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最終話 7 愚王 

bandicam 2014-04-02 16-54-32-605

**********************************



泮村の北の外れには小高い丘があり、そこに登ると、一望とまではいかないが、小さな民家に灯る淡い明かりが闇の中にぽつぽつと浮かんでいるのを見ることができた。少し目線を上げればそこには、夜空よりも更に深い漆黒の影を湛えた山々が、なだらかな起伏を描いている。

草むらに腰を下ろし、暫くの間眼下に広がる風景を眺めていたジェシンは、手にした杯を煽ると、空になったそれに再びとくとくと酒を注いだ。
まるで本当に誰かがそこにいるかのように、足元に杯を置く。

「おいムン・ヨンシン、一杯飲んでくれ」

声が、白い息とともに風に舞った。鼻先に届いた乾いた草の匂いはそのまま、今は亡き人の気配を思い起こさせた。
馬を駆るのが好きだった兄。外から戻ってきたときは大抵、日なたと、飼葉の匂いがした。

───ずっと俺は、兄貴が世の中を死ぬほど憎んでると思ってた。
だから、あんな死に方が気の毒で。
だけど、わかったよ。兄貴はこの世を憎んでたんじゃない。
愛してたんだな。だから、あんな生き方ができた。……そうだろ?

銀杏の木に登り、見つめていたのはいつも、貧しい村で懸命に生きる人々の姿だった。
感じていたのはいつも、吹き渡る風と、葉擦れの音、そして濃い若葉の香りだった。
今ならわかる。
兄は、何よりも家族を大事にしていた。父と同じように。その大切な人たちが生きるこの世界を、愛さないはずはなかったのだ。

ジェシンは瓶に直接口をつけ、酒を喉に流し込んだ。

「クソ寒いな。兄貴は寒がりだったのに」

ぶるりと身体を震わせた彼の目に、ふと、息を弾ませながら丘を駆け上ってくるヨンハの姿が見えた。
余程急いで来たらしく、笠はやや後ろにずれ、この寒いのに首筋に汗を浮かせている。
ジェシンの胸に、嫌な予感が掠めた。真っ先に浮かんだのは、何故かユンシクの顔だった。

どうした、と訊くと、両膝に手をついて息を整えたヨンハは、彼にしては珍しい沈鬱な表情で言った。

「大変だ、コロ。えらいことになっちまった」

そして忌々しいことに、ジェシンのそういう予感は大抵の場合、外れることがないのだった。


*   *   *


知らず、早足になっていた歩調をふと緩めて、ソンジュンは両手に下げた包みに目を遣った。
うっかりしていた。母が、丹精込めて作った祝いの菓子は繊細だ。歩く勢いで形が崩れてしまっては、先方に礼を欠いてしまう。
ソンジュンはなるべく両手を動かさないようにして、慎重に歩き始めた。だが数歩も行かないうちに、心はこの先で待っているであろうユニの元へと飛び、彼の足はそれを追いかけるように、勝手に跳ねて駆け出そうとする。

ユニの母が、老論の、しかも夫キム・スンホン博士の死に関わった左議政の息子である自分を受け入れてくれるだろうかという不安はあったが、たとえ反対されたとしても諦めるつもりは毛頭なかった。
誠心誠意、真心を尽くして、許して貰えるまで努力するだけだ。
わかって貰うのだ。自分がどれほど彼女を愛し、大切に思っているかを。互いの存在がなければ、この先の人生は無いも同然だということを。

包みの菓子のことはすっかり頭から消え、ソンジュンの足は再び速さを増した。
今朝、成均館を出る前に会ったばかりだというのに、すぐにでも会いたい気持ちが抑えられない。
これでは確かに、ユニにたしなめられても文句は言えないかもしれない。
彼女の悪戯っぽく笑う顔が思い浮かび、彼は一人、相好を崩した。


ユニから聞いていた楡の木の下には、彼女の姿はなかった。
少し早く来過ぎただろうかと辺りを見回す。と、男が二人、ばたばたと騒々しい足音をたててこちらへ走ってくるのが見え、ぎょっとする。なんということか、ヨンハとジェシンである。

こんな大事な日を二人の先輩に邪魔されてはたまったものではない。
どこかへ身を隠さねばとくるりと彼等に背を向けたのだったが。

「イ・ソンジュン!」

あえなく見つかり、ソンジュンは仕方なく足を止める。
だが振り返った彼は、二人の只事でない様子にふと眉をひそめた。
ジェシンの顔色は夜目にもわかるほど酷く青褪めているし、ヨンハに至っては息も絶え絶えで今にも地面に座り込みそうな有り様である。

「お前も聞いて来たのか?」

口も利けないヨンハに代わり、ジェシンが問うた。

「何を……」

身を屈めてあえいでいたヨンハが、足元からさっと何かを拾い上げた。裏側に花模様の布張りのあるそれは、女物の手鏡だった。さして汚れてもおらず、持ち主が落としてからいくらも経っていないことは容易に伺い知れた。
鏡面に走る蜘蛛の巣のようなひび割れを見、ソンジュンの胸に言い様のない不安が押し寄せる。
それは、駆けつけた二人の舎兄も同様だった。


*   *   *


がくりと、ユニはくずおれるように膝をついた。崇文堂の木張りの床は尖った砂利のように皮膚を刺しはしなかったが、それよりも遥かに鋭く、冷たい王の視線が、ユニの全身を刺し貫いていた。

「顔を上げよ」

その声を聞いた途端、恐ろしさに身体が震えだした。ユニが動くこともできずにいると、王の、更に怒気を帯びた声が室内に響き渡った。

「余の命が聞こえぬのか。顔を上げよ!」

背筋に、冷たい汗が吹き出すのを感じた。ひれ伏したまま、錆びついたようになった身体を必死の努力で動かし、ぎこちなく顔を上げる。
ユニと目を合わせた王は、驚愕したように大きく息を吸い込むと、傍目にもわかるほど懸命に憤りを押さえた声音で、言った。

「余は、国法を軽んじ、儒学の教えと道理に背いた───やはり、愚王だったようだな」






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2014/04/02 Wed. 16:58 [edit]

category: 最終話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: F**k*さま

心温まるコメント、こちらでもありがとうございます(^^)
なかなかマメに更新できなくて申し訳ないですが、楽しんでいただけると嬉しいです。

最終話ともなるとワタクシも複雑です~。早くゴールに辿り着きたい気持ちはあるんですが、終わった後はやっぱすごく寂しくなるだろうなーと。
ま、書きかけのお話もまだありますし(^^ゞもう暫くはちまちま書いてると思いますので、のんびり見守ってやってくださいまし。

あまる #- | URL
2014/04/07 02:18 | edit

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# | 
2014/04/05 09:44 | edit

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