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最終話 16 夢見た国 

bandicam 2014-07-09 07-26-30-181
*****************************


王は深く息を吐き出し、呼吸を整えた。
目の前には、十年もの間、土に埋もれていた八角の箱がある。

十年。
その間、幾人もの若い儒生たちが己を跨ぎ越し泮村と成均館を行き来するのを、この箱はどんな思いで見ていたのだろう。そして、陽のもとに晒され、経筵の場で重臣たちの胡乱な視線を一身に浴びている今は、どんな思いで王を見ているのか。

箱に手を乗せ、強く握り締める。十年前のあの日、金縢之詞を託し、友の肩にそうしたように。
王は目を上げると、重臣たちを見渡した。

「余はそなたたちが、華城遷都に反対なのは承知している。だがこれは余の、決してくじくことのできぬ夢だ。そなたたちの党派争いには到底、解決策を見出だせぬ。故に、余はそなたたちの反対を一蹴する切り札を捜し出した。───金縢之詞だ」

重臣たちの間に、どよめきが広がった。ただ一人、王の斜め左の席に座す左議政イ・ジョンムは、黙したまま じっと目を閉じている。
王はより一層声に力を込め、言い放った。

「思悼世子の事件が陰謀であることを証明し、老論を抑えこみ、余の志の完遂を可能にする文書である」

ざわついていた室内が、水を打ったように静まり返った。かつて、王がこれほどはっきりと、思悼世子の一件を老論の陰謀であると言及したことはなかった。それが、経筵という公然たる場で告げられたのである。
老論の重臣たちが戦慄におののく中、慌ただしい足音とともに室内に駆け込んできたのはハ・ウギュだった。

「陛下、兵曹判書ハ・ウギュにございます」

王はウギュの訪いを無視し、八角の箱に再び手を乗せ、言った。

「まさしくそれが、ここにある」
「陛下、それは」
「余の話はまだ終わっておらぬ!」

王の恫喝が、室内に響き渡った。一瞬怯んだウギュは、忌々しげに頬を歪め、口をつぐむ。だが王が箱の鍵を外すのを見てとるや、それを指差しながらずかずかと前に進み出た。

「私は存じております、その金縢之詞は───」
「金縢之詞は!」

ぴたりと、兵曹判書の足が止まった。王の気迫に圧されたのだ。だが僅かな沈黙の後、王が口にしたのは誰もが予想だにしていなかったことだった。

「───残っていなかった」

重臣たちの困惑が、先程とは別のどよめきとなって広がる。そのときになって初めて、ジョンムは閉じていた目を開いた。その視界の端で、彼は王の視線が自分を刺し貫くのをはっきりと感じた。

「金縢之詞は、残っていなかったのだ。余の愚かな望みを嘲笑うかのように。だが、余は華城遷都の夢を諦めはせぬ。そなたたちに勝つためではなく、これは余の民のために始めた闘いだからだ」

王の険しい目見が重臣たちを見据え、またジョンムへと戻った。玉卓の上に置かれた王の両手は、白くなるほど強く握り締められていた。

「余は、最後まで闘う」

取引に応じたのではない。それは老論の巨魁に対する、王の決然とした意思表示だった。


*   *   *

経筵の後、兵曹判書は王命により、十年前の金縢之詞強奪事件の主犯として、義禁府へ連行された。
大司憲ムン・グンスの並々ならぬ執念が実を結んだのだ。
これにより、朝廷の勢力図は大きく書き換えられることになるだろう。だが、依然として老論がその強大な力を維持し続けることに変わりはない。
王の闘いは、これからも続くのだ。

炭火の中に投げ込まれた先王の書───金縢之詞が、たちまち炎を上げて黒く変色していくのをじっと見つめながら、王は静かに口を開いた。

「余に……約束してくれぬか」

燃え尽きていく金縢之詞から目を上げ、ユニは王を見た。

「取るに足らぬ余の死や、短い生涯など忘れてもよい。余の夢と───そして余が、強く望んだ新たな朝鮮を、そなたに覚えていて欲しいのだ。そうすれば余も、そなたの記憶の中で生き続けてゆける。そなたの、父と共に」

忘れないこと。それは、受け継いでゆくことだ。自分だけではない。これから、この朝鮮という国に連綿と続いていく、若い命にも。

「はい。ずっと……決して忘れはしません」

ユニの言葉に、王は頷き、そして微笑んだ。




退出を許され、崇文堂を出たユニを待っていたのは、左議政イ・ジョンムだった。

「女の身で成均館に入るとは……思ったより向こう見ずなのだな」

宮廷内の執務室で、卓を挟んで向かい合うユニに、ジョンムは抑揚のない声でそう言った。
そういえば出会ったばかりの頃のソンジュンもこんな話し方をしていた、とユニは思った。
彼の場合は、相当な努力の結果持ち得た自己抑制なのだということが今はわかるが、父親であるイ・ジョンムという人にそれをあてはめるのは難しかった。
いったいこの老論の長には、笑い、涙し、取り乱すことなどあるのだろうか。

「道に迷い、さまよい歩かぬよう、私を教訓にすると言っていたが……」

ふと言葉を切り、ジョンムはやはり無表情な眼差しをユニに向けた。

「上手く行かぬだろう。目を開けていても足を踏み外す。それが人生だ」

ユニは何か、脹脛を打ち据えられたような気分になって、俯いた。たかだか二十年足らずしか人生を知らない自分に、何が言えるだろう。
黙ったまま唇を噛み締めたユニだったが、そのあとにジョンムが口にしたのは、思いがけない言葉だった。

「一人で行くには厳しい道故、息子のそばにいてやってもらえないだろうか」

え、と顔を上げたユニはそこに、更に意外なものを見た。
白髪混じりの眉の下にあるジョンムの目が、穏やかに細められ、自分を見つめている。
長い睫毛に縁取られたその目は、ソンジュンと寸分違わぬものだった。

信じられない成り行きにぼうっとしていると、ジョンムは軽く眉を上げ、微笑んだ。

「───この老いぼれは、欲張りすぎるかな?」





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2014/07/09 Wed. 07:30 [edit]

category: 最終話

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コメント

Re: ふみさま

持ってかれてますね~。確かに(笑)
でも、ユチョへの愛が減っちゃったワケではありませんヨ!モチロン!
ドラマの総復習のつもりでちまちま動画いぢりやってたらまーやっぱりソンジュンは可愛いです(笑)

うをを、ソンスとオクセジャ以外の番外編ですか……
書くときはたぶんゴミ箱行きになりそうな気もしますですが。
表でやるのは何故かちょっと恥ずかしい~

ソンジュン描くときは完全に恋する乙女モードですので(爆)ついついねちっこく描写しちゃいますね(^^ゞ
ヨンハとコロには申し訳ない限りです(笑)

あまる #- | URL
2014/07/10 04:47 | edit

ソンジュンへの愛も♡

お心が持っていかれてしまって心身のお忙しさの増している中、続けて本編更新、ありがとうございます(^-^)。
そのうち、オクセジャに続いてソンス以外の番外編も登場するのかな~~、なんて、あまる様の文章世界のファンとして、ちょっと想像しちゃったりなんかして。

>そういえば出会ったばかりの頃のソンジュンもこんな話し方をしていた、とユニは思った。彼の場合は、相当な努力の結果持ち得た自己抑制なのだということが今はわかるが、父親であるイ・ジョンムという人にそれをあてはめるのは難しかった。
いつも感じてるのですが、あまる師匠のユチョンsiiへの愛は、ソンジュンの描写の細やかさにすごく現れていますよね。今回は、ここ↑に感じました。
おじさまがたのドラマもいいですね。gyaoで今日まで無料配信があったので、改めて「映像作品とあまる様版ノベライズの両方」という豪華さを楽しませていただけました(映像は放映録画のみなので…(^^;;)

結局静かにしていられない、ふみでした。

ふみ #- | URL
2014/07/09 09:37 | edit

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