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第十九話 3 牢獄 

bandicam 2013-12-18 00-07-25-393
**********************************************



兵曹、判書執務室。
官軍を動員して宗廟と成均館を捜索したにも拘わらず、金縢之詞の発見には至らなかったことをインスが報告すると、ウギュは手のひらを机上に叩きつけ、想定内だと言わんばかりに鼻を鳴らした。

「だから言ったのだ。結局は王の妄想にすぎぬというのに。左相め、人を罪人扱いしおって」

父のその物言いに、左議政への並々ならぬ憤懣の片鱗を見たインスは、探るように言った。

「まさかそれでイ・ソンジュンを連行したというのですか。奴は、紅壁書ではないとわかっていて?」

愚にも付かぬことを口にするな、とウギュは息子を叱りつける。

「ならば紅壁書に仕立て上げればいいだけのことだ」

インスはにわかに武者震いにも似たものを感じ、拳を握り締めた。
これまで、老論の長である左議政におもねるばかりだった父が、いよいよ目の上の瘤を取り払わんと動き始めたわけだ。
とそのときだった。回廊に面した扉が開き、大司憲ムン・グンスがつかつかと入ってきて、ウギュに向かい軽く一礼した。

「大監、イ・ソンジュンの司憲府への移送をお許しいただきたい」

(司憲府への移送だと?)

ウギュはインス同様、虚を突かれたような表情で大司憲を見返した。大司憲は構わず、言った。

「紅壁書は司憲府で追っていた罪人です。しかも、成均館の学生の罪ともなれば、我が司憲府で裁くのが筋でしょう」

これを、と手にしていた帳面を執務机の上に置く。

「この数ヶ月間、紅壁書を調査した資料です。お読みいただければ、奴が兵曹の扱う罪人ではないことがお判りになるかと」

ウギュは眉根を寄せて暫く何事か考えていたが、ついぞその手が目の前の帳面を開くことはなかった。
筋や名分など父にとってはどうでもいいのだ。このことが、自分にとって吉と出るか凶と出るか。恐らく考えているのはそれだけだとインスは理解した。

いいでしょう、とウギュは顔を上げた。

「後は任せます。紅壁書の罪を厳しく追求されよ。大司憲殿」

大司憲は、では、と頭を下げると、短い会見を終え部屋を出て行った。
息子の表情に もの問いたげないろを見たのか、ウギュは先に口を開いた。

「穴の中にいる蛇を捕まえる時の、最も安全な方法が判るか?他人の手を借りることだ。───要領良くな」

僅かに片頬を引き攣らせるようにして笑んだその顔に、インスは我が父ながらそら恐ろしいものを感じた。
だが一方で、胸の内に高揚するものがあるのも確かだった。

イ・ソンジュンが紅壁書だと自ら名乗りでたあのとき、左議政の息子である自分には到底手出しはできないだろうという目算があの男にはあるのだと思った。その高慢さが腹立たしかった。

だがイ・ソンジュン。お前は、お前を庇護してくれる老論の手を離れた。これから、どう足掻いてみせるつもりだ───?


*   *   *


息子ソンジュンが義禁府から移送されたことを知った左議政イ・ジョンムは、険しい表情で司憲府に赴いた。
その足で、真っ直ぐ大司憲の執務室へと向かう。
書類に目を落としていた大司憲、ムン・グンスは、これは、と腰を上げ、常と変わらぬ笑みを浮かべて彼に相対した。

「私の息子が、ご迷惑をかけましたな」

ジョンムは、胸にある不快感を必死に押し隠して、言った。敵対派閥である少論を助長させまいと、ほんの些細な落ち度も見逃さずに追及、問責し、王や重臣たちの前で叱責してきた相手だ。
そのムン・グンスに対し、少しでも良く思われたいという気持ちが自分の中で働いていることが、彼には酷く不快だった。
そんな彼の内心を知ってか知らずか、グンスは慇懃な態度を崩さずに、言った。

「迷惑などと、何をおっしゃいます。国法を犯した者に罪を問うのが私の任務です」

“国法を犯した者”。その言葉に肉を断たれたような心地がし、ジョンムは小さく息を吐いた。大司憲、と呼びかけた声は、掠れていた。

「息子は、紅壁書ではありません。罪を償う必要はない」

伏し目だったグンスの瞼がゆっくりと上がり、その視線が ひたとジョンムを捉えた。

「罪を犯した者が平然とのさばり、無実の者が投獄され、罪を償わされるのがこの世の中ではありませんでしたかな?」

ジョンムは言葉を失った。そして悟った。
このムン・グンスという男は、我々老論に媚びへつらうその懐に、ずっと刃物を隠し持っていたのだ。
いつかそれを目の前の相手に振るうときが来るまで、ただその鋭利な刃を静かに砥いでいたのである。
喉を波打たせ、ジョンムは思わず一歩後退った。

稀に見る逸材と評判だった、かつての成均館掌議。若くして散った彼によく似たその目の奥に、ぞっとするほど冷たい光が閃くのを彼は見た。

「二度と紅壁書が金縢之詞などで民を惑わさぬよう、司憲府は責務を果たします。どうぞご心配めさるな、大監」


*   *   *


司憲府の牢は、義禁府のそれとは違い、あの吐き気をもよおすほどの酷い臭いはしなかった。罪人とはいえここに入るのは監察で罪に問われた官吏たちばかりであったから、さほど雑な扱いは受けなかったのかもしれない。

義禁府の牢は糞尿もその場に垂れ流しで不潔極まりなく、囚人たちの処遇は牛や豚以下だった。二日に一度、清掃は行われるとのことだったが、それもただ床に水を流すだけの適当なもので、しかも掃除の間に脱獄をはからぬようにと、牢守りが囚人たちを動けなくなるまで殴りつけてから始めるのだという。

あんなところに長くいるくらいなら、死んだほうがましだと誰しも思っただろう。
少なくともここには蓋付の小便壺はあるし、床に敷かれた藁は乾いている。まさかそんなことを自分がありがたがるようになるとは夢にも思わなかったけれども。

格子の向こうに立つ牢守りが、にわかに姿勢を正し、低頭するのが見えた。
ソンジュンの牢の前に立ったのは、父、イ・ジョンムだった。
藁の上に腰を下ろしていたソンジュンは、さっと立ち上がり、上衣の結び紐を整えた。
その薬指に光る指輪にちらと目をやって、父は言った。

「十年前の晩の罪を、お前が償うつもりか」

酷く疲れたような声だった。揺らめく篝火が落とす陰影のせいか、その表情もどこか危うげに見える。
ソンジュンが黙っていると、父は吐き出すように言った。

「あの晩、父は罪を犯してはおらん」
「しかし罪を、隠されました」

十年。真実が伏せられていたその長い間、ずっと苦しみ喘いでいた人たちがいる。直接手を下した者よりも罪が軽いなどと、どうして言えるだろう。
父の目が、僅かに眇められた。

「愚かな……。父に対する反抗に、己が傷つく道を選ぶとは」
「僕はただ、父上の教えに従い、歩んできただけです。私益を求めず、義を求め、信義で結ばれた友と、正道を貫くために命を掛けるのが男だと……そう、教えてくださったのは父上です。僕は、間違っていますか?」

それはソンジュンが真に、父に問いたかったことだった。だが父は何も語らず、ただじっと息子の顔を見ていた。やがて踵を返した父は、一顧だにせずに牢を出て行った。

ソンジュンは己の右手に目を落とした。嵌めた指輪に、指先でそっと触れてみる。ソンジュンの体温を移したそれは、固い感触とは裏腹にほんのりと温かかった。

───あの女〈ひと〉は、今頃どうしているだろう。

官軍に連行されるときに見た、ユニの姿が目に浮かんだ。一歩二歩、ソンジュンを追いかけるように足を踏み出した彼女の顔は、今にも泣き出さんばかりに歪んでいた。

泣かないでくれ、とソンジュンは祈るように胸の内で呟いた。
彼女が泣いているかもしれない、そう思うだけで、激しい焦燥感が彼の心を掻き乱した。
今すぐこの牢を打ち壊して、彼女の元へ飛んで行き、強く抱き締めてやりたい。何も心配することはないからと頬を撫で、溢れる涙を拭ってやりたい。
けれども、そうすることのできない今はこうして、彼女の面影だけを胸で温めるしかないのだ。

足元に敷かれた藁が、かさりと音をたてた。見ると、小さな鈍色の鼠が、せわしなく鼻先を蠢かせてこちらを伺っていた。やがて鼠は、さっと藁の中に頭を突っ込んで、どこかへ行ってしまった。
ソンジュンは足を組んで座すと、姿勢を正し、静かに目を閉じた。

長くなるかもしれない。堂上官のほとんどを少論や南人の者たちが占める司憲府に移されたということは、そういうことだ。ここでは、老論の長である父の力もそうやすやすと及ばない。それどころか、ここぞとばかりに父の足を引っ張ろうと動く輩が大勢いるだろう。
望むところだ、とソンジュンは覚悟を決めた。

願わくは、司憲府の執拗且つ徹底的な調査により、十年前の真実が白日のもとに曝されんことを───。



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2013/12/18 Wed. 00:42 [edit]

category: 第十九話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: p***iさま

ですよね~。この場面をカットするなんてホントもったいない!
ここを書いちゃう前にディレクターズ・カット版見れて良かったです、ほんとに。

西洋骨董洋菓子店、コロばかりかユニパパも出てたんですね!どの役だったんだろ。今度またじっくり見てみます。
九州育ちのあまるには雪国っていうとちょっと憧れがありますが、実際は大変なんでしょうね~
風邪などひかれませんように。

今年はお世話になりました。ご訪問くださって嬉しかったです。
良いお年をお迎えください(^^)

あまる #- | URL
2013/12/31 23:56 | edit

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# | 
2013/12/31 09:36 | edit

Re: あらちゃんさま

連日の忘年会でお返事遅れました……。すみません(^^ゞ

コロ父とソンジュン父のシーンは、あまるがディレクターズ・カット版で見た中でもぜひとも書きたいと思ってた場面で。
グンス父さんを見ていると、なんかこう、中堅管理職の苦労が滲み出ていて、父は父なりに組織の中での闘いがあったんだろうな~と。だから、少しは溜飲を下げられる場面があって良かったです。

>指輪の暖かさは現実的には自分の体温でしょうが、ソンジュンにはユニのぬくもりのように感じられたんじゃないかと。

ワタシもそう思います~。ドラマではすぐ後にユニが中二房で指輪に触れてる場面が続くんですよね。
離れていてもお互いを想う気持ちが伝わってくる、いいシーンでしたわ(^^)

あまる #- | URL
2013/12/25 01:58 | edit

ムン・グンス

あまる様に拍手!!ムン・グンスの、少ししかない場面からこれだけしっかり復讐を組み立てるなんて、さすがです!
10年も復讐の機会を待っていた割になんとなくドラマの中では時間がないのか描き足りない感がありましたよね。是非、この調子でウギョもきびしく成敗してほしいものです。
それにしても、ジョンムはこの辺から急激にすごい無力感を感じていたのではないでしょうか?目に力がないです。長く生きている分、一度足下掬われたらおしまい、という敗者はいっぱい見てきたでしょうし…もしかしたらソンジュンのことはもうあきらめるしかない、くらいに思っていたのでは?(それを救ったのだから神様仏様ユニ様ですね、きっと。)

獄中で、指輪というユニを偲ぶよすががあってよかったね、って思います。指輪に触れることがユニに触れることの代わりになってくれてるような(T_T)
指輪の暖かさは現実的には自分の体温でしょうが、ソンジュンにはユニのぬくもりのように感じられたんじゃないかと。
いろいろ考えてここまで来たソンジュンでしょうが、心の底には不安や恐怖もあることでしょう。それすらもユニたちの長い苦しみに比べれば笑って済ませられる、な~んてストイックに考えていたのかしら?と、牢の場面は妄想の場面です。(*^_^*)

あらちゃん #- | URL
2013/12/22 00:49 | edit

Re: 48ママさま

あのへんはドラマだとほんの2~3秒ですけど(ソンジュンが指輪じっと見て終わり(笑))イロイロ妄想を掻き立てられる部分ですね~。
あのソンジュンが何の計算もなく黙って掴まったとは思えないですし。
身に余るお言葉、ありがとうございます(^^)

あまる #- | URL
2013/12/19 08:43 | edit

初読の感想を、まずは一言だけ。
最後の
「願わくは、司憲府の執拗且つ徹底的な調査により、十年前の真実が白日の元に曝されんことをー。」
にやられました。

48ママ #- | URL
2013/12/18 04:37 | edit

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