スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
web拍手 by FC2

--/--/-- --. --:-- [edit]

category: スポンサー広告

cm --  tb --  

第十九話 6 剥がれた仮面 

bandicam 2014-01-16 12-38-46-831
****************************************


酉の刻を告げる鉦の音が、構内に響き渡る。
それを合図に、儒生たちは続々と明倫堂に集まり始めていた。

ヨンハは、東斎の自室で鉦の音を遠くに聞きながら、丁寧に折り畳んだ斎任の快子を軽く撫でた。
彼の脳裏に、二人の友の言葉がよぎる。

───この朝鮮は、公正な法に基づき裁く国だと、信じていますから。
───俺が戻るまでに準備しとけ。できるな?

彼らはそう言って、それぞれの闘う場所へと赴いた。少しの迷いもなく。
わかってるさ、とヨンハは胸の内で呟いた。

(今度は俺の番だって、そう言いたいんだろう?)

快子を前に、威儀を正す。
友人なんてものは、単なる遊び仲間のことだと思っていた。一緒にいて、退屈しなけりゃそれでいい。自分の役に立ってくれれば、もっといい。
金の匂いに惹かれ、ヨンハの周りに集まってくる者など、男女を問わずわんさといた。
その度に、彼は選んできた。
『果たしてこいつは、自分の友に値する人間か?』
そう問い掛けながら。

だが今、ヨンハは自らを問う。
ソンジュンとジェシン。自分は、彼ら二人の友に値する人間だろうか。仮にそうでなかったとしても、少なくとも、彼らが自分を友と呼ぶのに恥ずかしくない人間でありたいと、心から思う。
ヨンハは立ち上がると、部屋の扉を開けた。陽の光が、低い位置から直接目を刺してきて、彼は顔をしかめた。
縁側を下り、明倫堂へと向かう彼の足取りに、もう迷いはなかった。


*   *   *


斎任の黒快子ではなく、普段の儒生服で明倫堂に現れたヨンハに、ミョンシクやドヒョンらは怪訝な顔をしたが、インスとビョンチュンは当然だと言わんばかりの笑みを浮かべた。
儒生代表として儒疏に参加するか、それとも官軍の立ち入りを許した責任を負うか。その選択を迫られても、インスの不遜とも言える態度は崩れない。
私は謝罪などしない、と、鼻先でせせら笑うかのように、インスは言った。

「私は成均館掌議の務めとして紅壁書を引きずり出し、国法に従い処理しただけだ。故に私は、儒疏や捲堂など行う気はない」

対峙するヨンハは、大きく息を吸うと、言った。

「では仕方ない。掌議の地位から退いてもらう。成均館の儒生としての誇りを忘れたお前を、我々は認めるわけにはいかない」

着座する儒生たちが、ヨンハの言葉に同意を示して頷く。彼らを見渡すインスの口の端が上がった。ヨンハに視線を戻した彼の目には、ついに始まった余興を面白がるような光があった。

「───お前に私を裁く権利はないはずだ。成均館に出入りはできても、中人が両班と机を並べ斎任まで務めるなど、ありえない」

儒生たちの間に、ざわめきが広がる。誰もが、インスの言葉の意味を測りかねていた。するとそれを待っていたかのように、ビョンチュンが紙の束を取り出し、「さあ、一枚ずつ回してくれ」と周囲の儒生たちに配り始めた。
どうやらご丁寧なことに、ヨンハの出自を記したビラまで用意していたらしい。
何だ何だとビラを受け取った儒生たちの反応は皆一様だった。顔を上げ、ヨンハを見る彼らの目は初めこそ驚きに見開かれているが、それはすぐに、失望と蔑みに変わるのだ。
ただ一人、キム・ユンシクを除いて。

ビラを握り締め、真っ直ぐにヨンハを見つめるユンシクの瞳にあったのは、痛みだった。
あの心優しい男装の少女はおそらく、これまで事実を隠さざるを得なかったヨンハの心を、我がことのように感じているに違いない。

───そうだろう?テムル。お前は自分と俺のことを、秘密を抱えた似たもの同士だと思ってるんだろう?
だが違うんだ。似ているようでいて、俺とお前は違う。
お前が嘘をついたのは、人間らしく生きるためだ。馬鹿な男社会は、お前の命すらも奪いかねなかったから。
それに引き換え俺は、ただ他人に侮られたくなくて、こいつらより優位に立ちたくて、嘘をついていただけだ。
人間らしく生きるなら、お前たちと、花の四人衆の名に恥じない人間になるなら、俺は真実を明かすべきなんだ───。

「俺は、両班じゃない」

明倫堂に響き渡る声で、ヨンハは告げた。ざわついていた儒生たちが、水を打ったように静まり返った。

「俺の一族はもともと、代々特定商人を務める中人だ。刑曹参議〈ヒョンジョチャミ〉だった祖父など存在しない。俺の父が、息子には立派な家を継がせようと金で族譜を買った。いや、正確には両班の仮面を買ったんだ。そうして、今ここにいるのが、俺だ」

「両班じゃないくせに」「俺たちを騙しやがったのか」と儒生たちから野次が飛ぶ。ヨンハはそれを無視して、続けた。

「ここは、兵曹に謝罪を求め、イ・ソンジュンを救う捲堂を決議する場だ。俺は、自分の全ての任をここにいるキム・ユンシクに譲る」

先輩、と見返すユンシクの表情に、戸惑いのいろが浮かぶ。

「俺に資格がないのは、中人だからじゃない。俺が、真実を隠していた自分を恥じるからだ。だがもう、そんな必要はない」

ユンシクの大きな瞳が涙で潤み、光っている。その口元が微かに上がって、頷いた。ヨンハも頷き返した。彼はインスに向き直ると、言った。

「もう俺には、お前の脅しなど通用しない、ハ・インス。なぜならここは成均館で、俺は───ク・ヨンハだからだ」


*   *   *


東斎に戻ったヨンハを待っていたのは、滅茶苦茶に荒らされた部屋と、地面に投げ捨てられたきらびやかな服や調度品の山だった。
その一つを拾い上げ、ヨンハは ふんと鼻を鳴らした。

「たいした奴らだよ。ちゃんと清国製を選んでやがる」
「───高価なものも選んでるみたいですね」

面白がるような調子の声に振り向くと、ユンシクが青磁の壺を手に笑っていた。
そのまま、頼まれもしないのにさっさと散らかったヨンハの私物を拾い始める。ヨンハも笑って、彼女に習った。



「ずっと……心の隅に、ひっかかってたんでしょう?」

ヨンハの部屋で、汚れた壺を拭いながら、ユンシクがぽつりと言った。服を畳んでいたヨンハはふと手を止め、空〈くう〉に視線を投げた。

「だから、ひたすら求めてたのかもな。楽しいこと、面白いこと……そういうのばっかりさ」

明るく言ったつもりだったが、ユンシクはまた自分の胸を痛めているようだった。黙っていても、ヨンハを見る彼女の目が、辛かったでしょう、と語りかけてくる。そんなユンシクを逆に慰めるように、ヨンハは「世間を偽ってきたヤツに、この程度の罰は当然だ」と微笑んでみせた。

「それでさ、捜したくなったんだ。……金縢之詞。王の話を聞いた時は正直、眉唾ものだと思ったが、本当に身分なんて関係ない世の中が来るのか、この目で見てみたいと思った」

そっか、とユンシクが頷く。

「……だがそのせいで、お前に重責を負わせることになったな」

今更ではあるが、申し訳ない気持ちになる。ヨンハは表情を改めて、その細い肩に手を置いた。

「儒疏を起こして、捲堂を率いるのはお前の役目だ、テムル。イ・ソンジュンを救う手立ては、今はそれしかない。必ずやり遂げてくれ」

ユンシクは俯いた。不安に揺らめく視線が、彼女の膝のあたりを彷徨う。

「ぼくに、そんな資格があるでしょうか。簡単ではないだろうし、経験や、力だって、何も……」
「そんなもの、いらないさ」

即座に言うと、ユンシクは顔を上げた。その黒い、真摯な瞳を、今は真っ直ぐに見返すことができる。それが、ヨンハには嬉しかった。

「必要なのは、思いだ。イ・ソンジュンを救いたいって思いは、誰よりも強いはずだろ?それが、お前の資格だよ」






↓楽しんでいただけたらポチっとお願いします
にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
スポンサーサイト
web拍手 by FC2

2014/01/16 Thu. 12:48 [edit]

category: 第十九話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

cm 8  tb 0 

コメント

Re: snowwhite さま

すまそん。ちょっと体調崩しててお返事遅れました。

しかしなんだかなー(^^ゞ
全部見たきゃーTSUTAYA行くかDVD買え、ってことなんでしょうか。
どのあたりをカットしてるのか関東在住でないワタクシにはわからないので何とも言えませんが……
日本の放送枠っていうのは、どうにも動かせないもんなんですかねぇ。
ゴールデンタイムのドラマ枠なんかは、けっこう15分拡大とか意味もなくやるくせにぃ(-_-;)

あまる #- | URL
2014/01/21 01:38 | edit

ぽかーん

よこちょんさんのコメントを読んでポカーン。

なんなんすか、それは!?

韓国ドラマではよくあるんでしょうか?そんな有り得ない編集・・・とちょっと呆然としてしまいましたことよwww


あと・・・個人的にはヨリムも人間らしく生きるために両班になったのだろう、とわたしは解釈しております。この時代がそういう空気をはらんでいたんでしょうね・・・

snowwhite #bSUw9.7Y | URL
2014/01/18 22:29 | edit

Re: *ろさま

本編読破ありがとうございます~。(長いのに……(T_T)
ウチのブログであのステキドラマをますます楽しんでいただけるなら、ワタクシも幸せです(^^)
ラストまであと少しなのになかなかマメな更新ができず申し訳ないですが、気長にお付き合いいただけたら嬉しいです~

あまる #- | URL
2014/01/18 22:08 | edit

Re: あらちゃんさま

チョン博士がヨンハのことを「傍観者」と称した理由も、このへんにあるのかなっていう気がしますね。
自分が、両班の子弟たちとは違う異質のものだと思ってるから、彼らと同化することなく、常に一歩外から物事を見てるというか。
でも“異質”というならユニももちろんそうだし、ソンジュンも、ジェシンもそうで。
だから、四人でいるときのヨンハは一番彼らしくいられたし、傍観者であることも辞めることができたのかなぁとか思います。
そう考えると、このソンスってドラマは、自分らしく生きることが今よりもずっとずっと難しかった時代に、必死に抗おうとした若者たちの姿を描いたドラマとも言えるワケですねぇ……。
ああ~やっぱり深いわ、この脚本。ユチョの可愛さに萌えてつい忘れがちですが(爆)
初心に返って本編、真面目に書きます。(や、もちろん今までふざけて書いてたワケではありませんが(笑))

あまる #- | URL
2014/01/18 21:58 | edit

Re: よこちょんさま

ディレクターズカット版は、どうやら関東だけみたいですね~(^^ゞ残念!
それにしてもシーンが増えたぶん、話数を増やすのかと思ったら、今まであったシーンをカットですか……
相変わらず鬼だわ(^^ゞ
せめて初めて見る人が???ってならないような編集であることを祈るばかりです。

「応答せよ1997」ですね……( ..)φメモメモ
BSで放送中なのかな?あっ!このヒロインの子、「その冬、風が吹く」に出てましたよー。
あまるの愛する(爆)キム・ボム君の相手役で。
若いのにすごく印象的で、上手いなぁって思ってました。
今度は主役なのね。スカパーに来たらゼッタイ見ます!高校生の胸キュンなんて大好物だわー(^^)

あまる #- | URL
2014/01/18 21:29 | edit

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

# | 
2014/01/18 19:19 | edit

ヨンハの仮面

あまる様更新ありがとうございます。ヨンハの痛みがすごく伝わってきます。
ロミオとジュリエットの中の科白を思い出しました。傷の痛みを感じたことのないものは他人の傷跡をあざ笑う…
まさにヨンハを攻撃してくる者たちは生まれながらに持っている身分にあぐらをかいて生きているからヨンハの痛みなんてわからないでしょうね…逆に、だからヨンハはユニやジェシンの傷をあざ笑うこともせず、暴くこともせず、そっとしておいてやることもできる。
ユニやジェシンの持ってる傷は当時で言えば完全に犯罪でしょうが、ヨンハはもしかしたら自分の傷も犯罪と同じと思っているのかも、と思いました。親がよかれと思って無理矢理かぶせた仮面は、いったんつけたらはずせない、重たい仮面ですよね。中人として堂々と生きる方が楽かもしれない。
自分の傷を隠すために他人の傷を暴きおとしめるやつもいますが、そんな卑怯なことをしないヨンハはかなりまともな精神を持った人間だと思います。もしかしたらソンジュンは、おちゃらけた表の顔の奥に隠れたそのまともな精神が感じられるから、ヨンハを先輩として自分の上位におけるのかも。
ソンジュンが学友に求めても得られなかった足りないものって、こういうものなのかな…

すいません、新年会帰りの酔っぱらいは表現がしつこくて。酔っぱらいに絡まれたと思ってお許しください。

あらちゃん #- | URL
2014/01/18 02:50 | edit

ヨンハの心の揺れと決意が胸に迫りますね・・・
あまるさまの文章を読むと、ドラマでの場面がまざまざと蘇ります。
四人の絆に感動!(T_T)

TBSでソンスのディレクターズカット版の放送が始まりましたが、これって
関東地方だけなんですか?!
BDがあるから見なくてもいいや~と思いましたが、やはり捨て置けずに見て
みたらビックリ!新しい場面を入れるために、今まであったシーンを思い切り
カット!(@_@;)
早送りで見て、ソンジュンさまだけはじっくり鑑賞しました~♡

ソンスが1番だけど、今お気に入りの韓国ドラマは「応答せよ1997」です!
来週もう最終回でさびしいな~。
純粋でストレートな愛情表現に胸がキュンとします(#^.^#)

よこちょん #- | URL
2014/01/18 02:11 | edit

コメントの投稿

Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://amaru0112.blog.fc2.com/tb.php/289-d2509810
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

2017-08
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。