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第五話 4 特訓 

ヤギョンは一人、東斎の前庭を歩きながら、灯りの消えた中二房に目をやった。
恩師キム・スンホン博士の娘、ユニ。
幼かったあの少女は、賢く、美しい娘に成長した。だが先見の明のあった師といえど、まさか想像だにしなかっただろう。我が娘が、男二人と同じ部屋で寝起きを共にしようとは。

どうしようもない状況ではあったのだろう、と思う。だがこれが正しいことだとは、ヤギョンにはどうしても思えない。
ただでさえ厳しい成均館での寄宿舎生活だ。講義や試験についていけず、脱落する者も少なくない。その上こんな秘密を抱え、毎晩、ろくに眠れもしなかっただろう。そんな神経をすり減らすような生活を、いつまでも続けられるはずがない。

中二房は静まり返っていて、物音一つ聞こえてはこない。だがこの障子の向こう側で、恩師の娘が一人、家族を想い、我が身を想い、寝付けずにいる。
彼女を追い込んだのは自分だとはいえ、ヤギョンの胸は痛んだ。

だが彼には知る由もなかった。
その晩、中二房の寄宿生たち───ユニ、ソンジュン、ジェシンの三人が三人とも、それぞれの想いを抱えて眠れずにいたことを。



人定の鐘が鳴ったのは、もう随分前だった。夜も更けたというのに、僅かな灯りを頼りに針仕事をしている母の手は、少しも休む気配がない。ユンシクは読んでいた本を閉じると、そっと母に声をかけた。

「もう休んだら?姉上のお陰で、薬代の心配もいらなくなったんだし………姉さんが見たら、また心配するよ」

母はつややかな藤色の反物から目を上げることなく、微笑んだ。

「おかしなものよね。娘が着ると思うと、かすんでた目も冴えてくる……疲れもね、感じないんだよ、本当に」
「それ、姉さんの服だったんだ」

どうりで、とユンシクは納得した。
針を動かす母の表情が、どことなく幸せそうに見えたのだ。

「考えてみたら、あの子には、一度もまともな服を着せてやれなかった。花盛りの年頃に、着てる服といったら………」

母はまた、自分を責めているのだろう。近頃ではめったに見なかった明るい顔が、いつものように沈み込むのを察して、ユンシクは母の手元を覗き込んだ。

「わあ、きれいな色だね。きっと、姉さんによく似合うよ」

女人の衣らしく華やかではあるが、春の田に咲く蓮華草のような、慎ましやかな薄紫。
そこらの妓生なんかよりずっときれいな姉には、よく映えるだろう。

ユンシクの言葉に、母は嬉しそうに目元に皺を寄せた。


*   *   *


翌日。
成均館の学生名簿を指で追いながら、王正祖は驚きを隠せない様子で聞き返した。

「まことに、あの緑鬢紅顔───キム・ユンシクが、キム・スンホンの息子なのか?」

黙ったまま答えに窮しているヤギョンに、領議政チェ・ジェゴンが眉をひそめ、早く答えよと促す。
キム・ユンシクがキム・スンホンの息子であることは間違いないが、あの緑鬢紅顔がそうかと問われると、違う。
さようにございます、と答えはしたものの、王に嘘をついているという事実はヤギョンを人知れず苦しめた。

「顔に似合わず、大した度胸だと思ったが。血は争えんな。あれは、父親譲りだったか」

王は声を上げて笑うと、言った。

「それは是非とも会わねば。父親が守り抜いた金縢之詞をその息子が探す。これも何かの因縁、いや、天命というべきかな」
「それはなりません」

即座に異を唱えたヤギョンを、王の目が眼鏡の下から意外そうに見上げた。

「ならぬと?それはどういうことだ」
「金縢之詞の捜索は、国を左右する重大任務です。キム・ユンシクはまだ幼い学生に過ぎません」
「では、そなたが助けてやればよい」
「それに、何よりも」

ヤギョンの背を、冷や汗がつたう。彼は落ち着きなく目をしばたかせながら、続けた。

「何よりも、本人は父親の過去を知りません」

王は深く息を吐き出すと、眼鏡を外した。王が黙っていたのは、実際にはほんの短い間だっただろう。だが、ヤギョンにとっては永遠とも思える時間だった。
やがて王は立ち上がると、言った。

「そなたはこれまで、一度も余に反対したことがない。故に今回は黙って、忠言に従うこととしよう」

ヤギョンは心から恐れ入って、深々と頭を下げた。

「それにしても、これはますます楽しみになってきたな。大射礼まで待ちきれぬぞ」

王の、まるで少年のように生き生きとした笑顔とは裏腹に、ヤギョンの胸中は複雑だった。


*   *   *

同じ頃、成均館。

「急いで練習だ。大射礼までもう間がない」

ソンジュンがユニに弓を差し出し、いつにも増して厳しい顔つきで、言った。
見かねたヘウォンが割って入る。

「おい、ユンシクはまだ具合が………」
「治っていないなら、チョン博士も帰らせはしない」

そうだろう?とソンジュンは確かめるようにユニを見た。
ユニにとっては、そもそも病気だったわけではないのだから、治るも治らないもない。ただ、女であることをチョン博士に知られてしまった、そのことに対する精神的な打撃が大きすぎて、大射礼だろうが何だろうが、考える余裕がないのだ。

「お前、そんなに優勝したいのかよ」
「やめとけ。テムルを見ろ。今にも死にそうな顔してるぞ」

ウタクとドヒョンが口々にユニを擁護する言葉も、彼女の耳には入らない。頭の中に響くのはチョン博士の冷え冷えとした声だけだ。

『誰にも知られてはならん』

今は、成均館の学生としてやるべきことをやらなければ。
誰にも、疑われないように。

ユニはソンジュンを見返した。

「わかった。やるよ」


特訓が始まった。わかっていたことだが、弓場のソンジュンは、ユニが初心者だからといって決して甘い顔はしなかった。
ユニに立ち方と弓の握り方を教えた後は、傍らにじっと立ち、満足に矢をつがえることすらできないユニに、何度も何度も同じ動作を繰り返させる。
弦を引き絞ることができずに、つがえては落ち、つがえては落ちる矢。
その度に、「もう一度!」と針を刺すようなソンジュンの鋭い声が、丕闡堂に響いた。

弓懸に通した親指が、擦れて酷く痛い。科挙を受け、王に成均館に入れと命じられてから今までのことが、ユニの脳裏に次々と浮かんでは消える。

『僕らの名前に、泥を塗るなよ』

そう言って、差し出した自分の号牌と一緒にユニの手をぎゅっと握りしめた、ユンシクの笑顔。
新榜礼の夜、課題を切り抜けた自分にヨリム先輩が手渡してくれた、濃紺の儒生服。
初めての講義の日に体験したのは、難解な講釈ではなく、不思議な奇術だった。だがそこで、ユニは論語の面白さと奥深さを改めて知ったのだ。

全て、罪だというのだろうか?死をもって償うべき罪だと───。

「もう一度!」

ソンジュンの声が、ユニの気持ちに追い打ちをかける。この矢はユニ自身だ。前に飛ばすことすらできない悔しさに、堪えようとしても涙が滲んでくる。
知らなかった。的が、こんなに遠いものだったなんて。

「あれじゃイジメだ」

少し離れた射台から二人を見ていたヘウォンが、頭を振った。

「何が何でも優勝したいんだろ。自分は万能だと王に示したいんだ」

色眼鏡をずり上げてウタクが言うと、凝り固まった肩を回しながら、ドヒョンが同情のこもった眼差しでユニを見遣る。

「酷いよな、まったく。血も涙もない野郎だよ」
「もう一度!」

弓場に容赦無く飛ぶソンジュンの声を聞いていたのは、彼ら三人だけではなかった。
塀を隔てた、大成殿前庭の大銀杏の上。
昨夜の睡眠不足を補うつもりが、結局ここでも眠れずに、ジェシンは薄目を開けた。

吹く風は、丕闡堂の二人の様子を彼に伝えつつ、青々とした銀杏の葉を涼しげに揺らしていった。




*************************************************************

あまるですあけましておめでとうございます(^^)
新年イッパツ目の更新です~。ワタシにしては早い!エライぞ!と自分で言ってみる。ビバ正月休み。
我が家は毎年、大晦日に一日がかりでがめ煮やら豚の角煮やら作りおきできるオカズをどっさり作っといて正月三が日はサボる、という、目的だけは実に正しいおせち料理なんですが。
食べざかり男子は侮れん。ほぼ一日半で食い尽くしやがった……(涙)
くそぅ、明日は三食雑煮じゃあ!と思ったら白菜も切れてた……やっぱ買い物行かなあかんのか。うう。←すっかり出不精

そんなわけで(?)本年もユチョにトンにソンスに励みますので(笑)よろしくお願いします~





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2012/01/03 Tue. 03:19 [edit]

category: 第五話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: おっと~

あけましておめでとうございます~(^^)
今年も何卒ヨロシクです!

> 王様を見ると
> ぐっさん(山口智充)を思い出すんだけど

ダメだ………もうぐっさんにしか見えない………(笑)

あまる #- | URL
2012/01/05 00:26 | edit

おっと~

あけまして
おめでとうございます

早速の更新、
ありがとうございます

見たものを文章できる
ただただ感心するばかりです・・・

ところで
王様を見ると
ぐっさん(山口智充)を思い出すんだけど
似ていませんか?

にゃん太 #- | URL
2012/01/03 23:11 | edit

Re: あけました、おめでとうございます~✿

あけましておめでとうございます~(^^)
このブログが無事年を越せたのも、いつもコメくださるみずたまさんのお陰です。いやまぢで。
あ、でもだからってコメント強要してるわけぢゃないっスよ(笑)
今年も気楽に遊びにいらしてくださいまし。

芙蓉花はねぇ~結構派手なの着てるんだよね、よく見ると。
彼女の服に関してはソンジュンとの婚約式のあたりで書けるかなぁとは思ってんだけども。

>スチュワーデス物語を思い出ししみじみなワタシです・・。

だはっ!「教官!」(笑)猛特訓といえばワタクシたち世代はアレですね、やっぱ。あ、ベストキッドもアリか?
    

あまる #- | URL
2012/01/03 12:28 | edit

あけました、おめでとうございます~✿

あまるさん、仕事始動したね~☆
今年もよろしくね~☆
こんなコメンター、ヤダし・・・。( 一一)って、見捨てないでね~φ(..)メモメモ

>春の田に咲く蓮華草のような、慎ましやかな薄紫。が、ユニなら・・・。
芙蓉花は?・・・。と、思った新年3日にございます~。
新年から冴えてるね~☆

ヤギョン先生の活躍も注目度大☆☆☆
この辺りはてんこ盛りだね~♪
あ~、ソンジュン&ユニの特訓を見てると、スチュワーデス物語を思い出ししみじみなワタシです・・。✿ドジでのろまなカメです~✿
    
    ~勝手にコメンターより~ 
 あ~、消さないでぇ~( ..)φケシケシ

みずたま #- | URL
2012/01/03 10:05 | edit

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