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第十九話 12 希望 

bandicam 2014-02-14 02-36-57-750
***********************************


昌徳宮の仁政門を、儒生たちの一団がくぐる。
彼らの参内と儒疏〈ユソ〉を告げる兵卒の声が響き渡る中、キム・ユンシク以下百数十名の儒生たちが仁政殿前広場を埋め尽くし、そこに整然と並んで座した。

「イ・ソンジュン儒生の放免をお願い申し上げます」

ユニの奏上に続き、儒生たちが「お願い申し上げます」と繰り返し、一斉に深々と叩頭する。

「官軍に謝罪をお命じください」
「お命じください」

王宮に朗々と響き渡る儒生たちの声が、地鳴りのように宮殿を揺るがせる。それは仁政殿奥の王の耳にも届いているはずだった。
王から批答〈ピダプ〉が無ければ、翌日、翌々日と三度、上疏文を提出し、それでも反応が無ければ、儒生たちは全員、授業と食事を拒否し、果ては、成均館を出る“空館〈コングァン〉”という最終手段に出る。
成均館儒生は、次代を担う人材の集団だ。王にしてみれば、国の未来を人質にとられたようなものである。儒疏は一見、王と儒生たちの根比べのようだが、その実、初めから勝敗は決まっていると言っていい。大抵は最悪の事態に至る前に、儒学者たちの先導により世論が騒ぎ始めるので、王が三度の上奏の間に彼らの要求を飲むか、あるいは何らかの解決策を提案して収拾するのが常だった。

奏上を聞きつけ、仁政殿の月台を慌ただしく降りてきた堂下官が、儒生たちの前に立った。ユニは立ち上がると、手にした上疏文を差し出し、申し述べた。

「我々成均館儒生は、投獄されたイ・ソンジュンの無罪放免と、成均館を侵害した兵曹官軍の謝罪を要求します。陛下にお渡しください」

後ろに控えるヨンハが、隣のジェシンにひそひそと囁いた。

「堂に入ってるな、テムルのヤツ」

当然だろ、とジェシンが小さく笑う。

「あいつは成均館の儒生だからな」

堂下官は上疏文を受け取ると、一礼して殿内へと戻って行った。その間にも、儒生たちの奏上の声は止まない。
ユニは振り返り、声を合わせて叩頭する儒生たちを見渡した。

面倒事を嫌うドヒョンやウタクが。
老論を毛嫌いしている少論のミョンシクが。
そして驚いたことに、インスの取り巻きだったはずのコボンやカン・ムまでもが。

イ・ソンジュンの無罪放免を求め、声の限りに王に奏上している。
ユニの胸に、言葉にし難い熱いものが込み上げた。


───お父様
成均館は、素敵な所ですね。
良き友に出会い、心を一つにし、志を果たす中で、書物では知り得ない希望に満ちた顔を見つけました。
お父様は、この世で志を遂げる機会のない娘に、望みを抱かせるのは正しいことなのかと、悩んでおいででしたね。
私にも教えてください。
今日ここで、女の私が抱いている望みは、正しいことなのでしょうか。
お父様が夢見た新たな朝鮮とは、どんな世の中ですか?
そこでなら、私の抱く望みも、罪にはならないのでしょうか……。


王宮から戻ったユニは、一人静かに父の遺品である七巧〈チルギョ〉を取り出し、亡き父の面影に語りかけた。
父が今も生きていたら、訊きたいことがたくさんあった。金縢之詞を捜すことは、彼女にとって、父の声を聞くことに他ならなかった。
王の期待に応えたい気持ちももちろんあったが、父の思いを知りたい、ただその願いが、ここまでユニを突き動かしてきたのである。

ユニはふと、首を傾げた。指先に触れた木片の一つに違和感を感じたのだ。ひっくり返して見ると、小刀で刻みつけたような溝があった。よく見てみると、他にも幾つか、似たような溝のある木片があった。

(まさか……)

ユニの胸が、早い鼓動を打ち始める。昔、父が自分の目の前でこの七巧を組み合わせ、ある形を作って見せてくれたことを思い出したのだ。


『これが、私ですか?』

そう尋ねた幼いユニに、父は頷き、言った。

『そして、希望でもある』

父が七巧で象ったのは、“女”という文字の元になったもの───女性が、地に跪き、手を合わせて祈りを捧げている姿だった。
ユニは、その手にあたる部分を、少しだけ上にあげてみた。天に向かって、何かを求めて差し伸べるように。
特に意味はなかったが、その方がなんだかしっくりくる気がしたのだ。
父はそんなユニを見て、穏やかに微笑んでいた。

忘れてしまったとばかり思っていた父の顔を、ユニははっきりと思い出すことができた。
そして、組み合わせた七巧の表面に浮かび上がったのは、“門”の一文字───。

ユニはあの時と同じように、木片を動かし、女の手を上にあげた。
やっぱりこの形の方が好きだ、と思った。

女だからと、ただ手を合わせて祈っているだけでは、きっと何も変わらない。
そうでしょう?お父様……。

弾かれるように立ち上がったユニは、中二房を飛び出し、駆け出した。
チョン博士の言葉が、耳元で聞こえる。

『師匠にとって金縢之詞は、命がけで守るべき希望だったはずだ』

学問の向かう先、国の始まるところ。
成均館の門は、朝鮮で最も卑しい泮村に向かって開かれていると。そう語ったのは、父と共に亡くなったジェシンの兄だ。

息を弾ませたユニがようやく立ち止まったのは、伝香門だった。開け放たれたその向こうに、泮水橋〈パンスギョン〉が見える。土埃に煙る、猥雑な町並みも。

国の始まりは、宗廟じゃなかった。学問の向かう先とは、ここだ。
朝鮮で最も卑しいと言われる場所───泮村へと常に開かれた門。

近くにいた斎直に鍬を持ってこさせ、門の下を夢中で掘り返す。
硬い土に指先が痺れ、額に浮いた汗が滴り落ちる頃。土の下から、古びた箱が現れた。
上部に、魚の形をした錠が掛けられている。既に刺さっていた棒状の鍵を押し込むと、それは簡単に開いた。
箱の中にあったのは、一通の書状だった。
表に記されている、“思悼世子備忘記”の文字を見たとき、ユニの胸は震えた。

「あった……」

呟いたユニの瞳から、涙がこぼれる。

───見つけました、お父様。
朝鮮で最も蔑まれている人々に向かい、開かれたこの場所に。


あなたの思いが、ありました───。






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2014/02/14 Fri. 02:51 [edit]

category: 第十九話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: ふみさま

はじめまして!コメントありがとうございます~。
長くご愛顧いただいてたのですね~。嬉しいです。ありがとうございます。
七巧の謎。あんなもんでモヤモヤが解消できましたなら幸いでございマス(^^)
正解かどうかはちょっとわかんないですけども……(^^ゞ
できれば是非ともキム・テヒ氏に訊いてみたいとこですね。

いよいよ残り一話となりました。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
こちらこそよろしくお願いいたしますm(_ _)m

あまる #- | URL
2014/02/17 01:58 | edit

さすが!

新参者が失礼いたします。
七巧のかたちについて、私も、ものすごく納得、ほんとうにしっくりきました。
あまる師匠の筆力と感性にはいつも感嘆させられていますが、今回も、さすが!です。

第十九話12にして初コメ、今ごろカミングアウトでごめんなさい。1年ほど前から楽しみに読ませていただいてます。最終回までには一度お礼を言いたいと思っていたのですが、なかなか勇気が出ず…。
今回、七巧のかたちの謎の解明+ユニがその手を持ち上げる…という部分の行動と心の描写にやられ、すず様のコメントに励まされて(のっかって?)、書かせていただきました。
ノベライズのほうは残り一話ですね。お体に気をつけて、ご無理のないように、これからもよろしくお願いします。
ふみ(アラフィフ@関東の田舎)

ふみ #- | URL
2014/02/16 14:20 | edit

Re: すずさま

ワタシもあの形見たときは何やコレ、と一瞬ボー然としたんですが。
ユニが「これが私ですか?」と言ってるからには、やっぱあれはユニなんだろうと。
女って漢字の成り立ちとゆうか、象形文字みたいなのにちょっと似てるといえなくもないので、あんな感じになりました。ユニがあの先っちょ動かす意味も謎ですよねぇ~(-_-;)
ご納得いただけたましたならひじょーに嬉しいですけども、実は正解かどうかはちょっと自信ないです……(^^ゞ


あまる #- | URL
2014/02/15 01:25 | edit

そうだったのか!(゜Д゜)))

>父が七巧で象ったのは、“女”という文字の元になったもの───女性が、地に跪き、手を合わせて祈りを捧げている姿だった。

これは、あまる様の創作ですか? それとも本当にそういうものがあるのですか? いずれにせよ、かなり説得力のある設定です!
視聴してる時、『この形なによ? 何を表してるのよ? 説明しなさいよ(怒)』と思ってたので(笑) ユニがあの先っちょを動かすのも、あの動かした状態が完成形なの? とか色々(笑)なんか、ユニパパの創作で、ウサギとか動物を象ったものなのかなとも思ってましたよ(・∀・)
ここに来て、納得のいく説明に出会えたので、やっとそのモヤモヤを解消することができました(^^;)あまる様、ありがとう(^^)/

あー、無性にソンスが見たくなってきた……
本当はソンスのDVDを買うために使う予定だったお金を、自分とこの資料費に回してしまったので、近々TSUTAYAにダッシュしに行きます(--;)


すず #- | URL
2014/02/14 23:04 | edit

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