スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
web拍手 by FC2

--/--/-- --. --:-- [edit]

category: スポンサー広告

cm --  tb --  

最終話 6 拉致 

bandicam 2014-03-25 19-41-56-277


***************************************


崇文堂〈スンムンダン〉に足を踏み入れたジョンムは暫し、言葉を失った。
目前には、こちらに背中を向けている王がいる。後ろ手を組んだまま、微動だにしない王の視線の先にあるのは、巨大な地図だ。奥の壁一面を占めるその地図の緻密さ───そして右隅に記された『華城全圖』の文字。
それは、老論の長を慄然とさせるに充分な光景だった。

風を得た舟は速い。金縢之詞という風をついに捉えた王は、今まさしく帆を張り、大海に全力で漕ぎ出さんとしているのだ。

振り返った王が、ジョンムを見てふと微笑んだ。

「いかがした、左相。火急の用と聞いたが」

ジョンムは面を伏せた。
天は、結局どう転んでもこの王と対立する役割を、我が身に与えたのだろう。
ならば、それを全うするまでだった。




「……金縢之詞は、公表しないでいただきたいのです」

玉卓を挟んで王と向かい合ったジョンムは、低く声を落として、言った。

王が経筵で華城への遷都を公言し、反対する老論僻派を抑えるために金縢之詞を突きつければ、ハ・ウギュはキム・ユンシクが女であることを暴露し、重臣たちはここぞとばかりに王を責め立てるだろう。
国法を犯した王はもちろん、当人のキム・ユンシクを世間が許すはずはない。

王が、己の長年の計画を実現するためにキム・スンホンの娘を見捨てるか、それとも、彼女を救うために金縢之詞を捨てるか。
それはひとつの賭けと言っても良かった。

「父親に続き、その遺児まで……むごすぎると思われませぬか」

何の話だ、と訝しむ王から視線を逸らさず、ジョンムは続ける。

「陛下の改革を望まれる思いが、成均館博士キム・スンホンの命を奪い、今やその娘をも危険にさらしているのです」
「キム・スンホンの娘だと?」

王の表情に困惑のいろが浮かんだ。ジョンムはひとつ息をつくと、意を決し、告げた。

「成均館儒生キム・ユンシク───あの者は、女です」

茶托の上の湯呑みが、硬い音をたてた。王が、僅かに浮かせていたそれを取り落としたためだ。
衝撃のあまりにか、一切の感情の抜け落ちた王の顔が、ジョンムを見つめていた。

「陛下は金縢之詞を捜し出すために、自ら儒学の教えと道理に背いた愚王となられたのです」

キム・ユンシクを処罰するべきではない。それは王が、自ら己の愚を世に知らしめることになる───。

王に対し、敢えて厳しい言葉をジョンムに選ばせたのは、あの夜、司憲府の牢の中で見た、息子ソンジュンの姿だった。


*   *   *


屋敷の長い塀を横目に見ながら角を曲がると、指先を胸の前で遊ばせて、一人ぽつねんと立っているヒョウンがいた。
れっきとした両班の令嬢であるにも関わらず、長衣も被らずに外に出るのは相変わらずだ。彼女の、人目を気にしない開け放しの気性は嫌いではないが、それが単なる幼さ故なのが実に残念なところではある。
ヨンハは往来を眺めながらわざとのんびりした歩調で彼女に近づくと、言った。

「どうした。イ・ソンジュンにまだ未練でもあるのか?我ら儒生にとって貴重な帰宅日に、急に呼び出したりなんかして」

そういうことはよせと言ったのに、と暗に含めて言うと、ヒョウンはあからさまに むっとしてヨンハを睨みつけた。

「そうやってずっと私のことをぞんざいに扱うつもりなの?助けに来てあげたのよ。礼儀は守って」

これは失礼、と軽く目礼したのが余計に気に障ったらしい。つんと顎を横に向けて、ヒョウンは言った。

「お兄様にバレちゃったのよ」
「え?」
「お兄様にバレたら、お父様に知られるのは時間の問題よ」
「だから、何がバレたって?わかるように話してくれよ」

たまに主語がなくなるのは女の話し方の特徴だが、それにしたってこれは酷い。ヨンハが呆れ混じりに訊くと、ヒョウンは大きな瞳を更に見開いた。

「まさか、知らなかったわけじゃないでしょ?」
「はいはい、ですからお嬢様、何の話ですか」

そんな風に人を小馬鹿にできるのも今だけだとでも言うように、ヒョウンは肩をそびやかし、言った。

「キム・ユンシク様が、本当は女だってことよ」


*   *   *


艶やかな青いチマにそっと手のひらを滑らせ、手触りを確かめる。
母が、自分のために無理をしてこのチマとチョゴリの一揃いを仕立ててくれていたのは知っていた。
どうしてこんな無駄遣いを、とそのときは少し腹を立てたりもしたユニだったが、今は母のその気持ちが、涙が出そうなほど有り難かった。

ソンジュンが無事成均館に生還を果たしてから、最初の帰宅日となる今日。
あと数刻もすれば、彼が南山のこの小さな家にやってくる。手には、求婚書を携えて。

そう思っただけで、胸が震えた。緊張と、嬉しさがないまぜになって、じっとしていても自然と笑みがこぼれてしまう。
そんなユニに、母も弟も半分呆れ顔ではあったが、やはり彼女同様、嬉しさは隠せないようだった。

鏡の前に座り、白粉を肌に乗せる。化粧をし、娘の格好をした姿をソンジュンに見せるのは、大商人ソン・ヨンテの蔵に忍び込んだ旬頭殿講のとき以来だ。
あのときは、エンエンやソムソムが面白がってとびきり入念な化粧を施してくれたお陰で、我ながらびっくりするほどの仕上がりになったが、やはり慣れてないせいか自分でやるとどうも上手くいかない。
粉をつけ過ぎて濃くなった頬紅を慌てて払い落としたり、はみ出た口紅を何度も塗り直したりと、悪戦苦闘の末、妓生たちの技には遠く及ばないものの、どうにかそれらしくはなった。

支度を終える頃には、もう既に日は暮れており、約束の時刻が迫っていた。
慌てて長衣を被り、外に出る。風は少し冷たかったが、村の入り口までの道程を歩くユニの足取りは軽かった。

自分のこの姿を見て、ソンジュンはどんな顔をするだろう。二度目だから、流石にあのときほど驚くことはないだろうけれど。
戸惑うだろうか。それとも、少しでも綺麗だと思ってくれるだろうか。

待ち合わせた場所には、まだ彼の姿はなかったが、ここへ着くまでにユニの胸はとうに早駆けを始めていた。
今日の日を終えたら、イ・ソンジュンは自分にとって親友でも恋人でもなく、将来の夫となるのだ。
夢見てすらいなかった。願うことも許されなかったことが、現実になろうとしている。
ユニは大きく息を吸い、自分を落ち着かせようとした。手鏡を取り出し、髪が乱れていないか確かめる。

と、その鏡越しにさっと、黒い人影がよぎるのが見えた。
はっとして振り返るが、通りは暗く、何も見えない。足元に置いていた灯篭を掲げようと身を屈めたそのとき、いきなり首の後ろに鈍い衝撃が走った。

分厚い帳が切って落とされたように、目の前が真っ暗になった。






↓楽しんでいただけたらポチっとお願いします
にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
スポンサーサイト
web拍手 by FC2

2014/03/25 Tue. 19:56 [edit]

category: 最終話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

cm 6  tb 0 

コメント

Re: wakuwakunike さま

いやいや、見るのと読むのとでは、ここまで情報量に差があるのか……といつも愕然とします(^^ゞ
そのぶん、映像では描ききれないところが書けてるといいのですが。

> 王と対峙する彼の老獪さがいかにもジョンム氏らしい気がします。

ですねですね。おもくそ私情にかられての行動なのに、そうは微塵も見せない、というあたりは、さすがにソンジュンの父(笑)。このあたり、官職に就いた後のソンジュンをなんとなく想像させます(^^)

怒涛の年度末がようやく終わりました。ピッチピチの新入社員も入ってくるし、また別の忙しさがやってきますが(笑)先月よりは更新できるといいなぁ。リハビリのつもりで(爆)ボチボチ頑張ります。

あまる #- | URL
2014/04/02 17:20 | edit

あまる様

完全版で3分にならないこの場面がこうふくらむんですね。
あらためてあまるさんの洞察力と筆力に脱帽です!

ユニのことを救いたいと思わなければ、
ジョンム氏は王にあう必要はないんですよね。
金滕之詞を発表させた後、王を糾弾して
遷都も阻めばいい。
だけど、その気持ちをみじんも感じさせないように
王と対峙する彼の老獪さがいかにもジョンム氏らしい気がします。

やっと政治の主導権を手に入れれると勢いずく王。

幼いながらも、ユニのことをヨンハに伝えるヒョウン。
(元の彼女からすると、すごいことですよね。)

ソンジュンの訪れを待つユニ。

読むと、登場人物の変化、成長がしっかりと描かれていて
ますます成均館が好きになります。

忙しい中での更新、ありがとうございました。



wakuwakunike #- | URL
2014/04/02 10:10 | edit

Re: 48ママさま

そうそう、ワタシも書きながら、15話のヒョウンを思い出してました。
と言ってもワタクシの場合は「あの場面と同じ表現は使えないなー」という切実な事情があってのことですが(笑)
ヒョウンという前フリのお陰で際立つ、ソンジュンの浮かれっぷり……(笑)
実に微笑ましくも嬉しい場面です。
あのまま会わせてあげたかったな~。王様ヒドイ(笑)

ジョンムさんの胸中は今回、皆様のご意見を色々伺ったこともあってかなり考えました。
上手く伝わってるかどうかは自信ないですが(^^ゞ
父は父なりに変わりつつあると信じたいですよね、やっぱり。

あまる #- | URL
2014/03/28 03:37 | edit

Re: Support Assyさま

メールばかりかコメントまで、ありがとうございます(^^)
あんなダラダラと長いものを読破くださったとは、重ね重ね感謝です。

> 過去記事を読み終える前に最新記事にコメントを残すのは、私の原則に反するので控えておりました!

ステキ~!やっぱり誰かさんのように(笑)マイ原則はきっちり守らなくてわ!ですよね。
ミニョンちゃんのおでこ、確かに~(^^ゞ
デコは彼女のチャームポイントなのになぁ。
ユチョのデコは……もごもご(爆)

あまる #- | URL
2014/03/28 03:04 | edit

装った後に・・・

あまる様
 愛するソンジュンを思い浮かべながら、幸せいっぱいの表情で鏡に向かい、化粧する・・・ただでさえ充分美しいユニが装うこの場面を見て、よく似た、というよりそっくり同じな15話のヒョウンの場面を思い出さずにはいられません。そして、幸せの絶頂から、どん底に突き落とされてしまうというのも同じ。一人は「約束は守れそうにない(「あなたを愛せない」と同義)」と破談宣告をされ、一人は絶対権力に捉えられ・・・。もちろん、ソンジュンに愛されなかったヒョウンと愛された(しかも「激愛」!)ユニは決定的に違うわけですが、それにしても・・・。
ついでに言えば(←なのか?)ユニとヒョウンがそっくり同じなのに比し、ソンジュンはといえばまるで正反対。賑やかな往来の中を、山のような荷を従え・・・というより従えられ、明るい日中にも関わらず、真っ暗な表情で兵曹判書邸へと無理矢理歩みを進めていたヒョウン・ヴァージョン。それが、ユニ・ヴァージョンでは・・・以降、先走りは嫌なので自粛。まあ、そんな感じです・・・って、ヒョウン真っ青の主語無し・目的語無し文(-.-)。
 さて、ジョンム氏が王にユニの秘密を告げに行く場面。なぜあのような言い方をしたのか、と言うより、王の神経を逆なでするような言い方しかできないのかと、初見から思っていました。父の敵である自分の息子の命を救ってくれ、その上、ソンジュンの恋人と知った娘。救いたい、と言うより(←今日はこればっかり言っていますが)、身を賭して救わねばならない存在であり、自分にはその義理もあると自覚もしている(と思いたい、そうであってほしい)ならば、もっと「良い」言葉や態度があるだろう、と・・・。でも、今日もまた、あまる様の解釈されように「ああ!」です。
「最善」にはほど遠いけれど、「最悪」は回避させた。ジョンム氏には、あれが精一杯だったのですね。

48ママ #- | URL
2014/03/26 07:34 | edit

あまるさん、はじめてコメントを入れさせていただきます!

こちらにお邪魔させていただくようになってまだ1月あまりですが、ようやくあまるさんのこれまでの本編・番外編を読破しました。
私が読むのがとろいせいもありますが、あまるさんの3年分の偉業は想像以上で・・・

過去記事を読み終える前に最新記事にコメントを残すのは、私の原則に反するので控えておりました!

このユニのお化粧のシーンとっても好きです。
ただ、金縢之詞探索がはじまったころから、ミニョンちゃんの肌荒れが気になって・・・。
このときなんて、おでこの吹き出物がかわいそうです。
きっと、撮影が過酷だから・・・ではなく、金縢之詞探索と投獄されたソンジュンが心配なせい、なんでしょうね。

Support Assy #- | URL
2014/03/26 00:02 | edit

コメントの投稿

Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://amaru0112.blog.fc2.com/tb.php/306-c9821d1f
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

2017-10
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。