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第十九話 5 脅迫 

bandicam 2014-01-09 14-50-30-219
******************************


ヨンハは濃紺の儒生服を脱ぐと、戸棚から取り出した黒い快子を羽織った。その快子は、成均館学生会、斎会〈チェフェ〉の役員である斎任〈チェイム〉だけが身につけることを許され、代々受け継がれてきたものである。

儒生たちは言う。『斎任がこの快子を着て目の前に立ったら、そいつの人生は終ったも同然』。
斎任は、儒生たちの総意であると同時に、成均館の法と秩序を守る番人であり、また懲罰の執行者でもあった。
彼らの審判は絶対で、教官たちはおろか王ですら、その決定を覆すことはできない。
その大いなる権威の象徴とも言えるのが、この漆黒の快子だった。

釦を掛け、帯紐をきっちりと結ぶ。
それまで、権力という飾りのついた、自分にしてはちょっと珍しい衣装くらいにしか思っていなかったヨンハだが、今は、この快子に腕を通すことに、身が震えるほどの責任を感じる。

腹を括れ、ク・ヨンハ。お前の大事な友の命が、この快子に掛かってる。

頭に被った儒巾の位置をちょっと整えて、ヨンハは深く息を吐いた。
彼が斎任としてこれから対峙しなければならない相手。
それは、他ならぬ斎会の最高幹部、掌議ハ・インスであった。



西斎の方から、ビョンチュンら取り巻き連中を従えたインスが悠然と歩いてくる。
一方の東斎からは、斎任であるヨンハとミョンシクを筆頭に、少論、南人の儒生たち。
二つの集団は、東西清斎の間にある前庭のちょうど真ん中辺りで、向かい合うかたちとなった。

ヨンハはインスを見据え、公然と述べた。

「掌議ハ・インス。我ら斎任は儒疏〈ユソ〉と捲堂〈クォンダン〉を要求する。官軍が成均館に侵入し、大成殿と明倫堂を汚した罪と、治外法権である成均館から儒生を連行した罪を問う。我々儒生の怒りを世間に知らしめ、兵曹の謝罪と、注意勧告を促す王の批答〈ピダプ〉を求める」

※儒疏……王に政治の過ちを意見する上書を奉る行為。所謂学生デモ。
※捲堂……儒生たちによる集団ボイコット。
※批答……上書に対する王の返答。


ヨンハの奏上を顔色一つ変えず聞いていたインスは、軽く眉を上げ、言った。

「それで?」
「官軍はお前の指示で成均館に乱入した。反省して謝罪するなら、お前を儒疏の代表としよう。だがお前の謝罪がなく、今回の儒疏に加わらないというなら……」

後を引き継いで、ミョンシクが告げる。

「我々斎任が掌議に代わり、儒疏の代表となるつもりだ。そして官軍を入れた行為に対し、掌議ハ・インスの責任も問う考えだ」

酉の刻に明倫堂だ、と言って立ち去ろうとしたヨンハに、インスは薄く笑った。

「残念だな、ク・ヨンハ。お前には権利がない。私もお前の斎任としての信任を問う」

そう言ってヨンハに一歩近づくと、彼の肩のあたりでひそひそと囁く。

「雲従街を牛耳る大富豪の息子ク・ヨンハはその実、中人〈チュンイン〉の身分で、ただの商人の息子に過ぎない。……華やかな服装で、いつまで両班のふりを続ける気だ?」

その言葉に、ヨンハの身体は冷水を浴びせられたように動けなくなった。
この男は知っていたのだ。ヨンハがひた隠しにしていたその事実を。そしてそれを、斎会の場で己の切り札として使おうとしている───。

ヨンハの強張った表情に満足したような笑みを浮かべ、インスは身体を離した。

「酉の刻に明倫堂だったな。その場に、お前は来るべきではないだろう」

そう言い残し、インスは去っていった。
集団の一番後ろから事の成り行きを見守っていたユンシクが駆け寄ってきて、気遣わしげにヨンハを見上げる。

「どうしたんですか、先輩」
「ヨリム、酉の刻に、明倫堂でいいんだよな?」

尋ねる隣のミョンシクも、先程とは打って変わった弱気な声だ。
だが彼らの問いに、ヨンハは一言も答えることができなかった。いたたまれず、黙ってその場を後にする。彼の足は、自然と大成殿の方へと向かっていた。

前庭にそびえ立つ大銀杏の木。今、そこにジェシンはいない。ヨンハはごつごつした荒い木の幹に、身体を預けるようにして手をついた。

「ク・ヨンハ……面白いことになったじゃないか」

そう呟いて、彼は自嘲するように、笑った。


*   *   *


「ヨリムのヤツ、真っ青でしたね。予想外の展開だったようです」

午後。西斎、掌議ハ・インスの私室では、ビョンチュンが満面に小躍りしそうなほどの笑みを浮かべていた。
仲間としてつるんでいた時でさえ、いつも人を小馬鹿にしたような態度だったヨンハのあんな顔は、めったに拝めるものではない。それを見られたことが、ビョンチュンには嬉しくてたまらないのだ。

なあコボン、と傍らの相方に同意を求める。が、コボンは喜ぶどころかどこか浮かぬ顔だ。ビョンチュンは眉を顰めた。
インスが口を開いた。

「奴らを叩きのめす絶好の機会だ。儒疏や捲堂で王にイ・ソンジュンを釈放させはしない」

そのとき、常に寡黙なカン・ムが珍しく膝を進めて、言った。

「───では掌議、今後は官軍ではなく、我々にお任せください。明倫堂が踏みにじられたばかりか、学生に怪我人まで出ました。あれは、少し度が過ぎるのではと」

すかさず、コボンが続ける。

「お、俺も……俺も嫌です。尊経閣の、大事な書物が無茶苦茶にされました。あんなのはもう……」
「貴様らは」

今にも泣き出しそうなコボンを鋭く遮り、インスは冷ややかに言った。

「黙って私に従え」

ビョンチュンが舌打ちして、コボンを小突く。上目遣いにインスの顔を伺うと、彼は薄く笑っていた。インスの頭にはもう、この後の斎会のことしかないようで、ビョンチュンはほっとする。

「面白いことになりそうだ。ク・ヨンハがどんな選択をするのか」

インスは上機嫌で、そう言った。


*   *   *


ユニがヨンハをようやく見つけたのは、明倫堂の裏手だった。書吏のハム・チュンホが、振り返りながら何度も頭を下げて仕事に戻っていくのを、早く行け、と軽く手を払って促している。
それと察したユニは、いい知らせであることを祈りながらヨンハの背中に声を掛けた。

「コロ先輩は、まだ戻らないんですか?」

振り返ったヨンハの表情は険しかった。ユニを見るや、それが一層重苦しさを増す。

「どうやらコロは、自分の屋敷に監禁されてるらしい。大司憲を説得するのは難しそうだ」

やっぱり、とユニは思った。無理もないことだった。大司憲にとっては、仇敵である老論の息子を救うために我が子を差し出すことになるのだ。いくらジェシンでも、そう簡単にはいかないだろう。

落胆している場合じゃない。そんなことは、初めからわかっていたことだ。ユニは気持ちを切り替え、顔を上げた。

「では、残された方法は儒疏と捲堂だけってことですね。ぼくたちが力を合わせてイ・ソンジュンの無実を訴えれば、彼は釈放されますよね?」
「……それも難しいかもしれない」

いきなり頬をはられたような衝撃が、ユニを動けなくした。先輩、とユニが縋るように見たヨンハの目は、かつてないほど深刻だった。
ヨンハは右手でユニの肩を掴むと、酷く苦いものを飲み下すように頬を歪めて、言った。

「テムル、私は……本当は」

そのまま言葉を詰まらせ、視線を落とす。ユニは先を促すように頷いてみせたが、彼が口にしたのは結局、詫びの言葉だけだった。

「すまない。儒疏は……無理かもしれない」

ユニは愕然とした。

───悪い夢だ。あのヨリム先輩が。いつも軽口ばっかり言って、にこにこ笑ってて。どんな状況でも変わらないそんな彼を見ると、元気が出た。なんとかなるって、思えた。
そのヨリム先輩が、こんな顔をするなんて。

「先輩、何があったんですか」

きっと余程のことが、彼の身に起こったのだ。ユニはヨンハの袂を掴み、問い掛けたが、彼はユニの目を見ようともせず、ただ俯いて唇を噛むばかりだった。





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2014/01/09 Thu. 14:58 [edit]

category: 第十九話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: **姐さま

なんか伏せる意味のない伏せ字でスミマセン(^^ゞ
こちらこそ遅ればせですが今年もよろしくお願いいたします~。

ヨンハの~涙わぁ~ツライです(T_T)
でもこんな葛藤を抱えているところも、彼の魅力なんですよねぇ。
この19話のエピソードがなかったら、ワタシもここまでヨンハに肩入れしてなかっただろうなーと思います。

ソンス完全版を新品で購入したワタシはもっとガックシですヨ!(笑)つってもかなり前ですが。
95分の追加であのお値段はかなりイタイ……。ぽちしたい指を必死で堪えてます。

インフルやらノロやら、何かと怖いこの季節、お互いしっかり予防しましょうね~♪

あまる #- | URL
2014/01/22 03:03 | edit

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# | 
2014/01/21 21:02 | edit

Re: snowwhite さま

いつもちゃらんぽらん風なヨンハのこういう顔を見るのはホント、辛いですよね(T_T)
でもこれを乗り越えて、彼は更にカッコイイヨリム先輩になってくれるはずですから。

お金で買えるくらいだから、両班なんて身分は全く意味の無いものだとヨンハにも判っていたはずで。
なのに、その無意味なものに縛られてる自分が、ヨンハにはきっと嫌でしょうがなかったんだろうと。
ましてや、インスにそれをネタに脅されるなんて、プライドの高い彼にはきっと耐えられない苦しみだったでしょうね~(T_T)

ソンスの放送、始まりましたね!今度はディレクターズ・カット版。骨までしゃぶり尽くすソンス!(笑)
韓流10週年イベントのドラマ部門の1位がいまだ「冬のソナタ」ですからね~。
つくづく韓ドラは息が長い(^^ゞ

ちなみにソンスは7位だった……(・д・)チッ
でもゆちょんが男優部門で2位だったからまあ……いややっぱ1位じゃないのが悔しいぞ!(笑)

あまる #- | URL
2014/01/16 13:06 | edit

こんにちは☆

うう、辛い場面・・・

この中人の地位というか社会的立場が良く分からずに、何度か調べたことがあります。当時は両班か否か、という感じだったのでしょうね。
ヨリムが華やかな笑顔の下にどれほどの葛藤、苦悩を抱えていたのかと思うと切なくなります・・・。

さて、どうやら、成均館スキャンダルがテレビで再送されているようですね~
昨日、我がブログにいつにない訪問者で驚きました!
おお、まだまだ人気があるんだな~と実感しましたよ~

寒さ厳しい折ですが、お体に気をつけて~。

snowwhite #bSUw9.7Y | URL
2014/01/16 10:08 | edit

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