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吾亦紅 4 

3月ですね♪

この時期になると植物園とか、行きたくなります。そろそろ沈丁花が咲いてるかな。

遅くなりましたが、番外編の続き。
ヒョウン編はこれにて終了です。お付き合いありがとうございました。(^^)



**************************************


その晩。
ソンジュンは文机の上に置いた一枚の細布〈テンギ〉を、飽かず見つめていた。
鮮やかな真紅の地に、一輪の淡い桃色の牡丹の刺繍。チマとチョゴリを着た娘姿のとき、短い髪を気にしている彼女だが、これで結えばきっと映えるだろう。

『心ばかりのお礼です』

昼間、小間物屋の店先でこれを買い求めたヒョウンが、ユンシク様にとソンジュンに手渡した。
ただし、と声を潜めて彼女が言うことには。

「ソンジュン様が買ったということにしておいてください。ユンシク様には、私からの贈り物なんて別に嬉しくもないだろうし、それに、変な誤解をされても困るし」
「誤解?」

ソンジュンが訊き返すと、ヒョウンは大きな瞳を悪戯っぽく細めて、言った。

「私とソンジュン様が隠れて逢ってた、なんて思われたら、ソンジュン様もお困りになるでしょ?」

まさか、とソンジュンは一蹴しようとしたが、ヒョウンはちちち、と舌打ちしながら小さく首を振った。

「いくら信じあっていても、女というのはそういうものなのです。ですから、絶対に私からだと言ってはだめです」
「しかし……それでは貴女の気持ちに申し訳ない」

いいえ、とヒョウンは再び明るく笑った。

「ユンシク様を知らなければ、私も自分で小説を書いてみようなんて思いませんでしたから、きっと。だって信じられます?ソンジュン様への恋文すらまともに書けなくて代筆を頼んだ私が、今は恋愛小説を書いてるなんて。自分でも笑っちゃう」

彼女の笑顔につられるように、ソンジュンも小さく微笑んだ。

「充分です。ソンジュン様がそうやって、私に笑いかけてくださっただけで。……本当に」

そんな言葉を残して、ヒョウンは雑踏の中に戻っていった。亀のように遅く歩く印象しかなかった、典型的な両班の令嬢だったはずだが、その足取りは軽い。萌葱の長衣をはためかせながら歩く彼女の後ろ姿は、瞬く間に遠ざかって行った。



───彼女は本当に、いらぬ誤解をするだろうか。

細布を睨みながら先程からソンジュンがひたすら考えていたのは、そのことだった。
自分からだと嘘をつくのはどうかと思う。それは、贈り主への義と礼に大いに反することだ。
だが、女人というものは自分たち男とは全く異なる思考経路を持つ。それは、ユニとこういうことになってからソンジュンが学んだことの一つだった。

ユニに対して、やましいことは塵ほども無い。なのに、妙な誤解をされるのはソンジュンとしても避けたいところではある。しかし……。

目を閉じて腕を組み、考え込んでいると、かたんと部屋の扉の開く音がした。湯場から戻ってきたユニが、濡れた髪を拭きながらソンジュンの傍らにやってきて、腰を下ろした。

「随分難しい顔してるけど。何か悩み事?」

ユニの問いに、鼻から深く息を吐き出して、ソンジュンは言った。「難問だ」と。
ええ?とユニが微笑う。

湯浴みしたばかりの彼女は、ほのかに上気して、肌も艶を増している。丸い頬はほかほかと湯気の上がった饅頭を連想させ、ついつい齧り付きたくなる。(実際、ソンジュンがそうしてみたのは一度や二度ではなかった)
じっとユニを見つめるソンジュンに、今夜もまた頬をガブリとやられると警戒したのか、彼女は笑みを顔に貼り付かせたまま、僅かに身を引いた。

「……なに?」

これを、と言って、ソンジュンは文机の上の細布を手に取り、差し出した。
ユニの瞳が、ぱっと輝く。

「私に?どうしたのいきなり」
「芙蓉花からだ。きみにどうしても礼がしたいと」
「───え?」

結局、言ってしまったソンジュンだった。



つまり、とひと通りの話を聞き終わってから、ユニが口を開いた。

「芙蓉花から忠告されたにもかかわらず、私が誤解するかもしれないということを承知で、あなたは真実を話したわけね?」

尋ねるユニに、ソンジュンは頷いた。

「そうだ」
「───バカ正直」

ちょっとかちんときて、ソンジュンは肩をそびやかした。

「僕らの間で、嘘は良くない。お互い、隠し事はするべきじゃない。どんな些細なことであってもだ」
「外で花妻を作っても、そうやって教えてくれるつもり?」
「それは有り得ない。僕がきみ以外の女性を愛することは無いから」

はっ、と根負けしたようにユニが笑った。

「……それでもきみは、僕を疑うか?」

ユニの瞳を覗き込むようにして、ソンジュンは問うた。
目を伏せたユニは、手にした細布の、牡丹の刺繍をそっと撫でた。綺麗ね、と言って。

「これと似たような細布を、店先で眺めてたことがあったわ。そのときたまたま、彼女がいて。女友達と一緒に、髪飾りを楽しそうに選んでた。私はもちろん、男の格好で。慌てて細布を置いて逃げ出したけど……気付かれてたのね、彼女に」
「……いつ?」
「大射礼の後だったかな。あなたが彼女と親しいって知って、すぐくらい」
「別に、親しかったわけじゃない」

すぐさま訂正すると、ユニは俯いたまま、唇の端を僅かに上げた。

「芙蓉花が、っていうより、彼女のことを羨ましいと思ってしまう自分が、嫌だったの。そのときはもう、あなたを好きになってたから」

何気なくそんな告白をされて、どきりとする。誘われるように唇を寄せたのはもはや条件反射だ。だが、いきなり目の前がぱっと真紅に染まり、くちづけを阻まれてしまう。

「結んでくれる?」

茶目っ気たっぷりにそう言って、ユニが垂らした細布の横から顔を出した。
結び方がわからない、とソンジュンが言うと、膝の上で手本を見せてくれた。ユニが、手早く三つ編みにした髪を振って背中を向ける。どうにか教わったとおりに結んでやると、「どう?」と肩越しに振り向いた彼女が尋ねた。

「よく似合ってる」

ソンジュンの言葉に、ユニの口元が綻ぶ。
白い夜着の背中にはらりと垂らした、一筋の紅。
実際、彼女は美しかった。

「信じるわ。この世にあなたほど、正直な人はいないから」

それが、似合うと言ったことに対してなのか、芙蓉花とのことを言ったのかはわからない。
けれどその言葉に、酷く安堵している自分がいた。

「彼女の本ね、読んでみたら結構面白かった。流行るのもちょっとわかる」

次回作が楽しみだと微笑うユニに、ソンジュンは深く嘆息して、言った。

「きみは、すごいな」
「何が?」
「周りの人間に、そうとは意識せずに、影響を与えてる。それも、とても大きな」

スウォルも、そして芙蓉花も。ユニを知らなければ、その一歩を踏み出すことはなかったかもしれない。
そう思うと、今は亡きユニの父、キム・スンホン博士が、幼い彼女を“希望”と称した意味が理解できる気がするのだ。

ユニは照れたように「そうかな」と言い、衣擦れの音をさせてソンジュンの方を向いた。

「じゃあ、そんな私に影響を与えたあなたは、もっとすごいってことになるわね」
「僕が?」
「そうよ。あなたがいなければ、今の私は確実にここにはいないもの」

それはお互い様だ、とソンジュンは笑い、細い腰を抱き寄せる。

今更言うまでもない。彼女に一番影響を受けているのは他ならぬ自分だと、ソンジュンは思う。
何せ今も、多くの民がそれほど支持しているのなら、少しは大衆小説というものを読んでみようかという気になっているのだから。

とはいえ。
自分がそんな本を買い求めた日には、貰冊房の店主はさぞかし仰天するだろうと思いながら、彼はそっと、艶やかな頬に唇を寄せるのだった。




おしまい。



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2014/03/01 Sat. 22:43 [edit]

category: 吾亦紅

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: 48ママさま


追加コメ(笑)ありがとうございます(^^)

>そんな相手に、卑屈な態度にもならず、かといって被害者意識も持たず、ある意味ニュートラルでいられるって、ヒョウンの美点なのかな、と・・・。

確かにそうですね~。ただそれを「ユンシク様」っていう呼び方ひとつで読み取ってしまうのは48ママさんの素晴らしい才能だと思いますが。

>「アタシはヒョウン!!!」ってタイトルで、何か書こうかな・・・でも、そんなの、果たしてニーズがあるのでしょうか(爆)。

読みたい読みたい!書いて書いて~!!!←ニーズ

あまる #- | URL
2014/03/03 02:16 | edit

Re: 48ママさま

>この細布は、ヒョウンからユニへの、さまざまな・・・ほんとうにさまざまな思いをこめたたすきリレーのようにも思えます。

おお~。なるほど~。48ママさんには、いつも文章にしていない深いところまで読み取っていただけて、感服するやら嬉しいやら、です。
自分を物語の中の主人公にできるのは、ある意味強みだと思うんですよね。確かにヒョウンは失恋はするわ、父親は罪人になるわで、ドラマ終了後はかなり辛い状況だっただろうとは思うんですけど、そういうときでも、自分を悲劇のヒロインにして「あたしって不幸~」と言いつつもしたたかに生きていくのが彼女なんではないかと。
キム・ユンシクが実は男装した女性で、しかもソンジュンの恋人だとわかったときはそりゃあショックだったでしょうが、彼女のヲタク気質からして、多少なりとも“萌え”を感じなかったハズはない……とか思ったのが、このお話の発端というか、きっかけだったりします(^^ゞ

> ・・・嗚呼、ワタシは、結局のところ、ヒョウン「嬢」のことをどう思っているのでしょうか・・・

いやもうそれは好きだの嫌いだのとは次元の異なる“神の愛”デスよ!(笑)

あまる #- | URL
2014/03/03 02:06 | edit

Re:Sayuki さま

お待たせしましてスミマセン(笑)
ヒョウンの忠告は、ま、ごくフツウの考え方だと思うんですよね。
男の人は浮気をせずにはいられない生き物だと思うし、女はそんな男を疑わずにはいられない。
でも、ソンジュンに限ってはそれは当てはまらないんです。彼はワタシにとって究極の夢であり理想なので(笑)
だから、バカ正直に言っちゃう。ユニも、相手がソンジュンなら心から信じられる。
あれはまさに、ソンジュンだからこそ成り立つ話だと思います(笑)

ユンシク君もぜひぜひ幸せになって欲しいですね~。
わ、ワタシの筆の力でそんなことができるのか激しく不安ですが(^^ゞ

あまる #- | URL
2014/03/03 01:27 | edit

Re: Kiko さま

> 私、ドラマの中のヒョウンも嫌いじゃなかったのですが、
> こちらのヒョウンは大好きなのです。

ありがとうございます~(^^)そう言っていただけるとワタクシも書いた甲斐があります。
ユニソンが幸せな陰で、ヒョウンが不幸になってるってのは、想像したくないというより、できないんですよね~。
どれだけソンジュンやヨンハに辛辣なことを言われてもめげない、あの逞しさの賜物という気がします(笑)

あまる #- | URL
2014/03/03 01:07 | edit

付け足し

 「ユンシク様、か・・・」というタイトル(って、またおおげさな・・・)と書いた内容があまりリンクしていなかったので、付け足しなど。
 ヒョウンが「ユンシク様」と呼んでいるのを読んで、
「ああ、ヒョウンは、『ユニ』という名前を知らないんだ・・・」
と気づき(あまる様は、こういう部分、本当に繊細だなあといつも思います)、ふいを衝かれたというか、虚を突かれたというべきか、自分でも思いもかけないくらいの感慨を覚えました(いささか表現がおおげさ過ぎますが)。女性であることを知ってもなお、男名の「ユンシク」で呼ぶしかない、かつての婚約者の恋人。しかも、実は、幾重もの因縁もあり・・・さすがのヒョウンも、父親の悪行については、一端なりとも知っただろうと思いますが・・・。そんな相手に、卑屈な態度にもならず、かといって被害者意識も持たず、ある意味ニュートラルでいられるって、ヒョウンの美点なのかな、と・・・。うまく言えませんが、そんなことを思っての「ユンシク様、か・・・」だったという次第です。
 「アタシはヒョウン!!!」ってタイトルで、何か書こうかな・・・でも、そんなの、果たしてニーズがあるのでしょうか(爆)。


48ママ #- | URL
2014/03/02 14:42 | edit

ユンシク様、か・・・

あまる様
 ヒョウンが素敵な女性になりつつあることを教えてくださって、ありがとうございます(O^^o)。お詫びもありつつの「お礼」が、ソンジュンではなく「ユンシク様」への細布とは、何ともいいですね。ものすごく意地の悪い見方であることを承知で言うならば、いくら「私からとは決して明かすな」と釘を刺したとはいえ、元婚約者の婚約者(←めんどくさっ!)に、身を飾る品を贈るなんて、またいかにもヒョウンらしいですが・・・贈り主を知ったうえで、その思いを受け止めて細布を身につけたユニはさすがです。この細布は、ヒョウンからユニへの、さまざまな・・・ほんとうにさまざまな思いをこめたたすきリレーのようにも思えます。少々荒っぽい表現ですけれど、「落とし前をつけた」というか。足取り軽く、颯爽と、「ひとりで」去っていったところもよし!!!父親の拘束による実家の凋落(しなかったはずがない)、いくら近い関係の親戚とはいえ他家での生活で気を遣わないはずはなく、短い時間の中で起こったであろう生活環境の激変(他者からの接遇のされ方の変化も含めて)は、ヒョウンを成長させたのだと思います。彼女に対して「地軸かっ!」と毒づいた輩がどこかにいましたが(どこに?・・・ここやっ!)、「生きている限り、自分の思いや願いだけではどうしようもないことの方が遥かに多いのだ」という事実に気づくことで、人は、より多くの幸せを得る鍵をもらうのだと思います。ヒョウンは、その鍵をきっと手にするはず・・・いや、もう、しっかり握っているかな?
・・・嗚呼、ワタシは、結局のところ、ヒョウン「嬢」のことをどう思っているのでしょうか・・・この期に及んでもなお、「好き」とは決して言えないのですが・・・。

・・・最後にひとこと。
おいっ、ソンジュン!!!今回も「・・・本当に」に込められたヒョウンの思いに気づいてないやろっ!!! すかたん!!!

・・・大変失礼致しました・・・(って、恒例行事かっ!!!)

48ママ #- | URL
2014/03/02 11:35 | edit

待ってました~

完結編のアップ、まだかまだかとお待ちしてました(^^)

あの市場でのエピソードが出てくるとは!さすがです~

ソンジュンは、本当のことを言うのかしら、とドキドキしましたが、
あっさり、芙蓉花から、と言っちゃうのが、やっぱりソンジュンですよね~彼のそういうぶれないところが、すごく好き!

芙蓉花の最後の言葉も、いじらしいですね。
そういえば、ソンジュンから彼女に笑いかけることって無かったですもんね。少しでも、自分の方を見て笑ってほしい、って思ってたんだろうな~
これから彼女に感情移入して、ビデオを見てしまうかも⁇

ヒョウンも幸せになれそうで、安心しました。次は、あまるさんの筆の力で、ユンシク君を幸せにしてあげてください(^-^)/




Sayuki #- | URL
2014/03/02 07:01 | edit

芙蓉花

あまる様

ヒョウン編完結、お疲れさまでした。

私、ドラマの中のヒョウンも嫌いじゃなかったのですが、
こちらのヒョウンは大好きなのです。

たくましく生きて、幸せになるんだろうな~
と思えるから。
ありがとうございました。

Kiko #fv1d0jBM | URL
2014/03/02 01:39 | edit

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