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落花流水 1 

あまるですどうもこんにちわ。

本日の更新はソンスの番外編です。
次回で完結の予定。たぶん。

*****************************************



あ、とユニは小さく声を上げ、紙から筆を離した。慌てて傍らの経本に目を走らせ、はあと深い溜め息をつく。
またやってしまった。同じ行を、そうと気付かずに三度も書いている。
普段筆写するときはちゃんと文章の流れを追いながら書いているのに、今夜はそれが全く出来ていない証拠だ。
これじゃ仕事にならないわ、とユニは書き損じた半紙を丸めて放ると、諦めて文机に突っ伏した。

こんなことで腹を立てる方が間違っているのかもしれない。
妻は、夫に従うものだし、ソンジュンにはソンジュンの考えがあってしたことなのだろうから。
だけど、とユニは唇を噛み締める。

───黙って勝手に私の仕事を断るなんて、横暴過ぎる。

文机の上に頭を乗せたまま、ぼんやりとしているユニの目の前には、白い陶器の水差しがつるりと光っている。墨を摺るとき、硯に水を垂らすのに使っているものだが、ユニの愛用するそれは、どうかすると雛鳥が餌を求めて嘴を開けているような愛嬌のある形に見えるのだ。

ユニは、人差し指で雛鳥の嘴をちょんとつついた。
そういえば、そもそもの事の発端は、この水差しだったんだっけ……。

半月ほど前のことだった。
筆洞からの帰り、たまたま通りかかった雑貨屋の前で、ユニの目はあるものに釘付けになっていた。
それは、美しい青磁の水差しだった。翡翠のような淡い緑色と、繊細な七宝模様の透かし彫りが上品で、ユニは一目でソンジュンにぴったりだと思ってしまったのだ。

実はソンジュンはもう随分前から、ほんの少しではあるが口の欠けてしまっている水差しをそのまま使い続けていた。それでは墨の濃さも調節し辛いだろうし、何より押しも押されもせぬ理想の花婿、イ・ソンジュンの体裁もある。新しいのを買ったら、と勧めたユニに、彼はちょっと考えて、言った。

「まだ使えるし、これが慣れてるから」

いったいどっちが貧乏貴族出身なんだか、とユニは可笑しくなったが、左議政の息子とは思えぬそんなところがまた彼らしいような気もした。
ユニも書をたしなむ手前、道具に対する愛着というのはよくわかる。一度馴染んでしまうと、それがなくては手元が狂ったりして、途端に事がはかどらなくなってしまうのだ。

とはいえ、彼の妻を自認する立場としては、いつまでも夫に欠けた水差しを使わせるわけにはいかない。どこかにソンジュンが気に入ってくれるような品がないかと探していたところ、ついに彼女は出会ったのだ。
主張し過ぎず、かといって目立たぬわけでは決してなく。凛とした佇まいの中にも、優しい色合いがあって。それはもう、ソンジュンのために作られたとしか思えないような出来栄えで、ユニは店先で水差しを手に思わずうっとりとしてしまった。
しかし、格調高い品はお値段も流石に高い。
何気なく値札を見た途端、びくびくしながら水差しを置いたユニは、その足で貰冊房に引き返し、仕事を倍に増やすという暴挙に出たのだった。

いつにも増して忙しくなったユニに、ソンジュンは心配と不満を口にした。普段なら、ユニが大丈夫、と笑顔で言えば不承不承ながらも引き下がる彼だったが、何故か今回ばかりは違った。

それが今日の、昼間のことである。
店主ファンから大口の仕事があるという知らせを受けたユニは、講義が終わってから嬉々として貰冊房へと向かった。彼女はそこで、自分に勝るとも劣らないソンジュンのとんでもない“暴挙”を知る。
なんということか、彼はユニが受けるつもりだった大口の仕事を先回りして断ったばかりか、それを依頼してきた得意客を、今後一切キム・ユンシクに取り次ぐなとファンに厳しく言い置いていったというのである。

落胆はソンジュンへの怒りに変わり、ユニは家に帰り着くなりソンジュンに猛烈に抗議したが、どうしたことか彼は一切の反論も弁解もしようとしなかった。ただ黙って、嵐が通り過ぎるのを待っているかのような彼の態度に更に頭にきて、ユニは夕餉もとらず一人内棟に引き篭もり、今に至るというわけである。


「あの水差し、本当に綺麗だったのに」

ぽつりと、ユニは呟いた。陶器の雛鳥に話しかけるように。
手にとって少し傾けると、小鳥がユニの言葉に可愛らしく首を傾げているようにも見える。

「お前も、見たら一目で好きになったはずよ」

私が、彼を好きになったみたいに。

そんな言葉を胸の内で呟いた途端、無性に悲しくなって涙が出た。
些細な喧嘩は幾度もあったが、こんなのは初めてだった。まるで、分厚い石の壁に向かって文句を言っている気分だ。
怒っているのは自分ばかりで、彼は相手にもしてくれない。

(やっぱり、間違ってるのは私の方なの……?)

ぐすんと鼻を鳴らして、ユニは目を瞑った。そのまま少し、うとうとしていたのかもしれない。どれくらいそうしていたのか、扉の向こうから微かにソンジュンの声が聞こえて、ユニは薄目を開けた。

「ユニ、まだ怒ってるのか?……顔を見せてくれ」

知らない、とユニは不貞腐れてまた目を瞑った。

喧嘩して夫を締め出すなんて、従順な妻のすることじゃない。
どうせ私は従順なんかじゃないし。でもそんな女を妻にしたあなたが気の毒だから、寝てたってことにしてあげる。

ユニは寝たフリを決め込むことにして、ソンジュンの一切の問い掛けを無視した。
やがて、かたりと静かな音がして、彼が扉を開け、部屋に入ってくる気配がした。
これはいよいよ本腰を入れて狸寝入りをしなければならない。
ユニは固く目を閉じ、息をつめて彼の足音が近づいてくるのを待った。

ふわりと、菊花の香りが漂った。ソンジュンの衣に焚き染めた、彼の香りだ。
文机の向こうではなく、突っ伏しているユニのすぐ横に、ソンジュンが腰を下ろしたのがわかった。
こうして視覚を排除してしまうとよくわかる。彼の気配は、その香りも、衣擦れの音も、ユニにとってとても心地良いものなのだ。不快なものなど何一つない。それが近くにあるだけで、どきどきすることもあるけれど、また安心もする……。

「───ユニヤ……」

腰のあたりが痺れるほどに甘く、優しい声が、彼女をそう呼んだ。
ユニは狼狽えた。もう何度も肌を重ねた仲でありながら、ただ名を呼ばれただけでこんなに胸が震えるなんて、どうかしている。
恥ずかしさに目を閉じたままでいると、微かな衣擦れとともに、彼の香りが濃くなった。
涙の跡に気付いたのかもしれない。目元を、そっと拭ってくれる彼の指を感じた。
そして、頬に淡雪のように触れて広がる───けれど決して冷たくはない、彼の唇の、ぬくもり。

「……ごめん」

離れた唇が、耳元でそう囁いた。

「どうしたらいい?きみが愛しすぎて……死にそうだ」

そんなせつない声を聞いたら、もう限界だった。ユニは咄嗟に、肩に掛けていた長衣〈トゥルマギ〉を引っ張りあげ、頭からすっぽりと被って、火の出そうになった顔を隠した。
驚いたのはソンジュンだ。
てっきり相手が寝ているとばかり思って漏らしたのは、彼が普段決して口にすることはない甘すぎる言葉だった。
恥ずかしさは、言われた方の比ではない。

ぱっ、と弾かれたようにユニから身体を離すと、彼は上ずった声で言った。

「きみ……今の、聞いて……」

ユニは、被った長衣の隙間から目だけ出して、ソンジュンを見た。彼の顔は耳の先まで真っ赤である。その視線がユニとぶつかるや、ソンジュンはすっくと立ち上がり、無言のまま早足で逃げるように部屋を出て行ってしまった。








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2014/04/18 Fri. 19:52 [edit]

category: 落花流水

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: じぇぐんよんさま

恥じらいは忘れちゃいけませんよね……やっぱり←自分への戒め?

お待たせしましてすみません。ただいま続きアップしてきました。
楽しんでいただけると嬉しいですー(^^)

あまる #- | URL
2014/04/23 17:58 | edit

素敵な物語です。
とても二人が愛しくなります。
夫婦になっても、この恥じらいさがたまらなくいいです。うふふ

更新待ちきれなくなってます。
ありがとうございます。

じぇぐんよん #- | URL
2014/04/21 12:34 | edit

Re: r**c** さま

キュンキュンでしたか?ありがとうございますー(^^)
あんま色気のない話ばっかり書いてると、たまにでろ甘なの書きたくなるんですよね~。
お見苦しいかもですが、あまるのビョーキが出たと思ってお付き合いいただけると嬉しいです(笑)

あまる #- | URL
2014/04/20 01:01 | edit

Re: k** さま

や、ワタシも死にます、確実に(笑)
ユニヤ、って呼ぶとこ、ホントは「チャギヤ」って言わせたかったんですけど(^^ゞ
どうもこれってアチラでは最近の言葉だそうで。
ソンスっていちおー時代劇だしなー←いらんとこに拘る

あまる #- | URL
2014/04/20 00:58 | edit

Re: p**e*さま

こんな書き散らかしに過分なお言葉、恐縮しておりますが、嬉しいです。ありがとうございます(^^)
ワタクシの文章とゆうよりも、ソンジュンやユニがそもそも美しいのだと思います、きっと(笑)

ソンス本編はラストに近づいてからいつにも増してペースガタ落ちですが(^^ゞ
もちろんワタクシのソンス熱が続く限りは、このブログも続くと思いますので、これからもよろしくしてやってくださいませ。

あまる #- | URL
2014/04/20 00:51 | edit

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# | 
2014/04/19 15:45 | edit

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2014/04/19 02:30 | edit

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2014/04/18 21:33 | edit

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