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最終話 12 欲 

bandicam 2014-05-27 18-48-38-113
*******************************


沙汰を待て、という王の命によりユニが身を置くことになったのは、王宮の、恐らく内殿と呼ばれる場所の外れだった。
部屋の中には、役人が執務に使うような、これといって何の装飾もない卓と椅子が素っ気無く置いてあり、隅には、わずかではあるが書棚や屏風といった調度がある。
扉の前にしかめつらしく立つ数名の武官たちを除けば、罪人には贅沢過ぎる部屋である。
さもあろう。罪を犯した者は義禁府か司憲府に送られるのが常で、こんな風に王宮に幽閉されるのは同じ罪人でも王族くらいのものだ。
相応しい場所など、あるはずがないのだ。これまでのユニがそうだったように。

何もせずにじっと座っていると、考えるのはやはり、ソンジュンのことだった。
彼はどうしているだろう。いきなり姿を消したユニを、心配しているかもしれない。
ソンジュンが求婚書を携えて来るという日にこんなことになってしまったのは皮肉と言えば皮肉だが、これも天の采配のような気もした。
今で良かったのだ。結婚の約束といっても、まだ二人の間で交わしただけの今なら、ソンジュンの立場には何の影響もない。事の発覚がもしソンジュンの妻になった後だったら、彼まで罪に問われてしまう。それだけは避けたかった。

───諦めるのか?

ふいに、頭の中に思い浮かべたソンジュンの面影がユニにそう言った。
だって、今度ばかりは無理だよ。相手はこの国の王様だもの。
ユニは心の中で応えた。
やっぱり、君とは縁が無かったんだよ。ぼくのことは早く忘れて。君に相応しい人と、幸せになって。

ソンジュンが、哀しい目をしてユニを見つめる。それはやがて陽炎のように揺れ、消えていった。
そのときいきなり、部屋の扉がさっと開いた。ぼうっとしていたユニは、座っていた椅子から慌てて立ち上がり、深く頭を垂れた。見開いた目の先に、王の紅い龍袍の裾と黒い皮靴が見えた。
王は低く言った。

「愚かな……。女には許されぬことだった。なぜそなたはそんな欲を出したのだ。そのせいでそなたは、父親の恨みを晴らす機会を失いかけたのだぞ」

恨み。
それは、まるで初めて耳にする言葉であるかのように、ユニには唐突に聞こえた。
あんなに必死になって、父の残した遺書を解読し、金縢之詞を見つけ出そうとしたのは、父を殺された、その恨みを晴らすためだっただろうか?
目指すものを見つけたあの瞬間、涙が出るほど嬉しかったのは、これで父の命を奪った連中に報復できると思ったから?

ユニは、相手が王であることも忘れ、思わず顔を上げていた。それは違います、と喉元まで出掛かっていた。
だが目の当たりにした王の悲痛な眼差しが、それを許さなかった。

「余はそなたを捨てる。そして我が父の悲願を叶える」

王が、まるで自分自身に言い聞かせるようにそう言ったことが、ユニを一層悲しくした。
わざわざそんなことを告げずとも、臣下に命を下してさっさと処刑してしまえるのが王という立場のはずだ。
なのに、王はユニに問うた。悔いはないか、と。

初めから覚悟していたことだ。今更、死ぬことが怖いとは思わなかった。
ただ今目の前にいる、望んでも得難い王を、自分が窮地に陥らせてしまった。それが悲しかった。

「……父がなぜ死んだか、忘れることはないでしょう。でもそれよりも私は、父がどう生きてきたのかを、胸に刻んでいようと思います。父がどう生きてきて、何を夢見たか……その思いの中に、父はいますから」

父が七巧〈チルギョ〉で象った、“女”を表すもの。父はそれをユニであり、そして希望でもあると言った。

「悔いはないかと仰せでしたね。私は、生きていたいです。この期に及んでも。けれど、もしあの時……陛下に成均館への入学を命じられたあの時に戻れたとしても、また私は欲を出すでしょう。私には許されぬ奇跡を夢見て、愚かな真似を繰り返すはずです。入学した日を境に、やっと実感できたのです。───自分が、生きていると」

未来を夢見ること、奇跡を信じること。
それがなければ、たとえ息をしていたって、生きているとは言えない。
師が、仲間たちが、成均館のすべてが、ユニに教えてくれた。

私にとっては、陛下に死を賜ることも、学ぶ場を追われ、この朝鮮という国のただの女として一生を終えることも、たいして変わりはないのです───。

王が、ユニを見た。王の顔は酷く強張っていたが、ユニはその王に向かい、微笑むことができた。
人は、この王を愚かだと言うかもしれない。けれどユニにとっては、自分を生かしてくれた、偉大なる王だった。


*   *   *


「俺はやっぱり、王なんて信じないぞ」

不貞腐れたようにそう言って、ヨンハは指先につまんだ盃をぶらぶらさせた。早くも酔いが回ってきたのか、目が普段の半分ほどしか開いていない。いつもはジェシンに、もっとゆっくり飲め、と口うるさい女房みたいに注意するくせに、今夜はそのジェシンが呆れるほどの速さで酒瓶を空にしているのだから、いくらヨンハといえど無理もないことだった。

向かいに座るジェシンはといえば、先程からちびちびとしみったれた老人のように盃を舐めているばかりで、酔うどころか少しも酒が喉を通らない。胸によぎるものはヨンハと変わりないはずだが、飲む風情はまるで逆だった。
黙り込んでいるジェシンに、おい何とか言ってくれよ、とヨンハが絡む。

「あいつ……今頃、怯えてるだろうな。一人で」

ジェシンが独り言のように漏らした言葉に、ヨンハはますます不機嫌になった。
酒と王の悪口でかろうじて忘れていられたことを思い出しちまっただろうがばかやろう。そう言いたげな顔をしている。
ヨンハは腹立ち紛れに酒瓶を掴むと、杯に傾けた。だが生憎そこには蝉の小便ほどの酒しか残っていなかった。

「おい女将、酒!」

厨房に向かって呼ばわったヨンハに、少々お待ちを、と店の女将の声が飛ぶ。
見れば、さして広くもない酒房はいつの間にか客でいっぱいになっていた。腰紐でチマの裾をからげた女将が、盆を手に卓の間をせわしなく行ったり来たりしている。
だがヨンハは知ったことかとばかりに「早く持ってこいってば!」と苛立った声を上げた。
常日頃、商売人、ことに女手一つで店を切り盛りする女将には寛容なヨンハだが、今夜は流石にそんな余裕はないらしい。女将もとんだ とばっちりだ。

ヨンハは怒っている。なかなか来ない酒に。そして、ユンシクが危機に瀕しているというのに、為す術もなく酒房で管を巻くしかない自分に。
それがわかりすぎるほどわかるジェシンには、何も言えるはずもなかった。

「まったく、参ったよ。宿を取るのも一苦労だ」

隣の卓に座る男の一人が、無遠慮な大声で何やらぶつくさ言うのが聞こえてきた。連れらしき四人の男たちは皆一様に白い道袍、黒い儒巾という出で立ちである。どうやら地方から来た儒学者たちであるらしい。
向かいの痩せた男が答える。

「都の宿に儒学者が押し寄せてるからな。月末まで空きゃしないよ」

ジェシンは思わず耳をそばだてた。ヨンハも、盃を持ち上げた手が中途半端な位置でぴたりと止まっている。

「なんでまた兵判は急に我々を呼びつけたんだ?」
「知るもんか。また王が何かやらかしたんだろ。我ら儒学者の力が必要らしい」

ヨンハが、低く呟いた。

「兵曹判書が儒学者たちを呼んだ?月末といえば……」

経筵、とジェシンは後を引き継いで言った。

「王が遷都を公表する日だ」

ヨンハの目に、はっきりとした光が宿った。さっきまでの酔った姿は芝居だったのかと疑わしくなるくらい、もういつもの彼に戻っている。

「兵判は経筵で金縢之詞を突き付けられたら、儒学者たちを動員して、キム・ユンシクを盾に王を責め立てるはずだ。そうしたら王は選択の余地なくテムルを切り捨てる」
「だったら?」
「場所を突き止め、儒学者の会合を阻めば……」

ジェシンはその先を急かすように、ヨンハの方に身を乗り出した。

「キム・ユンシクを救えるか?」

頷いたヨンハは、やや目を眇めて、指の先で軽く自分の唇を撫でた。彼が驚くべき速さで考えを巡らせるときの癖だ。やがて、言った。

「───もしくは、事前に王が金縢之詞を捨てるか……経筵で老論の連中が遷都に賛同し、金縢之詞が不要になるか、だ」





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2014/05/27 Tue. 18:54 [edit]

category: 最終話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: ふみさま

コメントありがとうございます~(^^)

ユニと王様のあのシーンは、完全版では綺麗にカットされてたんですが(^^ゞ
仰るとおり、ユニがとってもステキなので、コチラでは是非とも入れたかったんですよ~。
同じように思ってくださる方がいて嬉しいデス。
ユニのお父さんに対してのあの科白は、この後の王様の科白にもちょっとかかってますものねー。

おとなしい読者さんでも全然おっけーですが、チョーさんな(笑)読者さんはより嬉しいブログ主でした(^^)

あまる #- | URL
2014/05/29 07:29 | edit

ユニ〜〜〜〜〜!

あ〜〜〜、もうユニちゃん、あなたはなんて男前な子なの! おばさん、涙が出てしまいます…。
と、あまる師匠の筆の力により、めちゃめちゃ感情移入して読ませていただきました。ほんと、いかにもユニならこう考え、こう反応しそう。

特にこの2つ、心に残りました…。
「相応しい場所など、ありはしないのだ。これまでのユニがそうだったように」
「私にとっては、陛下に死を賜ることも、学ぶ場を追われ、この朝鮮という国のただの女として一生を終えることも、たいして変わりはないのです───。」
ユニの負っているものの大きさを思います。

おとなしい読者でいようと思ったのに、つい熱くなってしまって、ダメだ、こりゃ。

ふみ #- | URL
2014/05/28 15:36 | edit

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