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第六話 3 百日紅 

「何すんだ!降ろせ!降せってば!」

成均館の裏手にある小高い山。その森の中で、ユニは右腕を吊られた状態で木にぶら下がっていた。
まるで肉屋の店先に並ぶ丸裸の鶏にでもなった気分だ。
こちらを見上げているソンジュンに向かい、両脚をバタバタさせる。

「いったい何の真似だよ!」
「弓を持ち、弦を引くには腕力が基本だ。基本ができてなければ───」

今はまだ自由なユニの左手を取り、彼は言った。

「この腕で、矢を飛ばすことはできない」
「だからってこんなの!」

もがけばもがくほど、身体が回転して気持ちが悪くなる。いい加減大人しくしろ、とでも言うように、そのバタつく足をソンジュンががっちりと抱き留めた。

「30回だ。終わったら降ろしてやる」

死ぬ気でやるんだろう?
見下ろすと、ソンジュンの目がそう語っていた。




道のりは長そうだな。

歯を食いしばり、必死で懸垂を続けるユンシクの様子を見守りながら、ソンジュンも覚悟を決めた。
あと二週間足らずで、あの小さな身体を自分で持ち上げることさえできない彼を、的の中心を射抜くところまで持っていかなければならない。
最も効率良く、最も効果的な訓練方法で。
彼は頭の中で、綿密な計画を練り始めた───。


その日から、ソンジュンとユンシクは弓場に現れなくなった。残暑の中、大司成がソンジュンのために差し入れた貴重なかき氷も(大司成本人にとっては)無駄になってしまい、いったい二人は何処で何をしているのかと儒生たちは皆首を傾げた。
恐れ多くもあの掌議にあんな大見得を切ったくせに、と批難する声も上がり、ドヒョンたちをやきもきさせたが、本人たちはそんなことなど知る由もない。
彼らは、早朝まだ日も明けきらぬうちから裏山へと向かい、基礎体力作りに励んでいたのである。

矢を飛ばすには、まず上体を支える足腰を鍛えなければならない。ソンジュンは、ユンシクに山道を走らせることから始めた。木々が鬱蒼と茂っている分、いくらか涼しいとはいえ、季節は夏である。
朝靄の中を、二人は毎日汗まみれになって走り続けた。

それが終わると、今度は呼吸法だ。
見晴らしの良い岩場を選んで、ユンシクを座らせる。

「矢を的に命中させるために、最も大事なのは呼吸だ。弓を引く時の呼吸で、矢が狙い通りに飛ぶかどうかが決まる。だからおろそかにしては……」
「あのさ」

すっく、と立ち上がって、ユンシクが不満気に唇を尖らせた。

「呼吸の仕方なんて、わざわざ教わらなくても生まれたときからやってる。それより、弓を射る練習をさせろよ。もう時間だってそんなにないだろ?」
「まともに字も書けないのに、科挙に合格させろと言うようなものだ。矢を射るのは弓だと思うか?」
「……違うの?」

ソンジュンは人差し指で、ユンシクの胸元を指し示した。

「───人だ。身体ができていなければ、放ったとしても矢は飛ばない」

ユンシクはほとほと呆れたような顔で、ソンジュンを見返した。

「イ・ソンジュン。君ってほんと、頭カタイね」

ユンシクは悪戯っぽく口元を引き上げ、ソンジュンを突き飛ばした。彼は咄嗟にユンシクの腕を掴んで重心を保ったが、その上体が後ろにぐらりと倒れるのを見て、慌てたのは突き飛ばした本人の方だった。
両手でソンジュンを支えながら、きまり悪げに目を泳がせる。

「……腕を、鍛えすぎたかな」

いきなり、ソンジュンは掴んでいたユンシクの腕をぐいっと引っ張った。軽い身体は、あっけなくソンジュンの胸に倒れこんでくる。

そら見ろ、こんな腕力じゃまだまだ───。

と、言ってやりたかったのだが。
ユンシクが、顔を赤くして ぱっと身体を離したので、お互いの間になんとなく妙な空気が流れてしまった。
小さく咳払いして、彼は言った。

「次の訓練だ。握力を鍛えるぞ」


*   *   *

その日、ふらりと丕闡堂にやってきたジェシンは、ユンシクたちの姿が見えないことに眉を潜めた。

あいつら、何処で練習してるんだ?

「大射礼に出る気になったか。いい心掛けだ、コロ」

そう声を掛けてきたのは、ハ・インスである。ビョンチュンら取り巻き3人組を従えて、不敵に笑いつつこちらへと歩いてくる。

「褒めてるのか?大きなお世話だ」

相手にするのさえ煩わしい。ジェシンは手にした林檎を齧りながら、さっさと退散しようとした。
だがインスには、せっかく捕まえた獲物を逃すつもりは毛頭ないらしい。
なおもしつこくジェシンに絡んでくる。

「待ち望んだ勝負だ。お前のせいで失格では悔しいだろう?私も、お前の大事な同室生も」
「俺に構うな。お前の挑発には乗らない」

蛇め、とジェシンは心の中で毒づいた。

「なるほど。ムン・ジェシンは堂々と戦えぬ男のようだな。睨むことしかできないチンピラめ。知ってるか?あの女みたいなキム・ユンシクは、どうやら優勝する気らしいぞ」

フン、と鼻を鳴らす。

「そりゃ大変だ。しっかり練習しとけ。成均館の掌議ともあろうお前が、負けたら恥だろ?女みたいなキム・ユンシクに」

言い捨てて、ジェシンは丕闡堂を出た。思わず立ち止まり、呟く。

「優勝だと?テムルの奴が?」

また大きく出たもんだな、と彼は小さく笑った。

 
*   *   *

文字を追っていた目をふと上げて、ソンジュンは手にした日晷を見た。針の影は、既に次の刻を過ぎている。傍らの木を見上げると、必死の形相は変わらないものの、未だ懸垂運動を続けているユンシクの姿があった。
当初と比べると、ここ数日、かなり体力がついてきたようである。走り込みの際も、途中で音を上げずに最後までついてこれるようになってきた。
それもそのはず、ユンシクは成均館の構内でも移動の際は常に走ることにしたらしく、ユ博士からしょっちゅう注意を受けているのをソンジュンは知っている。

「今日から、丕闡堂で練習だ」

木から降ろしてやりながらソンジュンがそう告げると、ユンシクは珠のように汗の浮かんだ顔を綻ばせた。

もともと勘は良い方だったと見え、弓を持てるようになってからのユンシクの成長は目覚しいものがあった。いきなり離れた的に当てるのは無理だろうと、まずは近くに俵を置き、それを的にして徐々に距離を伸ばして行くという方法をとったのだが、これが、意外にもソンジュンの予想を上回る距離で矢を当ててくる。狙いもまずまず正確だ。

試しに、ここまではちょっと難しいだろう、という距離まで離して、俵を置いた。
本来の的までは、ソンジュンの足でもうほんの数歩というところだ。
射台に立つユンシクに、できるか?と目で訊ねると、はっきりと頷くのが見えた。
弓を構える。
ソンジュンは的の俵から一歩、後退した。それまでは三歩ほど離れるようにしていたのだが、ここは彼を信頼してみることにしたのだ。

ヒュンッ、と風を切って矢が飛んでくる。
その軌跡を追ったソンジュンは思わず目を瞠った。
ユンシクの放った矢は、ソンジュンの足元の俵に、深々と突き刺さっていた。

どうだと言わんばかりに、笑うユンシクが見える。
丕闡堂の入り口で、その様子を見ていたジェシンもまた、ユンシクの成長ぶりに舌を巻いたのだった。


*   *   *

濃い紅色の花をいっぱいにつけた百日紅の枝が、規則正しく揺れている。
しなる枝に結びつけた布を、ユンシクが絶えず引っ張っているためだ。その緑陰に並んで座るソンジュンとユンシクの手には、論語の写本がある。
構内での自習中も、時間を惜しんで鍛錬に励む彼らの姿は、既に成均館の風景の一つとなりつつあった。

日晷を取り出し、そろそろ休憩させるか、と傍らに視線を移したとき。ソンジュンはそこに、写本を開いたまま うとうとと居眠りしているユンシクの姿を見た。

───疲れてるんだな。

今朝も、まだ暗いうちから弓場で一人、練習をしていた。そんな彼を見つめながら、ソンジュンは思ったのだ。
この世の中に、自分以上の負けず嫌いがいるとしたら、それは間違いなく彼だと。

正直なところ、ここまでやれるとは思っていなかった。
こんな華奢な身体で、女人のような可愛らしい顔をしていながら、中身はとんでもなく強情とは。

ソンジュンはユンシクに身を寄せ、膝の上で風に煽られている本をそっと閉じてやった。
とん、と肩に重みを感じた。
気持ちよさそうに目を閉じているユンシクの顔が、すぐ傍にある。枝に結びつけた布を掴んでいた彼の手が、するりと落ちた。

起こすべきかと思い、一瞬、腕を伸ばしかけたが、やめた。
もう少し、このままでいたいと思った。
すやすやと眠るユンシクの長い睫毛が、白い頬にくっきりとした影を落としている。
その寝顔があまりにも安らかで、肩にもたれかかる彼の重みと温もりが、あまりにも心地良くて。

ソンジュンは、目に染み入るほど鮮やかに咲く百日紅の花を見上げた。
この花は、本当に百日咲き続けるわけじゃない。散るそばから、絶えず次々と別の花を咲かせ、季節を跨いでその枝を彩る。だから、傍目にはずっと咲き続けているように見えるのだ。

立派な男子を、花に喩えるのは失礼というものだろう。けれど。
おそらく自分には想像もし得ない苦労をしてきたのだろうユンシクの姿が、ソンジュンにはどうしても重なって見えるのだ。

この、眩しいくらいに咲き誇る百日紅に。








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2012/01/25 Wed. 20:18 [edit]

category: 第六話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: びわさま

>どうして二人が惹かれ合うか、ここがあるからすごい説得力があるんですよね…

ですね~。あんな姿見せられたら、ユニじゃなくてもそら惚れますって!!!
ソンジュンも、ユニと出逢うことで、人間的に物凄く成長できたんだろうなーと……
こういう男女関係はほんと理想ですね(^^)

百日紅のシーンは、短いですけどあまるも大好きなシーンです。
そのうちこのあたりもボチボチ画像貼り貼りしよっかなぁ~。

あまる #- | URL
2013/07/25 00:55 | edit

奇跡へのトレース

ユニがソンジュンが起こした奇跡への道をたどっているここまでの話…
どうして二人が惹かれ合うか、ここがあるからすごい説得力があるんですよね…
ソンジュンは、ユニに出会ってなかったら
フツーに(もしかしたらヒョウンと?!)結婚してただろうけど、
きっと女人を尊敬するってことは一生無かったんだろうなって思います。

このソンジュンと肩にもたれるユニとのシーンは、
まさに一幅の絵ですねえ(♡♡)

びわ #p6hXJKzs | URL
2013/07/24 11:18 | edit

Re: ピロっとしたのがなくなりました

こっから先はほぼコロの独壇場ですね~。萌シーンてんこ盛りです。
まーその分プレッシャーもあるわけですが(笑)
ううっ……頑張ろ(^^ゞ

あまる #- | URL
2012/01/27 01:44 | edit

Re: 更新ありがとうございます

私もこの樹の下のシーン、むっちゃ好きなんスよ~(^^)
ソンジュンがすんごい優しい顔してんですよね。
でもこのあたりってセリフとか一切ないんで、正直書くのはシンドかった(笑)
自分の力量不足を思い知りましたワ(^^ゞ
上手いこと書けなくてごめんなさいです。

あまる #- | URL
2012/01/27 01:41 | edit

Re: お~もいぃ、こんだぁら~☆

だって涙が出ちゃう。女の子だもん♪
つってもソンジュンは猪熊コーチというよりは宗方コーチですな~。
そしてコロは藤堂先輩……ぷぷ。

あまる #- | URL
2012/01/27 01:31 | edit

ピロっとしたのがなくなりました

あまるさん、こんばんわ。
いつぞやのお願いを聞いてくださり、ありがとうございます。

「肩にもたれるユニをみるソンジュン」いいですよねー。

この後の私の萌えシーンは「コロの口からハンカチポロリ」です!!
あの一晩のコロの葛藤がたまりません♪

続きを楽しみにしていますね。

りゅうれん #/ZrAXPAI | URL
2012/01/26 21:56 | edit

更新ありがとうございます

一挙に2話更新、ありがとうございます。

ユニが疲れてうとうとして
ソンジュンにもたれかかる所、
好きなシーンです。
愛おしそうに見ていたものね。i-234

にゃん太 #- | URL
2012/01/26 01:51 | edit

お~もいぃ、こんだぁら~☆

この部分は昔のスポ根モノに近いね(^v^)
がんばれ!ユニ。ファイトだソンジュン☆
Bダッシュな更新感謝感謝☆

みずたま #- | URL
2012/01/25 21:31 | edit

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