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第四話 4 壁 

「あんなところまで来られちゃ困るよ」

 貰冊房の二階。酒房からここまでは大した距離はないとはいえ、急かされたので軽く酔いが回ってしまったユニは、眉間に皺を寄せてファンを睨んだ。

「お忘れですか?前金はたっぷり支払ってるはずです」

 商人魂とでもいうのか、ファンはこういうことには容赦ない。相手が飲み会の最中だろうが何だろうが、全く意に介さないのだ。たとえ親の葬式の時でも、仕事とあらば墓穴の横でも筆を握らせかねない。

「書いていただきたいのは恋文です。といっても、ありふれた内容では困ります。会いたい気持ちを伝えつつ、だからと言ってあらかさまなのもダメで………つまりえーっと………」

 その後を引き継いで、ユニは言った。

「つまり、その男を好きでたまらないが、気付かれたくないってこと?」

 ファンが頷く。だったらなんで恋文なんか出すんだろうとユニは思ったが、それが女心とかいうものなのだろう。長いこと男の格好をしているせいか、ユニにはさっぱり理解できないが。

「まあ、やってみるよ」

 そう言って引き返そうとしたとき、書架の影から一人の女が恐る恐るといった感じで顔を出した。

「あの、学士様の中に、イ・ソンジュン様はいらっしゃいませんか?」
「彼に何の用?」
「それはその………シ、シ………“シンゲンショハン”?」

 ユニが首を捻る。女は急に焦り始めて、つっかえながら言った。

「だ、だからあの、か、漢字で書くと、身体の身に、言語の言、書物の書とそれからハンは………あらやだ、なんだっけ」
「『板』よ!板書の『板』!」

 女とはまた別の声が、書架の影から聞こえた。よくよく見ると積み重ねた書物の隙間から、鮮やかな萌黄色の長衣が見え隠れしている。どうやら女の主人らしい。本当の依頼主はこっちか、とユニは納得した。

「あ、ああ、つまりその、とにかく、立派な方だと噂に聞きましたので」
「確かに、身言書“判”が揃った男かもね。あまりに立派すぎて、彼はああいう場所には来ないんだ。残念だけど」

 ユニが言うと、女はがっかりしたように眉尻を下げて、主人の方を見た。
 イ・ソンジュンを一人の花婿候補として見るなら、確かに完璧だろうとは思う。家柄は申し分ないし、容姿も立派、成績優秀の出世頭。言葉遣いも態度も礼節を守っていて一分の隙もない。けれど人間、それだけじゃ駄目なんだと彼を見ているとつくづく感じる。あんなのと一緒にいたら、きっと周りの人間は苦労させられるだろう。

 さて、どう書いたものか。

 恋文は、ユニの一番苦手とする仕事だ。しかも今回の依頼はややこしい注文がついている上に、相手はあのイ・ソンジュンときている。難易度で言えば科挙の答案の比ではない。
 貰冊房を出、酒房へと戻る道すがら、書き出しの部分を彼女は早くも思案し始めた。



※身言書判………官吏登用の人物試験の四つの規準。容姿・言葉遣い・筆跡・文章のこと。



 *   *   *


 尊経閣はいつにも増して静かだった。今夜は先輩儒生たちだけでなく、新入生たちもほとんどが出払っているせいだ。
 しんとしたその室内の一角で、論語の頁を捲っていたソンジュンの手が、ふと止まった。

『結局お前は、お前が毛嫌いしてる老論の息子連中と何も変わらねぇんだよ』

 ここに来る前、ジェシンに言われた言葉が頭から離れない。

 党派に拘っていては、人材も、思想も、偏っていびつになっていくばかりだ。孔子が弟子たちと論じ合い、国のあり方を追求していったように、異なる考え方や価値観を持つ者たちが意見を持ち寄ってこそ、最良のものを生み出すことができるはず。その考えは、以前からずっと変わりはしない。

 だが結局のところ、自分の周囲に壁を巡らして、相容れない者を排除しているのは同じということか。ただそれが、党派という名の壁ではないというだけで───。

 ソンジュンは、ぱたりと本を閉じ、その表紙をじっと見つめた。まるでそこに、孔子の答えが書いてあるかのように。
 
 やがて彼は、席を立った。


*   *   *

 ユニが戻った頃には、儒生たちのほとんどはすっかり酔いつぶれ、酒席にはひとしきり騒いだ後の気怠さだけが残っていた。ヘウォンは片膝を立て、空になった皿を箸でしきりに突付いている。

「つまりだ、俺たちは成均館にいる間、イ・ソンジュンの引き立て役ってわけだ。ったく、ムカつくったらありゃしねぇ」

 こちらもかなり酔いが回っているらしく、ろれつの回らない舌でくだを巻く。

「成均館だけじゃないさ。出仕することになったって、ずーっと同じ。なんせあいつは一番の出世頭だからな。美味しいところはみんな、あいつに持ってかれちまうのさ」

 ウタクが自嘲気味に言った。珍しくいつもの自慢話はすっかりなりを潜めている。
ドヒョンが、茶碗になみなみと酒を注ぎながら言った。

「若造のくせに、年上の者に対する礼儀もなきゃ、愛想もない」
「そうそう。今日だって結局は、父親の話を持ち出しただろ」
「“親の七光りと言ったか?是非とも使うべきだったな”」

 乾いた笑い声が、酒房の淀んだ空気の中に漂って、消えた。

「おい、お前も何か言ってやれ、テムル!」

 丁度飲み干した盃を、ユニは卓子に叩きつける勢いで置いた。

「───卑怯者」

 ぽつりと呟いたユニに、3人が「そうだ!」と賛同の杯を掲げる。

「ほんっとに情けない」
「いいぞぉ!」
「なんてみみっちいんだ」
「まったくだ!」
「あんたたちのことだよ!」

ぴたりと、男たちが動きを止め、ユニを見た。

「少なくともイ・ソンジュンは、こんな真似はしない。大の男が揃いも揃って陰口なんて。恥ずかしくないの?!成績に不満があるなら、先生に言えよ。いや、ぼくなら真っ先に尊経閣に行くね。イ・ソンジュンだろうが、チョン博士だろうが、実力で打ち負かしてやる。それが男ってもんだろ」

 なんだよぅ、と、ヘウォンが不満気に口を尖らせた。

「お前だって、奴のこと嫌ってたろ?」
「そうだよ!あんたたちが想像もつかないくらい、あいつが大っ嫌いだ!………だけど」

 ユニは小さく首を振って、言った。

「だけど、こういうのは良くない。今日のあいつは、何も間違ったことは言ってなかった。ほんとはみんなだって、分かってるはずだろ?」

 ユニの言葉に、ヘウォンとウタクは急に潮垂れて、卓子の上に目を落とした。
 そう、誰も本気で思ってやしないのだ。ソンジュンが博士に官職をちらつかせて、あの講義で可を貰ったなどとは。
 講義の最中に堂々と心付けを要求するチョン博士を、あのバカ正直とクソ真面目が服を着て二足歩行しているようなソンジュンが許せるはずもないのはよくわかっているのに、絡まずにはいられない。そんな彼らの気持ちは、ユニにもなんとなく理解できる。
 彼らは、妬ましくてしょうがないのだ。イ・ソンジュンという男が、あまりにも完璧すぎて。
 自分にないものを、すべて手にしているように思えて。

 完璧な人間なんて、いやしないのに。

 それは、当のイ・ソンジュンを見ているとよくわかる。今日だってそうだ。
いつもいつも、あの王の前でさえ、憎らしい程冷静な態度を崩さないイ・ソンジュンという男が、珍しく怒気を露わにしていた。
 『親の七光り』。
 ヘウォンにそう言われたことが、彼にとっては相当な屈辱だったということは容易に想像がつく。

 もしかしたら彼は、誰も知らないところで、物凄く努力をしているのかもしれない。この世の誰にも、自分に向かってそう言わせないための努力を。

「いや、流石にユンシクは懐が深い!大物〈テムル〉の名に恥じんな!さあ、そんなしょげた顔しとらんで、今夜は思い切り飲もう!」

 しんみりとしてしまった場を盛り上げようと、ドヒョンが徳利を持ち上げる。ちょっと用を足しに、と外に出ていったウタクを見送って、三人はまた杯を重ねた。

 ユニが、追加で運ばれてきた肴に箸を伸ばそうとしたそのときである。
 ウタクが衣服の前を整えるのもそこそこに、転がるように部屋へと戻ってきて叫んだ。

「テ、テムル!大変だ!奴が、イ・ソンジュンが来てる!」

 ヘウォンが鼻で笑った。

「嘘つけ。酔って幻でも見たんだろ」
「本当だってば!信じてよ!ほんとに表にいるんだって!」
「───行ってくる」

 ユニは箸を置き、席を立った。


 外に出ると、風は生温かったが幾分気分はすっきりした。酒房のざわめきが、開け放った窓から漏れ聞こえては来るが、壁一枚隔てただけで、通りはまるで別世界のように静かだ。その片隅に、背の高い両班の青年が一人、こちらに背を向けてぽつんと立っていた。

「そんなとこに立ってないで、入ってくれば?」

 ユニが声を掛けると、彼は振り向きはしたものの、すぐに目を逸した。

 もしかして、気まずいとか………思ってる?

「酒で胡麻化すやり方は大嫌いだって、言ってなかったっけ?」

 少しだけ意地悪をしてやりたくなって、そんなことを言ってみた。

「嫌いでも、団体行動として必要と判断すれば、参加する。それが僕の原則だ」

 相変わらず素直じゃない。まったくこの男は、とユニがしらっとした目で見上げると、ソンジュンは急に不貞腐れたような顔をして、言った。

「───だから来た」

 ぷっ、とユニは吹き出して、ソンジュンの手を取った。

「行こう、ほら!」





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2011/11/16 Wed. 17:13 [edit]

category: 第四話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: あらちゃんさま

ユニはソンジュンにとって初めての友であり、恋人でもあり、とにかく全てなんですねっ(*>ω<*)
まさに生まれたての雛鳥が初めて見たモノを親だと思い込むがごとく!(違)

ユチョの表情はほんとに千変万化です。
ソンジュンはかなり抑えて演じてる方だと思うけど、それでもちゃんと伝わってくるから、スゴイと思う。
どんだけ持ってるんだ、この人わ。

あまる #- | URL
2013/07/12 02:15 | edit

可愛い♡too

久しぶりに再放送で4話を見たので、こちらにも彷徨ってまいりました。
むっちゃ楽しめました!

>あんなのと一緒にいたら、きっと周りの人間は苦労させられるだろう。

ソンジュンって人にも厳しいけど、自分に一番厳しいですよね~。(私とはあまりに大違いだ・・・)苦労させられるからあんな奴はよしたほうがいい、と思う相手に限って恋に落ちる♡ってね。
何かあるたびに親の七光りを出されることはきっと学堂時代から何度も繰り返されてきたことと想像します。そのたんびに怒りまくっただろうし、ますます努力して言わせないようにしてやるって思ってきたんだと。
そういう矜持をユニはさらっとわかってくれる。ユニも似たとこあるということでしょうが、だから長く一緒にいて、相手を知るほどに、友として離れられなくなりますよね。
男女を超えて人間として似てると思う。ソンジュンもユニもそういう相手には今まで出会ったことなかったんじゃないかな?
まさにIt’s my destiny.
なに夜中に一説ぶっちゃってるんでしょう、私。

ユチョンって、ちょっと傷ついた感のある表情、すごいいい!なかなかこの表情出せる人いないと思う。拗ねた感じも自然でいい。
あ~も~可愛い~。夜中って感情過多。すみません。m(_ _)m

あらちゃん #- | URL
2013/07/12 01:53 | edit

Re:びわさま

このへんのソンジュンはなんかほんとにまだ子供子供してて、
可愛くてしょーがないです(笑)
愛と苦悩を知って人はオトナになるのだね……。

結果的にはコロ先輩の忠告?を聞いたわけだから、
根はやっぱ素直なんでしょうね、ヤツは。ボンボンだし。






あまる #- | URL
2013/07/12 01:49 | edit

可愛い♡

またも「原則」という言葉を自分に言い聞かせながらやってきたのね、ソンジュンw
このシーンから次の朝に続くまでのところ、
ユニもだんだんと意識し始めてますよね、ソンジュンのこと。
ここではどっちかっていうと、世話の焼ける弟って感じ?ですが、
ユニは元々お姉さんだし、
ソンジュンはきっと蝶よ花よと育てられた(男の子だけど(^_^;))お坊ちゃんだから、
そこから意識が変わってくるのかな?

びわ #p6hXJKzs | URL
2013/07/11 14:34 | edit

Re: 可愛い

原作のソンジュンは女子にとってはほんとに完璧過ぎて、こー言っちゃなんだが
ユチョがやってるとこがあんまし想像できないんですよね~(^^ゞ
人間的にまだまだ欠陥のあるドラマのソンジュンはリアルに愛しくてならんです(^^)

あまる #- | URL
2012/05/13 00:43 | edit

可愛い

ようやく、学生らしく人間ぽくなってきたイ・ソンジュン君子。
ユニちゃんのように損得なくかばってくれる人も、コロ先輩のように、世間を教えてくれる人も、ヨリム先輩のように兄のように厳しく(なのか??)接してくれる人もなかったイ・ソンジュン君子にようやく『仲間』ができ始めた最初の瞬間ですね。

原作のイ・ソンジュンは完璧すぎますがこちらのイ・ソンジュン君子は年相応な感じがしますよね。
拗ねたような顔をしたイ・ソンジュン君子をユニちゃんは弟みたいで少し可愛いと思ったはずだ。

恋のはじまりー それはいつも突然 ふふふ♪

ちびた #- | URL
2012/05/12 12:55 | edit

Re: にゃん太さま

亀レスですんまそん^^;

> 他の連中に何を言われようと、臆することは無いけど、
> ユニに言われる言葉ひとつひとつにも翻弄される自分

自覚はないけど、このときはソンジュンの中ではもー既に始まってたのねえぇぇ~
ユニはもちょっと遅くて、多分大射礼のあのへんだと思うんだけど~←突っ走る妄想
ああ~早く話を進めなければ………(^^ゞ

あまる #- | URL
2011/11/21 01:08 | edit

身言書判?

こんな台詞があったの?



ソンジュンは、なんだかんだ言っても
ユニのこと、気に掛けていたからね~

他の連中に何を言われようと、臆することは無いけど、
ユニに言われる言葉ひとつひとつにも翻弄される自分

男に(自覚していなくて)恋心みたいな感情なんて
「原則」には無いから悩むわな~
だからこそ、笑える

にゃん太 #- | URL
2011/11/18 14:51 | edit

Re: りゅうれんさま

ワタシもこのあたり、すごい好きなシーンです。(^^)
特に、「あいつが大っキライだ!」ってユニが言ったとき、ちょっと傷ついたような顔するユチョ、あに、ソンジュンが愛しくてしょーがない(*´`*)
ゲップだのゲロだのマッパだの、ヤツの貴公子のイメージが一気にガラガラと崩れた回でもありました(笑)ま、そこがたまらんのですが。

次回に入れるのは流れを考えるとちと難しいかなとは思うのですが、このあたりのソンジュン目線はどこかでぜひとも入れたいですね~。頑張ってみます。(^^)

あまる #- | URL
2011/11/18 01:50 | edit

Re: みずたまさま

> 今晩の枕詞にするよ~♪<睡眠学習の♡>

がはっ!いったい何の睡眠学習を?!(笑)
まったくね~。このソンジュンがあんなことしたりこんなことしたりするんだものね~
このツンデレめ!

あまる #- | URL
2011/11/18 01:35 | edit

雷に打たれたような・・・

こんばんわ~。
このシーン、そして、これに続くシーン、物凄く好きなんです♪

お店の外でユニの言葉を聞くソンジュン。正に「雷に打たれたような」もしくは「目から鱗」のような、ビックリお目目で立ちすくんでいましたよね~。彼の心中やいかに。

続きを楽しみにしております♪

りゅうれん #/ZrAXPAI | URL
2011/11/17 21:01 | edit

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このコメントは管理人のみ閲覧できます

# | 
2011/11/16 22:25 | edit

おほほ~
>あのバカ正直とクソ真面目が服を着て二足歩行しているようなソンジュン
今晩の枕詞にするよ~♪<睡眠学習の♡>
そんなお方が、キョジャンガクでは布団に侵入~☆
人間変わるものね~
あまるちゃん、座布団3枚~ヤマダく~ん~。
( ^^) _旦~~はい、かしこまりました~

みずたま #- | URL
2011/11/16 22:22 | edit

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