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第二話 10 成均館 

今朝は割と早く家を出たつもりだったが、ユニが到着したとき、成均館の門前には既に新入生たちが列をなして受付を待っていた。この分では実際に構内に足を踏み入れるのはいつになることかと心配したが、どうやらそこでは書吏が号牌と学生名簿を照合するだけのようだ。列の進み具合は、思っていたよりも早かった。

「クォン・ビョンジャ君……チョン・スンミン君……」

 ユニの番だ。受付の前に進み出る。と、書吏がユニの顔を見上げるなり、「キム・ユンシク君?」と語尾を上げた。ユニが頷き、号牌を出そうとするのを軽く手で制し、

「南山村出身、19歳。党派は南人」

 と、まるで暗記でもしているかのように、ユニの略歴をすらすらと並べた。少し驚いて、尋ねる。

「キム・ユンシク……あ、いや…ぼくをご存知なのですか?」
「緑鬢紅顔」

 書吏はニッ、と笑って、言った。

「国王さまが貴君の美貌をそう評されたことはここらでは有名ですから。期待したほどではないが、まあそれなりに綺麗ではありますね」
「おおーっと、とんでもないことを言ってくれるね!」

 いきなり、背後から無遠慮な声が飛んできた。振り返ると、下男か何かだろう、新入生の付き添いに来ているらしい丸々と太った男が、大きな腹をこちらに突き出すようにしてふんぞり返っている。

「自分の顔を棚に上げて、よくも言えたもんだ。おれなんか、うちの坊ちゃん以外では初めてだね、そんなきれいな学士さまを見たのは」

見ると、太った男の隣に無表情で立っている“うちの坊ちゃん”は、まさしくあのイ・ソンジュンではないか。こんなに早くあの男と顔を合わせることになるとは、なんてついてないんだろう。

「ほら、よおーく御覧なさいよ、その学士さまの顔を。知らない人が見たら、きっと女だと思うね。まあ、女が成均館に入るなんてあり得ないけど」

 下男の言葉にユニはぎょっとして、笠のつばで顔を隠した。

「ぶっ、無礼な物言いは、主人にそっくりだ」
「───スンドル」

 ソンジュンが、やっと口を開いた。

「もういいから。お前は帰れ」

 静かにそう言うと、スンドルは素直に「はい、そうします」と言って、担いでいた荷物を下ろした。

「ちょっとそこの人!うちの坊ちゃんをよろしく頼みますよ!」

書吏に向かって大声で言ったかと思うと、すぐ前に並んでいるロバを連れた儒生に少々強引に荷物を預ける。太っている割にはせかせかとせわしなく動いて、スンドルは帰っていった。
その背中が見えなくなる間もなく。

「イ・ソンジュン君~!」

 今度はなんだ?とユニが声のした方を見る。と、開け放たれた門から大司成が両手を広げ、まさに再会した恋人を抱き締めんとするかのようにソンジュンに駆け寄った。
 大司成は礼儀正しく頭を下げるソンジュンの手を取り、喜色満面で言った。

「いやいやいや、遠いところをご苦労さまでした。ささ、こちらへいらっしゃい。私が直々に案内しますからね」

大司成は従えてきた書吏に荷物を持たせ、炎天下に並ぶ儒生たちを掻き分け掻き分け、ソンジュンを連れていってしまった。当然、追い越された方は不満たらたらだ。
 敵を作るのは、必ずしも、本人のせいだけではないのかもしれない。妙に騒がしい周囲に比べ、至って静かなソンジュンの背中を見ながら、ユニはそんなことを思った。


 成均館の構内に足を踏み入れると、そこは儒生たちで溢れ帰っていた。同じ学堂仲間なのだろう、再会を互いに喜び合う者たちの輪があちこちにできている。当然ではあるが、ユニには知り合いなど一人もいなかった。居心地の悪い心細さを感じてぼんやり突っ立っていると、目の前に にゅっ、と掻餅が突き出された。

「お前、イ・ソンジュンと親しいのか?」

掻餅を持ったまま、男が訊ねた。もともとそうなのだろうか、眉尻の下がった、なんだか眠そうな顔だ。

「親しいってわけでは……。まぁ、感じの悪いやつだってことは知ってるけど」
「王の上に左議政ありだ。ヤツを怒らせたら、怪我するぞ」

食べる?と差し出された掻餅を、ユニが丁重に断る。男はそれを口の中に放り込み、ぼりぼりと噛み砕きながら自己紹介した。

「俺はペ・ヘウォン。ヤツと同じ中部学堂の出身だ。お前は?」
「えっ?ああ、ぼくはキム・ユンシク。学堂は……その」

咄嗟に、どう答えていいものか困った。学堂に行っていない理由をユニがあれこれ考えていると。

「孔子、曰く!」

ユニの頭の上から、唐突に声が降ってきた。
振り返ると、清国渡りの色つき眼鏡をかけたひょろりと背の高い男が、人差し指を立てて言った。

「『己に劣る者を友とするべからず』───キミらと友になる気はないから自己紹介などしないぞ。しかしだ!……ん?」

きょとんとして顔を見合わせるユニとへウォンに、男は眼鏡をずらして目をぱちぱちと瞬かせた。

「なに?ひょっとしてこの僕を知らないの?」

揃って首を捻る二人に、男は「かーっ!」と大仰に嘆いて天を仰ぐ。

「何という世間しらず!何という浅はかさ!2歳にして千字文を覚え、4歳にして太史公書を読破、5歳にして南部学堂に入ったこの神童、キム・ウタクを知らないとは───って、もういねぇしっ!」

入学初日は忙しい。なんだかよくわからない変な男の相手はしていられない。ユニはさっさとその場を後にしたのだった。
 ともあれ、誰かと少し話したおかげで当初の緊張もかなりほぐれてきた。すると、途端に好奇心がむくむくと頭をもたげてくる。ユニは気の赴くまま、成均館のあちこちを見て回った。

大勢の茶母たちがてきぱきと立ち働く、広い広い学生食堂。
第一講義室である明倫堂では、先輩儒生たちが念仏のように、それぞれに広げた書物を音読している。
ユニの目が最も輝いたのは、国内では奎章閣の皆有窩(ケユワ)に次ぐ蔵書数を誇ると言われる、成均館の書庫、尊経閣を見たときだ。

亡き父の残した蔵書をただ乱読するばかりだったユニにとって、慣れ親しんだ書物ばかりか、初めて見る膨大な書物が体系的に整然と並んでいる様は、まさに圧巻の一言に尽きた。ユニが古書店で散々探しても見つからなかった本までが、当たり前のようにそこにある。ちょっと見学するだけのつもりが、手に取った本をついつい読み耽り、長居してしまった。
 
 尊経閣を出たユニが、学生寮である清斎へと向かっていると、その足元にころころと麻縄を巻いた鞠が転がってきた。

「おーい、新入生!こっちだ!」

 声のする方を何気なく見たユニは、ぎょっとして慌てて目を逸らした。上半身裸の男たちが、しかも集団でこっちを見ているではないか。目の端で、向こうが手で合図を送っているのがなんとなくわかった。鞠を寄越せというのだろう。
 ユニはなるべく彼らを見ないようにして、足元の鞠を思い切り蹴った。鞠は、ぽーんと思いの外よく跳んで、男たちの頭上を軽々と超えていった。ほぉ、と感心したような声が儒生たちから上がる。ユニはちょっと得意になった。

* * *


 同じ頃、ソンジュンは正録庁で大司成手ずから入れるお茶を前に、微動だにせずに座っていた。

「左議成様と私は兄弟同然の間柄でね。だから君も私のことは家族だと思って、遠慮せずにいつでも訪ねてきなさい。大事な一人息子を送り出して、父君もさぞかしご心配でしょう。私の誠意が父君に伝われば、きっと安心なさると思うが……」

 大司成はちらりとソンジュンの顔を伺う。だが彼の表情は静まり返ったままだ。大司政は おほん、と咳払いをして更に続けた。

「照れくさくて私の口からはとても言えないな。といって、父君のご心労を放っておくわけにも……おおそうだ、もし寄宿舎が気に入らなければ、私のこの部屋を使ってもよいのですよ」

 ソンジュンは体ごと大司成に向き直ると、言った。

「父上によく伝えておきます」

 大司成は「さすがは左議政様のご子息だ。父君に似て、飲み込みが早くてらっしゃる」と満足気に笑って、湯呑に口をつけた。

「大司成様が父と血縁関係にあると詐称し、賄賂によって便宜を図るよう頼み、寄宿舎生活をせよという王命に背くようそそのかしたと───そのように伝えます」

 ぼたぼたぼたっ、と半開きになった大司成の口から、茶が零れ落ちた。ソンジュンはすっと立ち上がると、断固とした口調で、言った。

「寄宿教育は、出自に頼らず、己を鍛錬するための場であるとか。よって今後は、いかなる特別待遇もお断りいたします。───では」

 顎鬚から茶を滴らせたまま固まっている大司成に深く一礼し、ソンジュンは正録庁を出た。と、そこにいたチョン・ヤギョン博士とはたと目が合う。
 軽い黙礼とともに通り過ぎようとした彼に、博士がふいに尋ねた。

「君が、他の儒生たちと同じ待遇を受けたら、却って皆の居心地が悪くなる……そう考えてみたことはないかね?」
 
 ぴたりと、ソンジュンの足が止まる。

「それが、何か問題ですか?」 

 彼は振り返ってチョン博士の目を見返すと、言った。

「居心地だとか、風通しだとか……そんなことのために無視できるなら、それは原則とは言えないでしょう」

 ソンジュンは一礼し、道袍の裾を翻した。
 小科での不正摘発といい、なんという原則好きだ。なるほど噂に違わぬ、いやあれはそれ以上の堅物だと、ヤギョンは去っていく真っ直ぐな後ろ姿を見つめ、苦笑した。

* * *

 来る途中、書吏に聞いた案内によれば、東斎のすぐ手前、伝香門の近くに部屋割りが貼り出されてあるという。私服姿の新入生が鈴なりになっているところを見ると、おそらくあれがそうなのだろう。
 さほど荷物があるわけでもなかったが、ひとまず部屋が決まらないことには腰が落ち着かない。先ほど会ったペ・ヘウォンの顔を集団の中に見つけ、ユニは張り紙の前に駆け寄った。

「よう。ユンシクだったな。部屋割りが決まったらしいぞ。どれどれお前は……お、あった」

中二房、と張り紙を指差したヘウォンは、下がった眉尻を更に急降下させ、同情のこもった眼差しでユニを見た。

「同室生がアレか……気の毒に」
「ど、同室生?一人部屋じゃないの?」

 焦ったユニは張り紙をよく見ようと、人垣を押しのけ、前に出る。その目に飛び込んできたのは、『東斎 中二房 金允植 李先俊 』の文字。

「李先俊……イ・ソンジュン?!そんなまさか、あいつと同室?!」

 目の前が真っ暗になった。女の身で、赤の他人の男と寝食を共にするというだけで充分過ぎるほどの地獄だというのに、天はこの上更なる試練をユニに課そうというのだろうか。

「心配はいらないよ。そんなことにはならないから」

 唐突に、ユニの耳元でそう囁く声。ぞくりとして飛び退いたユニの目の前に、パッ、と扇子が広がる。焚きしめた香の香りとともに、そこに描かれていた睡蓮の花が、ユニの視界を覆った。

「イ・ソンジュンは、西斎に行くよ」

 扇子の端から、切れ長の目だけを覗かせて、男が言った。その眼差しはどこかで見たような気もするが、部屋割りで頭が一杯のユニには深く考える余裕がない。

「で、でも確かに、東斎 中二房と……」
「熾烈な党派争いの中で、こんな紙切れは意味がない。イ・ソンジュンは間違いなく西斎行きだ」

 そう断言する男の言葉に、ユニは少しだけ安心して小さく息をついた。男は、そんなユニの反応をちらりと見遣って、言った。

「けど私なら……むしろその下の名前を気にするね。なんたってあの桀驁だ」

 ユニは張り紙に目を泳がせ、眉を寄せる。

「コロなんて名前の人はいませんけど」

 そのとき、男がぐっと顔を近くに寄せてユニを覗き込んできたので、驚いたユニはまた少し飛び退いてしまった。なんだか彼のすることは、いちいち心臓に悪い。

「コロっていうのはあだ名だよ。意味は『暴れ馬』。とにかく乱暴なヤツだから、そう呼ばれてる。見かけは山賊そのもの。行動は下品極まりない」
「ほ、本当に?」

 暴れ馬?乱暴?ユニの背中に、嫌な汗がつたう。

「だがこいつもさほど心配はいらないよ。清斎で寝てるのを見たことがない。ああ、君はなんて運がいいんだ。新入生がいきなり一人部屋とは」
「そっか……そうですね。安心しました」

 ほっとするあまり思わず顔をほころばせたユニに、男は扇子の端の目をすうっ、と細めて言った。

「なんで?」
「えっ?」
「何か、一人部屋じゃなきゃいけない理由でもあるのかな?」
「べっ、べつに何もありません」

 男はふぅん、と鼻を鳴らし、覗き込んでいた身体を起こした。自分とは結構な身長差があったことに、ユニはそのとき初めて気づいた。

「私はク・ヨンハだ。あだ名は、女の林と書いてヨリム。よろしくね」

 女の林?っていうことはつまり、あの部分?なんちゅうあだ名だ。ユニは差し出されたヨンハの手を、恐る恐る握った。

「キム・ユンシクといいます。あだ名はまだ……」

 言いながら、えっ?と、ユニは自分の手を見た。握手するヨンハの親指が、ユニの肌の上でさわさわと怪しく動いている。

な、撫で回されてる───っ!!!

男同士の挨拶ってこういうもの?それともこれが成均館の習慣?
わけがわからず呆然とするユニの目前、咲き誇っていた扇子の中の睡蓮がぱたりぱたりと消えてゆく。入れ替わるように現れたその顔に、ユニは あっ、と声を上げた。

 貰冊房で、卑猥な本を読んでいたあの男だ。それから小科試験のとき、泮水橋で転びそうになったユニを抱き留めたのも、今思えばこの顔だった。
 ヨンハは悪戯っぽく笑うと、ぱちんと片目を瞑り、いきなりぐいっとユニの手を引き寄せた。

「わわっ!」

 重心を失ったユニが、ヨンハの肩に思い切り鼻をぶつける。痛みに涙目になっているユニの肩に腕を回し、ヨンハは耳元で囁いた。

「あだ名なんて……すぐにできるさ」

 するり、ともう片方の腕が、ユニの腰から背中のあたりを撫で上げる。
ユニはもはや恐慌状態である。耳朶をかすめる低い囁き声といい、怪しすぎる手の動きといい。そして極めつけはこの香りだ。いったいどんな高級な香を使っているのか、嗅いだこともない良い匂いに、頭がくらくらする。

 ───こんな所で、本当にやっていけるんだろうか。

 早くも、自信がなくなってきたユニだった。





**********************************************************

番外でりふれっしゅしたところで、本編再開しました。
コアにソンスをご覧になってる方はもしかしてお気づきかもしれませんが、文中、ヨンハが持ってる扇子の柄、ドラマと違っちゃってます。
やたら蝉がミンミン鳴いてるから季節は夏だろうと踏んだんですが、あのオサレ番長のヨンハが、夏に雪中梅の扇子?とちょっと違和感があったもので…。
とそんなわけなので、多少の小道具の違いはお許しくださいましっ。
一枝梅の扇子自体は、どっかで使いたいんですけどね~(笑)←ジュンギつながり?



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2011/08/29 Mon. 11:38 [edit]

category: 第二話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: ヨリム先輩

原作、一気読み~?そりゃスゴイ(笑)
アチラのヨリム先輩はドラマ以上にエロいでしょ~?とゆーか、原作ではソンジュンもエロいので(爆)
純真無垢なのはコロたんだけという……(^^ゞ

あまる #- | URL
2012/05/08 01:03 | edit

ヨリム先輩

初めて同窓生のできたユニちゃん、心なしかうれしそーで、なんとなく顔がほころびました。
でもって、校長先生じゃなくて大司成の下心みえみえの態度も、
それをいなすイ・ソンジュン君子。あんたたちそれじゃタヌキとキツネのばかしあいだって
(どっちが、どっちかは見た目通り苦笑)

そして、ヨリム先輩の、あのユニちゃんを引き寄せて抱きしめるシーン、やらしかったわー(笑)
なんか、後姿と耳元でささやく顔つきがエロい。
思わず指の間からちら見しちゃったじゃない。
あんた、妻がいるっていうのに・・・
(GWに原作、続編一気読みしたんでついつい)

ちびた #D4zl0nFc | URL
2012/05/07 21:53 | edit

Re: にゃん太さま

> お陰さまでよく理解が出来、楽しく思い出しております。

うちのブログにそんな使いみちがあったとわ(笑)
お役にたてましたなら嬉しいです。
といってもウソ書いてることもあるから(え?)何卒ご注意を~(^^ゞ

あまる #- | URL
2011/08/29 22:02 | edit

No title

え~、只今、夢現で見ていた映像と詳細を付け合せております。
お陰さまでよく理解が出来、楽しく思い出しております。
ありがとう!
これからも読ませていただきますね。よろしく!

にゃん太 #- | URL
2011/08/29 16:39 | edit

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