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第二話 12 最初の任務 

 赤い封筒が、そこにいる新入生全員に配られた。全て行き渡ったのを見てとると、掌議インスは言った。

「新入生は、そこに書かれた密命を遂行し、三更(午後11時から午前1時)までに戻れ。最も優秀な者には、掌議ハ・インスの名において褒美が与えられる。ただし、任務を遂行できなかった者は、服を脱がされ、泮水橋から突き落とされることとなるだろう」

 服を脱がされる?ユニは息が止まりそうになり、思わず襟元を手で抑えた。そんな彼女の反応を、離れたところに立っているヨンハが意味ありげな目つきでじっと見ていたことなど、もちろん彼女は知らない。

「さらに、出仕しても王命を遂行できぬ者とみなし、斎会にかけ退学を命ずる。これが、成均館の伝統だ。お前たち新入生と私には、成均館の伝統を守る義務がある。それを忘れるな」
 
 太鼓の合図と共に、新入生たちが一斉に伝香門を飛び出していく。だがソンジュンは相変わらずだ。脱兎の如く駆けてゆく同級生たちから次々と追い越されても、一向に気にする気配もなくただ歩いている。
 何を考えているのかわからない背中。だがユニは声を掛けた。そうしなければいけない理由があったからだ。

「三更までに戻らなきゃいけないんだろ。もっと急いだ方がいいんじゃないのか?」

 彼は黙ったままだ。ユニは構わず話しかける。

「ひょっとして密命をまだ解いてないとか?助けてくれる仲間とか、いないの?」

 ソンジュンがぴたりと立ちどまり、振り返った。

「何が言いたい」
「さっきはありがとう」

 すかさず、ユニは言った。

「掌議は兵曹判書の息子だから、力を持ってる。ぼくのせいで、とばっちりを受けるんじゃないかって、心配で」
「そのことなら、気にする必要はない。僕はただ原則を守っただけだ。人助けをしたつもりはない」

 用は済んだとばかり、また背中を向けて歩き出す。ユニは呆れて、はっ、と息を吐き出した。

「口を開けば原則原則って。あんなにお堅くちゃ、誰も近寄らない」

 ユニの呟きが聞こえたのか、ソンジュンが振り返って、言った。

「急いだ方がいいと言ってなかったか?成均館を追い出されたくなければ……」
「それって本当かな?」

 ユニがソンジュンに駆け寄って、尋ねる。

「密命を遂行できなかったら、王命にも関係なく、成均館を追い出されるって」
「何故そんなことを訊く?」

 ソンジュンの目が、すっと僅かに細くなってユニを見た。

「まさか、わざと失敗しようとか考えてるんじゃないだろうな?」
「そ、そんな、まさか」

 図星だった。さっきからユニは、なんとか身ぐるみ剥がされることなく退学になる方法はないかと、そればかり考えていたのだ。

「とにかく、先に行けよ。ぼくはゆっくり行くことにする。今夜は月もきれいだし」

ユニが笑顔で夜空を見上げると、ソンジュンがぼそりと言った。

「……青衿録から抹消されたら、きっとその月を恨むことになる」

 青衿録。国が記録する学生名簿だ。そこに記されているのは当然、弟ユンシクの名前である。ユニは冴え冴えと浮かぶ月から、ソンジュンの顔に視線を移した。

「青衿録から抹消?」
「退学になれば、青衿録からその名を削除される。キム・ユンシクの名で科挙を受けることはもちろん、出仕への道も永久に閉ざされる」

 ユニの顔が凍りついた。そんなことは、絶対にあってはならない。新榜礼の密命が、ユニにとって死んでも遂行しなければならない任務となってしまった。

「じゃ……じゃあ、ぼくは先に行くよ」

 強張った顔のまま、ソンジュンから離れ、歩き出す。その足は次第に速くなり、やがてユニは駈け出した。


* * *

「"呂布の愛する女人は、花王が守る。その女人の絹の下着に情を込めて来い"……」

 ユニは、密命の記された紙を矯めつ眇めつ眺めてみたが、それ以外に手がかりになりそうな文は何も書かれていなかった。

(呂布が愛した女人の名は貂蝉〈チョソン〉……花王は牡丹の別名。だとすると、牡丹……牡丹閣?そうか!)

 「牡丹閣の妓生、チョソンの絹の下着───!」

 頭の中の霧が、ようやく晴れた。だが指令の意味がわかった喜びは、一瞬にして消えた。牡丹閣のチョソンといえば、同じ女であるユニさえも知る、今をときめく名妓だ。その絵姿こそ世間に出回ってはいるものの、実際の彼女にはいくら金を積んでも会うことすら至難の業だという。いわんやその下着をや、だ。蓬莱の玉の枝を折って来いと言われるのと、たいして変わらない。
 
『おい、キム・ユンシク!僕らの名前に泥を塗るなよ』

 家を出るとき、そう言って背中を押してくれた弟の顔がよぎる。

 とにかく牡丹閣へ行ってみるしかない。後のことは、それから考えよう───。
 ユニは暗い気持ちで、雲従街へと足を向けた。

* * *

 新入生がいなくなった後の成均館では、彼らが納めた“貢物”を肴に、上級生たちの宴が開かれていた。
 今頃、新入りたちは密命を遂行するためにあちこち駆けずり回っていることだろう。彼らが苦労しているのを尻目に呑む酒はまた格別だ。新榜礼という伝統がこれまで絶えることなく受け継がれて来たのは、おそらくこのためであろうとヨンハは思う。

「それにしても、どうしてそこまでイ・ソンジュンを目の仇にするんだ?同じ老論だってのに」

 インスに酒をついでやりながら、ヨンハが尋ねる。

「だからだ。少論や南人なら、俺が出るまでもない。年寄りたちが勝手に潰してくれる」

 溜め息とも苦笑ともつかぬ息を吐いて、ヨンハは盃を手に取った。

「だから政治は嫌いなんだよね。酒がまずくなる」

 くい、と酒を呷ったヨンハの横顔を、インスがじっと見据える。

「何故チョソンにした?」

 そらきた、とヨンハは眉を上げた。我らが掌議殿は、ご執心の女が他の男の標的にされるのはお気に召さないらしい。たとえそれが新榜礼のお遊びでも。

「キム・ユンシクの服を確実に脱がすためだよ。何せ王も唸らせたあの緑鬢紅顔だ。並の妓生じゃ簡単に籠絡されちまう。だろ?」

 ヨンハは、酒が入ってふざけ合う儒生たちを見るともなしに見遣って、言った。

「チョソンが男に心を許したことがあるか?心配は無用だよ。天下の掌議ハ・インスがどれだけ尽くしても、ガキの頃から妓楼に出入りしてるこのク・ヨンハにも、手すら握らせない誇り高き女───それがチョソンだ。想像するだけでワクワクするだろう?あの女みたいなキム・ユンシクが、今頃どんなザマか」

 彼の策略は抜かりない。キム・ユンシクが密命を完遂することは万に一つもあり得ないだろう。“彼”の正体が暴露される場は牡丹閣か、泮水橋か。いずれにしても、二つも用意されたこの危機を切り抜けるのはどんなに強運なヤツでも絶対に無理だ。
 ヨンハは盃に酒を満たしながら、くくっ、と喉の奥でいかにも楽しげに笑った。

* * *

「さあ、お帽子を脱いで」

 くすくす笑いながら、妓生の一人がユニの笠に手を伸ばす。その間にも、他の妓生たちが笑いさざめきながらユニににじり寄り、笠どころか身ぐるみはがそうという勢いで、襟元や帯に指を這わせてくる。
 ユニは怯えきった顔で、じりじりと後じさった。

「ぼ、ぼくはチョソンに会いにきたんだ。チョソンを呼んでくれ!」
「まあ。学士様ったら、寂しいですわ。女はチョソン姐さんだけで、私たちは役立たずだとおっしゃるの?」

 言いながら、するり、と帯紐を解いたのはエンエンだ。狙っていた獲物がやっと手に入ったとばかり、目がきらきらと輝いている。

「わあっ!何をする!」
「丁重におもてなししろと、ヨンハさまからいいつかっておりますの。学士様の胸元に口紅をつけることができたら、純金製の亀をくださるんですって」

 ソムソムが言うと、ユニを取り囲む妓生たちの間から、黄色い歓声が上がった。

「だっ、だから、ぼくはチョソンに……」
「では、100と10日ほどお待ちになってみて。そうしたら、後ろ姿くらいはご覧になれるかもしれませんわ」

 むせ返るような香の匂いにあてられて、目眩がした。上体を支えていた右手がうっかり滑った拍子に、足を引っ張られ、ユニの身体は仰向けにびたんと伸びてしまった。すかさず、6人もの妓生が我先にとのしかかってくる。

 それはユニが、同性に対し初めて恐怖を覚えた瞬間だった。




「成均館の学生が新榜礼の密命を受けて来たと?」

 兵曹判書が、チョソンの酌を受けながら愉快そうに笑った。

「ここに来たのなら、一晩お前と過ごせるかどうか賭けたのだろうな」

 酒器を置き、チョソンは口の端を僅かに上げた。たったそれだけの笑みにも、妖艶さが漂う。

「今夜、少なくとも一人の殿方は確実に、橋から落とされることになりますね」

 兵曹判書は笑いながら杯を空けると、料理の並べられた卓を脇へずらした。チョソンの胸元に手を伸ばし、上衣の紐を指に絡ませる。

「乳臭い若造など、男とは言えぬだろう」

 解けかかった上衣の紐をすっ、と手で押さえ、チョソンは微笑を浮かべたまま言った。

「大監。私が今ここにいる理由をお忘れでは?」
「家族に会いたくないのか?」

 兵曹判書の三白眼が、チョソンを舐めるように見上げた。

「お前は王こそ拒めても、この私を拒むことはできん」

 上衣の紐を乱暴に引っ張ることで、兵曹判書は彼の欲望を阻もうとするチョソンの手を払いのけた。はらりと上衣が落とされ、透き通るように白い肩があらわになる。冷え冷えとした美貌を微かに歪ませ、チョソンは兵曹判書から顔を背けた。

そのときである。いきなりバーンという大きな音とともに、部屋の扉が外れ、内側に倒れてきた。それと一緒に、転がるようにして室内になだれ込んできたのは、道袍を脱がされて単衣だけの姿の若者と、数人の妓生たち。

「おい、あれ、チョソンじゃないか?」
「一緒にいるのは、兵曹判書様か?」

 遮るものがなくなり、他の部屋からも丸見えになった室内。妓生たちの派手な騒ぎも手伝って、その一室は他の客の注目を一気に集めた。
 いいところを邪魔された上に、見世物状態の兵曹判書は怒り心頭である。

「き、貴様ぁ!いったいこれは、何の真似だ!」

 一瞬のうちに状況を理解したユニは、さっと身体を起こすと、そこに正座し、面を伏せた。その顔を覗き込んだ兵曹判書の表情が変わる。

「うん?お前は……」

 ユニは乱れた襟元を掻きあわせ、自分に向けられた視線を避けた。兵曹判書には、女の姿をしているときの顔を見られている。

(まさか───気付かれた?)

 ユニの背中を、冷や汗が伝った。




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2011/09/07 Wed. 08:04 [edit]

category: 第二話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

cm 4  tb 0 

コメント

Re: 貂蝉

このへんのヨンハはまだ敵なんだか味方なんだかはっきりしないとこが
実は魅力だったり(笑)
イタズラばっかりしてる割にはつまんなさそ~なのがなんか退廃的で、
妙に色気を感じるんです。

F4結成後は楽しそうなんで、まぁそれはそれでいいですけども(笑)

あまる #- | URL
2012/05/08 01:22 | edit

貂蝉

三国志演義間で読まないといけないなんて、朝鮮科挙ってほんと厳しい・・・
どんだけ準備しないといけないんだよぅ。

歴史はどの国も難しいですが、中国は特に難しい。
長いし複雑だし。

そして、どの国も遊郭というところは天国と地獄が同居するおそろしーぃ所なんですよね。
ユニちゃんにこの遊郭を采配するあたりがク・ヨンハの恐ろしさ。
その上、相手に選んだのは朝鮮一の妓女というよりもハ・インスの重い人、じゃなくて思い人ってところがますます恐ろしいっす。

女の嫉妬なんか男の嫉妬に比べたら、あっさりしたもんだと、ハ・インス見てて心の底から思いましたとさ。

ちびた #D4zl0nFc | URL
2012/05/07 22:15 | edit

Re: にゃん太さま

ユニは女友達とかいなさそうだし、女子高的なあのノリにはついていけないだろうなぁ、きっと(笑)
続き、今アップしました(^^)やっと三話に突入です。
うう……早くアレとアレとアレを書きたいから頑張るゾ!

あまる #- | URL
2011/09/08 02:28 | edit

更新ありがとう

ここら辺もまあまあ起きていたみたい。(笑)

女も数がまとまれば、
いくら若くて綺麗でも恐ろしいよね~。

そうそう、兵曹判書の男のいやらしさ、ここでも表れていたんだった。

続き、待ってま~すe-257

にゃん太 #- | URL
2011/09/07 20:56 | edit

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