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第十九話 11 捲堂 

bandicam 2014-02-12 18-58-56-249

注目されてキョドってるジェシンがちょっとカワイイ……。
****************************************


捲堂〈クォンダン〉は、朝の断食から始まる。
まだ薄靄の残る明倫堂の前庭に小卓を設えたユニは、その上に署名用の紙と筆、硯一式を並べ、準備万端整えた。

やれるだけのことはやった。あとは、皆を信じるだけだ。
ひとつ大きく息を吸って、上疏文を広げる。文面を再度確かめていると、外出着である道袍を着、笠を被った儒生たちがぞろぞろと集まってきた。
ユンシク、と声を掛けてきたのはいつもの三人組、ヘウォンとウタク、そしてドヒョンだ。

「朝報を見たぞ」
「紅壁書が現れたんだって?」
「だから言っただろ。俺はイ・ソンジュンを信じてた」

昨日とは打って変わって、ウタクはそんな調子のいいことを言う。ヘウォンは流石にきまりが悪いのか、口の端を妙な具合に歪めて、言った。

「奴のことは別に好きじゃないけどさ……今朝は献立が気に入らなくて。俺も行くよ」
「俺も、面倒事は嫌いだが、やられっぱなしなのはもっと嫌いだ。官軍にきっちり文句を言ってやらんとな」

ドヒョンも、そう言って顎をそびやかせる。ユニが笑って、ありがとう、と言うと、ウタクが人差し指を立てた。

「こんな言葉がある。やれば後悔する。やらねど後悔する。ならば、やって後悔せよ」
「それも、孔子先生のお言葉?」
「いーや、違う。偉大なるキム・ウタク先生のお言葉だ」

色眼鏡を外して、ユニに向かいぱちんと片目を瞑る。ユニが吹き出すのと同時に、周囲の儒生たちから、朗らかな笑い声が起こった。
その中には、色掌ナム・ミョンシクたちの姿もあった。気づいたユニが、来てくださったんですか、と声を掛けると、ミョンシクは小卓の筆を取り、さらさらと署名しながら、言った。

「自覚してるよ。自分が卑怯で怖がりだってこと。でも成均館は、そんな俺の唯一の誇りなんだ。ここだけは、しっかり守り抜きたい。成均館に官軍が乱入したのも、イ・ソンジュンを連行したのも間違ってる」
「先輩……」
「昨日は悪かったな。疑い深くてさ」

ユニは頷き、周囲を見渡した。そこには、成均館のほとんどといっていい数の儒生たちがつめかけ、今や庭を埋め尽くさんばかりになっている。おそらくは皆、ミョンシクと同じように自分の中の大切な場所───成均館という、たったひとつの誇りを守るためにここへ来たのだ。
胸が熱くなった。ユニは改めて、今自分がここにいること、それがどれだけ得難く、輝かしい体験であるのかをしみじみと感じていた。

「みんな、揃ったか?」

ぽん、と肩に置かれる手を感じて、振り仰ぐ。いつの間にかヨンハがすぐ隣に立っていた。
一瞬、集まった儒生たちの間に気まずさを伴った妙な空気が流れる。だがヨンハはそれを、晴れやかな笑顔で一蹴した。

「みんなに教わったよ。やっぱり成均館は、一番面白いところだって。そこで私は、今後は両班の務めをしっかり果たそうと思う。だから冷たい目で見るなよ。いいな?」

ヨンハがそう言うと、儒生たちにも笑顔が広がった。出自がどうであれ、ク・ヨンハはク・ヨンハで何も変わらない。それを、その場の誰もが納得した瞬間だった。

「ところでテムル、コロはどこだ?」

訊かれて辺りを見回すが、それらしきざんばら頭は見当たらない。儒生たちも、「ヤツがいなきゃ始まらないだろ」「だよな」と口々に言い始める。と噂をすれば、きっちりと結った髷の上に笠を被り、皺ひとつない道袍をいつものように着崩すことなくきちんと着ているジェシンが、顎紐を結びながらこちらへ歩いてくるのが見えた。

ジェシンは、庭へ入るなり自分がその場の注目を一身に集めていることに気づき、ぎょっとしてぴたりと足を止めた。だがすぐに、彼らの視線を避けるようにそそくさとユニの近くに寄ってきた。

「先輩、そんなちゃんとした格好、初めて見ました」

どうやら髭も整えたようで、すっきりした顔つきをしている。珍しい姿にユニが感心してしげしげと眺めていると、ヨンハがからかうように言った。

「王にお目にかかるんだ。流石の泮宮の暴れ馬も小綺麗な駿馬になるってことだな」

ジェシンはこれ以上は耐えられないといった風に苛立たしげに首の後ろを掻きむしり、言った。

「何してる。揃ったならさっさと出発だ!」

その声を合図に、儒生たちから「おお!」と雄叫びのような声が上がる。
成均館の儒生たちによる捲堂が、いよいよ始まるのだ。

昂ぶり逸る心を押さえ、ユニが上疏文を手に一歩足を踏み出したそのときだった。
彼女の目の前に、儒生服姿のままのインスとその取り巻きたちが立ちはだかった。
彼らには既にわかっていたはずだ。これだけの人数の儒生たちが、朝食の席に現れなかったのだ。進士食堂はもぬけの殻だったことだろう。

「警告したはずだ。捲堂への参加は、私への反抗とみなすと」

インスの底光りのする眼がユニを見据えて、言った。

「ぼくも言ったはずです。掌議の責任を必ず問うと」

少しもひるまずに、ユニは応えた。昨日よりも気持ちはずっと落ち着いていた。後ろにいる儒生たちが、自分に見えない力を与えてくれていることは間違いなかった。

「ぼくたちはこれから、イ・ソンジュンの無罪放免と、成均館を侵害した兵曹官軍の謝罪を求めに行きます。成均館掌議として先頭に立ってくださいますか?」

バカを言え、とインスは即座に吐き捨てた。わかっていた答えだ。ユニは息を吸い込むと、言った。

「なら、仕方ありません。我々は貴方を掌議として認めるわけにはいかない。捲堂はぼくが代表として行います。では」

一礼して、ユニは再び歩き始めた。ジェシンとヨンハを先頭にした儒生たちの一団がそれに続く。

「待て!」

インスの鋭い声が飛んだ。

「誰一人ここから動くことは許さん!」

肩を、それとはっきり判るほどわなわなと震わせながら、インスは叫んだ。ユニは構わず、伝香門へと向かう。
今や、掌議ハ・インスの命に従う者は、彼女の後ろには誰もいなかった。
そんな中、唯一、インスの横で立ち止まったのはヨンハだった。だがそれが、決してインスに服従したからではないことは、インスを見下ろすその憐れむような眼差しで明らかだった。

「……この私を侮辱して、無事で済むと思うか」

インスの脅しにも、ヨンハの涼しげな表情は変わらない。彼は ぽんぽんと二度、インスの肩を軽く叩いた。

「警告したはずだぞ。儒生たちがお前を見てるって。忘れるな。私たちがお前を見放したんじゃない。お前が先に捨てたんだ。この、成均館をな」

立ち尽くすインスの横を、ヨンハはふいとすり抜け、立ち去った。
そのまま微動だにしないインスの背中に向かい、それまで黙っていたコボンが口を開いた。

「掌議、俺も行きます」

ビョンチュンが目を剥き、気でも狂ったか、とコボンの口を塞いだ。その手を振り払って、言わせてくれ、と黙らせてから、コボンはインスの背中を見た。握り締めた手は小刻みに震えていたが、彼はそれでもインスから目を逸らさなかった。

「掌議、本当にわからないんですか?俺みたいなバカでも、掌議が間違ってるってわかるのに、本当に気付いてないんですか?これ以上貴方といたら、もっとバカになりそうだ。俺にだって、意思はあるんです!」

振り向いたインスが、コボンに向かい拳を振り上げた。殴られる、と目を瞑ったコボンの間近で、その拳はぴたりと止まった。
インスは、固く握り締めた拳同様、目の下をひくひくと痙攣させ、コボンから隣のカン・ムにゆっくりと視線を移した。インスの腕を掴むカン・ムの手の甲に、骨ばった筋がくっきりと浮き出ていた。

「これ以上、貴方の堕ちて行く姿を見ていられません」

カン・ムは痛ましげにそう言って、インスの腕を離した。行き場を失ったインスの手が、だらりと落ちた。

コボンも、そしてカン・ムも儒生たちの一団を追い、去っていった。
一人そこに残ったビョンチュンが、掌議、と恐る恐る声を掛ける。

「牡丹閣へ……行かれますか?」

インスは掴みかからんばかりの形相でビョンチュンを睨みつけ「お前はどうなんだ!」と怒鳴った。彼は完全に頭に血を昇らせ、冷静さを失っていた。
ビョンチュンはインスの顔を見られないのか、伏し目のままだ。その顔は、今にも泣きだしそうに歪み、くしゃくしゃに皺が寄っていた。

「……私にとって、掌議は恩人です。それ以外のなにものでもありません」

ようやっとのことで、ビョンチュンはそれだけ、口にした。




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2014/02/12 Wed. 19:28 [edit]

category: 第十九話

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