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第十九話 9 奪還 

bandicam 2014-02-03 18-54-02-858
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大司憲の屋敷に侵入するのは驚くほど簡単だった。十年来のつきあいというのはさすがに伊達ではない。ヨンハはムン家の敷地内を隅々まで熟知していた。おそらくは過去相当に経験を積んでいると見え、私兵たちの警備の死角をついて中に忍び込むくらい、彼にとっては朝飯前のことのようだった。
(この家の息子から直々に教わったんだ、と、彼は後で言い訳にもならないことを言った)

三人は物陰に身を潜め、ジェシンが監禁されているという納屋の方を伺った。書吏チュンホの情報は確かだった。扉の前に、二人の見張りの私兵が陣取っているところを見ると、間違いはないだろう。

「ヤツらをどうにかしなきゃ入れないな」

ヨンハが小さく舌打ちすると、スンドルが口を尖らせて文句を言った。

「何してんですか。成均館の学士様でしょ。こんな時こそ、その頭をぐるぐる回転させてくださいよ」

ふむ、とヨンハはちょっと考える素振りをするや、突き出たスンドルの尻を後ろから えいっとばかり蹴飛ばした。
転がるように私兵たちの前に飛び出したスンドルは、何が起こったかわからない様子で、あたふたと辺りを見回す。
私兵たちとはたと目が合った瞬間、ヨンハが「泥棒だ!」と叫んだものだからたまらない。事態をようやく飲み込んだスンドルは、弾かれたように飛び上がって、一目散に反対側へと駈け出した。

「捕らえろ!」

見張りの私兵二人が、すかさずスンドルの後を追う。

「頭を回転させたぞ。ぐるぐるっとね」

にっ、と笑って、ヨンハはユニを手招きし、無人となった納屋へと近づく。スンドルが無事逃げおおせてくれることを祈りながら、ユニもその後に続いた。

納屋の扉を開け、中に踏み込む。隅の暗がりで、誰かが立ち上がる気配があった。月明かりの差し込む窓の下にきてようやく、それがジェシンだとわかる。

「紅壁書を連行しに来ました、先輩」

にっこり笑ってユニが言うと、無精髭に覆われた顔が安堵に緩んだ。その表情に、ここ数日の彼の苦闘を見た気がした。
感極まったヨンハが、「コロ!」と叫んでジェシンに飛びついた。ヨンハを首にぶら下げたジェシンは またか、と途端にげんなりした顔になった。

「お前にはわからないよ。俺にとって、今日がどれだけ長い一日だったか」

常に無い切実さをその声に聞き取ったのか、ジェシンはユニに視線を移し「何かあったのか?」と尋ねた。
ユニは微笑んで、何でもありません、と言った。

「今日のヨリム先輩は、すごくかっこよかった、ってだけです」

ぎゅう、と、ジェシンを抱き締めるヨンハの腕にますます力が込もった。ジェシンは傷が痛むのだろう、酷い顰めっ面だ。だがそれもすぐに、苦笑いに変わった。


ほどなくして。
泥棒を取り逃がして戻ってきたムン家の私兵は、既に納屋が破られ、中にいたはずのこの家の子息が忽然と姿を消していることに仰天し、慌てて主人に報告した。
だが私室で酒盃を傾けていた大司憲は、別段驚いた風もなく、放っておけ、と言った。

その夜、雲従街の空に真紅の壁書が舞った。
そこには、紅壁書を捕らえるために成均館という聖域を侵した官軍への批判と、事の真偽を見極めることのできない者たちに、罪の審判を任せているこの国への嘆きが、これぞ本家本元という痛烈な、そして見事な筆致で綴られていた。

大司成曰く、“イ・ソンジュンが紅壁書でないのは明らかだが、それを証明する物証と名分がない。だが投獄されたはずの紅壁書が依然現れたなら、イ・ソンジュンの濡れ衣は晴れる。これに勝る名分と証拠はない───”

あちこちで一斉にばら撒かれた壁書に翻弄され、右往左往する官軍兵たちで、深夜の雲従街は途端に騒がしくなった。そんな街の様子を遠目に眺めながら、ユニとヨンハは楽しげに互いの手を打ち合った。
大司成様のことを、成均館のタヌキ親父なんて陰口を言う輩がいたら蹴飛ばしてやる、とヨンハは言った。もっとも、そんな憎まれ口を叩くのはヨンハくらいのものだったから、ユニは笑った。

「残るは明日の捲堂か」
「みんな……来てくれるでしょうか」

不安げなユニに、ヨンハは明るく言った。

「来てもらわなくちゃ。こんな似合わない服を着て駆けずり回ったんだから。イ・ソンジュンが紅壁書じゃないことははっきりした。あとはハ・インスの妨害がなければ来るさ」

ふと、それまで黙っていたジェシンが口を開いた。

「イ・ソンジュンに、今の状況を知らせといた方がいいんじゃないか?」

思わぬ提案に、ヨンハが大きく頷く。

「行こう。あいつに報告だ」
「今から?本当に?」

ユニの胸で、心臓が急に慌ただしく動き始めた。
彼に逢える。そう考えただけで、笑いたいような泣きたいような、そんな気持ちが瞬く間にせり上がってきて、ユニを落ち着かなくさせた。
ただし、とヨンハが人差し指を立てる。

「これ以上この格好は耐えられない。着替えてくるから、二人で先に行ってて」

ぽんとジェシンの肩に手を置き、彼は意味ありげに片目を瞑った。

「ああ、先に入るなよ。牢獄なんて怖くてさ。独りじゃとても行けない」

大袈裟に身震いしてみせてから、ヨンハはさっさと裏通りを抜けていった。
その後ろ姿を見送ってから、ユニとジェシンは、月明かりの下、司憲府への道を辿り始めた。

「こんな夜更けだけど、会えるかな。ぼくたちが突然行ったら、驚くでしょうね。それとも、今更来たのかって文句言われちゃうかな」

歩きながら、ユニは嬉しさについつい饒舌になっていた。たった数日離れていただけなのに、彼が懐かしい。思い出すのは、官軍に連行されるとき、ユニに向かって小さく頷いたあの姿ばかりだった。
はやる気持ちが足取りを随分と軽くさせていたのかもしれない。どう思います?とジェシンを振り返ると、彼は思いのほかユニから離れて歩いていた。
立ち止まったジェシンは、何か深く考えこむような沈黙のあと、言った。

「……俺はやっぱり、やめとく。お前一人で報告してこい」
「先輩、どうしたんですか、急に」
「俺が行って、あいつが喜ぶか?デカいツラして、会えないんだよ。だから、お前一人で行け」

気にしなくていいのに、とユニは思ったが、男同士、そういうものかもしれない。一礼して、踵を返した。
キム・ユンシク、と呼び止められ、振り返る。

「お前に、言ったことあったか?」

何をですかと首を傾げて促すと、彼は微かに笑って、言った。

「……ありがとう」

思いがけない言葉だった。
それもこんな風に改めて言われると、何だか戸惑ってしまう。
礼を言われるようなことを何かしただろうかと考えたが、さしあたっては今夜、納屋から助けだしたことくらいしか思い浮かばなかった。

「お前には、感謝してる」

そう、ジェシンは繰り返した。
夜風が、彼のざんばらに下ろした髪を揺らしている。

妙な気恥ずかしさを感じたユニは、「何言ってんだか」と笑ってみせた。









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2014/02/03 Mon. 19:00 [edit]

category: 第十九話

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