スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
web拍手 by FC2

--/--/-- --. --:-- [edit]

category: スポンサー広告

cm --  tb --  

第四話 7 宴のあと 

 雲従街の外れ。
 古びた民家の窓から、細く灯りが漏れている。綿のはみ出した布団だの、農機具だのが乱雑に積み上げられた部屋の中では、いかつい風体の男たちが4人、車座になって何やらじっと手元を睨んでいた。

「くそっ、ついてねぇ」

 男の一人が、握っていた札を座の中央に叩きつけ、悪態をついた。隣の男も、忌々しげに顔を歪め「畜生、こっちもだ」と札を放る。
 その様子を見ていた、ひときわやくざな風情の男───ジェシンは、煽っていた酒瓶を置き、口の端を引き上げて笑った。

「悪いな。頂きだ」

 場に積まれた掛金をざっとかき集める。その腕を、もう一人の男が掴んだ。

「おっと待った。悪いが、俺の勝ちだ」

 そう言って、手にした札をぱんと出す。
 ジェシンは舌打ちしたが、男の足袋の端から覗く札に目ざとく気づき、素早くそれを引き抜いた。男はぎょっとして目を剥いた。

「こりゃあ生憎だったな」
「てめぇ!イカサマか!」

 男たちが掴みかかった、そのときである。扉を蹴破るようにして、捕盗庁の役人たちがどっとなだれ込んできた。

「全員捕らえろ!」
「一人も逃すな!」

 ジェシンは自分に向って振り下ろされた警棒をかわすと、鋭い蹴りを役人の鳩尾に食らわした。狭い小屋の中で組んずほぐれつしている男たちを尻目に、逃げるが勝ちとばかり通りに走り出たが、そこで彼を待っていたのは十数人もの役人たちだった。
 補盗庁が、たかが賭場の手入れにここまで人員を投入することはない。取り囲んだ役人たちの中に見知った顔を見つけ、ジェシンは彼らの真の目的を悟ったのだった。

 役人たちに拘束されたジェシンが連行されたのは、司憲府〈サホンブ〉だった。そこは、三司〈サムサ〉と呼ばれ、司諫院、弘文館と並ぶ王に最も近いと言われる三官庁の一つである。官職にある者を監督する官庁に彼が連れてこられた理由は、たった一つだ。だがそのたった一つの理由が、彼を苛立たせ、粗暴な行動に走らせている原因とも言えた。

「放せ!」

 両脇を抱えられ、無理矢理椅子に座らされたジェシンは、役人たちの手を振りほどくと、荒い息をついた。

「───情けない奴だ」

 こちらに背中を向けて立っていた男が、振り向いて吐き捨てるように言った。この司憲府の長である、大司憲〈テサホン〉ムン・グンスである。
 はっ、と小馬鹿にしたように笑うジェシンに、グンスは声を荒らげた。

「いつまでそうやって、放蕩を続けるつもりだ、ジェシン!死んだ兄に、恥ずかしいとは思わないのか!」

 ジェシンの表情が、さっと強張った。膝の上の拳が、血の気がなくなるほど強く握り締められている。

「それを言う資格が………貴方にありますか、父上」
「何だと?」

 乱れた前髪の隙間から、剥き出しの敵意が覗いた。

「世間から何を言われようが知ったことじゃない。ですが、父上は別です。貴方に言われると………吐き気がする」

 立ち上がったジェシンの前に、司憲府の役人たちが立ちはだかる。ジェシンは座っていた椅子を掴むと、床に激しく叩きつけた。繊細な彫りの施された椅子は、バラバラに砕け、辺りに飛び散った。
 唖然とする役人たちを残し、ジェシンはつかつかと大司憲の執務室を後にした。


*   *   *


 成均館の至る所に植えられた木々は、朝靄の中、滴るような緑の葉をいっぱいに繁らせている。その枝を揺らす風が、縁側で眠るユニの鼻先にも届き、彼女は小さくくしゃみをした。
うっすら瞼を開け、二、三度ぱちぱちと瞬きする。ぼんやりとした視界がやがてはっきりしだすと、間近にあるジェシンの顔がじっと自分を覗き込んでいるのにようやく気づき、腰を抜かしそうになった。

「コ、コロ先輩!戻ってたんですか?」
「お前、なんでこんなとこで寝てる?」

 至極当然の疑問だろう。夕べは結局部屋に戻れぬまま、縁側の柱を枕にして一晩を過ごしてしまったわけだ。だが同室生が裸で寝てるので、とも言えず、ユニは返事に困った。
 ジェシンはどうでもよさそうにばりばりと首の後ろを掻くと、中二房の扉を威勢よく開けた。慌てたユニは思わず両手で顔を覆った。

「───お戻りですか、コロ先輩」

 静かな声が中から聞こえて、ユニはまだ半分手で顔を隠したまま、恐る恐る部屋を覗いた。

 思わず、自分の目を疑ってしまった。

 蹴散らされた布団も、ぐしゃぐしゃに放り出された服も消えていた。中二房の室内はまるでもとからそうだったようにきちんと片付いており、昨晩の痕跡は跡形も無い。そこに、文机の前でぴしりと背筋を伸ばして座るソンジュンがいた。

 ジェシンは返事もせず、ずかずか足を踏み入れると床の上にごろりと横になった。ソンジュンが、読んでいた書物にまた視線を落とす。人にあれだけ大変な思いをさせといて、優雅に講義の予習とはいい気なものだ。ユニは鼻息荒くソンジュンの正面に立った。

「ゆっ、昨夜のことだけどっ!」

 ソンジュンは書物から顔を上げ、ユニを見た。

「昨夜、何かあったのか?」

 ユニは呆れ返って口をぱくぱくさせた。この取り澄ました顔!まるでいつも通りだ。昨夜はあんなに酔いつぶれてベロベロで、うら若き乙女の目の前で素っ裸にまでなったくせに。何なの、このスッキリした顔は!

「イ・ソンジュン!あんたねぇっ!」
「静かにしてくれないか。勉強の邪魔だ」

 静かにしてやる。今この場で、この男の首を全力で締め上げることができたら、一生口をつぐんでたっていい。
 ユニは本気で、そう思った。


*   *   *


「坊ちゃん、さあ、これを飲んでください」

 人けのない東斎の裏手。スンドルが差し出した蜜水を、ソンジュンは頑なな表情で押しやった。

「ここへは来るなと言っただろう」
「んなこと言ったって、坊ちゃん一人にしておくと騒ぎを起こすじゃないですか。なんで、飲めもしない酒を飲んだりしたんです?」

 ぐっ、と一瞬言葉に詰まる。

「それは………誰に聞いた」
「都中の人が知ってますよ。左議政様の一人息子がぐでんぐでんに酔っ払ってえらい有様だったって、みんなしてペラペラ………」

 ソンジュンの脳裏に、昨夜の出来事が目まぐるしく、だがはっきりと蘇ってきた。途端、猛烈な吐き気がこみ上げてきて、彼はたまらずスンドルの持っていた蜜水を奪い取った。

「ああ、ゆっくり飲まなきゃ、ゆっくり」

 一気に蜜水を流し込んだせいで咳き込む主人の背中を、スンドルが叩く。ソンジュンは口元を拭いながら「大丈夫だ」と平静を保とうとしたが、それもほんの一瞬だった。すぐに身を折り曲げて、地面に向かって情けない声を出す羽目になる。

 変だとは思ったのだ。
 目が覚めたら、やたらと喉が乾いていて、足元がなんとなく心許ない気がして。そこに目をやると、下衣も何も履いていない足があった。それが自分の足だと理解するまで、一時を要した。

 なんで裸?!

 愕然とした。

 この吐き気はまだ残っている酒のせいだ。ソンジュンは必死にそう思い込もうとした。
 決して、昨夜の失態のせいじゃない。あんな失態のせいじゃ………

「おえっ………」
「あああ、もう出しちゃってください、ほら!」

 スンドルは後ろからソンジュンの身体を抱え、持ち上げては下ろすを繰り返す。されるがままになりながら、ソンジュンはぐらぐらする頭と悪夢のような記憶に、苦しげな声を漏らすのだった。





↓楽しんでいただけたらポチっとお願いします
にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
スポンサーサイト
web拍手 by FC2

2011/12/07 Wed. 21:23 [edit]

category: 第四話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

cm 7  tb 0 

コメント

確かに〜!

そうでしたね、ユンシクが女だ!って分かってからも、
耳元ささやきやってましたよね(<それで男色騒ぎになったという…)
女性に免疫ない割に、自分がやってることは…?天然の女たらし…??(^_^;)

びわ #p6hXJKzs | URL
2013/07/13 16:19 | edit

Re: びわさま

近い近い近い!ってしょっちゅう言ってるだろうなー。ワタシがユニだったら(笑)
とても毎回心臓がもちませんワ。

コロはどうもそういう距離で人と話すのが癖みたいなので、実は女子のユニ相手にもフツーにそれやっちゃって、なんか知らんけどドギマギ、っていう感じ?爆萌えです(*>ω<*)

あまる #- | URL
2013/07/13 01:16 | edit

コロ先輩の起こし方がヾ(≧∇≦)

ジェシンの、ユニへの顔の寄せ方がまた、たまらないんですよね〜
目の前じゃなくて、ちょっと上から、耳元でささやく感じが…くぅ〜(すみません)
それでその後、ユニが目を覚ますとちょっとドギマギしてるんですよね。
コロ先輩もこの辺からもう、意識してるなって(^^ )

そしてソンジュン…いくらバツが悪いからって、
自分が起きたら外のユニちゃん入れてやりなよ〜!
全くぅ┐(´д`)┌

びわ #p6hXJKzs | URL
2013/07/12 22:39 | edit

Re: ちびたさま

このシーン、あまるはコロたんの敬語にヤラれました(笑)
普段あんななのに、お父さんにはちゃんと敬語で話してんですよ~。
日本語の文字にするとまたひときわ萌え(爆)
初登場の場面といい、入浴シーン目撃後の行動といい、彼はジェントルです。ソンジュンよりよっぽど(^^)

原作のコロは、ドラマよりもユニへのストレートな想いが外に出ちゃってる感じがして、読んでて
切ないです。ドラマの方は、ユニからすると兄貴的な立場を崩さなかったからな~。

あまる #- | URL
2012/05/15 01:34 | edit

コロ先輩のこのシーンを見た時に『大好きな父親を嫌いだと言わないといけない』けれど『亡くなった兄上はもっと好きだったんだ』というような気持ちが伝わって結構切なかったです。
息子が本気で父親を嫌いになれるわけないのにね。

お父さんも自分が原因で優秀な息子をこんな風にしちゃって・・・って責めてるんだよねえ。
コロ先輩に限ってはこのドラマの方が奥行きのある人物になってますね。
(ほんと、この役をよくぞ彼にまかせてくれた!と毎回見直すたびにほれなおします)
ヨリム先輩は原作・ドラマとも五分五分かな?

で、イ・ソンジュンはこのスンドルにトントンされるシーン、可愛くって好き。
原作のイ・ソンジュンでは絶対にお目にかかれないシーンだわ。
1話目のイ・ソンジュン君子から、段々とソンジュンに変わっていく節目のシーンのような気がして息子の成長を見守る母の気分。

ちびた #- | URL
2012/05/13 20:04 | edit

Re: なんで裸?!←えっ?

スンドルは下男の割に坊ちゃんに強気なとこがけっこう好きww
坊ちゃんにバックハグ………うーん羨ましいぞ。

あまる #- | URL
2011/12/10 01:23 | edit

なんで裸?!←えっ?

はずかしい、おもひでは・・・・。
知らんふりが、一番☆
とぼけちゃってさ~☇オイオイw

この体験から、ゼッタイ!ユニにはアタマが上がらなくなったと思う→そうそう☆

コロさん、ケナゲデス~ぐっすん(>_<)
スンドリ、《怪物くん》の俺たちゃ三人組よ~♪て、いうあの歌が聞こえてきそう。
こちらも、ケナゲです~。スンドリ大好きキャラですぞ~❤❤❤

みずたま #- | URL
2011/12/08 13:29 | edit

コメントの投稿

Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://amaru0112.blog.fc2.com/tb.php/50-c1e6d30f
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

2017-10
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。