スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
web拍手 by FC2

--/--/-- --. --:-- [edit]

category: スポンサー広告

cm --  tb --  

第十九話 7 覚悟 

bandicam 2014-01-28 11-57-01-026


*********************************



講義の後、夕食までの数刻は、儒生たちの束の間の自由時間だ。中庭では、木陰で読書したり、仲間と談笑したりと、皆思い思いの時を過ごしている。
ユニは儒生たちを眺め渡すと、少し離れた槐の木の陰に立っているヨンハの方をちらりと見た。彼女の手にした角盆には、王への上訴文を記した巻物。そして、それに署名するための墨と筆が収められている。
ヨンハは口元を微かに上げて、ユニを力づけるかのように頷いた。小さく頷き返したユニは、ふうとひとつ、息を吐いて、足を踏み出した。

彼女がまず歩み寄ったのは、庭の中央で蹴鞠に興じているミョンシクたちだった。
ちょうど足元に転がってきた鞠を、屈んで捕まえる。遊びを中断された儒生たちが、怪訝な顔で近寄ってきた。

「イ・ソンジュンを救う捲堂に参加してください。イ・ソンジュンは紅壁書じゃないんです。官軍が連行したのは……」
「ヨンハの指示で署名集めか?」

最後まで聞かず、ミョンシクが吐き捨てるように言った。

「あんな嘘つきを誰が信じるんだ。お前らもどうせ同類だろ?イ・ソンジュンのことだって、信じられるか」

そうだよ、無理な話だ、と、周りの儒生たちも口々に賛同する。聞えよがしな彼らの声にいたたまれなくなったのだろう、ヨンハがそっとその場を離れるのが見えた。その後ろ姿を気にしながら、ユニは尚も署名を訴えたが、ミョンシクたちは取り付く島もなくさっさと引き上げてしまった。

その後も、ユニは構内のあちこちを駆け回り儒生たちに捲堂への参加を呼びかけた。だが、皆署名するどころかまともにとりあってもくれない。ヘウォンやウタクはユニが必死に頼み込んでどうにか署名まではしてくれたが、渋々なのがありありと見て取れた。

「なぁ、ヤツは本当に無実なのか?」

自分の名を書き終わっていながら、ヘウォンは心配顔だ。それは、隣のウタクも同様だった。

「署名したら、俺にも害が及んだりしないか?出仕への道が閉ざされたら大変だからな」

我が身が大事なのは判る。だが、同じ釜の飯を食い、学び舎を共にした仲間に対して、こうも薄情になれるものなのか。ユニは腹立たしささえ感じたが、こんなところで言い争って貴重な参加者を失うわけにはいかない。
怒りを腹に押し込め、彼女は言った。

「イ・ソンジュンは紅壁書じゃない。真実は、必ず明かされるはすだ。だから頼むよ」
「無理に署名を集め、捲堂を強行する気か?」

いきなり背後から浴びせられた声に、ユニは振り返った。
薄い笑みを浮かべてそこに立っていたのは、ハ・インスとその取り巻き連中だった。
辺りにいた儒生たちが、揉め事の匂いを嗅ぎつけて集まってくる。

「諦めろ。そんなことは不可能だ」

冷たく言い放ったインスに、ユニは臆すること無く対峙して、言った。

「志があれば、道は開けます」

ソンジュンが、自分のすぐ後ろに立っているような気がした。
そう。確かな志が胸にあれば。諦めさえしなければ、必ず道はある。それも彼が、教えてくれた。

「儒疏と捲堂に加わることは、この掌議ハ・インスへの反抗とみなす。ク・ヨンハと同じ目に遭いたいなら構わないが?」

インスが周囲の儒生たちを威嚇するように見渡す。すると、その視線を避けるように人だかりは散り散りになっていった。
ユニの横にいたヘウォンとウタクも、黙ってこそこそと退散していく。
残ったのは、どうだと言わんばかりのインスの顔だった。

「よく聞け、キム・ユンシク。志が道を開くのではない。力を持つ者が道を作るのだ」

インスの言うことを否定はしない。恐らくそれも真実だろう、とユニは思った。だが、志を持たぬ力は、羅針盤のない船と同じだ。本来の目的を見失い、いつか破滅への道を辿ることになる。

ユニはインスを見返した。これまで何度、この男の脅しに怯えてきたことか。けれどもう、恐怖は感じなかった。
イ・ソンジュンを助けだす。ただその思いが、ユニから一切の怖れを消し去っていた。

「ではぼくは、力をつけます。明朝、捲堂を行う前に、成均館に官軍を入れた掌議の責任を必ず問います」

決然としたユニの言葉に、インスは、はっ、と小馬鹿にしたように息を吐き出して笑った。それに追従するように、ビョンチュンも歯を剥き出して笑う。それでも、ユニの表情が少しも揺るがないのを見て取ると、インスの表情から笑みが消えた。血走った眼が、ユニを凝視する。

“決して目を逸らすものか”

瞬きすらも堪えて、ユニはインスを鋭く見据えていた。
ここでこの男に屈したら、二度とソンジュンは戻らない。
たとえ殴られたとしたって、逃げるつもりはなかった。


*   *   *


しかし実に厄介な者たちだ、と王はほとほと参ったというように嘆息し、椅子の背に心持ち身を預けてソンジュンを見た。

「一人は王命に背き紅壁書として現れ、もう一人はその代わりに捕らえられ、余を悩ませておる」

王の眉間に刻まれた深い皺を見、玉卓を挟んで座るソンジュンは面を伏せた。
以前〈まえ〉に崇文堂〈スンムンダン〉で王に拝謁したのは、旬頭殿講の後、褒美の品を下賜されたときだった。ところが今のソンジュンは、司憲府に身柄を拘束された罪人としてここにいる。この者たちこそはと見込んで密命を下した王の立場からすれば確かに、頭の痛い話だろう。

「この上はもはや本物の紅壁書が捕まらぬ限り、そなたはこのまま紅壁書とされ、犯してもいない罪を償わねばならぬことになるぞ。───構わぬのか?」

構いません、とも、嫌です、とも言えず、ソンジュンは黙っていた。王は「見上げた友情だな」と言ったが、その口調には呆れにも似た、僅かな苛立ちのようなものが滲んでいた。

「……初めから、こうなると覚悟していたわけではありません。“楽な道と困難な道があれば、困難な道を選べ。成功するとは限らないが、後悔することはない”───父の教えです」

王は険しかった表情をふと和らげ、痛ましげな眼差しをソンジュンに向けた。

「余を恨んだか?それほど親密であった親子に、酷なことをした」

視線を落としたソンジュンは、王の問いに今また、己の心と向き合った。それはここ数日、牢の中で彼が幾度と無く繰り返してきたことだった。
気持ちは、不思議と凪いでいた。これが覚悟というものなのかどうか、ソンジュンにはわからなかったが、少なくとも今の自分は、後悔や怒り、憎しみや恐怖といった負の感情に苦しめられてはいない。ただひとつ、ユニを思う時、寂寞とした悲しみが胸を覆い尽くすだけだった。

「恨んだことはあっても、恩は忘れられません。命を授けてくださった父と、志をくださった父───お二人には、感謝しています」

ソンジュンの言葉に、王は再び深く嘆息した。
その指先が、おそろしくゆっくりとした拍子で机上を小さく叩くのを、彼はただじっと見つめていた。






↓楽しんでいただけたらポチっとお願いします
にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
スポンサーサイト
web拍手 by FC2

2014/01/28 Tue. 11:59 [edit]

category: 第十九話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

cm 1  tb 0 

コメント

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

# | 
2014/01/28 23:52 | edit

コメントの投稿

Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://amaru0112.blog.fc2.com/tb.php/291-1f07dd09
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

2017-08
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。