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第五話 9 奇跡 

ユニは、中二房で自分の荷物をまとめていた。
指示を待てと言ったチョン博士からは、まだ音沙汰はない。だがもう、待つのはやめようと思った。どうせここを出ていかなければならないのなら、早い方がいい。明日にでもチョン博士と話して、宙ぶらりんな今の状態に片をつけようと思ったのだ。
きれいに畳んだ儒生服を、ユニは手のひらでそっと撫でた。新榜礼の夜、ヨンハがこれを手渡してくれたときの胸の高鳴りを、今でも覚えている。成り行きで入った成均館だが、今のユニは確かに、ここで学ぶことに喜びを感じていた。

だけどそれも、もうおしまい……。

ユニはふと、部屋の窓を見上げた。ほぼ真円に近い月が、煌々と夜空を照らしている。
あの月の下、ソンジュンはまだ、練習を続けているのだろうか?
ここにいる資格すらない私に、奇跡を見せるために。

もっと早く、出ていくべきだったのだ。そうすれば彼だって、あんな怪我はしなかったかもしれない。あんなに練習しなくったって、すんなり大射礼で優勝して───。
ユニは頭を振った。そんなことを今考えたって仕方ない。
明日、自分はここを出ていくのだから。


翌日。朝から降りだした雨は、午後にはかなりの雨足になっていた。
ユニは講義が終わるのを待って正録庁に行ってみたが、そこにチョン博士の姿はなかった。書吏に訊くと、薬房かもしれないがじき戻るはずなので少しお待ちを、と言う。
ユニは近くの机の上にあった本をなんとなくめくってみた。どうやら『大学』の注釈本らしい。誰の手によるものか、ざっと目を通しただけでもあまり見たことのない独創的な解釈があり、興味を惹かれた。

思わず見入っていると、とん、と背中を突かれると同時に、声がした。

「"意を誠にせんと欲する者は"」
「え?」

首を巡らすと、そこに立っていたのはユ博士だった。彼は繰り返した。

「"意を誠にせんと欲する者は"。続きは何だ?」

『大学』経一章のくだりだ。ユニは戸惑いながらも、前を向いたまま答えた。

「先ずその知を致す」
「意味は?」
「考えと意志が真であるためには、まず知識を究めねばならない。”知を致すは物に格るに在り”───格物致知の意を説明する句です」
「───キム・ユンシク」

ユ博士はユニから離れると、彼女が前にしていた机の椅子を引いた。どうやらそこは、ユ博士の席だったらしい。
博士は椅子に腰を下ろし、言った。

「上出来だ」
「え?」
「今月の旬頭殿講〈スンドゥジョンガン〉は、好成績だったぞ。講読はよどみなく、予習も評価された」

少し驚いた。講義は厳格そのもの、採点も辛口と学生たちに恐れられているユ・チャンイク博士が、褒めてくれた?

「ぼくの名をご存知だとは、思いませんでした」
「”新民”についてのお前の見解を読んだ。なかなか興味深かった」

口元が緩むのを抑えるのに苦労した。誰かの書写ではなく、自分自身の解釈を褒められることが、こんなに嬉しいなんて。

「持っていきなさい」

先程、ユニが見入っていた本を示して、ユ博士は言った。

「それは、成均館に入った年に、私の師匠がくれたものだ」
「え……?」

手元に目を落とす。言われて見ると確かに、年季の入った本だ。

「そんな、ぼくには勿体無いです」
「ではお前も、将来賢い弟子に譲るがいい」

ユニは本を手に取ると、大事に胸に抱え込んだ。

「───ありがとうございます、ユ先生」
「おおい、テムル!テムルーッ!」

とそのとき、正録庁の外から口々にユニを呼ぶ声が聞こえてきた。あのダミ声はおそらくドヒョンたちだ。
ユ博士はたちまち眉間に皺を寄せると、言った。

「行って伝えろ。騒々しいのは1点ずつ減点だ」

ユニは深く一礼して、正録庁を出た。

「テムル、急げ!」
「なに?いったいどうしたの?」
「いいから早く!」

外に出るなり、ドヒョンやヘウォンに急かされ、ユニは雨の中を走る羽目になった。ユ博士からもらった本を濡らさないよう、胸元で庇う。
連れてこられたのは、丕闡堂の弓場だった。一体何事か、入り口の門の下には、大勢の儒生たちが鈴なりになっている。

「おい、どいてくれ」

ドヒョンが人ごみを掻き分け、ユニを前に押し出した。ユニは開けた視界の先で、激しい雨に打たれながら弓を射るソンジュンの姿を見た。

「坊ちゃん!」

雨音に混じって、スンドルの悲鳴にも近い声が聞こえた。彼は儒生たちの中にユニの姿を見つけると、今にも泣き出しそうな顔で駆け寄ってきた。

「きれいな学士様!お願いです、坊ちゃんを止めてください!あんな無茶をして病気にでもなったら、私が旦那様に叱られます!ずっと言ってるのに、私の話なんて聞いちゃくれないんですよぅ!」

ユニは抱えていた本をヘウォンに預け、降りしきる雨の中に飛び出した。

「怪我してるってのに、この雨の中何やってるんだ!」

もうかなり長いことそうしていたのだろう。ソンジュンの服は全身ぐっしょりと濡れそぼり、網巾〈マンゴン〉の上に巻きつけた布からも、雫が滴り落ちている。
彼は的からユニに視線を移すと、言った。

「言ったはずだ。奇跡が必要なら、起こしてやると」
「ぼくも言ったはずだ。これ以上ぼくに関わるなって。どうして?なぜそこまでぼくに構うんだよ?」
「───いいか、キム・ユンシク」

ソンジュンの怜悧な顎から、雨の雫がぽたりと落ちる。

「老論の息子として生きるのも、それほど楽しいものじゃない。人は、生まれる家や親を選ぶことはできない。選べるのはたった一つ。今を、どう生きるか───それだけだ。
没落した南人の息子と世間に決めつけられ、不満もあるだろう。だがそうやってこれからもずっと、自分を哀れみながら生きていくつもりか?」

ユニはソンジュンを睨み返した。

「……君に何がわかる」
「そうだ。僕にはわかるはずもない。偏見を作ったのは世間だが、それに負けるか克服するかは、キム・ユンシク、君次第だから」

ソンジュンの目には、一片の迷いもなかった。その目に射すくめられたように、ユニは何も言い返すことが出来なかった。

「人は誰もが、自分の的の前に立っている。矢を全て射るまでは、逃げてはだめだ。何よりも、曲がった矢では、的を射抜くことなど………絶対にできはしない」

ソンジュンは弓を置いた。その場に立ち尽くすユニを残し、射台を降りる。門に連なる儒生たちが、道を開けた。スンドルが、あたふたとその背中を追う。
門を出ようとしたソンジュンの行く手に、ジェシンがいた。二人は無言のまま互いの視線をぶつけ合うと、すれ違った。

降り止まぬ雨は、ユニの頬を濡らし、肩を濡らし、その視界のすべてを覆い尽くす。射台の床板をひっきりなしに叩いていた雨音は、もうユニの耳には聞こえなかった。頭の中に繰り返し響くのはただ、ソンジュンの言葉だけだった。

矢を全て射るまでは───逃げてはいけない。

「おい、テムル」

雨に打たれるまま、動けずにいたユニの背中に、ジェシンが声を掛ける。

「このまま、言われ放題でいる気か?」

黙っていると、腕を掴まれ、無理矢理振り向かされた。

「よく聞け、テムル。今後誰かに後ろ指を指されたら、思いっきり殴れ。拳を、こうして」

そう言って、ジェシンはユニの手をぐっと握り込ませた。その指に、硬い感触があった。
広げて見ると、ユニの親指にはめられていたのは真新しい弓懸だった。少し小振りのそれは、まるであつらえたように、ユニの指にぴったりと収まっていた。

「これ……」
「もう傷めないはずだ」

ジェシンはユニの背中から両手を回し、その手を取った。見えない弓を構えるように、的に向かわせる。

「こうやって……」

右手をゆっくりと後ろに引き、パッ、と離す。

「───タンッ!」

ユニの目が、大きく見開かれた。降りしきる雨の向こうに彼女が見たのは、的の中心を貫く5本の矢だった。

震えが走った。いきなり頬をひっぱたかれたような衝撃だった。

奇跡が。

奇跡が、起きたのだ。


「おい、テムル!」

気付くと、ユニは駆け出していた。





***************************************************

あまるですどうもこんにちわ。
この回で5話、終了です。ここまで読んでくださった皆様、どうもありがとうです(^^)

さてここ3回程、ワタクシには珍しくハイペースな更新だった理由はひとえに、
ユチョがあまりにも男前だったから!これに尽きます(爆)
弓を射るユチョの顔がああっ、あの指先がああっ!はうー!と悶えながら
パチパチ打ってました。目もあてられん…(^^ゞ

ユチョの手。ノドボトケとマツゲの次に好きです。なんかエロくて。







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2012/01/19 Thu. 03:35 [edit]

category: 第五話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: びわさま

ですね~。ここはホント前半で一番感動した場面です。
ソンジュンもコロもステキー(>_<)だし、ユニの熱い思いもビシビシ伝わってきて、青春やぁ~と涙。
ソンジュンの科白、もう反芻し過ぎて覚えちゃったくらいです(笑)

あまる #- | URL
2013/07/23 17:35 | edit

もうもうもう〜

この部分、ステキエピソードばっかりで…PCの前で一人悶える私…w

最初の、ユ博士とのやりとりもすごく好きなんです。
もちろんその後のソンジュンの「奇跡」がユニを動かした直接のエピソードですが、
ユ博士に認められた、っていう思いがなかったら
ユニはここまで前向きにならなかったと思うんですよね〜

そしてそして、ここでもユニを守るジェシン…ユニを優しく包んでるのが…もうもうもう〜!
(ハアハアハア)w

びわ #p6hXJKzs | URL
2013/07/23 10:45 | edit

Re:ちびたさま

ここらあたりは、ドラマの前半部分で一番ソンジュンがかっちょいいとこなので(笑)
つい見過ごしがちですが、ぢつはコロたんもかなり萌えなことやってくれてるんです
よね~(´∀`*)
休憩時間のじゃれあいっぷりといい、コロもホントはスキンシップ好きと見た。
(ヨンハのは嫌がるけど(^^ゞ)

あまる #- | URL
2012/07/16 23:55 | edit

この回はもう悶えポイント全開ですなあ(笑)
このコロたんのバックハグってば、担ぎあげシーン同様に悶絶しましたわ。
さりげなくゆがけを作って渡すところと言い、コロたんてほんとに女の子が苦手なんか??
この渡し方はあまりにも自然すぎて演出が見事すぎて『あんた、プロポーズするアメリカ人か?』と思わず画面につっこみ入れてしまいましたがな。

それとも相手が好みの男(??)だとこーいう優しいBL風の優しさが自然に出るのか??

はうぅう~ 想像が暴走しちゃって、悶え死にしますわ。

ちびた #- | URL
2012/07/16 09:21 | edit

Re: おはよ~ マッハ更新☆感謝デス

弓使いはいいス!
ワタクシはパーティにはラストまで必ず投入します!(何の話)

ユニっこはソンジュンにもコロたんにも後ろから手取り足取りされて裏山ー



あまる #- | URL
2012/01/21 01:51 | edit

おはよ~ マッハ更新☆感謝デス

ハイペース、うんうんわかるさ~( ^)o(^ )
弓をキリリと、弾く姿。成均館の中でもベストショットだよね!(^^)!
武道(武芸?)はカッコいいね☆
ソンジュンから、教えを請う・・・。いいね~♡

ソンジュン博士☆ドジでのろまなカメなワタシにも教えて~♪
しかし、算術や四書五書?理解不能($・・)/~~~

みずたま #- | URL
2012/01/19 09:41 | edit

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