スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
web拍手 by FC2

--/--/-- --. --:-- [edit]

category: スポンサー広告

cm --  tb --  

第三話 4 罰則 

「解けなかった、と言ったか?遂行できなかったのではなく?」

 まるで、そうすれば彼の鉄面皮に僅かなりとも綻びが見つかるとでもいうように、ヨンハはソンジュンの顔からじっと目を逸らさずに、訊ねた。

「花中君子が蓮の花だということはすぐにわかっただろう?北村の兵曹判書宅には、行かなかったのか?」
「行っていません」

 ヨンハの追求にも、ソンジュンは眉一つ動かさない。それどころか、逆に彼を糾弾するような尖った視線を向けてくる。
 インスの脇で、ビョンチュンがコボンをつついた。

「見たんだろ?その目で奴を見たと言ってたよな?」
「おかしいな……幻だったのかな?」

 ユニが首を傾げ、隣に立つソンジュンを不思議そうに見上げた。

「さっき、北村の方から帰ってきたよね?なんで……」
 
 ソンジュンはユニの言葉を遮るように、小さく咳払いして、視線を逸らした。そんな二人の様子を、ヨンハが見逃すはずはなかった。
 しかも、あの小憎らしいほど堂々とした態度。イ・ソンジュンともあろう者が、新入生たちの中でただ一人、密命を完遂できなかったというのに、だ。
 間違いない。彼は兵曹判書の屋敷へ行ったのだ。そしておそらくは、芙蓉花にも会っている。
 なのに、何故嘘をつく?

 ヨンハの疑問を余所に、インスが、ソンジュンを凝視したまま言った。

「どんな罰則があるか……分かっているだろうな?」



 泮村には、全く違う二つの世界が存在する。
 一つは泮宮、またの名を成均館。もう一つは、それ以外。
 その二つの世界を隔てる川に架かるのが、泮水橋である。

「いいぞー!もっと出せ!」

 その泮水橋の上、儒生たちのはやしたてる声に けたけた笑いながら、川に向かって放尿しているのは幼い斎直たちだ。
 成均館の雑用係である彼等は、おそらくこの時のために厠へ行くのを相当我慢させられていたのだろう。立派な放物線を描いた後の顔は皆、開放感に溢れていた。

「よくやったね。ご苦労さん。いい子だ」

 ヨンハが、戻っていく子供たちの頭を一人一人撫でてやりながら、にっこり笑う。仕事を終えた斎直たちがいなくなると、後には直立不動のまま、無表情に川面に目を落としているソンジュンが残された。

「王の信頼厚きイ・ソンジュンが小便まみれとは、いいザマだな。己の自尊心を傷つけて、せいぜい楽しむがいい」

 インスが、口元に残忍とも言える冷笑を浮かべ、言った。
 カン・ムが合図すると、松明を掲げた儒生たちが数名、橋の上に走り出てきた。追い立て役の彼等は、一様に舌舐めずりでもしそうな顔で獲物を取り囲んだ。
 だがそんな、絶体絶命の窮地においてさえ、ソンジュンの表情は静かだった。取り乱すこともなくただ周囲の上級生たちを一瞥し、橋の欄干に一歩、進み出る。
 彼の手が笠の顎紐にかかった、そのとき。

「お待ちください!」

 思わず、声を上げていた。
 ソンジュンに集まっていた周囲の視線が、一斉にユニへと移る。
 人垣の中から進み出たユニは、橋の上のソンジュンに背を向ける形で、インスの前に立った。

「新榜礼の最優秀者には、何でも望みを聞いて貰える……そういう、褒美があるとおっしゃいましたよね?今この場で、その褒美をいただけませんか」
「何?」
「イ・ソンジュンに、責任を問わないでいただきたいのです」

 どよめきが起こった。なんだあいつ、気でもふれたんじゃないのか?
 そんな声があちこちから聞こえたが、ユニは無視した。インスがユニにひたと視線を据え、訊ねる。

「奴のために、褒美を使うというのか?私には、官吏への推薦権があるのだぞ」
「はい?」

 一瞬何のことかわからなかった。そもそも官吏になどなれるはずのないユニには、インスの言葉は酷く唐突だったのだ。

「お前が望めば、私はお前に官職も与えられるということだ。それでも、イ・ソンジュンのために権利を使うつもりか?」
「はい」

 ヨンハが、ユニを見て呆れたように笑っている。ユニの行動は、彼等からしたら頭がおかしいと思えるのかもしれない。けれど。
 ユニは少しだけ振り返って、ソンジュンを見た。
 いけ好かない奴には違いない。でも、こうしなければ、きっと後悔する。それだけは確かだった。

「───もういい。下がれ」

 インスが言うと、ソンジュンを取り囲んでいた儒生たちが、その輪を解いた。
 ユニはほっと安堵の息を漏らした。自分が川に落とされるわけでもないのに、酷く緊張していたことに気付いた。



 その年の成均館の新榜礼は、こうして終わった。



「キム・ユンシク」

 新入生たちが、それぞれ疲れた表情で清斎へと戻るのに混じり、歩いていたユニを呼び止める声があった。
 振り返ったユニは、相手が口を開く前に、言った。

「礼ならいらないよ。ぼくは、自分の原則に従っただけ。借りは作りたくないんだ。人助けをしたつもりもないし」

 ついさっきソンジュンに言われた台詞をそっくり本人に返して、ユニはほんの少しだけ、溜飲を下げた。ところが。

「余計な真似をしてくれたものだ。これを期に、新榜礼なんて習慣を見直そうと訴えるつもりだったのに」

 唖然とした。もちろん礼など期待していたわけではないが、感じの悪い性格もこうも徹底していると逆に感心する。
 呆れ返って何も言えずにいるユニに、ソンジュンはにこりともせず、

「僕も借りを作るのは嫌いだ。願いがあれば言ってくれ。何であれ、最善を尽くすと約束する」

 言いたいことだけ言って、すたすたと歩いて行ってしまう。
 ふと思った。イ・ソンジュンが最善を尽くすというからには、生真面目な彼のことだ。手を抜くことなく、本当にそうするだろう。ユニにはとても理解できないが、あれが彼なりの流儀というやつなのかもしれない。

 敷石の上を、踵の先ほども踏み外さず律儀に歩いて行く背中に向かい、それはどうも、と肩をすくめた。



 中二房へと戻るソンジュンを、その少し手前の門前で待っていたのは、ヨンハだった。

「なるほどね。こんなくだらない新榜礼の習慣など、守る必要はない。だから、芙蓉花のところには行ってないと嘘をついたのか」

 先程のユニとの会話をどこぞで聞いていたのか、ヨンハは納得したように、言った。

「たとえ小便まみれになろうとも、幼稚な遊びには乗らない。それは君の自尊心故かな?それとも意地?ああ、反抗心ってのもあるか」

 黙っているソンジュンを、ヨンハがすくい上げるように見た。

「───お前のような奴のために、新榜礼があるんだよ」

 それまでとは違う、低く凄みのきいた声に、ソンジュンは思わずヨンハを見返した。彼が、いつもその眉目に漂わせている軽薄さは跡形もなく消え失せ、代わりに、その目には はっとするほどの冷淡な光が宿っていた。

「高貴な家に生まれ、誰にも頭を下げたことのない高慢ちきな奴らの鼻をへし折る───新榜礼の真の目的はそれさ。なぜなら、ここは成均館。父親の地位や財産など、ここでは一切関係ない。偉そうに威張り散らすのはやめて、謙虚な人間になれと、後輩に教えてやるんだよ」

 ヨンハの中にある、何か得体の知れないものに半ば気圧されたようになっていたソンジュンは、ぽん、と扇子で肩を軽く叩かれ、我に返った。

「まあそういうわけだから、あまり恨まないでくれよ。ん?」

 と言ってまた、にこっ、と笑う。たった今彼の双眸に差した、殺気にも似たものは幻だったのかと思わせる、屈託のない笑顔だ。
 飄々として掴みどころのないク・ヨンハという男が、ますますわからなくなった瞬間だった。だが、納得のいかないことを言われて黙っているソンジュンではない。

「では先輩は、新榜礼の経験がないのですね」

 つい、いつもの癖でそう言い返してしまった。

「先輩は、誰よりも派手な身なりで、父君の財力を誇示しておられる。貴方に、新榜礼の教えを説いてくれる者は誰もいなかったと、そういうことでしょう」

 ヨンハは一瞬、鼻白んだような顔をしたが、やがて手にした扇子を ぱっと広げた。

「いやぁ、君は本当に賢いな。やはり陛下は、人を見る目がおありだ」

 ひらひらと翻る扇子に、淡く透ける睡蓮の花。それにじっと目を落とし、ソンジュンは言った。

「───芙蓉花は、貞淑な女性でした。人の口に戸は立てられません。あらぬ噂に、彼女を巻き込むのはよくない。そう、思ったのです。先輩方を侮ったわけでは、決してありません」

 ヨンハは扇いでいた手を止め、ぱたりと扇子を閉じた。そしてソンジュンに真っ直ぐに向き直ると、微笑んだ。

「入学おめでとう、イ・ソンジュン。君を歓迎する」





**************************************************************

あまるですどうもこんにちわ。ここんとこ仕事がたてこんどりまして、ちっと間があいてしまいました~。
忙しい忙しいと言ってるヤツは時間の使い方が下手なだけで、ぢつは暇なんだそうですねっ。
えー下手な暇人なんですヨ!ワタクシ!くそうぅ( ;∀;)
でももーすぐ奎章閣下巻出るし~JYJのアルバムも来るし~頑張れ自分~





↓楽しんでいただけたらポチっとお願いします
にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
スポンサーサイト
web拍手 by FC2

2011/09/17 Sat. 02:43 [edit]

category: 第三話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

cm 8  tb 0 

コメント

Re: 阿波の局さま

この回のヨンハとソンジュンの応酬、すごく好きなんですよね。
ヨンハはソンジュンのことを、キレる男だと認めてはいても、所詮良家のお坊ちゃんと見下してたとこがあったはずで、それが、ここでの会話を境に、ちょっと見る目が変わってる。
ヨンハが口で相手をけむにまくタイプなら、ソンジュンは口で捻じ伏せるタイプ。
キャラの違いが際立ってて、面白いシーンです(^^)

あまる #- | URL
2013/02/01 02:38 | edit

さすが

>納得のいかないことを言われて黙っているソンジュンではない。

あまるさん、うまい!
王にさえ反論するソンジュンですものね。

阿波の局 #bo5zNM.6 | URL
2013/01/31 20:31 | edit

Re: タイトルなし

ユニにはそもそも出世とかって全く関係ないですもんね。
だからむしろ成均館の中では男前に見えるというのがこのドラマの面白いトコロです。

「私には推薦権がある」っていうインスのセリフに、一瞬「ハ?」って顔するユニが
けっこうツボでした(笑)

あまる #- | URL
2012/05/09 21:44 | edit

この助けてもらったあたりから、徐々に壊れ始めるとみてました、イ・ソンジュン君子。

スンドルが居たら代わりに真っ先に飛び込んでそうだなーとか思いつつ、ユニちゃんきっと『まったく、男って奴は出世だの原則だのってそんな事しか頭にないんだろうか?』と半ばあきれていたとも取れて結構笑えました。

ちびた #- | URL
2012/05/08 21:01 | edit

Re: にゃん太さま

おおっと、ニアミス(笑)
ここでは免れたものの、結局川にざっぷん。しかもユニに突き飛ばされてってとこが
ソンジュンのあほ可愛いとこですネ!

あまる #- | URL
2011/09/17 23:29 | edit

Re: みずたまさま

> ワタシもこれがあるから 前にぶら下がってるから 今を乗り切ってます~

ソデスね~(^^)まだ鼻っ面にニンジンがあるだけ幸せだと思わなくてわ~
あ、東方神起のアルバムも頼んでたんだった(爆)

まだまだ残暑厳しーですがお互いふぁいてぃん~♫です!

あまる #- | URL
2011/09/17 23:18 | edit

No title

更新ありがとう!
ここらへん、どうなっちゃうのかハラハラしながら観ていた。

しかし、ソンジュンのポーカーフェイスっぷり、
面白かったな~。

にゃん太 #- | URL
2011/09/17 23:06 | edit

そうです☆その意気です~

>でももーすぐ奎章閣下巻出るし~
ワタシもこれがあるから 前にぶら下がってるから 今を乗り切ってます~
来週、来週☆でもお手元に届くのは・・・3日後
でも ファイティン☆です~

みずたま #- | URL
2011/09/17 10:15 | edit

コメントの投稿

Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://amaru0112.blog.fc2.com/tb.php/37-bdec27cf
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

2017-10
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。