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第六話 4 理由 

「庠儒キム・ユンシクには、優れた才能がありますな」

丕闡堂を望む楼閣で、ユ・チャンイク博士が言った。その視線の先には、矢が無数に刺さり、まるで縦にした剣山のようになっている的がある。
すべて、今射台で弓を構えているユ二が射たものだ。

だがそれだけの数の矢を放っても、未だ的の中央を捉えたものはない。
ユ博士と並んで弓場を見下ろしながら、ヤギョンは深く息を吐き出した。

「弓を引くだけで5日です。命中するには、いったいどれだけかかることやら」
「しかし、頑張っているじゃないですか。人に何歩も遅れている情けない自分を、それでも諦めずにいる。これ以上の才能はありません」

その才能は父親から譲り受けたものか、とヤギョンはまた、ひたむきに矢を射続けるユニに視線を投げた。
あの娘は、自分の性別すらも諦めていない。か弱い女の身で、何の後ろ盾も持たず、世間や道理に闘いを挑んでいる。自らの命を危険に晒してまで。
だが彼女はれっきとした女人だ。そんな秘密が、いつまでも隠し通せるものではない。現に、疑いを抱いている儒生もいる。

このまま、己の情熱に押されるままに険しい道を歩もうしているあの娘を、ただこうして見守っていていいものか、ヤギョンは悩んでいた。
これはまさしく、亡き師匠が弟子に課した最後の課題なのだ。道半ばにして倒れた己の代わりに、この難問を解けという。

だが、正しい答えなどあるのだろうか?師匠の残した家族の身と、あの娘の才能、その両方を殺さずに済む方法を、自分は見つけることができるのか。いったいこの自分に、何ができる───?

また一つ、ユニの放った矢が空〈くう〉を切る。
中心を捉えることはなくとも、その軌跡はただ真っ直ぐで、伸びやかだ。
少なくとも、ユニが放つあの輝きをこの手で失わせることは、間違っている。どんな理由があっても。
あの娘の師として、そして、あの娘の父に恩ある者として。
そうでしょう師匠、とヤギョンは胸に残る師の面影に語りかけた。


*   *   *

ジェシンは腹を立てていた。
何に、と問われるとよくわからない。別に今に限ったことではなく、いつもこんな風に何かに腹を立てていたような気もするが、特にそれが最近、顕著になっているような気もする。
あいつを見ていると。

「情けねぇな」

丕闡堂で、まるで何かに取り憑かれでもしたように的に向かうユンシクに、ジェシンは言った。

先輩、とこちらに顔を向けたユンシクの表情には、明らかに疲労の色が滲んでいる。これだけ昼夜を問わず打ち込んでいれば、疲れるはずだ。身体はもちろん、心も。
ジェシンにも昔、覚えがある。何度やっても命中には程遠い自分の弓に、嫌気が差してくるのだ。

「───バカなやつ」

一人でこんな無理させやがって。あの老論の野郎はいったい何をやってるんだ。
そんな腹立たしさを、ジェシンは目の前のユンシクにぶつけた。

「牛に弓を持たせた方が、お前より上手くやるだろうな」
「そんなぁ」

唇を尖らすユンシクを見下ろし、ジェシンは妙な気分になった。
なんでこいつに構うのか、自分でもよくわからない。
見ていて腹立たしくなるくらいなら、放っておけばいいのに、気がつくと目で追っている自分がいる。

今朝だってそうだ。運動すればそれだけ腹も減る。食堂で、朝っぱらからがっついていたユンシクの横に、持っていた林檎を放った。通りすがりに、何気なくやったつもりだったが、目ざといヨンハがびっくりした表情でこっちを見ていたのを知っている。
自分でもそう思うのだから、客観的に見ても相当に、ムン・ジェシンらしくない行動なのだ。おそらく。

こいつがあんまり鈍くさいからだ。ジェシンはそう結論づけた。
自分と同じ部屋から死人を出すのは、誰だっていい気はしない。

「お前みたいな鈍いやつにつける薬は一つだけだ」
「……何ですか?」

ジェシンは はっ、と息を吐いて笑うと、いきなり腰を屈め、ユンシクの脚を抱えて肩に担ぎ上げた。

「わわっ!ちょっ……先輩!」

肩の上で苦しげな声を漏らすユンシクに構わず、ジェシンはずかずかと丕闡堂を横切っていった。
弓の練習に来ていた儒生たちは皆、荷物のように運び出されるユンシクを呆気に取られて見送った。

東斎の裏手まで来てから、ジェシンはようやくユンシクを降ろした。
来る途中、食堂からくすねてきた小振りの瓶を、平らな石の上に置く。そしてユンシクの右手を掴むと、無理矢理その中に突っ込んだ。

「いっ……!」

綺麗な顔がたちまち歪んだ。そりゃあ滲みるだろう。あれだけやっていれば、手のひらの状態なんて見なくてもわかる。

「我慢しろ。酒が薬になる」

これでは、折角作ってやった弓懸も意味がない。
苦痛に歪むユンシクの横顔を見ながら、ジェシンは心の中で舌打ちした。

「“ためる”んだよ」

唐突な言葉に、ユンシクが「え?」と顔を上げる。

「ギリギリまで矢を放さず、最後まで弦を引ききるまで待つ。それが"ためる"ってことだ」
「ためる……」
「この手じゃ無理だ。命中するわけがない」

ジェシンが手を離すと、ユンシクは酒に浸していた腕を引き上げ、傷だらけの手のひらにじっと目を落とした。

「なぜだ?出世か?それとも自尊心か」
「え?」
「大射礼。優勝して、どうする気だ」

お前がそこまでして得たいものは何だ?
訊ねるジェシンに、ユンシクは微笑んだ。

「見せたいんです。“ぼくにもできる”“信じてもいいんだ”って、自分自身に。この世に一人くらいは、ぼくを信じてくれる人が必要だから」

口にしたのがユンシクでなければ、そんな理由を到底信じはしなかっただろう。
だが不思議なことに、彼の言葉はジェシンの胸にすとんと素直に落ちてきた。
人は欲の塊だ。金とか出世とか力とか、そんなもののために死に物狂いになる者はいても、己の信念のために馬鹿をやらかす奴は少ない。
そんな馬鹿な男を、ジェシンは過去に一人しか知らない。

そうか。だからか、とジェシンは自分の不可解な行動に納得した。
こいつを見ていると思い出すからだ。同じ眼をしていた、あの馬鹿な男を。
ついでに言うなら、あの忌々しい老論の野郎を部屋から追い出せない理由も、多分同じだ。

「……イ・ソンジュンかぶれか。口が達者になったな」

酒で濡れた指をピン、とユンシクの顔の前で弾く。くしゃっと鼻に皺を寄せた彼は笑って、握った拳を突き出した。

「これは、先輩に習いました。大射礼に出ないと、後悔しますよ」
「あぁ?」
「……もしかして、優勝する自信がないとか?」

悪戯っぽい上目遣いが、ジェシンを見上げる。

「心配はいりません。ぼくに任せてください。先輩は頭数だけ揃えてくれれば、それで充分です」

生意気言いやがって、とジェシンは笑った。ユンシクも笑う。ふと、その笑みを収めて、ユンシクは言った。

「大射礼には……必ず出てください。お願いします」

彼の眼は真剣だった。ジェシンが返す言葉を失うほど。
頭を下げ、踵を返す。
そうだ、と言って、彼は振り返った。

「まだ言ってませんでしたよね。……これ」

親指から弓懸を外し、顔の横で振った。

「それから、林檎の差し入れも。ありがとうございます、先輩」

にこっ、と笑って、ユンシクはまた頭を下げた。
戻っていく、彼の後ろ姿。

「───ヒック」

いきなり出たしゃっくりが、ジェシンを現実に引き戻した。彼はそこで初めて、自分が束の間、ぼうっとしていたことに気付いた。

なんでだ?

ジェシンの戸惑いを他所に、しゃっくりは止まらない。というか、これはいつにも増して酷い。

訳のわからない自分のそんな反応を、ヨンハが物陰から面白そうに眺めていたことなど、知る由もないジェシンだった。






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2012/02/02 Thu. 10:32 [edit]

category: 第六話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: タイトルなし

> ちびたさま

ワタシもあのシーンは倒れそうになりました(笑)

コロたんはナニゲにユニっこと萌え度の高いスキンシップしてますよね~。
おんぶも2回もしてるし。

ソンジュンは、ってヒョウンをお姫様だっこしてる場合じゃねーだろぉぃ(^^ゞ

あまる #- | URL
2012/07/16 00:49 | edit

このコロたんが、ユニっこを担ぎあげるシーン、一番好きかも(爆!)
もーねー!あの担ぎあげかたといい後姿といい、ユニっこのじたばた具合といい、これ以上ない!って言う位理想的ですわ!(ばか)

なんていうか、あの乱暴な優しさって二番手組合のオッパとしては出来過ぎですわね。
大抵の女ならこの一かつぎで惚れるのにねー
このシーン何度見なおしたことか。
そして、あまるさんのサイトでさらに妄想は広がる。
ああー ええもん見せて貰ったわー(爆)

ちびた #- | URL
2012/07/15 23:47 | edit

Re: でたなぁ~

カラダは心より正直……いやん(´∀`*)ポッ

あまる #- | URL
2012/02/04 01:32 | edit

Re: 「・・・・ヒック。」

雪国からコメありがとうです(^^)
ここんとこホント寒いですねぇ~。九州人のワタクシは雪が降るとテンション↑ですが、雪かきとか大変なんだろうなぁ。


コロは野獣ですもの~(笑)
たまたまユニの入浴シーンに居合わせたのも、もしや動物的カンのなせる技?おそるべし……

あまる #- | URL
2012/02/04 01:31 | edit

でたなぁ~

やっと身体が反応し始めたか?

にゃん太 #- | URL
2012/02/03 21:26 | edit

「・・・・ヒック。」

更新、感謝です☆
雪国からコメを飛ばします~✿✿✿~!(^^)!

コロといえば、しゃっくり・・・。
ここで、本能(動物的カンともいう。)で深層心理に《もしや・・・?》が芽生えた?❤
ホント奥の深~いご仁でござるよ。ニンニン☚


みずたま #- | URL
2012/02/02 13:24 | edit

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