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蛍火 3 

ソンス番外編更新しました。ひとまずこのお話は完結です。


*****************************



ソンジュンがユニを連れてきたのは、月出山〈ウォルチュルサン〉だった。
二人にとっては思い出深い場所だ。来るのはあの野遊会のとき以来だった。
先に馬を降りたソンジュンが、ユニを乗せたまま馬銜〈はみ〉を引き、山道を登っていく。日はすっかり落ち、辺りは真っ暗だった。ソンジュンの持つ燈籠を頼りに暫く行くと、渓流のせせらぎに混じって、厳かな玄琴〈コムンゴ〉の調べが聞こえてきた。

「なに……?」

暗がりに目を凝らすと、ほんの申し訳程度に吊るした提灯の下にうごめく、大勢の人影が見えた。
妓生の奏でる音曲と、人々のざわめき。食器の触れ合う音。

これは───宴だ。

ろくに明かりもないこの山の中で、両班たちの怪しげな宴会が催されている。
ユニは幼い頃に母から聞いた怪談話を思い出した。もしやあそこに集う人々の尻に、狐の尻尾でも生えてやしないかと、本気で疑いたくなるような光景である。

馬上のユニの足元で、ソンジュンが小さく溜息をついた。

「まったく、ヨリム先輩に任せるとこれだから……」
「え?」

どういうことか訊こうとしたユニの耳に、聞き慣れた声が飛び込んできた。

「姉さん!義兄上!」

息を弾ませて二人のもとに駆けて来たのは、ユンシクだった。

「ユンシク!あなた、どうしてここに?」

ソンジュンに抱きかかえられ、馬から降ろしてもらいながら、ユニは驚いて尋ねた。

「たまには受験勉強の息抜きもした方がいいって、義兄上が招いてくださったんだよ。母上も誘ったんだけど、若い人たちだけで楽しんできなさいって」

物静かなユンシクにしては珍しく、高揚した口振りでそう話すので、ユニはますます驚いてしまった。

「ユンシク、あなたまさかお酒とか飲んでるんじゃ……」
「おお来たか、テムル、カラン!」

そこへ、手にした扇子をひらひらと振りながら、肩で風を切るようにして現れたのはヨンハだった。
今夜はいつにも増して、金糸銀糸の刺繍も眩しい派手な衣装に身を包んでいる。その隣には、ジェシンのいつもの仏頂面もあった。
ソンジュンがむっつりとして言う。

「先輩、僕は軽い食事の用意をお願いしただけで、祭りを催してくれとは言ってなかったはずですが」
「まぁそう固いことを言うな。賑やかな方が楽しいだろ?この宴の陰の主賓はキム・ユンシクだ。彼が楽しければそれで良し!な?」

ヨンハは上機嫌でユンシクの肩に腕を回し、ついでにぐりぐりと彼のこめかみの辺りを小突いた。驚いたことにユンシク本人も、すっかり打ち解けた様子で、ヨンハにされるがままになっている。

「僕なら大丈夫です、義兄上。この暗さだから、誰も僕の顔なんてわからないし」
「しかし……」

眉根を寄せるソンジュンに、ジェシンが言う。

「本人がいいって言ってんだから、心配するな。こいつのことは俺たちが面倒見るから。お前らも適当に楽しんどけ」
「暗いからってや~らしいことしちゃダメだよー」

ユンシクを間に、ふざけ合いながら花茣蓙へと戻っていくヨンハとジェシンを、ユニは半ば呆れ顔で見送った。

「驚いた。私が知らない間に、ユンシクったら先輩たちとあんなに仲良くなっちゃって」

小さい頃から病弱で、家族以外の人間とあまり接したことのない弟だ。意外ではあったが、ユニにとっては嬉しい驚きだった。

ソンジュンが、言った。

「初めは家族水入らずでと思ってたんだが……この際だから、ユンシク君に先輩たちを会わせておくのもいいかと思って。これからの彼にとっても、味方は一人でも多い方がいいし」

彼らしい配慮が有り難く、ユニは微笑んだ。

「心強い味方ね」
「……だといいが」

ほんの少し後悔のようなものを滲ませて、ソンジュンは大いに盛り上がる宴席の方に目を遣った。
そして思い出したように、ごほん、と咳払いする。

「気を利かせてくれたようだし……もう少し、静かなところに行かないか」

ユニは頷いて、差し出されたソンジュンの手を取った。

「それにしても、宴だっていうのに、どうしてこんなに明かりを落としてるの?これじゃ手元もよく見えない」
「わざとそうしてるんだ。あれを見てごらん」

ソンジュンが宴席とは反対側の、川の方を指し示した。そこには、対岸に鬱蒼と生い茂る木々がより濃密な闇を作っている。その中を、つうっと一筋の淡い光が流れていった。

「蛍……?」

よく見るとその光は、一つではなかった。ふと消えては、少し離れてまた光る───それを幾度も繰り返しながら、たくさんの蛍たちが光の筋を重ねあうように、川の上のあちこちを飛び交っていたのである。

「来て」

ユニの手を引き、ソンジュンが川の上流へと向かう。歩を進める毎に、宴席の喧騒も少しずつ遠くなった。代わりに、川の水が奏でる静かなせせらぎの音が、涼しげに耳に響いた。

「足元に気をつけて」と言って、ソンジュンは川べりの岩のひとつにユニを座らせた。
青いチマを広げ、川面に目を向けたユニは思わず感嘆の声を上げた。

先程宴席の近くで見たときとは比較にならない、無数の光の乱舞。
まるで、瞬く天の星々がそのまま地上に降りてきたような幽玄の世界が、そこに広がっていた。

言葉もなく蛍の群れに見入っているユニの隣に腰を下ろし、ソンジュンが言った。

「書院にいたとき、ここは蛍の名所だと聞いたことがあって。いつか、きみと来たいと思ってたんだ」

ならそう言ってくれればいいのに、とユニは唇を尖らせたが、もちろん本気でとがめているわけではない。
こんな美しい光景を目の前に、誰が怒ることなどできるだろう。
溜息にも似た声を漏らして、ユニは言った。

「あなたには、本当に驚かされてばかりね。心臓がいくつあってもたりない」

ソンジュンは「きみには及ばないよ」と、さりげなくユニの手に自分の指を絡めた。

「蛍が光るのは、求愛行動なんだそうだ。ああやって、自分の伴侶を呼んでるらしい」

そうなんだ、とユニは言い、「良かった。あなたが蛍じゃなくて」と悪戯っぽく付け加えた。

「どうして?毎晩ちかちか光ってうるさいから?」

ソンジュンの言葉に、ユニは吹き出した。

「そうね。あなたが光ってる間は。でもそのうち私はきっと不安になるわ。あなたの光がいつか失われるんじゃないかって、しょっちゅうあなたの服をめくって、お尻を確かめることになる」

暗いのでソンジュンの表情はわからなかったが、彼の声が微笑って、取り越し苦労だ、と言った。

「でもきみがどうしても確かめたいと言うなら、仕方ない。愛しい奥方のためだ。僕は毎晩喜んで下衣を脱ごう」

彼の場合冗談でなく本当にやりかねない。つい想像してしまって、ユニはまた笑った。

ソンジュンはユニから手を離すと、岩棚からすとんと川に飛び降りた。慌てるユニに、「浅いから大丈夫」と声をかけて、服の裾が濡れるのも構わず、ざぶざぶと水の中を歩いて行く。

川の中程までいったところで、ソンジュンは道袍の袂をゆっくりと振った。
無数に飛び交う光の粒の中を、彼の翡翠色の袂が幾度も翻る。
まるで静かに舞を舞うかのような、恋人に向かい袖を振る古〈いにしえ〉の人のような、そんな美しい仕種に魅せられて、ユニは思わず息を飲んだ。

やがて、光のひとつを袂に誘い込むことに成功したらしいソンジュンが、両の手を拝むように合わせてユニの座る岩棚に戻って来た。
川の中に立ったまま、合わせた両手をそっと彼女に差し出す。その指の隙間から、微かな薄緑の光が漏れ出ていた。

「わ……」

そろそろと開いたソンジュンの手の中を覗き込んだユニは、小さく声を上げた。
一匹の小さな蛍が、ゆっくりと息をするような間隔で柔らかな光を明滅させている。

ふたりは互いの目を合わせて、ふふっと笑った。

「───イ・ソンジュン」
「ん?」

蛍にじっと目を落としたまま、ユニは言った。

「言ったことあったかな。私が、あなたをとても愛してるってこと」

この幻想的な光と、それに照らされた彼の笑顔がそうさせたのだろうか。溢れる気持ちが、自然と口をついた。
するとそれまで、蛍を用心深く包んでいたソンジュンの手が、急に力を失ったように開いた。難なく出口を見つけた蛍は、ふわりと彼の手から飛び去ってゆく。

「あ……逃げちゃう……」

蛍の淡い光跡を追って顔を上げたユニはいきなり、その身体を引き寄せられて重心を失った。
岩から滑り落ちそうで落ちないのは、ソンジュンが彼女の全身を抱え上げるようにして抱き締めていたためだった。

体重をすべて彼に預ける形になったユニは、身動きが取れない。自分を抱きすくめるソンジュンの力があまりに強いので、息が止まりそうになる。

「どうしたの?急に」
「……感動してるんだ。きみからそんな言葉、初めて聞いたから」

呟くようなソンジュンの声が、耳元で言った。

「言わなくても、知ってたでしょ?」
「もう一度言って」
「何度も言うと、価値がなくなるわ」
「いいから。言って」

彼の声は真剣だった。本当にワガママな旦那様だ。くす、と笑って、ユニはソンジュンの耳元に囁いた。
蛍が、愛する人を想って光るように。儚いけれど、確かに心を照らすその言葉を。


「사랑해〈サランヘ〉……」


ユニを抱き締めるソンジュンの腕に、また、力がこもった。
ひとつに重なりあうふたりの周囲を、薄緑色の蛍火が少しずつ数を増やしながら飛び交ってゆく。

光が明滅するその度に、彼等が囁きあう微かな声を、ユニはソンジュンの腕の中で確かに聞いた気がした。


サランヘ、サランヘと。







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2013/10/10 Thu. 21:26 [edit]

category: 蛍火

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: じぇぐんよんさま

コチラこそありがとうございます~
ソンジュンとユニが溶け合う、なんて、ステキな表現ですね~(*・ω・*)ポッ
蛍のとこは、ウチの子が小さいときよく見に行ってたので、一生懸命当時を思い出しながら書きました。
ご想像いただけましたなら嬉しいデス(^^)


あまる #- | URL
2013/10/12 00:40 | edit

Re: みあるさま

お褒めいただいて恐縮です(*>ω<*)テレ

> こんなシーンが、ドラマでもあったらいいのにな~・・・。

監督がユン・ソクホ氏とかだったら、もしかしてあったかも、とか(笑)
でもなんか全然雰囲気の違うドラマになりそうですね~。それはそれで見たいかもしれない……
四季シリーズ風ソンス(笑)

あまる #- | URL
2013/10/12 00:33 | edit

Re: 桜巫女♪さま

書いてるワタクシもアタマの中は常にユチョンのソンジュンで妄想溢れかえっております(爆)
なので、そう言っていただけるのはとっても嬉しいデス。
ありがとうございます~(^^)

あまる #- | URL
2013/10/12 00:26 | edit

とっても、感動的です。
蛍の幻想的な世界とソンジュンとユニが溶け合って、
キレイな情景が浮かんできました。
ありがとうございます。

じぇぐんよん #- | URL
2013/10/11 13:51 | edit

蛍の光が2人を幸せな世界に引きこんでいるような、きれいな情景が想像できました。きれいですね~!あまるさん、 さすがです。文章だけで映像が頭の中に浮かぶようなお話を作られるのが、プロの方では、ないなんて・・・。
こんなシーンが、ドラマでもあったらいいのにな~・・・。

みある #.CHxHu6Q | URL
2013/10/11 10:26 | edit

今回の蛍火も楽しみに待ってました!あまるサンのストーリーを読む度にユニにはミニョン、ソンジュにユチュンが浮かび頭に映像化してしまう位で毎回楽しんで読んでます♪

桜巫女♪ #- | URL
2013/10/11 04:15 | edit

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