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第十八話 5 探索 

bandicam 2013-10-19 11-47-01-844
***************************************


左議政イ・ジョンムの手元で、細い蘭の葉が揺れている。
彼は手拭いを持つ手を慎重に動かして、蘭の葉を一枚一枚、丁寧に拭っていた。

その前に畏まって座っている兵曹判書ハ・ウギュもまた、慎重に口を開く機会を伺っていた。
一見、何がどう違うというわけではない。だが、長年の経験でウギュは悟っていた。その言葉数や、視線の動かし方、顔に寄る皺の位置で、この左相が今、過去に例を見ないほど、最悪に不機嫌であることを。

おそらくは先日のユン・ヒョングの一件がまだ尾を引いているだけだろう、とウギュは考えた。左議政は、十年前の例の事件に関することとなると、些細なことでも異様に過敏になる。

ジョンムが蘭から視線を外し、水を張った金盥で手拭いを絞った。その水音が収まるのを待って、ウギュは切り出した。

「ユン参軍の件は、もはやご心配には及びません、大監。つきましては、面倒事も解決したところで、我が家との縁談を今一度……」
「兵判、ご子息に伝えてください」
「はい。え?息子に、ですか?」

一瞬、聞き間違いかと顔を上げたウギュに、ジョンムは言った。

「金縢之詞捜索を阻止するようにと。王が、成均館の若い儒生たちに叶いもしない愚かしい希望を抱かせています」

ウギュが驚きに目を見開いた。

「それは、王が成均館の儒生に金縢之詞を捜させているということですか?では、ユン参軍を嗅ぎ回っていたのは」
「掌議なら、その者たちを監視できるでしょう」
「そんな、大監のご子息を差し置いて、めっそうもない」

両手を振ってウギュは言ったが、はたと身を乗り出し、声をひそめる。

「まさか、ご子息がその金縢之詞捜索に関わっていると……?」

ジョンムは無言で、また蘭の葉を拭い始めた。それはほとんど肯定しているも同じだった。
なるほど左相の不機嫌の原因はそれか、とウギュは意を得た安堵感でつい口が軽くなる。

「だから申し上げたのです!早急に縁談を進めて、成均館を出ていればこんなことには」
「縁談、とおっしゃいましたかな?兵判」

語気鋭く、ジョンムが言った。

「一連の問題は、何が原因かわかりませんか」
「大監……?」

怯んだウギュに、ジョンムは続ける。

「わかっているなら、二度と縁談のことは口にしないよう願いたい。我が一族が、そちらと親戚になることはない」
「し、しかし大監」
「二度は言いません。話は以上です。お引き取りを」

それきり、左議政はウギュを視界から完全に締め出し、再び蘭の葉をゆっくりと拭い始めた。


*   *   *


その晩、牡丹閣の一室には、酒を煽るたび苛立たしげに盃を小卓に叩きつけるハ・ウギュの姿があった。

「今の地位に就けたのは誰のお陰かも知らず、この私と娘をコケにしおって……」

傍らに膝を立てて座すチョソンは、黙したまま静かに酒を注いでいる。

「どうやら、大監に私が誰かを教えてやる時が来たようだな。今回の騒動の元凶はユン参軍だ。まずは奴の口を封じねば」

ウギュはチョソンを睨み据えると、その手首を捉えた。

「お前に、一仕事してもらうぞ」
「大監……」

もう解放してくれとあれほど言ったのに、と、懇願するようなチョソンの瞳がウギュを見返す。
とそのとき、すらりと襖が開き、ウギュは咄嗟に掴んでいたチョソンの手を離した。

「お呼びですか、父上」

一礼した笠の下から、インスの冷徹な面輪が覗いた。


*   *   *


北村〈プクチョン〉の一角。とある屋敷の前でソンジュンは足を止め、周囲を見回した。丁度そこを通りかかった両班の男を呼び止め、尋ねる。

「すみません。漢城府ユン参軍の家はここですか」

ええそうですと答えた男に一礼し、ソンジュンは開け放しになっている門の中に足を踏み入れた。下級役人とはいえ両班の屋敷だ。主がいなくとも使用人の一人くらいはいそうなものだが、静まり返った屋敷の敷地内に、人の気配は全くといっていいほどなかった。
仕方なく、ソンジュンは近所の、ユン参軍が立ち寄りそうな酒場を一軒一軒しらみつぶしにあたることにした。
客や店の女将を捕まえては、ユン参軍の人相書きを広げて見せ、居所を尋ねる。
だが店にいる酔いの回った男たちや忙しく立ち働く給仕の女たちはまともに相手をしてくれる方が珍しく、ユン・ヒョングの行方は一向に掴めなかった。

───早く見つけなければ。こちらの動きを知って、逃げられたら終わりだ。

夜の街を足早に歩くソンジュンの表情には、焦りの色が浮かんでいた。



一方、貰冊房の地下工房跡では、約束の時間になっても姿を見せないソンジュンに、ヨンハがそろそろしびれを切らし始めていた。

「あいつはイ・ソンジュンだ。時間を守らないはずはない。やっぱり来にくいんだろうさ」

俯くユニの代わりに、ジェシンが言う。

「あと一刻だけ待とう。約束は守る奴だ」

はっ、と笑って、ヨンハは腕を組み、柱に背中を預けた。

「こんな約束、破ったって当然だ。王の立派な意思に従いたくても、父親の罪を暴くのは難しい。あいつの気持ちは充分理解できるよ」

ヨンハの言葉には、明らかな憤りが混じっていた。もちろんその怒りはソンジュンに向けたものではないことはわかっていたが、それでもユニはいたたまれず、唇を噛んだ。
そんな彼女を、ジェシンが黙って見つめる。

それぞれの思いを他所に、夜は刻々と更けていった。

結局、二刻程待ったがソンジュンは現れず、三人は完成した成均館の配置図を広げ、探索を始めることにした。

“学問の向かう先”なら、まずは当然、学問に関係のある建物だということで、講義室である明倫堂が第一候補に挙げられた。続いて、成均館の書庫として多数の蔵書を誇る尊経閣。そして、科挙の試験会場としても使用される大成殿だ。
ヨンハが扇子を顎にあて、ユニとジェシンを交互に見た。

「さて、ここからが問題だ。明倫堂、尊経閣、大成殿のどれかが“学問の向かう先”であったとしても、床板をひっぺがして全部掘り起こすわけにはいかない。───どうする?」

「手掛かりはもう一つある」と、ジェシンが言った。「“国の始まる所”……つまり、孔子の位牌がある所じゃないか?」

三人は目を合わせて頷くと、成均館に戻り、手分けしてそれぞれの場所にある孔子の位牌周辺を密かに探った。
ユニは明倫堂、ジェシンは尊経閣。普段は立入禁止となっている大成殿は、ヨンハが書吏に袖の下を握らせて難なく侵入に成功した。
だがそのどこにも金縢之詞はおろか、手掛かりになりそうなものは見つからなかった。

ヨンハはお手上げとばかりにぶつぶつ文句を言ったが、金縢之詞が成均館にあることを確信しているユニは、それだけで諦めるはずもなかった。尊経閣の経典をまた一から調べ直してみることにし、とりあえずその晩は解散となった。

(結局カランの奴は戻らず……か。さてどうしたものかな)

東斎の自室に戻ろうと尊経閣を出たヨンハは、そこでいきなり出くわした連中にぎくりとして足を止めた。

「何を驚いてるんだ、ヨリム。何か悪さでもしてるのか?」

ニヤつきながらそう尋ねたのはビョンチュンである。その背後から顔を覗かせて混ぜっ返すのは例によってコボンだ。

「悪さって?盗み?それとも女遊び?ま、まさか男遊びとか?」

「バカ野郎」とビョンチュンがコボンの顔をはたく。ハ・インスがふんと鼻で笑って、口を開いた。

「飽きもせず、いまだにイ・ソンジュンたちとつるんでいるようだな、ヨリム」
「それが、あいつらといると楽しくてね。退屈しないんだ」

お前らと違ってね、と暗に言って、ヨリムは笑った。
実際、彼には不思議なくらいだ。インスらと行動を共にしていた頃、常に感じていたあの退屈と空虚さは、思えば今は微塵もない。そんなものを感じる暇もないほど、毎日刺激の連続で、むしろちょっとは休ませてくれと頼みたくなる。

「成均館の配置図や史書を読みあさっているらしいが……何故だ?宝探しでも始めたか?」

ヨンハの頬に浮かぶ笑みが、微かに強張った。インスはそれを見逃さなかった。彼は口の端を上げ、舐めるようにヨンハを見た。

「旧友のよしみで忠告してやろう。お前には、そういう真似事は似合わない。わかってるだろう?奴等とお前は違う。今からでも遅くはない。私に……」
「私は、朝鮮一の洒落者だろ?」

インスを遮り、ヨンハは言った。指先でインスの笠から下がる玉飾りをちょっと摘んで、すぐに放る。

「その秘訣をお前だけに教えてやる。似合わない服ほど、果敢に挑戦してみることだ。忘れるなよ」

上から下まで、吟味するようにインスを眺めたヨンハは、小さく首を振って、鼻に皺を寄せた。

「今のお前は───ダサい」






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2013/10/19 Sat. 11:58 [edit]

category: 第十八話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: 48ママさま

そういや妾にしようとしたユニのこと、ウギュはすっかり忘れちゃってますね(笑)
初めの頃は、「なんか見たことある顔だ」とか言ってたのに……。
もう少しウギュがユニに執着してたら、また別の展開があったんでしょうか。
それだととても20話じゃ終わらなかったか(^^ゞ

おっ!ヒョウン嬢、ちょっとランクアップしてる!(笑)
ワタシが彼女をどうしても憎めないのは、あのヲタク気質といい、妄想癖といい、多分に自分を見るような気がしてしまうからだと思います……(-_-;)

あらちゃんさん、ワタクシも大ファンですヨ!(^^)
新作のアップを心待ちにしております。←便乗してさり気なくおねだり(爆)

あまる #- | URL
2013/10/24 00:51 | edit

Re: あらちゃんさま

このへんのソンジュン父の態度の変わりようは確かによくわかりましぇん(^^ゞ
ただ、十年前、金縢之詞の一件に関してウギュのとった行動がジョンムさんを相当に怒らせたことは確かで、今頃になってまた事が蒸し返されようとしていることに我慢ならなかったのかなぁ、とか。

>この時代「幸せ」は縁談を考える際には考慮の中に入らないものなの?

無かったんでしょうねぇ、きっと(^^ゞ両班はやっぱ家門の繁栄が最優先だったんではと。
ソンジュンもヨンハの問いかけで初めて考えたんじゃーないかと思います。立派な士大夫となって、王の覚えめでたき官職に就いて出世して、っていう、目の前に当たり前のようにあった人生設計に、「それでおれってば幸せになんの?」と初めて疑問を抱いたんですヨ、たぶん。
ソンジュン、ユニだけじゃなくって、いい先輩にも出会えてホントに良かったね。うるる~。

あまる #- | URL
2013/10/24 00:37 | edit

またまたですが・・・

「探索」のコメント数が3に伸びていて、しかもそれがあらちゃん様(←「あらちゃん」だと、何だか呼び捨てしているみたいに思えるので・・・)で、「わお!」でした。あまる様同様、大ファンです(o^^o)。
 ジョンム氏の言動は、たしかに、多分に勝手だし、変ですよね。ユニの父上とコロの兄上の殺害についても、ユン参軍の口封じに土地をやるなんてことをしているのだから、殺害の意思の有無に関わらず、立派な共犯者だと思います(まあ、ご本人も、その自覚はあるようですが)。
ですが・・・そんなこんなは横にうっちゃってしまうほど、あわやユニを妾にしかけた兵判が憎い!!ソンジュン(と、ユニにもか?)にあんな仕打ちをされて本当にかわいそうなのに、それでもやっぱりヒョウンの厚かましい言動が嫌い(さすがに「憎い」まではいきませんが)!俺様(の割に、うまくいったことほとんどないけど)も嫌(男前だけど)!・・・結局私は、思いっきりユニに肩入れしているのです。 なので、ジョンム氏の破談通告(?)は、大きな障害がはっきりと消えたことに加え、兵判にひとつ強烈な報復ができたような気持ちになってしまうのです。うまく言えなくて、もどかしいですが・・・。
 あまる様、お返事ありがとうございました。ヒョウン嬢(←ちょっとランクアップ)。の大衆小説家、いいですね!発売されたら、いの一番に買って応援します(^_^)/。
わけのわからないことを、長々と失礼しました。また、おじゃまさせてください(あらちゃん様も・・・)。

48ママ #- | URL
2013/10/23 22:38 | edit

溜飲下がったけど

やっと縁談をはっきり断ってほっとしたけど、ソンジュン・パパ、この縁談を勝手に息子に申し渡したときのお言葉記憶しているかしら?進めたのパパよね。断ったのとほぼ同じ理由よね、内容的に・・・と私はいつも思ってしまいます。パパ、変だよ~
あの性格のソンジュンをこのハ家に入れてOKと思ったことが不思議でならない私です。絶対超不幸になるのは目に見えてるのに。
この時代「幸せ」は縁談を考える際には考慮の中に入らないものなの?もしかしたら「それでおまえは幸せ?」というヨンハの問いは超時代的だった?いろいろ考えると、このお話はかなりヨンハが回していますよね。いいキャラだ~

あらちゃん #- | URL
2013/10/23 18:54 | edit

Re:48ママさま

コメありがとうございますー(^^)

ヒョウンは、アチラのドラマにしては珍しく、ヒロインのライバルでありながらけっこう憎めないキャラなんですよね~。ヨンハには「低俗な趣味」とかヒドイ言われようでしたが(笑)彼女にはぜひその道を極めて、大衆小説の大家になっていただきたいものです。
お嬢様でいるより彼女には似合ってる気がするんですが、いかがなものでしょ?

あまる #- | URL
2013/10/23 01:29 | edit

探索

 あまる様、初めてお便りしますm(_ _)m
ジョンムさんがウギュ(←こっちは、断然呼び捨て!!!)に破談をはっきりと告げるこの場面、私はとても好きなのです。溜飲が下がるというか。ヒョウン(←彼女のことも、どうにも呼び捨てしてしまいますが)にしてみれば本当にたまったものじゃないですけれど、それまでの厚かましさ・愚かさ全開の言動の数々を思うと、「ま、しかたないよな。」と思えてしまって・・・。あまる様の、「誰からも一番に思ってもらうことなどあり得ないのに、それがわからない。」というヒョウン評には、思わず「そう、これ、これ!!!」と声が出てしまいました。そんなこと言いつつも、ウギュが逮捕された後の彼女がどうなったかは結構気になっていて、幸せになってくれることを願っているのですから、我ながら苦笑してしまいます。イマイチ美人とは言い難い女優さんをあてたり(ごめんなさい!でも、私には、どうしてもそう思えるのです)、野暮ったい服装をさせたり(これは意図的に演出されたことのようですが)、うまくつくられた役どころだなと思います。
 

48ママ #- | URL
2013/10/22 04:23 | edit

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