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第五話 5 反発 

「コロの奴は成均館の行事に参加するはずはないし、テムルは弓も握ったことがない初心者。結果は火を見るより明らかです」

西斎。インスの部屋では、部屋の主が黙々と弓の手入れをする横で、ビョンチュンが涙ぐましいほどの愛想笑いを浮かべている。

「何か戦略はあるんですか?掌議」

コボンの言う“戦略”とは、この場合大射礼で勝つためのものではない。あの生意気なイ・ソンジュンの鼻っ柱をへし折ってやるための戦略だ。

「───今回は、奴の望みどおりにしてやるつもりだ」

螺鈿細工の施された弓を丁寧に拭き上げながら、インスが言う。

「ええっ?まさか、奴らを優勝させようっていうんですか?」

思わず声を上げたコボンを、インスが手を止め、ちらりと一瞥する。またバカなことを、とビョンチュンがコボンの頭をはたいた。

「も、もちろん、そんなことはないとわかってますよ、ハイ」
「あいつの望みどおり、身をもって学ばせてやろうということだ。お前たちも、その準備だけはしておけ」

承知しました、とビョンチュンとコボンが頷き、互いの腕をがっちりと交差させた。
その横で、カン・ムがきりりと弓の弦を引き絞り、具合を確かめる。その目には、静かだが並々ならぬ闘志が漲っているのがわかる。
彼らを見遣りつつ、インスは薄く笑った。



近づく大射礼に向かい、動き始めたのは儒生たちばかりではなかった。大司成は王が来館するというので、例によって大わらわだ。王に出す食器にはちり一つ残さぬよう茶母に拭き上げさせ、王が座す椅子もわざわざ職人に言いつけて作らせるほどの念の入れようだった。

そんな大司成が最も拘ったのは、大射礼の華ともいえる妓生たちの選別だった。
普段は女人禁制の成均館だが、こういう行事となると話は別だ。彼女たちの唄や舞は、場を盛り上げるのに欠かせない。もちろん、容姿が美しければ言うことはない、というわけで、チョソンを筆頭に、都でも屈指の妓生を揃える牡丹閣が専属として選ばれた。

大司成は自分の仕事に大満足だ。何せ、牡丹閣からはあのチョソンが直々にお出ましになるというのだ。たとえこの国の王といえど簡単には会えまいといわれるあのチョソンが、である。これも人徳か、と大司成が勘違いしたのは言うまでもない。こうして彼はまた、中央官僚への夢を大きく膨らませたのだった。


「チョソン姐さんたら、すっかり惚れ込んじゃった感じね。あのきれいな学士様に」

お抱えのお針子を早速呼び寄せ、新しい衣装の生地選びに余念のないチョソンを扉の影から盗み見ながら、ソムソムがひっそりと微笑む。

「意地よ」

隣で同じくチョソンを見ていたエンエンが、唇を尖らせて言う。

「新榜礼以来、きれいな学士様から何の音沙汰も無いんだもの。そんなこと、チョソン姐さんには初めての経験じゃなくて?」

エンエンには、あの誇り高いチョソンが男に骨抜きにされることが、面白くないようである。惚れっぽい自分自身は男に振り回されても、チョソンがそうなるのは嫌なのだ。

「何言ってるの。よく見てみなさいな。あれが意地を張ってる顔に見える?」

鏡を覗き込むチョソンの表情は確かに、自尊心や駆け引きとは無縁のものだった。恋しい人に逢える日を待ちわびて、胸をときめかせているうぶな娘そのものだ。

あのチョソン姐さんが。やっぱりあり得ないわ、とエンエンは自分の目が信じられずに、ただ首を振るばかりだった。


*   *   *


いったいもう何度目になるのか、腕は痺れ、指の感覚がなくなってきても、ユニはただの一本も、矢を飛ばすことができないでいた。
簡単にやっているように見えても、男たちは相当な力でもって矢を放っているのだ。しかもそれを的に当てる?
非力な自分には到底無理な芸当に思えた。

ソンジュンは腕を組んだまま、練習を始めた時と寸分違わぬ姿勢でユニの手元を見据えている。
いっそ呆れて、お前には無理だと言ってくれればいいのに、彼はそんな素振りすら見せない。自分の顎からぽたぽたと落ちるのが涙なのか汗なのかも、ユニにはもうわからなかった。

弦を引き絞った。矢じりの先が、ぶるぶる震えている。肩と二の腕の肉が悲鳴を上げているのがわかる。
もう限界だ、と思ったとき、耳元で、バンッ、と何かが破裂するような音がして、ユニは思わず握っていた弓を落としてしまった。
頬に、焼けつくような痛みが走る。弾かれた弦が、ユニの顔を打ったのだ。押さえた手を見ると、血が滲んでいた。

「………もういやだ」

そう口にした瞬間、堰を切ったようにまた涙が溢れ出した。出来ないことが悔しい。だからって子供みたいに泣くのはもっと悔しい。なのに、堪えることができない。

「もういい。やめる」
「まだ始めてもいないだろう」

ソンジュンが静かに言った。
始めてもいない?もう何刻過ぎたかもわからないのに?

「もうたくさんだ。こんなこと、ぼくには無理なんだ」
「よく言えたもんだな、キム・ユンシク。君はまだ、まともに弓すら握れていない。いったいいつまで、借り物みたいに扱う気なんだ。なぜ真っ直ぐに的に向き合おうとしない?」

唇を噛み締めた。自分は汗ひとつかいていない顔で、何を偉そうに。
激しい怒りで、腸どころか、頭の中まで煮え滾った。

「おい、老論」

不意に、そんな声がした。いつからそこにいたのか、ジェシンが、ソンジュンに掴みかからんばかりの勢いでずかずかと射台に上がってきたのだ。

「お前の頭ん中は、どうすれば王に認められるか、それしかねぇのか?出世に権力、そんなもんにしか興味ねぇんだろ」

まさに老論そのものだな、とジェシンは吐き捨てるように言った。

「こいつは弓で殺されかけたんだぞ。怖がってんだろうが!」

ジェシンが、ユニを連れ出そうと腕を掴んだ。すかさず、ソンジュンがそれを阻む。二人に痛いくらいに腕を掴まれ、ユニは顔をしかめた。

「怖いからと逃げてしまっては、二度と弓を握れなくなります!」

睨み合うソンジュンとジェシンの間に、見えない火花が散った。

「立ち向かうしかないんだ、ユンシク。弁解や言い訳では、何も解決しない」

そう言ってユニを見るソンジュンが、薬房でのチョン博士の顔と重なる。ユニの中で、何かが音をたてて弾けた。
掴まれていた腕を思い切り振り払い、ユニはソンジュンを見返した。

「弁解だの言い訳だの、簡単に言うな!ぼくにとっては切実だったんだ。君が、呑気に弓の練習をしてたとき、ぼくはただ生きるのに必死だった。君は、左議政の坊ちゃまのイ・ソンジュン。ぼくは、自慢にもならない南人の家の出で、父の顔さえ覚えていない惨めな───キム・ユンシクなんだ」

他に道があったのなら教えてくれと言いたかった。チョン博士にも、目の前のイ・ソンジュンにも。

「だったら機会を掴め。大射礼で優勝すれば、出仕の道も開ける」
「………つまり、今回もぼくのためだって言いたいのか」

ユニはせせら笑った。いい加減もううんざりだ。哀れみかそれとも篤志家気取りか。この男は、そうまでして優越感に浸りたいのだろうか。

「確かに、君のお陰で人生が変わったよ。君は、自分なら世の中を変えられるって思ってるんだろ?世の中の仕組みなんて何も知らないお坊ちゃんのくせに。出仕?機会を掴め?君にとっては当たり前のことでも、もしぼくにそんな機会があるとしたら、それは───奇跡だ」

そう、天地がひっくり返りでもしない限り、起こり得ない奇跡。
そんなことを望むのは、雀が鳳凰になるのを待つくらい馬鹿げたことだ。それが、どうしてこの男にはわからないんだろう。どうしてキム・ユンシクなんてちっぽけな人間の腕を、無理矢理掴んで引っ張り上げようとするんだろう。

ソンジュンは黙っていた。一言も言い返さず、ただユニを見ていた。その真っ直ぐな眼差しさえもが腹立たしく、ユニは横を向いた。

「判ったら、二度とぼくに偉そうな口をきくな。───絞め殺したくなるから」

言い捨てて、ユニは射台を降りた。弓も、イ・ソンジュンの顔も、見ていたくなかった。

『お前は、ここにいるべき人間じゃない』

飛ばない矢が、頬を打った弓の弦が、遠い的が、ユニを嘲ってそう言っている気がする。
そんなことはわかってる。チョン博士に言われなくても、自分自身が一番よくわかってる。だけど───。

丕闡堂を出る門の前まで来たときだった。突然、ユニの背後でガラガラと何かが崩れ落ちるような音がした。振り返ると、天幕を張るのに立てられていた丸太の支柱が数本、折り重なるようにして倒れている。その下敷きになって、苦しげに顔を歪めている儒生を見た瞬間、ユニは凍りついた。

「ソンジュン!」

近くにいたドヒョンら、数人の儒生たちが血相を変えて駆け寄る。
ユニはその場に立ち尽くしたまま、丸太の下から助け出されるソンジュンを、ただ呆然と見ていることしかできなかった。






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2012/01/06 Fri. 02:58 [edit]

category: 第五話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re:びわさま

なんですよね~。(*´・ω・)(・ω・`*)ネー
どっちも愛情には違いなくて、どっちがどうとは言えないんだけど。
ソンジュン溺愛のワタクシも実際のトコロは多分コロ的な攻められ方によろめくと思います……。
癒しが欲しい(爆)

あまる #- | URL
2013/07/15 23:56 | edit

ここでも違う

ユニの助け方。
ソンジュンは何とかして自分と同じ場所まで引っ張り上げようとするし、
コロ先輩は無理させないように守ろうとするし…
こういう違いで後々どう惹かれていくかが決まっちゃうのかもデスね(^_^;)

びわ #p6hXJKzs | URL
2013/07/15 16:18 | edit

Re: タイトルなし

> 材木が倒れたのって
> 事故だったっけ?

詳細は次回。……いやその次くらい?(^^ゞ

あまる #- | URL
2012/01/08 00:53 | edit

Re: 朝のさわやかな光景~☆

悪徳四人組の中でビョンチュンがみずたまさんの一押しだったとわ(笑)
まー人知れず苦労人のようだし………しかし顔デカッ!

> かばって、ケガ。気になるあの人の前で、ケガ。

そして風邪ひいて熱発。終盤タコ殴り。どんだけ災難(^^ゞ

あまる #- | URL
2012/01/08 00:45 | edit

材木が倒れたのって
事故だったっけ?

にゃん太 #- | URL
2012/01/06 21:48 | edit

朝のさわやかな光景~☆

>ビョンチュンが涙ぐましいほどの愛想笑いを浮かべている。
ふふふ~。←えっ?
愛想笑いの頂点を極めて、反対側にコロがった男。ビョンチュン・・・(-_-)/~~~ピシー!ピシー!
人間くさくて、ワタシの数ある成均館メンバー反対側の中で一押しキャラ~☆( ^)o(^ )

お怪我をなさったソンジュン・・・。お大事に✿✿✿
この辺りは、本能(コロは動物的感というかな?)で《ファム・ファタール》を感じてるよね☆
かばって、ケガ。気になるあの人の前で、ケガ。
お大事ね~✿

みずたま #- | URL
2012/01/06 09:41 | edit

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