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第十八話 3 父の思い 

bandicam 2013-10-08 08-06-50-004
*********************************



「今───何て?」

頬を強張らせて、ユニはソンジュンを見た。
ジェシンにはああ言ったが、ソンジュンにはわかっていた。
どんな言い方をしようが、どれだけ自分が努力しようが、彼女は傷つく。それだけのことを、父はしたのだから。

ユニの隣にいたヨンハが、黙ってそこを離れた。二人で話せるよう、座を外してくれるつもりなのだろう。
彼はすれ違いざま、ソンジュンの肩に軽く手を置いた。その表情には、やりきれなさが滲んでいたが、彼はやはり、何も言わなかった。

ソンジュンはユニに視線を戻すと、繰り返した。

「……漢城府の役人に渡った権利書は確かに、父のものだった」

ユニの手が、傍らの椅子の背を握り締めた。ソンジュンには彼女が、今にも倒れそうなほど危うげに見えたが、彼女は気丈にもそこに立っていた。
震える声が、言った。

「それじゃ……ぼくの父を殺したのは、左議政様だったって……そういうこと?」
「きちんと話すべきだと思った」

───たとえそれが、きみを傷つけることであったとしても。
それできみが、僕を恨むことになったとしても。
僕がきみを、これからも愛し続けることは変わらない。

そう伝えたかったが、喉の奥が詰まって、言葉にならなかった。

大切な人を守るために、人は卑怯になるのだとジェシンは言った。
だがキム・ユニという人の前で、卑怯な人間でいたくなかった。
自分が受け損なった彼女の傷は、残りの人生すべてを費やして癒やすつもりだった。
彼女がそれを、許してくれるなら。

「わからない。ぼくには、何が何だかさっぱり……」

ユニはぎこちない手つきで、散らかっていた卓上の書物を片付けると、逃げ出すようにそこから出ていこうとした。脇を通り過ぎようとする彼女の手を、ソンジュンが捕まえる。

何か言おうとしたわけではなかった。
ただそうやって捕まえておかなければ、彼女が永遠に自分から去ってしまいそうな気がして、怖かったのだ。

───行かないでくれ。このまま、僕のそばにいてくれ。

彼の心はあらん限りに叫んでいたが、これは自分の利己心だという自覚が、ソンジュンから一切の言葉を奪っていた。反対に彼の左手は、まるで駄々をこねる子供のように、彼女の腕を掴んだまま言うことを聞かなかった。
一晩中触れていても足りなかったこの手を失ったら、まともに生きていける自信がなかった。

「……もういい」

ぽつりと、ユニが言った。

「これ以上聞けというのは……残酷すぎるよ」

涙に湿った彼女の声に、あれほど頑なだったソンジュンの手がいとも簡単に力を失う。
ならばと、彼は行こうとするユニの前に立ち塞がった。

「できるなら代わりに、僕が謝りたい。たとえ許されなくても、受け入れるつもりだ。だがきみがいいと言ってくれるなら、責任を果たしたい。誤りを正し、金縢之詞を捜す任務を全うさせてくれ」
「……今さら、何をどう正すのさ。金縢之詞?それを見つけたら、何が変わるっていうんだ」

潤んだ目を伏せ、彼女は言った。

「時間を、くれないかな。ぼくにも───考える時間が必要なんだ」

踵を返し、出て行く背中をソンジュンはなす術もなく見送った。

どのくらいそうしていたのだろうか。気づくと、いつの間にか戻ってきたらしいヨンハとジェシンが、彼の傍らに立っていた。
ぽん、とソンジュンの肩を叩いて、ヨンハが言った。

「おい、イ・ソンジュン。お前は知らないだろ?こんな時は飲み友達が必要だってこと」

ソンジュンが黙っていると、「だったら酒は結構」とヨンハはいつものように笑った。

「だが、友は必要だよな?ほら、行くぞ」

そう背中を押され、ソンジュンはジェシン、ヨンハとともに貰冊房を出た。だがその足取りは、斬首に向かう罪人のように、重いものだった。


*   *   *


跪く自分の足元で重い音がし、ヒョングは思わずにたりと頬を歪ませた。
片手に乗せきれないほどの金子の束の、そのずっしりとした重みを確かめてから袂にしまう。

「餌もいただいたことですし、猟犬は所業がバレぬようにとっとと姿を隠すといたしましょう」

あからさまな不愉快が、小卓の前に座すハ・ウギュの双眸に浮かぶ。だがヒョングは露ほども気にする風もなく、言った。

「左議政様にご挨拶できず残念です。いつかまたお会いしたいとお伝えください」
「約束したぞ。お前は探られている。数日中に都を離れ、身を隠すことを忘れるな」

ウギュは手にした湯のみをぐいと煽ると、茶托の上に置いた。傍らに控えていたチョソンが、細い指で急須を傾ける。声もたてずに満面の笑みを浮かべるヒョングと、苦虫を噛み潰したようなウギュとの間で、彼女が茶を注ぐ静かな音だけが、響いた。


*   *   *


成均館に戻ったユニはそのまま、南山村へと発った。今のユニには、時間の他に、考える場所も必要だった。
休暇でもないのに突然帰宅した娘に母は驚いたが、ただいつものように、食事は済ませたのかとだけ訊いた。

家族三人、質素な夕餉を終えたあと、針仕事をする母の手元を見つめながら、ユニはようやく口を開いた。

「もう、話して欲しいの、お母様。お父様がどうやって死んだのか……娘なら知るべきだと思う」

母は針を持つ手を止め、顔を上げた。

「私はお前に、世間に対する怒りを抱いて欲しくないの。世間というのは、立ち向かってくる者には、自分の恐るべき力を示したがる。私はそれで、お父様を失った。だから、話すつもりはありませんよ」
「それじゃあ、お父様も……世間に怒りを抱きながら、無念に死んでいったってこと……?」

母はそれ以上何も言わなかった。ただ、涙ぐむユニを哀れむように見つめるばかりだった。

「初めから話してくれれば……いっそ話してくれてたらよかったのに」

父を死に至らしめたものの正体を知っていれば。
自分は、老論を恨んだのだろうか。父の仇の息子に出会ったとしても、好きになることはなかったのだろうか。
今となっては、それすらもわからない。

部屋を出たユニは一人、縁側に腰掛けて闇に沈む小さな庭をぼんやりと眺めていた。
膝の上には、王から譲り受けた父の七巧がある。
重なりあう虫の音が、いつ止むとも知れず夜気を震わせていた。その静かな音を聞いていると、水底から浮かび上がる泡のように、幼い頃の記憶が蘇ってくる。

扉の開く音がした。ユンシクが黙ってユニの隣に座り、同じように庭を眺めた。
家族というのは不思議だ。何も言わずとも、そばにいるだけで自然とその身に同じ空気をまとってしまう。
長く病床にいるせいか、この、人の気持ちに聡い弟は特にそうだった。

「ねぇユンシク。お父様は……どんな人だったのかな」

ぽつりと、ユニは言った。

「お父様のことを考えるとね、いつも心に冷たい風が吹くの。お父様が、あなたを膝に乗せて本を読むとき、私の居場所はいつも、扉の外だったから。お父様を思い出そうとしても、顔が浮かばないの。いつも、障子に映ってた影を思い出すだけ……」

指先で、父も触れたはずの七巧の表面をそっと撫でた。
するとユンシクが、「姉さん、知らないの?」とふいに言った。

「父上は、いつも外に向かって、大声で本を読んでたんだよ。幼い僕にわかるはずのない、難しい書物を選んでね。父上はずっと僕じゃなくて、外にいる姉さんに向かって読んであげてたんだ」
「え……?」

父の、扉の外にまで響く朗々とした声を思い出した。
その声に遅れまいと、懸命に書を朗読していたあの頃の自分も。

「姉さん、本当に今まで知らなかったの?」

目を見開いて頷くユニに、ユンシクは「ちょっと待ってて」と言うと、一度部屋に引っ込んだ。再び戻って来た彼は、一冊の筆記本のようなものを手にしていた。

「それは……?」
「父上の、多分講義録だと思う。書棚の奥にあったのを、見つけたんだ」

古い本の表には、「明倫日誌」と記されている。

「ユンシク、あなたは知ってたの?お父様が、成均館の博士だったこと」
「うん……。ごめん。母上に、姉さんには言うなって言われてて」

ユニは父の日誌を開いた。そこには、日々の講義内容や覚書の他、父が感じたことや、学問、政治に対する論評などが時に鋭く、時に笑いを誘う機知に富んだ文体で生き生きと記されていた。
その中で、父が頻繁に言及していたのは二人の我が子───とりわけ、娘に対する思い、だった。


“娘の学問の上達ぶりを見るのは辛いことだ。
私が師匠なら、あの子の才能を喜んだだろう。
だが、この世で志を遂げられぬ娘に、望みを抱かせるのは正しいことなのか。
才能豊かな娘に機会を与えられぬ愚かな父親は、娘の書を読む声に息を殺し
今日もまた、心で泣くばかりだ……“


ユニは日誌を胸に抱き締め、はらはらと涙をこぼした。
どうして今まで、知ろうともしなかったのだろう。
自分はこんなにも父に愛されていた。学問への情熱や才能も、理解し認めてくれていた。そしてそれ故に父は、娘がその才能を開花させる場を持たぬことに、これほどまでに心を痛めていたのだ。

───ごめんなさい。ごめんなさい、お父様……。

こんな父の大きな愛を知らずに、恨んでさえいたとは。
ユニは心の中で、何度も父に詫びた。
涙が溢れて、止まらなかった。






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2013/10/08 Tue. 08:13 [edit]

category: 第十八話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: あらちゃんさま

極悪嫁セナを追っかけてた頃は確かに見るのがツライです(^^ゞ
パクハの気持ちがせつなくて。
でも二人の想いが通じあったときのカタルシスは、ああいうせつないシーンあってこそですからね~
まーわざわざ見返したりはしませんけども(笑)

でも最終話の「こんな女が余の妻であったとは……!」って場面はそーとー見ましたヨ!
セナの許し難いところは、結局イガクのこと、夫として全く愛してなかったってとこなんですよね。
彼女が愛してたのは、世子嬪って地位だけ。そんなもんのために、実の妹に火傷負わせて、長く一緒に夫婦として過ごしてきたイガクをも手にかけようってんだから、悪魔です。いくら現世で心入れ替えても、同情の余地なし。
あの女に比べたら、ヒョウンは本当に愛すべきキャラですわ。
だから逆に、ソンジュンに弄ばれてる(笑)場面はちとツライ。彼女の方に感情移入しちゃって。

あまる #- | URL
2013/10/19 12:25 | edit

情けないくらい痛い

あまる様、そんな映画私ダメかも。
屋根部屋もたった何カットかがダメなだけでもう見られない。
ソンスのヒョウン程度で13話はずいぶん長い間見ることを避けていたくらいなので・・・ピングンなんか耐えられるわけがない。あの夜のプヨンがあまりにもかわいそうで。
私、いつからこんな痛い人になってしまったんだろうと、自分で自分が信じられないくらいです。

あらちゃん #- | URL
2013/10/16 02:13 | edit

Re: あらちゃんさま

このシーンには私も泣かされました。小道具(笑)までは見てなかったですけど、中身同じだったの?
アチラの撮影スケジュールはかなりタイトだって聞きますからね~。
週に2回放送とか普通だし、一話90分くらいあるし……
俳優も大変だろうけど、撮影スタッフも相当キツイ仕事してんでしょーね(^^ゞ

ソンスは18話に入ってからかなりペースは落ちてますが(^^ゞ続きは書いてますよ。
いつものことですが、主人公たちが辛いシーンはワタシも書くのが辛くて、オクセジャとか番外編とかでテキトーに息抜きしないとなかなか進まないんですわ。

オクセジャのイガクは、ソンジュンとは全くの別人ですから、ケンチャナヨ~です(笑)
高倉健は何を演じても高倉健で、それはそれでスゴイと思いますが、ユチョはホントに変幻自在ですもん。
つか、ユチョの初主演映画!ベッドシーンがあるらしいじゃないスカ!
ああああ~映画は見たいがそのシーンは耐えられないかも……(T_T)

あまる #- | URL
2013/10/16 01:17 | edit

明倫日誌

明倫日誌を胸に抱いて涙するユニ。ここは感動のシーンでした!
にもかかわらず、捲るページ捲るページ同じって・・・。手抜きにもほどがあろう、そうとう制作時間がなかったのか、韓流って大変だな~と思ったシーンでもありました。これを捲って涙できる役者さんってえらい。
名作の誉れ高い「カサブランカ」も何をどう録っているのか、録ってるときはさっぱりわからなくてバーグマンは大変だったと聞きました。
名作って、制作時間や制作費とは関係ないんですね。

あまる様このところ屋根裏部屋を書いてらしたから油断してました。18話の続きが続いていたんですね!
とある非常に情けない痛い理由で、まだ屋根裏部屋をまともに見られない私は非常にうれしい発見でした!ユチョンも超可愛いし、ジミンちゃんも可愛かったのに、いつかまた見ることができるだろうか…

あらちゃん #- | URL
2013/10/15 00:17 | edit

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