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最終話 3 祝杯 

bandicam 2014-02-25 18-55-00-230
***********************************


とてもじっとしていられずに、ソンジュンは中二房を出、縁側〈マル〉に腰掛けていた。
それでも落ち着かず、庭先に降りてうろうろと歩き回る。

ユニが金縢之詞を見つけ、批答の際にそれを王に献上したことは、ヨンハに聞いて知った。
本当に、彼女には驚かされるばかりだ。
百名を超す成均館の儒生たちを率い、儒疏によって王を動かしたばかりか、殆ど執念に近い熱意でもってキム博士の暗号を解き、金縢之詞を見つけ出した。
あの小さな身体のどこに、そんな力が秘められていたのだろう。

獄中のソンジュンの姿に涙を流していた、彼女。
泣かないでくれと願っていた。いつも。
けれど彼女は決して、ただ泣くばかりの人ではなかったのだ。懸命に涙を拭い、力を振り絞って立ち上がる。
大射礼のときから、ずっと。
あの強さは、男として生きてきた中で培われたものなのか、生まれながらのものなのかはわからない。だが今まで見てきた彼女のそんな姿に、自分はこれほどまでに惹かれているのだと改めて思い至る。

早く逢いたくてたまらない。
儒生たちは皆とっくに戻り、王から下賜された酒を酌み交わしているというのに、彼女はなぜまだ帰ってこないのだろう。
いくらなんでも遅すぎる。もしや彼女の身に何かあったのではと嫌な想像が頭を掠めた、そのとき。

日月門の方から、まるでちょっと散歩に出掛けて帰ってきましたという風情で、のんびりと歩いてくるユニの姿が見えた。

ほっとしたのと、会えた嬉しさでつい口元が綻ぶ。だがたちまち腹立たしさがむくむくと湧いてきて、ソンジュンは表情を険しくした。

───いったい何なんだ、彼女は。
本当なら、釈放された僕に誰よりも真っ先に飛びついて、再会を喜び合う立場じゃないのか?
なのに今頃になってあんな、ケロケロした顔でちんたら帰ってくるとは。

ソンジュンに気づいたユニが、にっこりと笑った。少し寒いのか、袂に両手を入れて小さく鼻を啜る。そんな仕草があまりにも普通で、この数日散歩で留守にしていたのはよもや自分の方だったかと錯覚を起こしそうになる。

「僕が戻るっていうのに、今までどこで何をしていた。待っている方の気持ちも少しは考えたのか?」

そう言うと、ユニは虚を突かれたように大きな目をしばたいた。そしてくすっと笑って、「昨日も会っただろ?」と言った。
唖然とした。そのまま通り過ぎようとする背中に、ソンジュンは思わず抗議する。

「そんな、昨日会えば今日は会わなくていいなんて、僕らはそんな関係なのか?」
「じゃあ、どんな関係なの?」
「キム・ユンシク!」

くるりと振り返った彼女は、笑っていた。楽しくてたまらないという風に。
顔の横に右手をぱっと広げて、薬指の指輪を見せる。

「こんな関係?」

からかうようにそう言って、広げた右手をそのままソンジュンの方へと差し伸べた。

(……なんだか、弄ばれているような気がする)

ムキになっていた自分が馬鹿らしくて、ソンジュンは小さく息を吐いた。それでも、ほら、と憎らしいほどの邪気の無さで催促する彼女には逆らえない。ソンジュンが仕方なく笑い、差し出されたその手に触れようとすると。
まるで測っていたかのように、中二房の扉が開いて、ヨンハが顔を出した。

「何してんだ。早く入れよ。外で熱く愛でも交わし合ってたのか?ん?」

これからそうするところでした、とも言えずに、ソンジュンはまた密かな溜め息をついたのだった。



乾杯、と四つの盃の打ち合う音が、中二房に響いた。
酒盃を手にしたはいいものの、そのまま躊躇しているソンジュンに、ヨンハが舌打ちして再び盃をぶつける。はずみでこぼれそうになる酒を、ソンジュンは慌てて口に持っていった。

「そうそう、飲め飲め。今日だけは泥酔しても勘弁してやる。ほら、テムルも」

ヨンハはそう言って、ユニに酒瓶の口を向けた。彼女は酒の席の礼に則って くいと盃を煽ると、ヨンハの酌を受けた。

「お疲れだったな。それにしても、立派にやり遂げたもんだ。儒疏を起こし、金縢之詞も見つけた。さすがはテムルだ。まさに大物だよ」

豪勢な肴の並んだ卓に頬杖をつき、しみじみとユニの顔を眺める。

「ほんとに、ずっと見てても飽きないのはお前が初めてだ」

ユニは、照れたように笑って下を向いた。ソンジュンはヨンハの言葉と、じっとユニを見つめる目つきに何やら不穏なものを感じ、ごほんと咳払いした。
それ以上彼女をおかしな目で見るな、というあからさまな意思表示だ。
ヨンハはそんなソンジュンの反応を面白がるかのように、ちょっと眉を上げて笑った。
ユニが言った。

「金縢之詞をお渡ししたら、陛下が仰ったんです。次は、新しい朝鮮で、ぼくたちに新たな夢を見ろと」

ヨンハが頷く。ジェシンが静かに尋ねた。

「それで?お前の夢は何だ?」

ふと微笑んで、ユニは答えた。

「今から、考えようと思います」

───新たな夢。

ユニの晴れやかな横顔を見ながら、その時ソンジュンが胸に思い描いたのは、茜色のチマを着、髪を結って簪を刺した、美しい娘姿の彼女だった。
その隣にはもちろん、自分がいる。微笑んでこちらを見上げるユニは、胸に赤子を抱いている。ソンジュンによく似た、男の子だ。
出掛けるソンジュンに向かい、ユニが眩しいほどの笑顔で手を振る。

『いってらっしゃい、旦那様〈ソバンニム〉───』



……駄目だ。顔に力が入らない。

緩みきった口元を胡麻化そうと、ソンジュンは ごほっ、と咳き込むフリをした。

「どうしたカラン。風邪でも引いたか?」
「……いえ」

困ったな、とヨンハはいつになくしんみりと言って、持ち上げた盃をゆっくりと回した。

「俺にはもう、夢なんて必要なくなっちまったよ。俺はク・ヨンハで、俺の素性を知っても逃げて行かない奴らと一緒。これだけで充分だ」

四人の顔に、温かな笑みが広がる。その、少しばかりこそばゆい空気を吹き飛ばすように、ヨンハが明るい声を上げた。


「さあ、飲もう!」






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2014/02/25 Tue. 19:09 [edit]

category: 最終話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: 48ママさま

ヒョウン「嬢」に引き続き、ジョンム「氏」復活。
ついでにカッコ書きも復活していただくとして(笑)

この回のヨンハのラストのセリフ、ワタシもドラマ見たときはじーんと胸に迫るものがありました。
ヨンハ、もしかして過去にそういう辛い経験をしたことがあったのかな、とか。
仲間を失うこと、一人になるのを怖がってるようなとこ、チラホラとありますよね。

>男の人って、どうして、自分に似た子を望むのかしら

生き物のメスはより優れた子を、オスは「オレの子」を残そうとする本能が働く、とかなんとか、どっかで聞いたことがあるので、そのへんが原因ではないでしょーか(笑)

あまる #- | URL
2014/02/27 07:32 | edit

いいなっ!

あまる様
 前話「釈放」では、ジョンム氏(←「氏」復活(笑))に対するいろんな考えを聞くことができて、ひとつひとつに「ああ、そうか!」と思いながら読みました。あまる様も、長文の返信、ありがとうございました・・・真央ちゃんに対しても。それと、いつもやたらと多い(  )を、前回に限り(笑)意識して無くしてみたのですが、気がついていただけましたか(^_-)いや、あくまで前回限定で、です・・・多分。
 さて。花の四人衆が祝杯をあげるこの場面、私はヨンハの「俺にはもう、夢なんて必要なくなっちまったよ。・・・これだけで充分だ。」という言葉が大好きで、ヨンハの台詞としては、全話の中でも№1です。さらっと言っているけれど、彼の抱えてきた思いの大きさ・深さや、3人に対する篤い信頼がこもっていて。聞いていた3人も嬉しかっただろうけれど、一番嬉しいのは、こう言えたヨンハ自身。一生のうちに、何度も口に出来ない言葉だと思います。
 そして、ソンジュンの「新たな夢」が、かくも詳細かつラブリー(o^^o)なものだったとは❤フーン、赤ちゃんは、「自分によく似た男の子」なのね。男の人って、どうして、自分に似た子を望むのかしら・・・まあいいけど。

48ママ #- | URL
2014/02/26 07:36 | edit

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