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落花流水 3 

ソンス番外編更新しました。
拍手コメントくださった皆様、お返事できなくて申し訳ないですが、どなたのコメントも大変嬉しく、有り難く読ませていただいております。本当にありがとうございます。

今回のお話はこれにて終了しました。
お付き合い、ありがとうございました(^^)


*************************************



翌日の午後。とりあえず終わらせた写本の納品に、ユニは貰冊房を訪れた。すると、店の扉をくぐるや、店主のファンが何やらニヤつきながらすうっと擦り寄ってきて、ひそひそと囁いた。

「あたしは、キムの若様の味方です。言ってくだされば、いつでも例の妓生に取次ぎますよ」
「例の妓生って?」
「ここんとこ、ずっと若様ご指名で依頼を寄越してた妓生がいたじゃありませんか。詩文集の筆写やら名刺やら……。覚えてないんですか?」

覚えてるも何も、このところ立て続けにあった依頼が同じ人物からのものだとは思っていなかったユニである。

「知らない。依頼人の名前までいちいち見ないもの」

そう言うと、ファンは大袈裟に天を仰いで、「かーっ!なんてもったいない!」と嘆いた。

「若様、もうちょっと女心ってものもわかるようにならなきゃいけませんよ。あのお堅いカラン坊っちゃんですら、すぐにピンときたってのに」
「どういうこと?」
「この間坊っちゃんが断りなすった、大口の仕事ですよ。どんな依頼だ、って詰め寄るから、妓房の屏風に漢詩を書いて欲しいそうで、って言った途端、それはそれはおっそろしい顔して、『二度とその妓生をキム・ユンシクに取り次ぐな』ですからね」

ファンはソンジュンの真似のつもりか、眉間に皺を寄せ、妙に低い声音で言った。
屏風に漢詩を書くことの、どこが悪いんだろう。
今ひとつ事が飲み込めず、ぽかんとしているユニに痺れを切らしたように、ファンが言った。

「ああもう、どんだけニブチンなんですか!わざわざ妓房まで来い、ってんですよ?閨の誘いに決まってるじゃありませんか!」
「ええっ⁈」

ユニは思わずその場で腰を抜かしそうになった。

「じょ、冗談じゃないよ!なんでぼくが?!会ったこともないのに!」

会った会わないはこの際関係なかったが、気が動転するあまりそんなことを口走ってしまう。もう何が男として正しい反応なのかわからない。

「なんたってあのチョソンを虜にしたってんで、若様はここらじゃ有名ですからね。次に“伝説の大物〈テムル〉”を拝むのは自分だってぇ野心に燃える女どもが妓楼にはわんさと……」

伝説の大物、と聞いて、ユニはげんなりした。人の噂も七十五日なんて絶対嘘だ。忘れ去られるどころか、日増しに話が大きくなっている気がする。
ヨンハがいつだったか、チョソンの存在はある意味ユニにとっての防波堤だった、というようなことを言っていたが、その意味が今になってわかった。妓生の世界にも義理というものがある。当代一の妓生とそういう仲の男には、おいそれと手が出せなかったが、チョソンのいない今となっては、彼女たちにとって“大物”は禁忌ではないのだ。

今回だって、ソンジュンが事前に気付いて断っていなければ、のこのこと妓房に出向いて身ぐるみ剥がされていたかもしれない。
新榜礼のとき、牡丹閣で味わったあの恐怖の瞬間を思い出し、ユニは寒気がした。

「どうです?何なら今からでも取り次ぎますよ。坊っちゃんには黙ってればバレやしませんて」

ファンは、そんなユニの心中などお構いなしに、恐ろしいことを口にする。
ユニは曖昧に笑いながらファンの有り難くもない申し出を断ると、そそくさと貰冊房を後にしたのだった。


*   *   *

はい、と言って、ユニは帰る途中で買ってきた水差しを文机の上に置いた。ソンジュンがそれを手にとり、相好を崩す。

「綺麗な色だ」

「まぁ、色はね」とユニは肩を竦める。形はユニが持っているのと同じ、どこにでもある鳥形の水差しだ。だが諦めきれないユニは、かつて店先で一目惚れしたあの品に似た色のものを、迷わず選んでいた。

「本当に、そんなのでいいの?」
「僕はこれがいいと言ったろう?」

そう言って笑うソンジュンは、確かに嬉しそうだ。ユニは急に自分が情けなく思えてきて、ごめんなさい、と言った。

「何も事情を知らないで、あなたを責めちゃったわ。でもどうして言ってくれなかったの?誘惑されかかってたんだって知ってたら、私だってあんなに怒ったりしなかったのに」

ソンジュンは水差しを置くと、相変わらずあの男は口が軽いな、と渋面で溜め息をついた。

「……きみが、指名の仕事をたくさん貰ったと喜んでいたから。余計に、腹が立ったんだ。本当にきみの書を気に入って依頼をくれるのならともかく、そんな下心できみを夜遅くまで働かせるなんて。そんなこと、きみは知らなくていいと思った。だから……黙ってた」

(私が、傷つくと思って……?)

ふいに言葉に詰まって、ユニは俯いた。

ユニが、ソンジュンにはどうしたって敵わないと思うのはこういうときだ。
自分の無神経さが嫌になる。
彼のこんな優しさと深い愛情に気付かずに、怒ったり、泣いたり、拗ねたりしていたなんて。

彼の傍にいれば、私ももっと優しくなれるのだろうか。
彼の愛情に報いることのできる、良い妻になれる───?

ユニ、と静かに呼び掛けられて、顔を上げた。気遣わしげなソンジュンの表情に、明るく微笑んでみせる。

「大丈夫、なんでもないわ。あのね、私も嬉しい。あなたとお揃いなんて、指輪以外ではこの水差しが初めてじゃない?」

「そういえばそうだ」と言って、ソンジュンはユニの筆入れから白い水差しを取り上げ、隣に並べた。
なんだかつがいの鳥みたいね、とユニが笑うと、ソンジュンは言った。

「これはきっと雁だ」
「そうなの?どうして?」
「僕が今そう決めた」

その断固とした言い方が妙に可笑しく、ユニはぷっと吹き出した。つい、婚礼の儀式である奠雁礼〈チョナルレ〉で、新郎のソンジュンがユニの母に木雁〈キロギ〉の代わりにこの水差しをうやうやしく捧げているところを想像してしまったのだ。

「そうね、あなたの言う通り。きっと雁よ」

くすくす笑いながらそう言うユニに、ソンジュンは少しばかり不満顔だ。

「何がそんなに可笑しいんだ?生涯相手を替えない雌雄の雁は、夫婦円満と貞節の……」
「知ってます、そんなこと」

生真面目に説明しようとするソンジュンを遮って、ユニはそっと彼の肩にもたれかかった。

「どうしよう。私もこのまま死んじゃいそうよ」

あなたが愛しすぎて。
今この瞬間が、幸せすぎて。

あの菊花の香りがまた、ユニの鼻先をくすぐる。目を閉じて深く息を吸うと、ソンジュンの身体がユニの方に僅かに傾ぐのがわかった。瞼を開く間もなく、その香りごと唇を塞がれる。

くちづけを交わす度に、馴染んでいく互いの柔らかな感触と、香り。
初めて触れ合ったあのときのような、心臓が破裂するかというほどの胸の高鳴りは、今はない。けれど、重ねた唇から流れ込んでくる眩暈がするほどの幸福感に、体中が満たされるのを感じる。
言葉は無くても、彼の想いが次第に熱を帯びていくのがわかる。

そしてその熱はそのまま、ユニの内部を侵食し、自身ですら知らなかった彼への狂おしい想いを露わにするのだ。



───私を愛してください。もっと、何度でも。
そうすれば私もあなたを、もっと強く、そして深く愛するでしょう。
見返りというのではなく
そうやって互いを巡りながら育っていくものが、私とあなたの間には確かにある。
そんな気がするから。


ゆっくりと覆い被さってくる、ソンジュンの心地良い重み。
それを受け止めるように、ユニは彼を抱き締めたまま、その身を横たえた。





おわり。





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2014/04/29 Tue. 19:08 [edit]

category: 落花流水

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: R**Aさま

ありがとうございます~(^^)
そーなんデス。本編の最終話4で、ソンジュンに自分の“負け”っぷりをブチブチ言わせちゃったので、ぢつはそーでもないんよ、と。今回はカワイソーなソンジュンのために書きました(笑)

ユニにはちゃんと愛されてるから安心しなさい、と言ってあげたいス(^^ゞ

あまる #- | URL
2014/05/01 02:35 | edit

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# | 
2014/04/29 22:25 | edit

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