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第五話 8 ソンジュンの決意 

矢が的に届くようになると、ソンジュンの上達は早かった。もともと弓に関してはかなりの腕を持つ彼だ。放たれる矢は、徐々に的の中心に向かってその距離を縮めていった。

その晩、西斎の裏庭では、掌議ハ・インスが一人、弓を手に的に向かっていた。
ゆらゆらと揺れる篝火の灯りの中でも、彼は決して狙いを外さない。インスの放った矢が、鋭い音をたてて的の中心に突き刺さると、暗がりからパチパチと手を叩く者がいた。

「さすがだね」

そう言って姿を現したのはク・ヨンハである。

「丕闡堂で見たんだろう?奴の弓。ビョンチュンが信じられないって騒いでたよ。どうやら、勝負できそうだな。お前の望みどおりだ」

インスは無言で、二本目の矢を射る。ヨンハはひとつ咳払いをして、言った。

「喜ぶと思ったのに、意外だなぁ。ま、心配するな。あれじゃお前にはかなわない。それに、コロも手助けはしないはずだ」
「尚更不愉快だ」

インスはようやく弓を降ろし、口を開いた。

「なぜ勝算のない戦いにそこまでする?そういう愚かな人間は───実に気に食わない」

インスはまた弓を構え、矢を放った。
それが、確実に的の中心を射抜くとわかっていては、拍手もおざなりになる。こんな風に。
揺らめく炎に照らされるインスの横顔を、ヨンハは冷めた目で見つめた。

お前が最も憎むその愚かさが、お前にほんの少しでもあれば。
たぶんもっと、楽しかっただろうにね───。


*   *   *

大成殿の前庭。人定の鐘も鳴ったというのに、色掌ナム・ミョンシクを始めとする少論の連中が、何やら頭をくっつけ合い、ひそひそと話し込んでいる。

「あの野郎、そんなに王の前で活躍したいのか」
「老論のために、俺たち少論まで引き立て役に使う気なんだよ。ったく、いけ好かねぇ」
「いっそ、動けないように脚を折ってやるべきだったな」

一人の、本気とも冗談ともつかぬ言葉に小さく笑った彼らは、次の瞬間、その笑みを顔に張り付かせたまま凍りついた。

「───どういうことだ」

いきなり、すぐ傍の大銀杏の上から低い声が降ってきたのだ。見上げた彼らは、一斉に顔色を変えた。

「コッ、コロ!」

木の上からひらりと降り立ったジェシンが、世にも恐ろしい形相でミョンシクを見下ろす。

「イ・ソンジュンを怪我させたのはお前らか」

ミョンシクはじりじりと後ろに下がりながら、息も絶え絶えに言った。

「お、お前も少論だから、誰にもバラさないよな?」

フン、とジェシンは馬鹿にしたように笑った。

「黙って見逃せって?恥だとは分かってるらしいな」

言うなり、鋭い拳でミョンシクの横っ面を殴りつけた。

「ミョンシク!」

あっけなく地面に転がった色掌を、儒生たちが助け起こす。

「次はその無駄口を叩けないようにしてやる。───よく覚えとけ」


*   *   *


キリキリと弓を引き絞る音が、耳元で一瞬、止まる。意識を集中させ、矢を放った。風を切って飛んだ矢は、わずかに中心を逸れ、的に突き刺さった。
ソンジュンは胸に溜めていた息をはっ、と吐き出した。

───あと、一歩なのに。

あれだけ違和感のあった弓も、ようやっと右手で支えるのに慣れてきた。だが彼はまだ一度も、的の中心を捉えることができないでいた。

没技は、5本連続で的に命中させなければならない。一本でも外せば、それは成功とは言えないのだ。
彼は次の矢を手に取った。
とそこへ、書吏のジャンボクが射台に上がってきて、言った。

「大司成様から、灯りを消してやめさせるよう言いつけられているんです。今日はもうお休みください」

ソンジュンは黙って、弓を構えた。休む気配はない。言っても無駄だとわかっていたのだろう。ジャンボクは溜息をついて、射台を降りていった。

灯りの落とされた弓場で、ソンジュンは僅かな月明かりだけを頼りに、弓を射続ける。
暗がりの先にある的に向かって、彼が目を凝らしたそのとき。

ボッ、といきなり、篝火の台から炎が上がった。何だ?と思う間もなく、次々と火が灯り、弓場は先程までの明るさを取り戻した。
近くに人の気配はない。おそらくは誰かが、灯りの消えた台に火矢を射掛けたのだろう。
いったい誰が、と思ったが、何にしてもありがたい。
ソンジュンは姿の見えぬ射手に感謝して、また弓を構えるのだった。





まったく、世話の焼ける。

ソンジュンが練習を再開するのを確認してから、ジェシンはその場を離れた。
別に、あの老論を助けてやりたいわけじゃない。これは、同じ少論の連中がやらかしたことの、尻拭いみたいなもんだ。
彼は自分にそう言い聞かせ、軽い火傷を負った左手をぺろりと舐めた。






そんな弓場での一部始終を、ユニは物陰からずっと見ていた。
といってもそれは、今日に限ったことではなかった。
あの日。ソンジュンがユニに、奇跡を起こしてみせると宣言したあの日から、丕闡堂で練習を続けるソンジュンの姿を、彼女は一日も欠かさず見つめていた。

『奇跡が必要なら、起こしてみせる』

ユニはまた、ソンジュンの言葉を思い出していた。
あれほどひたむきに、文字通り血の滲むような努力をして、彼は一歩一歩着実に現実にしようとしている。誰もが奇跡と疑わなかった、左手での没技を。

彼を見ていると、奇跡というその言葉の意味も、ユニにはよくわからなくなってくるのだ。
奇跡とは、ああいうものだっただろうか。例えば、それまで寝たきりだった老人が、いきなり立ち上がって踊りだすような、そういうものではなかったのだろうか?
だが彼は、奇跡を自ら起こそうとしている。天が気まぐれに与えてくれるのを待つのではなく、自らその奇跡を引き寄せようと、今夜も的に向かっている。

その結果を奇跡と呼ぶのなら───それは、努力した者にしか、起こり得ない。
奇跡を信じ、それを望み、行動した者にしか。


「何を考え込んでるのかな、テムル?」

ふいに声を掛けられて、ユニは振り向いた。そこには、彼女に向かってにっこりと笑いかけるヨンハがいた。

「先輩………」

ヨンハは、丕闡堂の門の向こうを覗き見ながら、まったくよくやるね、と言った。

「ソンジュンの奴も。テムル、お前も」
「え?」
「毎日ここで、奴の練習を見てただろ?なら一緒にやりゃあいいのに。難しい顔して考えてばっかりいる」

ユニは足元に視線を落とし、ぽつりと言った。

「あの……先輩」
「ん?」
「先輩はなぜ、成均館にいるんですか」

唐突な質問だったが、ヨンハはなんでそんなことを訊くの、とは言わなかった。そうだなあ、と視線を泳がせて考えてくれる。

「このふざけた社会の、くだらない身分秩序に抗うためだ」

意外な言葉に、ユニが戸惑うのを見てとったのか、ヨンハはすぐに あはっ、と笑った。

「なんてね。嘘じゃないさ。科挙に受からなきゃ、側女を置けないんだよ。だから仕方なく耐えてる」

いつものようにいたずらっぽく言って、ユニの微笑みを誘う。

「部屋に、戻ります」

小さく一礼して、ユニは丕闡堂を後にした。





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2012/01/18 Wed. 13:06 [edit]

category: 第五話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: びわさま

うーん、ホントのところ、キャラの内面はソンス書いた脚本家さんにしかわからないことなので、想像です。
あとは果てしない妄想←だいたいこっちのが多い(笑)

ドラマを観る人によってはもちろん、違うんじゃないのーっていうのもあって当然だし、それでいいと思うんですよね。そこが、映像と文章の楽しみ方の違いでもあると思うし。

いろんな妄想を掻き立ててくれるのがこのドラマのスバラシイとこですわ~(^^)

あまる #- | URL
2013/07/23 17:29 | edit

どうして…

あまるさんはキャラのことがこんなにピタッと分かるんでしょ?
ヨリムがチャンイにおざなりに拍手している時に思っていることとか、
コロがソンジュンのために明かりを付けてあげた時に償ってる気分だったこととか。
読んでてドラマがもっと鮮明になる感じです!

びわ #p6hXJKzs | URL
2013/07/23 10:30 | edit

Re: ちびたさま

そんな~あんまり褒めちゃいけませんて~
すーぐチョーシこくからワタクシ~(*´ω`*)テレテレ←でも嬉しい

タイトルは難しいですね~。それぞれのシーンに具体的で印象的なモノがあればけっこう
ぱっと決まるんですけど。百日紅とか。
あれは考える前にもう決まってましたワ(笑)

ワタシもここでちびたさんや皆様に出会えてシアワセを貰ってますよん。
食べて、美味しいって言ってくれる人がいないと、ごはんも作る気になれないものね~。

あまる #- | URL
2012/07/18 09:20 | edit

あまるさんのサイトは文章も好みですが、このタイトルの付け方が本当に絶妙です。

ドラマは画像にして表情が見えればそれぞれに想像する事ができますが、文章とタイトルはそういうわけにはいきまへん。
この決意というタイトルがあってこそ、このシーンのイ・ソンジュンの努力とコロたんのさりげない助っ人のしーんが引き立つってもんです。

でもって、このそれぞれの心情の展開と行間にますます萌えるんですわ(爆!)
ああ、あまるさんのサイトにであえてほんっとよかった
こんなうっとおしい奴ですがどんぞよろしーう

ちびた #- | URL
2012/07/17 23:04 | edit

Re: 2話更新!感謝

とーぜんワタシもムリッ!(笑)
常にラクをすることしか考えてないユルユルなヤツです(^^ゞ
ソンジュンみたいな生き方は憧れるけどシンドイと思うわ、実際。

あまる #- | URL
2012/01/19 04:08 | edit

Re: 本日2度目の更新☆感謝デス❤

ソンジュンはエライやね。(^^)
以前はどっちかというとやんちゃ系のキャラが好みだったんだけど、
年齢のせいか(^^ゞ最近あーいうクソ真面目くんに真剣に説教されたいとか
思ってしまう自分がいてちょっと怖いです。

あまる #- | URL
2012/01/19 04:04 | edit

2話更新!感謝

好きな言葉 「努力」
嫌いなこと 「努力」
そんな私にはとてもじゃないけど
ソンジュンの真似は出来ない・・・。

にゃん太 #- | URL
2012/01/18 21:50 | edit

本日2度目の更新☆感謝デス❤

この場面は、ソンジュンは努力をヒトに見せずに研鑽を怠らないご仁だという人柄をよくあらわしてるよね。
天才・秀才・凡人・・・・。
(大木ボンドじゃないよ~(^^ゞ)
よしっ!ワタシもがんばるぞ~!(^^)!←えっ?

みずたま #- | URL
2012/01/18 16:30 | edit

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