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第五話 3 遠い過去 

書架の間を漂うように歩きながら、大したものはないわね、とヒョウンは唇を尖らせた。
昼下がりの貰冊房。
暇を持て余し、下女のポドゥルを連れてやってきたものの、今日はさほど収穫がなかったようである。つまらなさそうな表情は、屋敷を出るときから少しも晴れていない。

おいたわしいお嬢様、とポドゥルはまた胸を傷めた。
ヒョウンの不機嫌の原因は、貰冊房の品揃えのせいではないことは明白だ。
新榜礼以来、何の音沙汰もない左議政の若様に、いい加減痺れを切らしているのである。
まったく、いいとこの坊ちゃんてのはこれだから、とポドゥルは溜息をつく。
引く手あまたなものだから、何の罪悪感も無く平気で女を待たせる。あんなお偉い方でなければ、耳を引っ張って引き摺ってきてやりたいところだ。

「全部お兄様のせいよ」

唐突に、ヒョウンが言った。

「お兄様を気にして、ソンジュン様は私を訪ねてこられずにいるのよ。あれ以来ずっと、気を揉んでおられるに違いないわ。私みたいに」

恋する乙女は、相手の不誠実を決して見ようとしない。架空の恋愛小説の世界にどっぷり嵌っているヒョウンであれば尚更だ。
ポドゥルは本の束を抱え直すと、女主人の後ろにぴたりとくっついて、言った。

「おやめになった方がよろしいのでは?坊ちゃんが怖くてお嬢様をこんなに待たせるなんて、そんな男、器も知れてますよ」

振り返ったヒョウンは、目をきりきりと釣り上げてポドゥルを見た。

「怖いんじゃないわ。お兄様のあの性格だもの、私に被害が及ぶかと心配して、慎重になってるだけよ。何も知らないくせに!」

お前に愛の何がわかるの、とヒョウンはぷいとそっぽを向いた。

「毎度ありがとうございます、お嬢様」

めぼしいものが無いといいつつ、大衆小説の類をどっさりと買い込んだヒョウンに、貰冊房の店主、ファンは上機嫌だ。積み上げられた本の山に、そおっと一冊、追加する。

「ちょっと、そんな本は頼んでないわよ」

ファンはにんまりと笑みを浮かべ、赤い表紙のその本を意味ありげに撫でた。

「これは、お得意様だけに差し上げている特別なものです。世間の誰もが涙したという、感動の恋愛超大作!」
「───あら」

ヒョウンの眉がぴくりと反応した。

「官僚の息子と、貧しくも美しい侍女の、許されぬ愛!」
「まあ………」
「しかし実は二人は異母兄妹!」
「はあぁ!」
「その上侍女は不治の病に………」
「ああ………」
「涙涙の一大叙事詩です!」
「なんてこと!」

またノセられてる。
ファンの辻芸人ばりの講釈には毎度辟易させられるが、これでお嬢様の退屈が紛れるなら、ポドゥルにとってはむしろありがたい。
ファンは芝居がかった仕草で両手を合わせ、天を仰いだ。

「ああどうか、愛しあうことをお許しください~」
「それで?」

ヒョウンが身を乗り出し、期待のこもった眼差しでファンを見た。

「はい?」
「二人は、最後は結ばれるの?」
「ま………まあ、気持ちが通じ合ったから結ばれたとも言えますが、だからといって結婚できるわけじゃないから、結ばれてないとも………」

途端に興味を失ったのか、ヒョウンはたちまちもとの不機嫌な顔に戻った。

「叶ってこその愛でしょ!結局別れるのに苦労させられるなんて、そんなの納得できないわ!」
「はあ………。難しいお方だ」

すごすごと“特別進呈本”を戻すファン。苦情ついでにとでもいうのか、ヒョウンが思い出したように言った。

「ところで、あの恋文のことだけど。どうして何の連絡もないの?成均館随一の文章家だって言ってなかった?」

そうそうそれそれ、とファンは酸っぱいものでも食べたように鼻に皺を寄せ、言った。

「それどころじゃないんですよ!今成均館は大騒ぎなんですから!」
「どうして?」

ひゅーん、と弓を射る真似をしてみせる。

「大射礼があるんです!」
「………大射礼?」

ヒョウンのぱっちりとした目が、更に一回りほど大きく見開かれた。

*   *   *

その晩。ソンジュンはユンシクを探して、成均館のあちこちを歩き回っていた。
尊経閣、進士食堂、中二房。
だがどこにも、ユンシクの姿はない。
薬房を出た後、いったい何処へ行ったのか。だいたいどうして僕はいつも、こうして彼を探し回る羽目になるのだろう。
少しばかり理不尽な思いを抱きつつ、明倫堂の前庭まで来たとき。
丁度、扉を開けて出てきたユンシクを、彼はようやく見つけたのだった。

咄嗟には言葉が出なかった。ユンシクの頬にはっきりと残る、涙の跡を見たからだ。

「………大丈夫か?」

どうにか、そう声を掛けた。ユンシクの涙に、というよりも、自分が激しく動揺していることにソンジュンは戸惑っていた。

「具合は………もういいのか?」

ソンジュンと目を合わせぬまま、ユンシクは黙って頷いた。力のない足取りで東斎へと戻っていく後ろ姿は、いつもよりずっとか細く見え、普段の闊達な彼とは別人のようだ。

ソンジュンにある一つの決意をさせるには、それだけで充分だった。



雑務を終え、正録庁を出たヤギョンの前にいきなり、一冊の帳簿がぬっと突き出された。

「キム・ユンシクの病名は何です?」

そう言って柱の影から姿を表したのは、ク・ヨンハだった。彼は師の正面に立ち一礼すると、まるで審問官のような口ぶりで切り出した。

「安静が必要だからと、薬房に蟻一匹近寄らせなかったとか。だが薬も処方せず、医者も呼ばなかった。───そこまでは理解できます。“薬も医者も必要ない、軽い症状だった”と解釈すれば、です。しかし」

とん、と開いた帳簿の頁を軽く叩く。

「診療記録も残されていないとなると話は別だ。………何故でしょう?」

ヤギョンは微笑んだ。ユ博士が前に、彼を見ていると苛々する、と言っていたが、その理由がよくわかったからだ。
人の何倍も洞察力に優れ、論理的思考力もあるというのに、何故それをもっといい方向に使おうとせず、露悪的行動にばかり走ろうとするのか。
一見ちゃらんぽらんな言動は彼の煌びやかな服と同様、単なる見せかけか───では、何を隠すために?

「面白い。続けてみなさい」

興味を惹かれるまま、ヤギョンは言った。

「理由として考えられるのは二つです。一つ。博士チョン・ヤギョンの職務怠慢。二つ。キム・ユンシクの病状、あるいは身体が、記録にも残せないような………たとえば、成均館で修学できないようなものだった。このどちらかだと」
「何が言いたい?」
「ただ真実を知りたいという、学士故の情熱です」

やはりな、とヤギョンは自らの懸念が既に現実となっていることを知った。この成均館に、二人目、三人目のク・ヨンハが出てこないことを願うばかりだ。

「情熱には責任も伴うということは承知しているか」

はい?と師を見返す目には、よく見ると確かに深い知性を感じる。だがまだまだ若い。

「成均館の診療記録は、学生が私的に閲覧のできない極秘記録にあたる。このことが漏れたら、君は某叩き10回の罰を受けることになるだろう」

途端に、ヨンハの表情が凍りついた。

「あの………お師匠様?」
「そう、私は師匠だ。弟子の過ちは、見逃してやらんとな」

ヨンハは、さすがは先生です、と低頭し、診療簿を恭しく差し出した。


*   *   *


大成殿の一角。蝋燭の灯りの中、ぼんやりと浮かび上がる位牌の列に恩師の名を見つけたヤギョンは、そこに記された文字をゆっくりと指で追った。

「生を捨て義を取る………」

師匠にはまだまだ追いつけぬようだ、とヤギョンは静かに息を吐く。

金縢之詞も、ユニのことも、未熟な私にはあまりに難しい課題です、先生───。

ヤギョンの脳裏に、古い記憶が鮮明に蘇ってくる。
あの日は確か、雪が舞っていた。ひどく冷える晩で、師匠宅を訪ねるのに慌てて襟巻きを取りに戻ったことを覚えている。

「天の将に大任を是の人に降さんとするや」
「是の人に降さんとするや」

庭先から屋敷に入ると、聞き慣れた師の声と、それを追いかける幼い声が二つ、ヤギョンの耳に届いた。
一つは、父と共に障子に影を映している息子、ユンシクのものだろう。そしてもう一つは、部屋の前の縁側にうずくまっている少女のものであるらしい。

「天が将来ある者に大事を任せる時、必ず先ず其の心志を苦しめ………」

そっと近づくと、少女は障子の向こうから聞こえてくる声を復唱しながら、驚くべき速さでそれを紙に写し取っているのだった。床に敷いた紙は、細かい文字でびっしりと埋め尽くされている。手がかじかむのか、時折小さな指先に はあっと白い息を吹きかけて温めているのがいじらしい。

「ここで何をしてるんだい?」

声を掛けると、少女は ぱっと顔を上げてこちらを見た。利発そうな目元に、確かに師匠に似た面差しがあった。
少女は指先を口元にあて、「しぃっ!」と言うと、また凍える指先を温めながら筆を走らせる。

「寒いなら中でやればいいのに」
「母が、女にとって学問は毒だからダメだと言うんです」

こんな小さな少女が口にした“女”という言葉に、ヤギョンは思わず微笑んだ。

「なら、やめればいい。そうしたら、凍えなくてすむ」
「そんなの、変です。どうして私の意思は聞かずに、母に従えとおっしゃるのですか?私には、自分の意思があります」

どうやらこの子が師に似ているのは面差しだけではないようだ、とヤギョンは密かに感心する。

「君が、とても辛そうだからだよ」
「平気です。お陰で、筆の速さでは誰にも負けません」

そう言って、少女はにっこりと笑った。こちらは歳相応の、何とも可愛らしい笑顔だった。

「君の名前は?」

少女が返事をしかけたそのとき。

「ユニ!お前って子はまた………!」

子を叱りつける母の声が、それを遮った。キム博士の奥方である。少女は慌ててヤギョンの背に隠れた。キム夫人はヤギョンに気づくと、しとやかに頭を下げた。夫の弟子の前で声を荒らげたことが恥ずかしかったのだろう。両班の女性らしく、そのまま静かに部屋に戻っていった。

「キム・ユニ」

母の姿が見えなくなると、ヤギョンの背中で少女が言った。

「キム・ユニです。私の名前」

白い息が、まだあどけない顔に、舞った。





********************************************************
あまるですどうもこんにちは。

今年最後の更新です~。よかった間に合った(^^ゞ
私の個人的な2011年は、ブログを始めたことも含めていろいろありましたが、とりあえずよく乗り切ったなというか、そんな一年でした。東北の被災者の皆さんには足元にも及びませんが(ってさっきまでフジテレビの特集見てて実感…)まあ自分なりには頑張ったかなと。
来年も胸張ってそう言える年にしたいものです。

と、年の瀬なので真面目に締めくくってみました。デヘっ。←持続力なし
まだほんの半年足らずですが、どうにかこのブログを続けてるのも、温かい応援のコメや拍手をくださる皆さんのお陰です~。相変わらず至らぬワタクシですが、来年もよろしくお願いします(^^)
でわでわ、皆さんもよいお年を~




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2011/12/30 Fri. 22:54 [edit]

category: 第五話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: びわさま

ああ〜!イ・サンのチョン・ヤギョン、むっちゃ好きなんですよ〜
あの飄々とした感じと万年少年みたいな顔が〜!
もっとチョナと絡んで遊んで欲しかったな。
そういやあの俳優さん、「俺のこと好きでしょ」にも出てたけど、やっぱ時代劇の時のが可愛かった(笑)

あまる #- | URL
2013/07/14 13:36 | edit

喰えない対決☆

ヨリムとチョン博士との対決は、ススンニムの勝利でしたね!
2人とも喰えない男ですけど、やっぱり年の功・経験値の差ですかね〜。
チョン・ヤギョンは、イ・サンでも飄々とした天才として描かれてましたけど、
ここでは年を取った分だけ人生の苦悩みたいなモノも感じます!

びわ #p6hXJKzs | URL
2013/07/13 21:23 | edit

Re: 謹賀新年

こちらこそ、お越しいただいて幸せでした~(^^)
本年もどうか見捨てずに(笑)よろしくお願いしますね~

あの居眠りのシーンは絵的にもステキすぎでしたよね。(´∀`*)ポッ
アレを上手く文章にできるか限りなく不安ですが(^^ゞ頑張ります~

あまる #- | URL
2012/01/03 03:24 | edit

謹賀新年

昨年は心躍るサイトに出会えて、幸せでした~。
今年もお邪魔させていただく予定です。
よろしくお願いいたします。

で、でへへ~。
ここからのシーン、いいですね~。
特に、木の下で二人並んで勉強しながら居眠りしてしまったユニの頭を肩に乗せるソンジュン。
うう~ん、たまりません!

りゅうれん #/ZrAXPAI | URL
2012/01/01 22:37 | edit

あけました(^^)

あけましておめでとうございます~
昨年のシメは芙蓉花で。今年の初めは………誰だろ。王様?(笑) 
こちらこそ昨年はありがとうございました。今年もちんたらブログですがよろしくお付き合いいただけると嬉しいです~(^^)

あまる #- | URL
2012/01/01 00:32 | edit

年末に☆ありがと~

最後に出したね~(^O^)/
われらの期待の星☆芙蓉花✿~♪
そして、期待を裏切らないキンキラ世界~☆
来年は辰年w
彼女のように猪突猛進←?で来年も慢心しましょう☆
今年、といってもお知り合いになれてから何カ月もたちませんが・・・・(@^^)/~~~
楽しくココで過ごせて嬉しかったです♡
来年もよろしく~φ(..)メモメモ☆

みずたま #- | URL
2011/12/31 10:21 | edit

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