限界まで引き絞って、王は指を離した───。


*   *   *

夕食後、いつものように丕闡堂へと向かっていたユニは、入り口でチョン博士に出くわした。
その険しい顔に向かい、深く一礼する。背負っていた矢筒の中の矢が、背中でガランと音をたてた。
チョン博士はあたりを伺うように視線を泳がせると、低く言った。

「……いよいよ明日だ。優勝すると約束したな」
「ちゃんと覚えています」

ユニが言うと、チョン博士はにわかに強い声音で「まだ的に命中もしていないのにか?」と言った。

「今なら間に合う。己の罪を反省し、黙ってここを去るなら、お前と家族の命は助けよう」

以前の自分なら、チョン博士のくれたその逃げ道を喜んで選んだだろう。けれど今のユニには、迷うことすらなかった。どうせこの成均館を出ていかねばならないのなら、後悔しない方を選ぶ。全力でぶつかって、それでも駄目なら、きっと諦めもつく。

「今やっと、弓を構えたところなんです。矢を全て射るまでは、的から逃げるつもりはありません」

頭を下げ、ユニは通用門を跨いだ。
ほんとにイ・ソンジュンかぶれみたい。
ちらりと、そんなことを思った。



ゆらゆらと燃える篝火の向うに、赤い的が見える。

『大切なのは呼吸だ。矢を飛ばすのは弓だと思うか?』

胸の中に空気を満たし、弓を構える。ゆっくりと吐き出しながら、弦を引いて、止める。

『“ためる”んだよ。ギリギリまで待って、弓を引き絞るんだ』

ソンジュンとジェシンの声が、まるでユニの耳元で囁いているかのように、はっきりと聞こえる。
腕が震えそうになるのを堪え、指を離した。

タンッ、と音を立てて刺さった矢は、相変わらず的の中心をかすりもしない。
二本目、三本目と繰り返すうちに、惜しい位置に当たるようにはなってきた。だが。
相手はあの掌議である。命中させなければ、優勝は絶対に無理だ。

「最後の一本……」

矢を全て射終えるまでは、逃げない。そう誓った。
でも、その最後の一本がもし駄目なら?

天に祈るような気持ちで、矢をあて、きりりと弓を引き絞った。

───当たれ!

ユニの指を離れた矢が、僅かな弧を描いて的に向かい飛んでゆく。ユニはその先に目を凝らした。
矢は、少しもぶれることなく、すとんと的の中心に突き刺さった。

今までの苦労がまるで嘘のように、呆気無く。

「……あ」

もう一度、篝火の向うに目を凝らす。ユニが放った矢は確かに、的の心をしっかりと捉えていた。

やった……!

嬉しさが、一呼吸ほど遅れてユニの胸で弾けた。思わず大きな声を上げそうになって、手で口元を覆った。
それでも堪え切れずに、足が勝手にピョンピョンと飛び跳ねてしまう。

練習を始めた頃は、弓なんて見るのも嫌だった。だが今は、共に苦労した同志のように愛しい。ユニはすっかりすり切れてしまった握りの部分を見つめ、ぎゅっと胸に抱き締めた。

伝えなきゃ。命中したって。とうとうやったよって。それから……。

ふと、気配を感じて視線を上げる。そこに、たった今彼女が思い浮かべた顔───イ・ソンジュンその人が立っていた。
ユニは夢中で、的を指差した。

「見た?見ただろ?ほら、あれ!命中したんだ、ぼくが……ぼくが、命中させたんだ!」
「できて当然だ」

はしゃぐユニとは対照的に、ソンジュンはさらりと言った。

「……知ってたってこと?ぼくがやり遂げるって」

ソンジュンはユニを一瞥すると、片眉を上げた。

「ああ。君に手取り足取り教えたのはこの僕だ。できないはずがないだろう」

ぽかんと口を開けたユニに、ソンジュンは続ける。

「都で一番の巨擘を捕まえ、成均館の学生にした僕だ。忘れたのか?芸をする───クマめ」

そう言ってユニを見下ろす彼の顔は、相変わらず小憎らしい。
ユニは呆れて、息を吐き出した。まったく、どこまで自信家なんだか。いつだって自分が一番偉いんだから。

「やっぱりね。“佳郎”なんて柄じゃない。君には、”ワン殿”の方がぴったりだ」

ちょっとくらい褒めてくれたって、とユニは口を尖らせ、ソンジュンに背を向けた。明日はいよいよ本番だ。今夜は早めに寝てしまおう───。

「頑張ったな」

───え?

ぴた、と足を止め、ユニは振り返った。そこには、的をじっと見詰めるソンジュンの横顔があった。

「よくやった。偉いぞ、キム・ユンシク」

彼はそう言って、ユニを見た。そして、溢れるように笑った。
それは、ユニが初めて見る、ソンジュンの笑顔だった。

イ・ソンジュンが笑ってる。あの、いつも冷静で無表情でクソ真面目で馬鹿みたいに頑固で、人を怒らせることしか言わない、イ・ソンジュンが。

ユニは自分の目が信じられずにぼうっとしていたが、彼の笑顔が優しいので、つられて微笑まずにはいられなかった。
それまで肩にずっしりとのしかかっていた疲れが、その瞬間、何処かへ消えてしまった。
ソンジュンが笑って、よくやったと褒めてくれた。たった、それだけで。

ユニはようやっと自覚した。
ソンジュンが芙蓉花といるのを見たとき、どうして胸が疼いたのか。
彼をカランと呼ぶことが、何となく面白くなかったのはなぜなのか。

好きだったのだ。彼を。

たぶん、もうずっと前から惹かれていた。
クソ真面目で融通のきかない、だけど人一倍努力家で、真っ直ぐで、純粋なイ・ソンジュンその人に。

もっと笑ってくれるといい。
そう思うのに、ソンジュンの笑顔が眩しくて、ずっと見ていることができない。
俯きがちに微笑みながら、ユニは、虫の音よりも高く響く自分の心臓の音を、聞いていた。





**************************************************
あまるですどうもこんにちわ。

すいません。ワタクシ嘘つきました(^^ゞすぐアップするとか言っときながらこの体たらくです。
この回のソンジュンはどんだけオレ様よ、って感じがたまらんです。しかもユニがぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでる背後で、うす~く笑ってる顔がなんともイヤラシく、激しくツボでした(爆)

と、こんなところでいつも何ですが、拍手コメくださった ち●●さま(なんか伏字にすると妙なことになりましたが他意はありません(^^ゞ)
コメありがとうこざいます(^^)体調の方もお気遣いありがとうです。皆さんの愛するドラマを、なんか変態的に書いてるだけのワタクシの文章を読んでくださり、感想までいただけることは無上の喜びです。
番外編の続きも、ちんたらペースではありますが書いていこうと思ってますので、これからもお気軽に遊びにいらしてくださいね~(^^)



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2012/02/13 Mon. 18:41 [edit]

category: 第六話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: ヒョウン~

> ここを読んで、以前より彼女が好きになりました。

まぢっスか?!(喜)ワタシも彼女にはユニっこと同じくらいの愛情を注いで書いてますので(いやホントに)そう言っていただけると嬉しいです~(^^)

更新に関してはいつも遅筆で申し訳ないばかりですが、温かいお言葉ありがとうです。(T_T)ダァー
毎日更新!なんて有言実行してるブロガーさんとか見るとほんとスゴイって思いますが、ワタクシには逆立ちしてもムリなのでお言葉に甘えて(コラ)自分のペースで書いていきます。見捨てられない程度に………(^^ゞ

あまる #- | URL
2012/02/15 01:31 | edit

Re: ひゃ~(+o+)

> 王様が、《イ・サン様》同一人物に感じないのはワタシだけ?

イ・ソジン版の王様は未見なのですが、やっぱかなり違いますかね~?
アチラはもちょっと猛々しいというか、武人っぽいカンジなのかちら。単なるイメージですが。
ブログ始めてから、正祖さんのことちょこちょこ調べたりしてるんですが、知れば知る程魅力的な人ですね。(妄想膨らむ素材とも言う……(笑)
本国で一番人気の王様というのも頷けますわ。

温かいお言葉胸に沁みます(´Д⊂グスン
とはいえ皆様に見捨てられない程度のペースで(^^ゞ書いてきますんで、今後共よろしくです

あまる #- | URL
2012/02/15 01:14 | edit

ヒョウン~

あなたのハートマークのお目目が忘れられません。

あまるさん
ここを読んで、以前より彼女が好きになりました。
影響力、あります。

それと、
私たち読者は、のんびり待っているからね!
ワクワクドキドキ市ながら待つのも、
これもまた醍醐味って言うものさ~v-290

にゃん太 #- | URL
2012/02/14 14:57 | edit

ひゃ~(+o+)

〉企みが読めないだけに不気味だった。
アナタの動きも・・・。ヒョウンちゃん(;一_一)

今回のお二人(まぁ現在の性別は置いといて)青春だね~☆
王様が、《イ・サン様》同一人物に感じないのはワタシだけ?
あっちの王様、こっちの王様~( ..)φメモメモ
あまるさんペースでつれずれなるままにかきつづつておくんなさいまし~( ^^) _U~~
焦りは禁物☆

みずたま #- | URL
2012/02/13 22:21 | edit

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