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最終話 9 盲亀の浮木 

bandicam 2014-05-07 03-24-42-724

*******************************************


今は使う者のいない部屋は、黴臭いにおいがした。澱んだ空気は、十二年前のあの日から少しも変わらず、そこにずっと留まっていたかのように思える。
残っているのは、埃を被った僅かな家具ばかり。長い間誰にも顧みられず、仕舞われる物もない戸棚は、蜘蛛の棲家となっている。

かつてここには、幸せな家族がいた。
厳しくはあったが教育熱心な父と、優しい母。そして、三人の仲の良い子供たち。

王宮付きの医師を務めたこともあった父の元には、その腕を頼る人々が引きも切らず訪れていた。家族以外の人間が自由に出入りするのは、この家では当たり前のことだった。多くは貧しい庶民たちで、父は彼等から先生、先生と慕われていた。
時にはその中に、外国人が混ざっていることもあった。
髪が火のように赤く、肌は水に浸かってふやけたように白い彼等は皆異様に背が高く、恐ろしくて初めは近寄ることもできなかったが、子供にはお菓子をくれることがわかってからは、怖くなくなった。
彼等は時折、自分たちの国の言葉を教えてくれたりもし、とても親切だったのだ。

そんな環境が、子供心にもなんとなく変わったと気付いたのは、先王が亡くなり、世孫であった今上が即位してから間もなくのことだった。庶民や外国人たちの代わりに、輿に乗った両班たちが頻繁に出入りするようになり、彼等は皆一様に横柄だった。見たところ健康そうで、一体何をしに来ているのかと不思議で仕方なかったのを覚えている。

それからいくらも経たないうちに、あの悲劇は起こった。
この家で父を最後に見たのは、白い単衣だけを着、両の手首を縛られ、腰に縄を巻かれて官軍に連行されていく姿だった。
だがあのときの父は、少なくともまだ、生きていた。次に見たときの父は、漢陽の西の外れ、昭徳門の脇で晒しものになっている首だけになっていたから。

長い竹槍の先端、自分の背丈より遥かに高いところで、砂まじりの風に吹かれている父の首を見上げ、当時まだ十歳だった少女は誓った。
この先何がどうなろうと、自分は必ず生き抜いてみせる。そして父を死に追いやった王が玉座から引きずり降ろされるその様を、この目で見届けてやるのだと。

『父の仇を打ちたければ、お前にその力をやろう』

そう言って彼女をこの家から連れ出した男は、ハ・ウギュといった。以来、昼間は妓房で歌舞音曲を習い、夜は武芸の鍛錬という過酷な日々を、十六の年になるまで過ごした。
初めから、選択の余地はなかった。消息のわからなかった母と弟妹が、ウギュの庇護下にあると知ってからは、逃げ出すこともできなくなった。

彼女に剣と武術を教えた師匠は、口癖のように言っていた。『お前は旦那様の懐刀となるのだ』と。
刀は、意思を持たない。ただ主を守るため、与えられた任務を全うするだけだ。殺す相手の素性も、何故殺すのかも知らされない。名前さえ知らずに手にかけた者もいた。
それが、主のため、ひいては、この国のためなのだと教えられた。

だが、妓生として多くの高級官僚や北学派〈プガクパ・中国の先進文化に学ぶ実学の一派〉たちの宴席に出るようになってから、わかったことがあった。
父は、王に殺された。だがその王もまた、実の父親を老論の手によって奪われた。数百年の昔から繰り返されてきた派閥闘争という血で血を洗う争いが、人々の間に終わりのない憎しみを生んでいる。
そして紛れも無く、彼女もその渦に巻き込まれた一人なのだった。

血の臭いは強い香で消すことができる。だが彼女の心に染み付いた罪は、客の前でどれだけ美しい曲を奏でても、どれだけ艶然と微笑んでも、決して消えることはない。
そんなことはわかりきっていたはずなのに、救われるかもしれないと思ってしまった。
あの青年の、澄んだ瞳を見てしまったから。

もし彼に愛されたなら、この渦の中から抜け出せるかもしれない。
たとえ愛されることはなくても───彼の存在が、道標となってきっと自分を導いてくれる。
そんな確信があったから、彼女は青年を愛した。

報われなくても構わなかった。彼とめぐり合い、愛せたことが重要だった。
百年に一度、海面に顔を出す盲目の亀が、そこに浮かぶたった一本の木に出会うかのような。
彼がいてくれたことは、彼女にとってそれほどの奇跡であったのだ。



「お前が果たすべき任務だ」

一本だけ灯した蝋燭の明かりが、兵曹判書ハ・ウギュの顔に濃い影を落としている。
闇の中に浮かび上がるそれはまるで亡霊のようだとチョソンは思った。
渦の、更に深みへと彼女を引きずり込む、忌まわしい亡霊。

「大監……約束は守ってくださる方だと信じておりましたが」

刺繍の入った被衣〈スゲチマ〉の間から、チョソンは鋭くウギュを見返した。だがそれでこの男が怯むはずもない。
ウギュは余興を楽しむかのような笑みを浮かべると、言った。

「お前なら喜んで受けるはずだ。キム・ユンシクを我が元に連れてこい」

チョソンは耳を疑った。この男の不吉な口から、まさか彼の名を聞くことになるとは思いもしなかったのだ。

「若様を……?なぜでございますか」
「キム・ユンシクは男ではない。女だったのだ」

一瞬、喉をつまらせたチョソンは、すぐには意味が理解できず、ウギュの言葉を頭の中で反芻した。

若様が男ではなく、女?いったい何を言っているのだろう、この男は。

「大監、それは有り得ません」
「その有り得ぬ罪を犯した女を捕らえ、国の秩序を正すのだ。今月末だ。その日までに、キム・ユンシクを連れて来い。国法を侮る不届き者を捕らえ、死をもって償わせるのだ」

チョソンの背中に、鈍い痛みが走った。足元がふらつき、背後の戸棚にぶつかったのだと気づいた。身体を支えようとしたが、手が震えて力が入らない。
喉はますます締め付けられたようになって、息が苦しかった。目を見開き、思わずあえいだ彼女を、ウギュの三白眼が冷たく見下ろしていた。

「───天下の名妓、チョソンの想いを踏みにじり、弄んだ罪も償わせてやろう」







***********************************
相変わらず捏造もいーとこですが(^^ゞ

このシーンの場所、ホントはどっかの物置みたいなとこです。
あまるの脳内妄想では、チョソンの実家をウギュが買い取っていて、今は空き家になってる状態。
そこを、秘密の連絡場所にしてるという設定。
チョソンにとっては辛い場所だけど、自分への恩を忘れさせまいと、ウギュならやりそうだなと思って。





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2014/05/07 Wed. 03:42 [edit]

category: 最終話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: 48ママさま

タイトル、お褒めいただいて恐縮です(^^)
もとは仏教の説話から来てる言葉らしいので、儒教の国で使うのはどうなんだろうと思わないでもなかったのデスが(^^ゞ
オクセジャの中に出てきた蓮の話は明らかに仏教だし、そのへんは一般知識として問題なかったってことで、まいっか、と。←適当

チョソンと兵曹判書。ああ~考えたくない……(笑)
チョソンが成長するにつれ、ウギュがスケベ心を抱いていったことは想像に難くありませんが、するりするりと上手く拒まれて実際に手を出すところまではいってなかったと個人的には希望。
でもそれもそろそろ限界になってきていて、ヤバいな~って頃に、ユニと出会ったんじゃーないかと推測しております。
チョソンがユニ見て笑ってたの見ただけで、我を忘れてユニを殴ろうとした男ですからね~インスは(^^ゞ
父親がチョソンに手を出してたことを知ったら、たとえ親でも殺してしまいかねない。あくまで想像ですが。

あまる #- | URL
2014/05/11 03:11 | edit

This is No.1!!!

あまる様
 「盲亀の浮木」・・・今回、何と言っても、このタイトルに痺れました。本当に、本当にすばらしい。どこから、どうしたら、こんな言葉が降りてくるのか・・・!
これまでにも名タイトルはあまたありましたが、一番に推挙します。こんなすばらしい表現に出会うと、元気が出ます(^^ゞ「ありがとうございます」と言わずにはいられません。

 ・・・さて。チョソン(ドラマの最終話で、「草善」と表記してありましたが)と兵曹判書は、同床した関係なのでしょうか?・・・いえ、言わずもがなの了解事項だと思っていたのですが、インスの長年にわたる執着というか斜め方向の愛をみていると、ふと疑問が湧きまして・・・。何しろ、兵曹判書はユニを借金のカタに我がものにしようとした汚い男ですから、美しいチョソンに触手を動かさないとはとても思えない。では、それを承知の上でチョソンを思い続けていたのなら、ある意味、インス、すげ~っ!どうなんだろう・・・?
 書いているうちにだんだん恥ずかしくなってしまい、最後、ふざけてしまいました。その方がよっぽど恥ずかしいですね。ご容赦ください。
 でも、実際、どうなんだろう?

48ママ #- | URL
2014/05/11 00:25 | edit

Re: ねーさま

お褒めいただいて恐縮です(〃∇〃)
チョソンのお父さんについてはもーアレ以外思い浮かばなかったです(^^ゞ
老論の両班、っていうのもちょっと考えたんですけど、身分は中人でも、学識ある家庭、っていうのがチョソンの背景としてはしっくりくるかなぁと思ったので……。

完結まであと少し、ではありますが、かなり時間がかかりそうな予感(笑)
もう暫くお付き合いのほど、よろしくお願いいたします~。

あまる #- | URL
2014/05/09 01:27 | edit

Re: ちびたさま

お久しぶりです~。(^^)
チョソンは原作とドラマでは一番キャラが変わってる人かもしんないですね。
原作は原作でまた魅力的な人ではありますけど。あの激しい性格、実は結構好きです(笑)

ソンジュン、ホント頑張んないと(^^ゞ

あまる #- | URL
2014/05/09 01:18 | edit

Re: 甘*さま

ワタクシも、チョソンについてはとっても気になっておりました。
ドラマの中ではチラホラヒントがあるものの、結局よくわかんないですものね~。
公式ガイドブックにも詳しいことまでは書いてませんでしたし。
王様のせいで父親を亡くしたとしても、彼女の場合復讐のオニ、っていうのとはちょっと違うような気もするし。
聡明な人なので、単純に王様一人を恨んだりはしてないのかな、とか。
権力に貪欲なインスを哀れんでるようなとこもありましたもんね。

DVD、戻ってきて良かったですね!(笑)ソンスは見る度に新しい発見がありますから~(^^)

あまる #- | URL
2014/05/09 01:10 | edit

Re: k**さま

チョソンも途中から完全に放置プレイでしたよね~(^^ゞ
ユニが女だってバレた後の、ユニとチョソンの絡みも見たかったです。
まぁそれだととても20話じゃ終わらないでしょうけども(笑)

ソンジュンはまさしくワタクシにとっても理想の旦那様ですー(*>ω<*)
二人のイチャ甘はもちろん好きですが、実はソンジュンがユニに説教垂れるとこはもっと好きだったりします。
ワタシもソンジュンに怒られたいわ~←M?


あまる #- | URL
2014/05/09 00:53 | edit

Re: harurunさま

えげつない嫌なやつ(笑)は、チョソンを手下にするためにそーとーえげつないことをやってそうです。
パパの死に関しても、実はチョソンが知らないことも裏でたくさんあるんでは……とか。
想像はイロイロと膨らみますね~。

一体あの小屋はどこやねーん!と、この回はしょっぱなから躓いてしまったので、むしろ大幅なでっち上げの方が全然楽でした(笑)
処刑されたとはいえ、チョソンのお父さんを悪人にはしたくなかったので、なんかつらつらと余計なこと書いちゃいましたが……なんとなく伝わってるといいんですけど(^^ゞ

あまる #- | URL
2014/05/09 00:39 | edit

Re: R**Aさま

ですね~。ワタシもチョソンには幸せになって欲しいです。
インスには頑張っていただかないと(^^ゞ
彼も土壇場でほんの少し男を上げてはいますが、チョソンが惚れるにはまだ足りない気がするんですよねぇ……。(笑)

あまる #- | URL
2014/05/09 00:20 | edit

読ませて頂いて、思わずうなりました。
チョソンの背景ってドラマではほとんど出てきませんものね。あまる様の想像力&創造力に頭が下がります。
完結まで、あと少しですね。愉しみなような、寂しいような・・・。

ねー #- | URL
2014/05/08 23:06 | edit

ソンスの登場人物は悪人でも愛すべきお人柄の人が多いのですが、このチョソンは特に好きな人物です。
原作とはかなり違いますが、私はこちらのチョソンが好きかな。

あまるさんの背景描写はかなりツボですわあ。
す て き
ソンジュン、この最終話に関してはチョソンに負けてる気が、、、
頑張れ〜(笑)

ちびた #- | URL
2014/05/08 09:34 | edit

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# | 
2014/05/07 20:54 | edit

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# | 
2014/05/07 10:25 | edit

なるほど!

おはようございます。
チョソンの事は全然詳しく教えてくれないから、あんなえげつない嫌なやつの手下で謎でしたが、なるほどです。
けどあの小屋からそこまで広がるなんて、凄いですよね。
やっぱりお話書けるって本当に凄いです。
この先もとっても楽しみです(*^^*)

harurun #BJfyOLl6 | URL
2014/05/07 08:33 | edit

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# | 
2014/05/07 07:28 | edit

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