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第十八話 6 悔恨 

bandicam 2013-10-25 01-31-20-607

またしても笠に邪魔されるの図。
***********************************



扉を開けるなり、煙草と酒の臭いが鼻をついた。思わず顔をしかめながら、ソンジュンは人でごった返す狭い部屋を見渡した。
ユン・ヒョングがしょっちゅう入り浸っているという賭場をどうにか聞き出したはいいが、紫煙が立ち込める薄暗い室内では、人の顔すら判然としない。
人相書きを広げ、手前の卓から訊いて回ってはみたが、賭博に興じる男たちは酒場の酔客に輪をかけて冷淡だった。ヒョングの顔を見るどころか、邪魔だといって卓の上から払い除けられる始末である。

ここでの収穫を諦めかけた頃、奥の卓で青い参下官の官服姿の男が、こちらに背中を向けて座っているのに気づいた。ソンジュンは咄嗟に、通路を塞いでいた男を押しのけ、官服の男の肩を掴んでいた。

「なんだ、お前」

訝しげにソンジュンを見上げた男は、ヒョングとは似ても似つかぬ顔をしていた。

「すみません。人違いを」
「おい小僧」

声を掛けられ、振り向く。途端、いきなり横っ面を殴られて卓の上に倒れ込んだ。

「ふざけんなよ。お前のお陰で見ろ、服が酒まみれだ」

たった今、ソンジュンが乱暴に押しのけた男だったらしい。
唇が切れたのか、口の中に痛みとともに錆びついた味が広がる。ソンジュンは手にしていた人相書きをぐしゃりと握り締めた。

身体を起こしたソンジュンの肩を、男が鷲掴みにした。振り向きざま、ソンジュンは男の顔を思い切り殴り返した。飛びかかってきた別の男の鳩尾に足蹴りを食らわし、もう一人は襟首を掴んで投げ飛ばす。
激しい野次と怒号が飛び交う中、腹に飛んできた重い蹴りが、ソンジュンを賭場の床の上に転がした。
取り囲む男たちが、うずくまるソンジュンに容赦無い蹴りを一斉に浴びせ始める。

数人の男たちに散々に袋叩きにされ、呻き声を上げながら、ソンジュンは立ち上がることも、抵抗することもできなかった。そんな気力はもう、失せてしまっていた。

これは罰なのだ。
息もできないほどの苦痛の中で、ソンジュンは思った。
何も知らず、のうのうと生きてきた自分に、天が与えたもうた罰。

───ユニ。

薄らいでゆく意識の中で、ソンジュンはその名を呼んだ。

きみの痛みと苦しみは、きっとこんなものじゃなかったはずだ。
僕がどれだけ殴られ、蹴られても、それはほんの一時の苦痛に過ぎない。
だけどわかってくれ。
きみの味わってきた痛みと折り合いがつくのなら、僕は喜んで煉獄の炎に身を投げる。
だから、どうか僕を───。


そのとき ぷつりと糸が切れるように、彼の身体から一切の感覚が無くなった。


*   *   *


同じ頃。
ユニは尊経閣で山と積んだ経典を片っ端から調べていた。
“成均”の文字を見つけたことで、父が使用した暗号が破字だけではないことが確かになった。文面にある語句が、文献からの引用という可能性も考えられる。そしてこの尊経閣には、父が触れてきたであろう書が無数にあるのだ。
立ち止まっている暇はなかった。

必死になって書の文字を追っているユニの目の前に、布に包まれた何かがころんと転がった。
少し開いた布の口から覗いていたのは、握り飯だった。顔を上げると、立ち去ろうとするジェシンの背中が見えた。
そういえば夕飯も食べずにここに篭もりきりだったことを、ユニはそのときようやく思い出した。

(どうして、コロ先輩にはわかるんだろう)

泣きたいとき、苦しいとき、お腹が空いているとき。
ユニ本人に自覚がないときですら、彼はいつも先に気づいている。ユニの知らないところで、見ていてくれている。
握り飯を手に取ったユニが、ジェシンを呼び止めようと腰を浮かせたそのとき。
ばたばたと騒々しい足音が、尊経閣に鳴り響いた。

「コロ!おいコロ!」

飛び込むようにして入ってきたのは、ヨンハだった。彼らしくもなく、酷く青ざめた顔をしている。
彼はそこにユニもいるのに気づくと、二人の顔を交互に見て、言った。

「イ・ソンジュンが……やらかしやがった」


*   *   *


お前は残れ、というジェシンを押し切り、ユニは彼等と共に雲従街の賭場へと向かった。
客がすっかり引き払った室内は、ひっくり返った卓や椅子、割れて床に散乱した酒瓶や食器の破片などで酷い有様だった。奥に目を遣ると、賭場の女将らしき女がヨンハを見て眉をひそめ、首を横に振った。
その傍らに───彼はいた。

三人は言葉を失った。
卓の前の椅子に腰掛け、こちらに向けている横顔は確かにイ・ソンジュンのものだ。
だがその目は赤く腫れ上がり、口元は切れて血が滲んでいる。身につけた道袍は泥とほこりまみれで、所々破れており、あの、常にきっちりと襟を正した成均館の優等生を思い起こさせるものはそこには微塵もなかった。

「お前……本当にあのイ・ソンジュンか?」

掠れた声で、ヨンハがようやっとそれだけ口にした。



笠を被り、顎紐を結ぶソンジュンの前に腰掛け、ヨンハが尋ねた。

「ユン参軍を捜してたのか?何だって一人でそんな」
「解けない暗号に執着し、時間を無駄にはできません」

ソンジュンの答えに、ヨンハは短い溜息をつく。

「頭より先に体が動いたってわけか。そりゃあまた、随分とらしくない真似をやっちまったもんだ。そこまでして奴を捜すのは、金縢之詞のためか?それとも、父親の潔白を確かめるためか?」
「僕が知りたいのは、十年前の晩の真実だけです」

ユニは黙っていた。ジェシンも同様だった。
本当のことを知りたいのは皆同じだ。だが自分たちとソンジュンとでは、立場が違う。
真実を知ったその先で、より深く傷つかねばならないのはおそらくソンジュンの方だろう。

「一つ訊こう。金縢之詞が見つかれば、イ・ソンジュン、お前は左議政の息子でいられなくなるかもしれない。───それでもいいのか?」

ソンジュンが、ユニを見た。目が合った瞬間、ユニの視界は涙で歪み、よく見えなくなった。

「構いません。心を許した友の父や兄を奪った、罪人の息子でいるよりはマシです」

たまらなくなって、ユニは席を立った。賭場を出、俯いたまま足早に歩くユニの耳に、背後から走ってくる足音が聞こえてきた。肩を掴まれ、振り向かされる。
ソンジュンの痛々しい顔が、そこにあった。

「ぼくのためなら、もうやめて」震える声で、ユニは言った。

「顔すら覚えてない父の心を傷つけたことすら……ぼくは後悔してる。父親を思う気持ちは、君の方が強いはずだ。だから……もうやめて欲しい。やめていいよ。これ以上は、とても見てられない」

踵を返したユニは、だが、そこから立ち去ることはできなかった。
ソンジュンの腕が素早くユニを捕らえ、背後から彼女を強く抱き締めていたからである。

「どうか……許して欲しい」

ユニの耳に、ソンジュンの吐息がかかった。堪えていた涙が、彼女の頬を伝った。

「御父上の代わりに男の格好で市場を歩き回り、病気の弟の薬代を稼いでいたきみに……寒さと空腹にじっと耐えていたきみに、僕は……頭を下げて謝りたい。その頃の僕が、何も知らずに暖かい部屋で本を読んでいたと思うと、きみに申し訳なくて、自分が許せないんだ。できることなら時間を戻して、僕が受けた幸せを全部きみにあげたい。そして、どうか許してくれと言えたら……それができたら……」

抱き締めるユニの背中で、ソンジュンは泣いていた。
許しを請う彼の、わななく声と指先がユニの胸を締め付ける。

───彼が、泣いている。
私のために、身体も、心も傷だらけにして。
小さな子供みたいに、ぽろぽろ涙をこぼして、泣いている。

どうして天は、こんな残酷な運命を自分たちに与えるのだろう。



ソンジュンの涙は、ユニの肩に。
ユニの涙は、ソンジュンの袖に。
溢れて止まらぬ想いが、互いの衣に落ち、染みこんでいった。





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2013/10/25 Fri. 01:47 [edit]

category: 第十八話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: あらちゃんさま

……ジャマですよねぇ、笠(笑)

ソンジュンにとっては、それまでの価値観だけじゃなく、自分自身をも覆させる恋だったわけですよね。
そこまで好きになれることも羨ましいし、ソンジュンにそこまで愛されるユニも羨ましい。
ああ~。←現実逃避気味

いえいえ、ワタシも実は書きながら「ああそうだったのか~」と思うことが多々あって。
確かに、こんなブログやってなかったら、軽~く見て終わり、ってなってたと思います。
ゆちょやジュンギやアイーンがどれだけ演技が巧いかってことも、わからなかったかも……。
骨までしゃぶり尽くすと言うか(笑)書くことでドラマをとことん楽しませてもらってる感じ?
ほとんど自己満なブログにお付き合いいただいて、こちらこそ感謝です(^^)

あまる #- | URL
2013/10/31 02:04 | edit

あまる様の真骨頂!

>抱き締めるユニの背中で、ソンジュンは泣いていた。~~~~

>溢れて止まらぬ想いが、互いの衣に落ち、染みこんでいった。

ホントにすてき。ただ映像で見ただけよりずっといい!こんな風に泣いていたのかと思うと、ドラマの映像もさらにすてきに思えます。(・・・そしてホントに笠がジャマ)
原作に君のために地獄をくぐり抜けてきたって表現がありましたが、まさしくですね。今までこんな思いしたこともないお坊ちゃまが、ここまで泣くなんて。(T_T)
ユニのために法も破り、約束も反故にし、道も踏み外そうとした(ユニが男でも好きだと思った時点で人としての道を踏み外してると思ったと思う)訳で、その上尊敬してきた父とも反目ですから、堂々地獄ですね。

てんちか堂がなかったら、二、三段薄っぺらい見方しかできなかったかもしれないと思っています。本当に感謝です。m(_ _)m


あらちゃん #- | URL
2013/10/30 01:59 | edit

Re: くろたんさま

コメントありがとうございます(^^)

ソンジュンの涙は見ていて辛いんですよねぇ~
普段弱みを見せない男なだけに。

こないだまで暑い暑い言ってたのに、もう雪かもなんて……
季節の移り変わりはほんと早いですねぇ。しみじみ。

くろたんさんもお身体ご自愛くださいねー(^^)

あまる #- | URL
2013/10/28 01:06 | edit

いつもお話楽しみに読ませて頂いてます。
コメントはホントに久しぶりで…
読み逃げですみませんm(_ _)m
このソンジュンの気持ちが
ホントに切ないです。
DVDでも泣いてしまいましたが
あまるさんのお話で
また泣けました。
私の住む街はもしかしたら
雪になるかもしれない位寒くて…
どうか風邪をひかないよう
気をつけてくださいね。

くろたん #- | URL
2013/10/27 10:45 | edit

Re: yutorinさま

> 私の住む地方で、今日ちょうどこの18話が放送されました。

おおっ!そうでしたか!ドラマは一時間で一話終わっちゃいますが、ウチのはなかなか進まず……(^^ゞ
ドラマの放送と記事が重なるのはほんの一瞬なんですよねぇ~(笑)

なにやら過分なお褒めのお言葉をいただきまして恐縮です(^^ゞ
いやいや、ワタクシの文章なんて自分で書いててイライラしっぱなしですわ。
くそう、ソンジュンもコロももっとカッコイイしユニも可愛いのにっっ!!とジタバタしながらいつも書いてます(笑)

本編が終わっちゃうと、多分ワタシ自身もめちゃめちゃ寂しくなるだろうなーと思います。
所謂抜け殻状態にならないか今から危惧してますが(笑)番外編はまだネタを思いつくうちは書くと思いますので、引き続きお付き合いいただけると嬉しいです(^^)

あまる #- | URL
2013/10/26 01:05 | edit

Re: mutarunさま

いえいえこちらこそ、拙いモノを読んでいただいてありがとうございます(^^)
ソンジュンとゆちょへの偏った愛(笑)だけで成り立っているブログですので、お見苦しいところもあるかと思いますが、よろしくお付き合いいただけると嬉しいです。

いいですよねぇ~。ソンジュンのバックハグ!(*・ω・*)ポッ
あれで笠がジャマしてなかったら、もっと密着度がアップしていたかと思うと、返す返すも残念。(-_-;)
お前らずっと儒生服着てろ!と言いたい(爆)

あまる #- | URL
2013/10/26 00:50 | edit

私の住む地方で、今日ちょうどこの18話が放送されました。
初めて視聴したときとは、また違いその放送前に読んでいて、
視聴すると感慨深いというより、
あまる様の文章能力の凄さを改めて感じました。
もうすぐ終わってしまうのが、勿体ないくらです。
いつまでも続くといいのに・・・・

yutorin #- | URL
2013/10/26 00:20 | edit

 あまる様、ほんとうに素晴らしいお話をここで拝見できて幸せです。
いつもありがとうございます。ご苦労様です。
このように文章にまとめるためにどれほど準備し、頑張って
いらっしゃることか・・・
どうぞ無理なさらず、これからもよろしくお願いします。

今回は最初のふたりの写真で、撃沈・・・
ソンジュンさま素敵です!!   たまりません!!  
こんな目にあっても、友情を優先しようというのですから・・・

mutarun #rRQIhdoo | URL
2013/10/25 22:26 | edit

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