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第十九話 8 罪 

bandicam 2014-01-29 01-44-16-795

*********************************


その夜、尊経閣でヨンハと顔を合わせたユニは、儒生たちへの積もり積もった怒りをついにぶちまけた。

「ほんと、ひどい話です、先輩。イ・ソンジュンを紅壁書だと疑うなんて!こんなに長い間一緒に過ごしてきたのに、一体何を見てきたんだか」

抑えきれない感情につい声が大きくなる。人けのない尊経閣にそれはやけに響いたが、そんなユニとは逆に、聞いているヨンハの表情は静かだった。書架の本の上に置いた手を遊ばせながら、彼は言った。

「長く一緒に過ごせば、相手のすべてを理解できる……本当にそう思う?」

思わぬ問い掛けに、ユニは尖らせた唇を元に戻すのも忘れて、ヨンハを見た。

「実際、同室生の気持ちもちゃんと判ってやれないのが人間だよ」

彼がそう言って浮かべた笑みには、強いて言葉にするなら、自嘲とか諦念といったものが入り混じっていた。

「そこで必要なのが、証拠と名分だ」

とそのとき、意外な客がいきなり割って入った。大司成である。二人は慌てて叩頭した。
いつの間に来ていたのか、大司成はユニとヨンハの話をあらかた聞いていたようで、ぎょろりと飛び出した目玉で二人の顔を順に覗き込みながら、声をひそめて言った。

「イ・ソンジュンが紅壁書ではないという“証拠”と、陛下がイ・ソンジュンを釈放すべき“名分”」

判るかね?と眉を上げる。ユニとヨンハは、互いの顔を見合わせた。




それから過ぎること数刻。
夜更けの北村の一角、とある小屋の暗がりの中に、ユニとヨンハ、そしてスンドルを加えた三人の姿があった。

「こんなの耐えられないよ。なぁテムル、どうしてもここまでしなきゃダメ?」

眉尻を情けない具合に下げて、ヨンハがこの有り様を見ろとでも言うように両手を広げた。
彼が身に着けているのは、墨染めの道袍だ。普段彼が好む派手な刺繍や地模様はどこにも見当たらない。とはいえ布地はさすがにいいものらしく、艶やかな光沢を放っている。

「私は色白だからさ、真っ黒な服は顔映りが悪いんだ。これじゃまるであの世からの使者みたいだろ?な?」

ほら見ろ、と笠を頭に乗せ、獣のような唸り声を上げてみせる。
久しぶりにいつもの調子のヨンハを見た気がして、ユニは嬉しく、つい笑ってしまった。

「先輩、よく似合ってますよ。えと……ほら、髪の色と、ぴったり!」

そう言うユニも、夜の闇にできるだけ紛れるよう、抑えた色味の道袍を着てきたのだが、いかんせんこちらは普段から地味なので、いつもとそう変わらない。
ユニの適当な褒め言葉にあっさりと気を良くしたヨンハは、そう?とくるりと身を翻した。

「まあ、当然かな。なんたって私は都で一番のおしゃれさんだから」

機嫌よく笑うと、同じく黒づくめのスンドリもへへ、と相好を崩し、清の拳法家よろしく両手を妙な風に構えて言う。

「おれは気に入りましたよ。なんだか、いつもより機敏に見えませんか?今なら、坊っちゃんを何度でも助け出せそうです」

頼もしい言葉に勇気づけられて、ユニの心も知らず、軽くなった。さあさあ、と手を叩いて、二人を促す。

「まずは、コロ先輩の家!」


*   *   *


床に叩きつけられた壺が、派手な音をたてて砕け散った。
ジェシンは肩で息をしながら、傷の痛み以上に彼を苦しめるもの───例えば、四方を囲む土壁や、固く施錠された扉や、黴臭く淀んだ空気といった───今この瞬間に彼をがんじがらめにしているすべてのものを憎悪し、呻いた。
その呻きは、やがて身を引き裂くような咆哮となり、狭い納屋に響いた。
事情を知らない者がその声を聞いたら、さぞかし怯えたことだろう。大司憲の屋敷の納屋には獣か、あるいは狂人が押し込められているのかと。
そのうちそれも本当になる、とジェシンは砂が詰まったように重く乾いた頭の隅で思った。

このままずっとここにいたら、俺はきっと狂ってしまう───。

そのとき、納屋の扉が軋んだ音とともに開いた。
この屋敷にジェシンを縛り付けた、まさにその本人が、敷居を跨いで彼の前に立った。
父は足元に散乱している割れた壺の破片にちらと目を遣ると、言った。

「いい加減に諦めなさい。そんな身体のお前を納屋に寝かせるのは忍びない」
「イ・ソンジュンは無罪です。釈放してください」

父の言葉を無視し、ジェシンはまた繰り返した。いったいもう何度目になるのか。狂いかけた頭では、考えることさえ苦痛だ。

「そうやって左議政に復讐すれば、兄上が生き返りますか。兄上を思うなら、あの時……あの時にあなたは、黙認するべきじゃなかったんだ!父上は───最後まで卑怯だ」
「お前を守るためだった!」

声を荒らげて、父は言った。吐いた息が白く舞った。

「あの時、黙認することでお前を守り力を蓄えた。その力を発揮する時が来ただけだ」

言い捨てて背を向けた父に、ジェシンは詫びた。許してください、と。
あなたの苦しみと悲しみを、たった独りの孤独な闘いを、知らなかった。知ろうともしなかった。
行き場のない怒りをぶつけ、あなたをますます孤独にした。
今、あなたが憎しみに囚われ、道を誤ろうとしているのは俺のせいだ。
罪を償うべきは、俺だ。紅壁書としてではなく、あなたの息子として、俺は、許されざる罪を犯した。

崩折れそうな身体を、傍らの箪笥に手をついて支えた。喉の奥が詰まり、瞼の縁が酷く熱かった。

「俺が、間違ってたんです。父上より、自分の方が辛いと……自分の方が兄上を思っていると、自惚れてました。
でもそれは、間違いでした。だから、イ・ソンジュンを釈放してください。あいつと俺は、まだ何も始めてさえいないんです」

熱い涙が、ジェシンの頬を濡らしていた。だが父の背は沈黙したままだった。

「お願いです、二度と父上を憎みたくないんです。あんな地獄の中で生きるのは……もうたくさんだ」

父は結局、一度も息子を振り返ることなく納屋を出て行った。再び扉に掛けられる重い閂の音を聞きながら、ジェシンはがくりと膝を落とした。身体の震えが止まらないのは、湿った床の冷たさのせいか、それとも、自身の胸を覆い尽くす絶望のせいか、彼にはもうわからなかった。





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2014/01/29 Wed. 01:55 [edit]

category: 第十九話

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