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Fly Me To The Moon 

あまるですどうもこんにちわ。

本日の更新はオクセジャの読み切りです~。
*****************************


キッチンに入って来るなり、ソルヒはああ喉が渇いた、と言って冷蔵庫から缶ビールを取り出した。
それを、まるで水でも飲むかのようにごくごくと喉に流し込むと、ようやく人心地ついたのだろう、ぶはーと盛大な息を吐き出す。
テヨンの大叔母、ソルヒの性格は、彼女が身に纏う服の趣味と同じくらい、パクハにとって理解し難いものだったが、この豪快な飲みっぷりはなかなか悪くないと、見る度に思う。

ソルヒはパクハに向かい、ちょっとちょっと、と手のひらを上下に振りながら、言った。

「今日はご苦労様。あなたのお陰で助かったわ。法事って本当、面倒事が多くて」

家政婦のキム女史と手分けして大量の洗い物を片付けていたパクハは、シンクから顔を上げ笑顔で答えた。

「いいえ、雑用は得意なので、いつでも言ってください」

まあ、ありがたいこと言ってくれるわねぇ、とソルヒは缶ビール片手に甲高い声で言った。

「でもあなた、今朝からバタバタしてろくに食べてないでしょ?食事はちゃんとしなさい。あなたに倒れられたら、私がテヨンに怒られちゃうわ」
「ありがとうございます。あの、テヨンさんは?」
「ああ、お義姉さんの部屋じゃないかしらね。いいかげん遺品を整理しなきゃって言ってたから」

その日は、2年前に亡くなったテヨンの祖母であり、ホーム&ショッピングの前会長でもあるヨ・ギルラムの命日だった。
会社を上げての祭祀〈チェサ=法事〉は、ヨン家にとってまさに一大行事で、参列者の人数も用意された料理の品数もパクハには想像を絶するものだった。
テヨンは、どうせこき使われるだけだから、ウチの法事なんかにわざわざ来ることはないと言ってくれたのだが、事故とはいえ、自分の実の姉がヨ会長を死に至らしめたのは動かしようのない事実で、それを考えると、やはり何かしないではいられなかったのだ。

洗い物をあらかた終え、エプロンを外しながら見た壁の時計は、既に午後11時を回っていた。
祭祀の最中、テヨンはさほど飲んではいないようだったが、今夜はおそらくこちらに泊まりになるだろう。
帰る前に声を掛けておこうと、パクハは二階への階段を上がった。

ヨ会長の部屋は、二階廊下の奥にあった。ドアを軽くノックすると、中から「入って」とテヨンの声が答えた。
開けたドアの向こうでは、こちらに背中を向けたテヨンが、壁に作り付けになっている棚を何やらしきりに引っ掻き回していた。

「テヨンア、私もう帰るね」

そう言うと、驚いたような顔が振り向いてこちらを見た。

「帰る?どうして」
「だって、お店もあるし」
「朝、直接送ってあげるよ。きみも僕の部屋で一緒に寝ればいい」

パクハは仰天してぶるぶると首を振った。

「冗談でしょ。ここ、あなたの実家よ?同じ部屋で寝るなんて」

テヨンは何言ってんの、と笑った。

「きみと僕が同棲してるってことは、ウチの会社の清掃係のおばさんだって知ってる。今更いい子ぶってどうすんの」
「だ、だけど」
「ダメ。もう遅いし、きみは今夜僕とここに泊まる。決まり」

そんなぁ、とパクハが抗議するのに構わず、テヨンはまた棚を漁り始めた。正方形の箱が壁に沿ってマス目状に並ぶそれはどうやらレコード棚のようだった。彼が次々と引っ張り出すレコードジャケットには、“Led Zeppelin”だとか“Miles Davis”だとかの文字が見える。

「何か探しもの?」

つい、興味を引かれて訊いた。

「うん、ちょっとね」

生返事したテヨンは、しばらくの間立てたジャケットの隙間に手を突っ込んでは、一枚一枚アルバムのタイトルを確認するという作業を根気強く繰り返していたが、やがて「お、あったあった」と嬉しそうな声を上げ、一枚の古めかしいLPレコードを取り出してきた。

「なに?」
「ハルモニが好きで、よく聴いてたの思い出してさ」

そう言って、慎重な手つきでジャケットから黒いレコードを取り出す。その円盤は、CDを見慣れた目には随分と大きく見えた。
テヨンが、飴色に光るアンティーク調の箱の蓋を開けた。高級な衣装箱のようにも見えたそれはなんとレコードプレイヤーだった。ターンテーブルにレコードを乗せ、針を置くテヨンの手元を、そばに寄ってしげしげと見つめる。

「もしかして、見るの初めてとか?」
「うん。だってレコードなんて、家になかったもの」

現代っ子だなぁ、と自分を棚に上げて、テヨンが笑う。
やがて、スピーカーから流れてきたスローなテンポの歌声に、パクハは耳を澄ませた。


Fly me to the moon
And let me play among the stars
Let me see what spring is like
On Jupiter and Mars

In other words, hold my hand
In other words, darling, kiss me

僕を月まで連れてって
星に囲まれて遊んでみたいんだ
木星や火星の春がどんな感じか見てみたい
それはつまり、きみと手をつなぎたいってこと
要するに キスしてってことさ───


「これ知ってる。私が聴いたのは女性シンガーが歌ってたやつだったけど」

ソファに腰掛けたテヨンを振り向いて、パクハが言った。

「ジャズのスタンダード・ナンバーだからね。カバーしてるミュージシャンは多いよ。僕はキング・コールが最高だと思ってたけど、ハルモニは断然シナトラだって言い張ってた。終いにはなんかムキになっちゃってさ、お互い言い合いみたいになって。頑固なんだ、そういうとこ」

あなたもね、とパクハが悪戯っぽく微笑むと、テヨンも ふっと片頬を上げた。だがその笑みはすぐに消え、彼は長い睫毛を伏せて組み合わせた自分の手元に目を落とした。

「ハルモニは……最後までイ・ガクを本当の僕だと思ってたんだよね?」
「うん……」
「僕の代わりにばあちゃん孝行してくれたんだから、彼には感謝しないとな」
「……そうね」

テヨンは涙こそ流してはいなかったが、どこか泣いているように見えた。
パクハはテヨンの座るソファの後ろに回ると、背後から彼の頭を包むように抱き締めた。

テヨンが、そっとパクハの手首を取る。そのまま手のひらを開き、解けた紐をしっかりと結び直すかのように、自分の指を絡ませた。

部屋に流れる、シナトラの甘い歌声。時折混じる、アナログレコード特有のチリチリという微かなノイズ。何故か耳に心地良くて、パクハは指先をテヨンのされるがままに任せた。

「昔は、雰囲気だけでなんとなく聴いてたけど……今はこの歌詞の意味がよくわかるよ」
「なに?月まで連れてって欲しいの?」

冗談めかして言ったのに、テヨンは至極真面目な声で「そう」と言ったきり、黙ってしまった。ただ絡めた親指が、パクハの人差し指の付け根のあたりを何度も撫でるように行ったり来たりしているだけである。

パッカ、と彼はやがて、静かに口を開いた。

「───僕と結婚してくれる?」

今度は、パクハが黙りこむ番だった。
思いがけない言葉に、知らず息を飲んでしまったのだ。
反応が無いことに不安になったのか、テヨンが首を捻るようにしてパクハの方を見た。
互いの視線が合わさると、テヨンは居心地の悪そうな笑みを浮かべ、言った。

「YESって言ってくれたら、一瞬で飛んでけるんだけどな」

あそこに、と彼は窓の外に浮かぶ月を指差した。
思い出したのは、今朝見たテレビのニュースだった。

『今夜は今年最後のスーパームーンが観測できます』

確かそんなことを、キャスターが笑顔で言ってたっけ……

満月と、地球への最接近が重なって、真ん丸な月がいつもよりほんの少し、大きく見えるのだという。
だがその晩の月が大きく見えたのは、スーパームーンのせいではなかった。涙で滲んだ視界の中では、月の輪郭も曖昧で、膨張したように巨大に見える。

パクハは返事の代わりに首を傾けて、テヨンにそっと唇を押しあてた。
すぐに離れたがるパクハからのキスはいつも、テヨンの少し強引な右手によって続けることを余儀無くされる。
首の後ろを引き寄せられて動けなくなったパクハの唇を、彼は思う存分味わい尽くすのだ。

たぶんきっと、アポロが月へ行くずっと前から。
恋人たちはこうして月へと飛んでいたのだろう。
馬鹿馬鹿しいほど簡単な───そして幸せな方法で。


部屋の窓ガラスには、いつ終わるとも知れない口づけを交わし合う二人の姿が映っている。
その上には金色に輝く月が、ぷかりと浮かんでいた。




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2014/10/07 Tue. 01:40 [edit]

category: Fly Me To The Moon

cm 6  tb 0 

コメント

Re: F***Oさま

コメントありがとうございます~。お返事すっかり遅くなってすみません。
ネタ元の曲、ダウンロードいただいたとのこと、わざわざありがとうです。嬉しいです~(^^)

シナトラバージョンは結構軽快なカンジで、プロポーズにはちょっと不向きかなーとも思ったんですが、ハルモニが好きそうなのはやっぱこれかなと(笑)
幸せなはずの二人なのに、見てるとなんか切なくなるのはどうしてなんでしょうね~。
一緒にいるときが永遠ではないってことを、彼等は既に知ってるからでしょうか、なんて。

ハルモニとパッカ、解り合って欲しかったですよね、あんなことになる前に。
だんだん寒くなってまいりました。 F***Oさんも風邪などひかれませんように~

あまる #- | URL
2014/10/31 01:13 | edit

Re: k***oぴ**さま

コメントありがとうございます。お返事遅くなってすみません(>_<)

ワタシもプロポーズはサプライズよりロマンチックなのがいいかなー(笑)
好きだと思うとつい言っちゃうテヨンだから、プロポーズも考えに考えてっていうより、したいって思ったら即ポロッと口に出してしまうんではと思ったので、ああなりました(笑)
だからサプライズどころか、指輪すら用意してないという体たらく(^^ゞ
でも許す。ゆちょんだから!(爆)

あまる #- | URL
2014/10/31 00:58 | edit

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# | 
2014/10/18 13:57 | edit

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# | 
2014/10/11 10:45 | edit

Re: **ほさま

♪聞こえました~?(^^)
そういえば今日は皆既月食だったんですね。ニュース見てたらちょうどこの曲が流れてきて、あ~って(笑)
ハルモニじゃなくてワタシが大好きなんですよ、この曲(爆)
ちょっと前のサントリー山崎のCMでも使われてましたが。

二人だけの世界。っく~(>_<)ステキですね。
ユチョにプロポーズされるならどんなシチュエーションでもおっけーですが(笑)

あまる #- | URL
2014/10/09 01:11 | edit

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# | 
2014/10/08 12:43 | edit

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