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最終話 14 蜩 

bandicam 2014-06-23 02-53-15-507
***********************************

その朝、兵曹には、父ハ・ウギュを見送るインスとビョンチュンの姿があった。
インスは父の背後に、帯刀した数名の官軍兵が付き従っているのを見、ふと眉を顰めた。これから儒学者たちとの会合に出向くにしては、随分と物々しい。父上、と声を掛けたインスに、訝しむようないろを見てとったのだろう。ウギュは微かに口の端を上げ、告げた。

「キム・ユンシク本人を儒学者たちの前に引きずり出すのだ」

そのために、多少手荒な真似をしてでも連れて来いと命じてある、と言う。
インスは父の言葉の中に、単に官軍や私兵たちに命じた、というのとは違う、ある含みを聞き取った。それは以前にも感じたことのあるもので、何故か彼の心に引っ掛かるものでもあった。

「例の、紅壁書の偽物にですか」

尋ねると、父は顎髭に手をやり、今度ははっきりそうとわかるほど薄く笑って、言った。

「私の命令に背いたことのない忠実な部下だ」

この父に、これほどまでに信頼されている部下とは、一体何者なのか。そして何故父は、インスが問うてもその者の素性を明かそうとしないのか。これまで幾度か抱いた疑念がまたインスの胸をよぎったそのとき、だった。

「───それもこれまでです、大監」

出し抜けにそんな声がして、インスは振り返った。そこで見たものに、彼は突然頬を張られたように動けなくなった。
こちらを見据え、足音もたてずに歩いてくるのは、一人の女だった。
まるで賊か間者が身に纏うような黒装束。そして、その背に負うのは一振りの太刀。
だがそんな姿でさえ、女は美しかった。それは、滝のように艶やかな光を放って細い肩に流れ落ちる黒髪と、彼女の特徴でもある、あの、凛々しくもどこか哀しげな鳶色の瞳のせいかもしれなかった。

「掌議、あれ、チョソンですよ」

インスの耳元で、ビョンチュンが囁くように言った。そのまま、ごくりと唾を飲む。
酷く狼狽しているのは、父、ウギュも同様だった。「お前、何を……」と言ったきり、瞠目している。

「あの娘を儒学者たちの会合に突き出せと命じたはずだ!」
「会合への出席はお諦めください」

女は、冷ややかなチョソンの声で、そう言った。何度も何度も、インスを拒絶し続けてきた、あの声だ。

「私が……死んでもこの先へは行かせませんから」

チョソンはウギュを見据えたまま、僅かに右足を後ろに引いた。太刀を鞘から引き抜くときの、あのぞっとするような摩擦音が、瞬時にインスを現実に引き戻した。
途端、官軍兵たちが一斉に抜刀し、チョソンを取り囲む。よせ、と止める間もなく、兵は容赦なく彼女に斬りかかった。次々と襲いかかる官軍兵を獣のような素早さでかわし、太刀を閃かせ薙ぎ払っていくチョソンの姿を、インスは半ば呆然として見つめた。

有り得ないことが、目の前で起こっていた。
彼女が手にするのは、伽耶琴〈カヤグム〉であり、杖鼓〈チャンゴ〉であり、花扇であったはずだ。剣を持つことがあっても、それは舞を舞うための華やかな道具に過ぎず、実際に生身の人間に振りかざすものではなかったはずだ───。

記憶の中の少女が、インスに微笑みかける。出会った時と同じ、あの水色のチョゴリを着て。

兵士の太刀が、チョソンの背後で鈍い光を放った。それが振り下ろされるより一瞬早く、インスは反射的に飛び出していた。
チョソンの肩を引き寄せ、素早く身を翻す。彼女の、驚いたような気配と息遣いが腕の中にあった。

「何をする!さっさとそこをどかんか!」

度を失った父の声が、インスの耳に響く。インスにとってそれは最早、木の洞に投げ込まれた石も同然だった。
何の力も、意味さえもない。ただの音だ。

「今まで……」

チョソンを抱きかかえるインスの、血走った目が父を鋭く刺した。

「今までこの人に、何をさせていたんですか!」

官軍兵の動きが止まった。一心同体とも言える親子が目の前でいきなり分かたれ、まごついているのだ。

「どくのだ、インス。後は父に任せろ」

父は声を落とし、駄々をこねる幼子を宥めるように、言った。
インスは、腕の中のチョソンを見た。彼を見上げる鳶色の瞳は、戸惑いと共に、インスに必死に問いかけていた。
どうしてこんなことをするのかと。
答える代わりに、インスは父を睨み据えた。

「いいえ。私が知った以上は、お任せできません」

それを聞くや、ビョンチュンが泣き出しそうな顔でインスに飛びついた。じりじりと間合いを詰める官軍からチョソンを庇うように、インスの反対側に回り込む。

「そこをどけ!会合場所へ行くぞ!」

と突然、インスの頭上から何かが降ってきた。“それ”はまるで影のようにインスの背後にぴたりと貼り付くと、言った。

「どけって?そいつはお断りだ。嫌なことはできない性分でね」

ざんばらの髪、ふてぶてしいその口調は、言わずと知れた泮宮の暴れ馬───ムン・ジェシンだった。
ジェシンはインスにちらと視線を投げると、初めてだな、と面白がるように口の端を上げた。

「お前が人間に見える」

その言葉に、インスはフンと鼻を鳴らした。確かに笑える話だ。あれほど反目し合っていた自分たちが、こうして互いの背中を預け合うことになるとは。

「全員片付けろ!」

インスは、チョソンを抱き締める腕に力を込めた。中央に身を寄せ、一塊になった彼等に、耳を聾するような兵の怒声が押し寄せる。
だがそれはすぐに、聞こえなくなった。

インスが聞いていたのはただ、あの夏の夕暮れ、俯いた少女の頭上で、哀しげに鳴いていたヒグラシの声だけだった。





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2014/06/23 Mon. 03:04 [edit]

category: 最終話

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コメント

Re: 甘*さま

コメありがとうございます~(^^)恐ろしく亀レスですみません(^^ゞ

インスは初恋をずっと引き摺ってるわけですから、純愛ではあるんですよね~。
それがなんであーいう風にねじ曲がってしまったのか……やっぱり父親のせいだとしか思えません。

番外編は考えてはいるんですが(笑)何故か二人のその後じゃなくて、昔の二人ばっかりアレコレ妄想してます(笑)
でもいつか幸せにしてあげたいですね、この二人も(^^)

あまる #- | URL
2014/06/27 14:13 | edit

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# | 
2014/06/23 22:14 | edit

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