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第四話 9 大射礼 

「大射礼?大射礼ですと?!」

昌徳宮の一室では、兵曹判書ハ・ウギュが声を荒げていた。

「知っておられながら、よくもそんな、悠々と構えておられますな、大監!」

左議政イ・ジョンムは兵判が指摘するとおり、時折ふと顎に手をやり次の手を考えつつ、のんびりと碁を打っている。

「………大射礼といえば、思悼世子が成均館で楽しまれていた行事ですな。思悼世子亡き後、先王が禁止なさっていた」

思い出話でもするかのような左議政とは違い、兵曹判書は苛々と続けた。

「何か、妙に気になりませんか。金縢之詞の壁書といい、今回の大射礼といい。王は何をお考えなのか………。何か仰ってください、大監!王の狙いは何です?!」

そのとき初めて、イ・ジョンムは碁盤から顔を上げ、兵判を見た。

「───あの夜、金縢之詞は確かに処分したと、そう、言われましたな」
「そ、それは確かに………」
「慌てても仕方ないでしょう。今は、策を弄する時ではない。じっくりと………相手の動きを見るのです。そうすればおのずと、手は見えてくる」

そう言って、イ・ジョンムは指に挟んだ碁石を打ちつけた。冷たく硬い音が、室内に響いた。


*   *   *

同じ頃。王の私室では、古びた書簡を畏まって受け取るチョン・ヤギョンの姿があった。
広げた書簡にさっと目を通したヤギョンは、その最後に記された名に驚き、王を見た。

「陛下、これは………」

王の顔は、苦渋に満ちている。代わりに、傍らに控えていた領議政チェ・ジェゴンが答えた。

「キム・スンホン博士の遺品だ。10年前のあの晩、博士らと一緒にいた成均館の役人が亡くなり、その息子が送ってきたのだ」

信じられないものを見るように、ヤギョンは改めてその書面に目を落とす。

「しかしこれは………辞職の願い出では?」
「キム・スンホン………」

王は、かつての友の名を噛み締めるかのように呟くと、言った。

「無力な王のため、暗号で遺言を残すとは………なんという男だ」

ヤギョンは一つ大きく息を吐いた。そうしなければ、とても落ち着いて話ができそうになかったのだ。

「陛下、この遺言のとおりだとすると、金縢之詞は」

王は頷いて、ヤギョンに向き直った。

「これが、そなたを成均館に送り込んだ本当の理由だ。チョン・ヤギョン博士」

王の目には、ただならぬ気配が漂っている。ヤギョンは自らが背負う事の重大さに、言葉も無くその場に立ち尽くしていた。


*   *   *

王宮から戻ったヤギョンは、官服を着替えるのも忘れ、成均館の薬房で一人物思いに沈んでいた。
恩師の残した暗号、金縢之詞………。様々な憶測と可能性が、彼の脳裏に浮かんでは消えた。

「チョン博士」

そこへ、いそいそとやってきたのは大司成だ。彼は、綺麗に折り畳んだ白衣をヤギョンの前に置きながら、言った。

「あなたは医術にも詳しいとお聞きしましたのでね。大射礼までの間、学生たちが怪我をしたときに備えてください。───聞いてます?」

無反応なヤギョンに構わず、大司成は続ける。

「何せ、大射礼は陛下もご覧になる一大行事です。この年寄りが中央に戻れる、ともすると最後の機会になるやもしれません。よろしく頼みますよ、チョン博士」

大司成はにんまりとした笑みを浮かべてぎゅっとヤギョンの手を握り締めたが、彼は相変わらず上の空だ。大きなため息を一つついただけで、大司成の存在など全く目に入っていない様子である。
大司成はたちまち不機嫌になって手を離すと、持っていた名簿をぽんと机の上に放った。

「チョン博士、陛下がご覧になるこの名簿も、明日までに整理しておいてくださいね!ぷん!」

微動だにしないヤギョンを残し、大司成は足音高く薬房を出ていった。


*   *   *

「おい、テムル。同室の連中はどうした?一緒に練習しないのか?」

弓場に設えられた東斎の天幕の下。一人、弓の練習をしていたユニにビョンチュンが薄ら笑いを浮かべながら話しかけてきた。背後には例に漏れず、掌議ハ・インスとその他取り巻きたちがいる。

「今は、練習時間じゃないので」
「じゃあ、お前はここで何してる」
「ぼくは………足を引っ張らないように、一人で練習しようと」

ひひひ、とビョンチュンは歯を剥き出して笑った。後ろで、コボンも似たような顔で笑っている。猿だってこんないやらしい顔はしない。ユニは気分が悪くなった。

「ああ、イ・ソンジュンに従って、相変わらず東斎で老論と一緒ってわけだ。お前も苦労するな」
「それで奴のいいつけどおり、練習してるのか。ついでに優勝しろってか?」
「言われてやってるんじゃありません。ぼく自身の考えです」

つい、ムキになってしまうのはこの人たちの顔のせいだ。生まれつきの造作とか、そういう問題じゃない。表情には、人の品位ってものが現れる。彼らに比べたら、この間泮村の肉屋で見た白丁のほうが、強面ではあったがよっぽど凛々しい顔つきをしていた。あの白丁に絹の服を着せたら、彼らよりずっと似合うだろう。

「こいつ、口の減らない野郎だ」

身を乗り出そうとしたビョンチュンを手で制して、インスがユニを見た。

「老論が東斎にいては、いけませんか」

ユニの問いに、インスは「何?」と片眉を上げた。

「掌議は、成均館で無事に過ごしたいならよく考えろと、そうおっしゃいましたよね。だからぼく、考えたんです。掌議がそれほどの力を持っているなら、そして、老論が東斎にいるのが間違いだというなら、掌議が原則を変えれば済むことです。『寄宿生は党派別に、東斎と西斎に別れる』。それが規則なら、あのイ・ソンジュンだって従うはずです」

「黙れ!この……」

いきり立つビョンチュンを遮り、インスは面白そうに言った。

「つまり、イ・ソンジュンは成均館の規則に従っているだけで、間違ってはいないと。そう言いたいわけだな」

インスは東斎と西斎の天幕の間にある低い柵を越え、ユニに近づいた。

「なるほど。確かにお前の言うとおりだ。私が浅はかだった」

ユニの握っていた弓を取り上げ、彼は笑った。成均館の掌議に相応しく、上品な微笑だ。

「詫びの代わりに、弓を教えてやろう」


*   *   *

東斎の縁側で、ソンジュンは手にした弓の弦を何度か軽く引っ張り、具合を確かめた。
この弦はさほどきつく張られているわけではないが、ユンシクのあの腕力では引くことはおろか、矢をつがえることも難しいだろう。かといって弦を緩くすれば弓の威力は落ち、的に届かなくなってしまう。

まずは基礎体力か………だが、間に合うのか?

考え込んだソンジュンのもとに、斎直の一人、チョンドンがばたばたと走ってきた。少しぽっちゃりとした風貌がどことなくスンドルを思わせるその子供は、ユンシクの美貌に憧れがあるらしく、よく建物の影から彼をこっそり覗き見ているのをソンジュンは知っている。

「どうした?そんなに慌てて」
「た、大変です!弓場で、テムル様が………!」

さっ、と顔色を変えたソンジュンは、縁側を飛び降り、丕闡堂へと駆け出した。


*   *   *


「お前が勝つべきは、他人ではなく、お前自身だ。矢を恐れるお前自身こそが、敵なのだ。私が、それを教えてやろう」

高らかにそう言って、弓を構えるハ・インス。彼が狙う的の前には、林檎を頭に乗せたユンシクが、顔面蒼白で立ち竦んでいた。弓場に飛び込んだソンジュンが血相を変え、インスの腕を掴んだが、間に合わない。矢は放たれ、真っ直ぐにユンシクへと向かっていく。

そのときだ。黒い影が脇から飛び出してきたかと思うと、ユンシクに体当たりするように覆い被さり、そのまま地面にどさりと倒れこんだ。インスの放った矢は、ユンシクが背にしていた的の上部に深々と突き刺さっていた。

ユンシクを抱きかかえた黒い影が、こちらに顔を向けてインスを睨みつける。その凄まじい形相は間違いなくムン・ジェシンだ。
ユンシクの無事を確認したソンジュンはほっとすると同時に、激しい怒りに身を震わせ、叫んだ。

「何をするんです!」

インスは何を大騒ぎしてるんだとでも言いたげに、口の端を上げてソンジュンを見た。

「後輩を指導していただけだが?」

ソンジュンは拳をきつく握りしめた。殴りつけたいのをどうにか堪えたのだ。振り返ると、ユンシクを抱き起こすジェシンが見えた。ユンシクは気を失っているらしく、ぐったりしている。
インスなどに構っている場合ではなかった。ソンジュンは柵を乗り越え、ユンシクの元へと走った。




薬房では、チョン・ヤギョンが大司成の置いていった名簿を広げ、大射礼の準備を始めたところだった。これから学生らをそれぞれの部屋に分けて、その編成ごとにまた別の名簿を作成しなければならない。
どうやら今夜は徹夜になりそうだ、と覚悟を決めたその時、ふと、今日王宮で見たばかりの名がそこにあることに気づき、ヤギョンは頁をめくる手を止めた。

『金 允植〈キム ユンシク〉 父・金 承憲〈キム スンホン〉』

キム・ユンシク………!あの学生が、キム・スンホン博士の息子なのか?

驚愕のあまり、ヤギョンは名簿を持ったまましばし呆然とした。なんという巡り合わせか。恩師の遺言を初めて見たその日に、彼の遺児の名を成均館の学生の中に見つけるとは。

「先生!キム・ユンシク庠儒が………!」

薬房の扉を勢い良く開けて、斎直のポクトンが飛び込んできた。その後から入ってきたのは、泮宮の暴れ馬、ムン・ジェシンに背負われたキム・ユンシクだった。
薬房の診察台に運び込まれたユンシクの顔は血の気を失っている。そのことにももちろん驚かされたが、ヤギョンが更に驚いたのは、あのムン・ジェシンがこいつを助けないと殺すぞとでも言いたげな目でじっとこちらを見ていたことだった。


*   *   *

目覚めたユニは一瞬、そこがどこなのかわからなかった。

天井からぶら下がったいくつもの麻袋や、壁に貼られた経脈図で、室内に漂うこの不思議な匂いが薬草のものであることをなんとなく理解した彼女は、はっとして身体を起こした。
ふと、胸元に手をやる。いつもそこにあるはずの銀粧刀が失くなっている?
慌てて診察台を降り、どこかに落ちていないかと床の上を探し回るユニの目線の先に、黒い革の靴があった。
顔を上げたユニは、そこに立っていたチョン・ヤギョン博士の険しい視線とぶつかった。

「先生………!」

チョン博士はただ黙って、ユニの顔を見据えている。何か責められているような気持ちになって、ユニは目を逸した。

「ぼくは………もう、大丈夫なので戻ります」

頭を下げ、踵を返した。

「女か?」

びくん、とユニは身体を強張らせた。

「答えなさい、キム・ユンシク。君は───女なのか?」

心臓が、早鐘のように打ち始める。手足が急に冷たくなって、ユニはその場から動けなくなった。






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2011/12/15 Thu. 21:29 [edit]

category: 第四話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

悲しき二番手(T-T)

そうですよね、そういう役どころだし(T-T)
そうは言っても、これでユニちゃんがちょっとでもコロ先輩に揺らいだら、
ソンジュンとの仲を手放しで応援したくはならないんだろうなあ〜
なんか、ワタシの見方ってちょっとヨリム目線かもって思ったりしてます(爆)

びわ #p6hXJKzs | URL
2013/07/13 16:33 | edit

Re: びわさま

> イ・ソジンさんの正祖は若々しくて一途な意志の強さが前面に出てましたが、
> 彼が老獪になるとこうなるんだろうな〜っていう風貌ですよね、チョ・ソンハさん。

うんうん。イ・ソジン正祖様はほんとにもーカリスマ!って感じだったけど、
ぐっさん王(すっかり定着(^^ゞ)はどっか四人を見守る父親的なところがあって、そこも好きです。

> それにしても、いざというときは結構コロ先輩が助けてくれてるんだけどな〜

二番手の悲しい宿命ですヨ……(T_T)
シヌ兄さんもひたすらミニョを助けてたのに、全く報われなかったものねぇ~。

あまる #- | URL
2013/07/13 01:43 | edit

火に油を注ぐ…

というか、恋心に火を付けるというか。
チャンイのやることで、ソンジュンもジェシンも思いが強くなるし、
F4の結束も強くなるし。ドラマの設定、上手いですよね。

王様=ぐっさん説に受けましたww
イ・ソジンさんの正祖は若々しくて一途な意志の強さが前面に出てましたが、
彼が老獪になるとこうなるんだろうな〜っていう風貌ですよね、チョ・ソンハさん。
同じドラマで青年期、熟年期と演じ分けても自然に引き継がれそう。

それにしても、いざというときは結構コロ先輩が助けてくれてるんだけどな〜
ユニたん…ジェシンのこともちょっとは見て欲しかったなぁ〜(T-T)

びわ #p6hXJKzs | URL
2013/07/12 23:19 | edit

Re: ちびたさま

王様とマブダチだったくらいだから、ユニのパパはスゴイ人だったんでしょーね~。
もし生きてたら、ソンジュンみたいな若造は心酔してただろう、きっと(笑)

コロはいいっス。ユニがピンチのときには必ず駆けつけるし~。
ソンジュンがユニに冷たくなったときなんて一瞬、乗り換えちまえ、なんて
ユチョペンにあるまじきことを思ってしまった(^^ゞ

あまる #- | URL
2012/05/17 09:21 | edit

きゃー!アダルトチーム総出演! うふ♪
イ・サンのイ・ソジンさんもいいですが、こっちのぐSっさんじゃなくて王様もす・て・き(きゃー!)
このあたりから色々と話が展開してるんですよね。
王様とユニちゃんのつながりや、チョン・パクサとの縁とか。

この大射礼のエピソードは前半のハイライト。
このユニちゃんをかばうコロ先輩のかっちょいいこと。かっちょいいこと。惚れてまうやろ!
どこにいてもユニちゃんの匂いがするのね。(え?それはヨリム先輩だって!)

もうひとつ、にくったらしいけどチャンイの眼力と冷酷さのあらわれた態度も結構(じゅる)
あー、見どころいっぱいだわあ。この回

ちびた #- | URL
2012/05/15 21:06 | edit

ビバ☆時代考証っ☆

イ・サンでもかけてるよね~☆
お部屋のレイアウトも=Good!
つながっている、韓流時代劇~( ..)φメモメモ
トンイの指輪も、イ・サンで登場☆

♬掘って~、掘って~また掘って~↙えっ?

みずたま #- | URL
2011/12/18 12:13 | edit

Re: あら見てたのね~

まずは先生にバレ、次はコロにバレ………(笑)あ、ヨンハにもバレてたか。
(しかし白粉の匂いで下着の色がわかるってどんなんよ)

やつらがスルドイのかソンジュンが鈍すぎるのか。多分後者で正解?(^^ゞ

あまる #- | URL
2011/12/18 00:00 | edit

Re: ハラハラ・・・

成均館はおっさん連中もなかなかステキですよね~。
ワタクシは何気に王様のファンです。あのメガネが猛烈にラブリィ(^^)

由美かおる………ブフッww

あまる #- | URL
2011/12/17 23:52 | edit

あら見てたのね~

先生にばれちゃったのね~
この時点では
まだ先生にしか知られていないんだよね?
だけど、
同世代の男性には惹きつけられる何かがあった?
きゃ~、フェロモンかぁ???

にゃん太 #- | URL
2011/12/16 22:11 | edit

ハラハラ・・・

今回はハラハラ場面ですね~
ヤギョン博士☆かっこいいですね~(^o^)丿
チョイ悪風で( ..)φメモメモ

あるモノは匂いで気づき、またあるモノは脈診で・・。
あるモノは由美かおる状態で・・・。
ヒ♡ミ♡ツ♡のバレ方も千差万別にございます☆
言ってもいい? 
芙蓉花兄ぃちゃんってば、眼力すごっ(-"-)
でもリアル姉さんにそっくりだべさ☆

みずたま #- | URL
2011/12/16 16:43 | edit

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